Monday, May 3, 2021

「米国・OECD急接近」世界に飛び火するバイデン政権増税案(3)

前回はBEPS 2.0の米国新提案のうち、ピラー1に触れた、米国の提案はセクターを問わず機械的に$20Bの売上、利益率のみでAmount Aの適用対象者を決めようっていう「Comprehensive Scoping」。

クロスボーダー課税新秩序を自国のルールや利益に合致させようっていう急な登場を見て、なんかホワイトアルバムに入っているSexy Sadieの歌詞を連想してしまって前回はその話しでチョッと長くなったね。ホワイトアルバムは、SGT PepperやAbbey Roadにはないライブ感というか、プロダクションっぽくないところというか、コマーシャル的な制限やプレッシャーを全く感じずにアーティストとしての可能性を好き放題追及しているっていう意味で、一番好きなアルバムっていうファンも多いのでは?個人的にはビートルズに関してはどのアルバムも全部各々味があって甲乙付け難い。UKデビューのPlease Please Meだって今聴いても斬新。

ホワイトアルバムはチョッと前に50年記念の超デラックスバージョンが出てて、大量のアウトトラックが正式公開されてるけど、アルバムバージョンとの比較においてメンバーが和気あいあいと各々の作品を形作っていっている感じが印象的だった。ホワイトアルバムセッションの直後のLet it Beセッションも含め、あの頃ってバンド内がバラバラだったイメージが定着してたけど、ホワイトアルバムのアウトトラック、50周年記念のAbbey Roadのアウトトラック、Peter Jacksonの新Let it Be (「Get Back」)等で実はそんなことはなかったっていう話しになりつつある今日この頃。確かにバラバラじゃあんな凄い作品次々できないよね。Peter JacksonのGet Backは一年遅れでこの夏8月27日公開予定。Get Back公開前に倒産して二度と開かないのでは?、って心配されたNYCの映画館もいつの間にかオープンしてるし、大きなスクリーンといい音で見るの楽しみ。何と言ってもRooftopがフルに入ってるってことだし。

ホワイトアルバムはSexy Sadieの他にも名曲満載。John Lennonの作品としてはDear Prudence、Glass Onion、Happiness is a Warm Gun、I’m so Tired、Julia、Yeah Blues、Everybody’s Got Something to Hide except Me and My Monkey (小さい頃、この曲のタイトル長すぎて覚えられなかったな)、Cry Baby Cry、Good Night(ボーカルはRingo Starr)とか緩急自在な逸作がギッシリ。Paul McCartneyももちろん絶好調でBack in the USSR、Ob-La-Di Ob-La-Da、Martha My Dear、Blackbird、I will、Mother Nature’s Sonとか全部いいね。Martha My DearはPaul McCartneyが当時飼っていた愛犬の Sheepdogを歌ったものだけど、英国っぽいいい曲だよね。ピアノのイントロ気持ちよくて、一応小さい頃バイエルの黄色本までは頑張ったんで、小学校の頃、耳で聴いて練習したもんだ。キーがE♭なんで黒鍵が多くて難しめ。Paul McCartneyがこの曲のピアノは自分の曲の中でも右手と左手が一緒じゃないから難しいって言ってたけど本当だ。ホワイトアルバム直後のLet it Beセッション前半、Twickenham StudioでPaul McCartneyがMartha My Dearのピアノを一人で延々と弾き続けてる海賊音源があるけど、その後ろでJohn Lennonが誰か、もしかしたらアシスタントのMal Evans(?)と、George Harrisonがバンドから出て行ってしまった頃みたいで(数日後に復帰)、帰ってこなかったらどうするかみたいな生々しい話しをしているのが聞こえてくる。John Lennon曰く「Georgeがバンド辞めたんだったら、辞めたんだから仕方ないじゃん」みたいなことを言い、「その時は(Eric)Claptonに入ってもらおう」とか言ってて凄い。何年も後にPaul McCartneyがソロで来日した際の武道館(?)のリハーサルの一部でMartha My Dearの前奏一部を弾いている音源もネットに出回っている。

Martha My Dearね。ピアノのイントロ途中のA♭Maj9の和音の美しいこと。その直後B♭7やA♭に続いていくところとか聴いてると明日にでもAbbey RoadのあるSt John’s Woodに引っ越してしまいたい気分。South Dakota、Florida、Texasと迷うけどね(全然違うけどね、この4か所)。でも、Martha My Dearがレコーディングされたのは実はAbbey Roadではなく、SOHO(ロンドン)のTrident Studio。当時Abbey Roadの機材は4トラックだったらしいんだけど、Trident Studioは8トラックあったのが理由。ちなみにHey Judeの録音もTrident。もちろん物好きの僕としては訪ねて行ったことあるんだけど青いマーク以外は跡形もなくてチョッとガッカリだった。まあ、Twinckenham行った時と同じでそこの空気据えただけで幸せって感じ。気のせいか独特のVibeがあるSOHOの裏道。

Martha My Dearは、ピアノ、ボーカル、ドラム、ベース全部Paul McCartneyで、真ん中に出てくるギターはA♭Maj9の裏ピックのリズム感がてっきりJohn Lennonかと思っていたらGeorge Harrisonだそう。ストリングとブラスのオーバーダブはもちろん他でもないSir. George Martinの手によるものだけど、50周年バージョンにはストリングとブラスがないNakedバージョンが入っていてそれはそれでライブっぽくていい。後からオーバーダブしたPaul McCartneyのベースも格好いいけど、Nakedバージョンはベースも入ってない、ボーカルもユニゾンのオーバーダブが加えられる前のバージョンだ。Paul McCartneyが左利きだからって訳じゃないだろうけど、ベースがなくてもピアノの低音が効いててかなり格好いい。なんかこの左手、HendrixのCrosstown Trafficのドスの効いたピアノの低音みたい。う~ん、いいね。ワクチンも打ったしロンドンは検疫とかなしで入れてくれるようになったかな。

ごめん。何の話しだっけ?Comprehensive Scopingだよね。

そして正当化は続く

イエレン長官のComprehensive Scoping自賛はその後もしばらく続いて結構しつこい。既にプレゼン済みの話しと同じだけど、別のスライドでAmount Aの適用を特定のセクターに限定するのは恣意的かつ差別的、世界トップ100社はグローバル市場から最も恩恵を受け無形資産を活用している輩たちだから課税対象として不足はなく、ピラー1対応コンプライアンス負荷に耐えうるリソースを有するので標的として申し分ないという。法を執行する各国税務当局にとっても100社にフォーカスすることで負担が減る。

そして、Comprehensive Scopingはピラー1が抱える一番の問題であるセクターの特定およびセグメント化の問題を不要にするという簡素化及び確実性を提供する。更に前回も触れた通り、歳入を同じレベルに保ちながら適用対象を100未満にできる。これらの施策で、グローバル課税システムに不要な負荷を強いる弊害を取り除き、ピラー1成功のチャンスを最大限化できる、としている。

Comprehensive Scoping対象企業とクロスボーダープラニング

Comprehensive Scopingは売上と利益率のみで機械的に上から100社選択する。まずは売上基準で「ふるい」に掛け、そのステップで引っ掛からなければその時点でGame Overだから多国籍企業がそれ以上Amount Aの心配する必要はない。売上基準の金額は明記されてないけど、口頭で$20Bを考えていると伝えたと報道されている。次に、勝者(敗者?)決定戦の利益率基準。イエレン長官曰く、この決勝戦で抽出される企業は、世界でも有数の収益力を誇る企業となることから、そのことをもって無形資産を活用しているに違いなく、阿漕なクロスボーダープラニングへの関与が最も怪しまれる対象である、と決めつけている。

バイデン政権の財務省高官は法人や富裕層に厳しい、というか憎悪すら感じられる表現が他の資料にも見られるけど、中でもトップ100社だからBase Erosionの総本山ということなのだろうか。米国企業だけの話しだったらまだしも、他国の大企業の税カルチャーとか分かってんのかな。どちらかというと、Comprehensive Scopingにしてしまうと、そもそもアクション1からの流れでピラー1のポリシー目的はなんだったのかっていう部分がより分かんなくなるけど、100社としてもそれらの企業が無形資産を駆使してクロスボーダープラニングに関与している連中だから、っていう推定事実認定をしてしまい、であればデジタル企業に対する新秩序っていう目的に適ってるね、っていう納得感を与えるためのコメントなような気がする。

Comprehensive Scopingで終わりではないAmount A設計

Comprehensive Scopingで対象100社を機械的にバッサリ抽出してもそれでAmount Aの難解ステップが終わる訳ではない。そこからも迷路は続く。プレゼンでも、誰に超過利益をばらまくのかを決めるNexus、セグメンテーション(?)、係争防止・解決、他の要素、の検討をする必要があると続いているけど、単にBullet Pointsで羅列されているだけでそれ以上の深堀はない。Nexusに関しては「プラスファクター」を設けることで不要な混乱を招いているとし、発展途上国がピラー1の課税に参加できるようなNexus定量基準に弾力的に対応する用意があるとだけしている。Comprehensive Scopingが導入されると、セグメンテーションの問題はなくなるはずなんで、なんでここでセグメンテーションの話しを蒸し返してるんだか不明だけど、セグメント計算は複雑とした上で、Comprehensive Scopingを採択したらその必要はなくなるとしつこく説いている。

係争防止・解決はピラー1合意の成果として米国は重要視しているとし、課税の確実性が担保されないピラー1はあり得ず、必然的に拘束力を持つ係争防止および解決手続きが不可欠としている。これは言うが易しで、一つの国の中での係争と異なり、最終的にどんな形で法制の効果が及ばない他国に「拘束力」を適用するのか。国内であれば理論的には法廷侮辱罪に基づく罰金・収監や判決で確定した債務の徴収にかかわる資産差し押さえ、とか策があるけど、「そんな決定は紙切れ」とかって言う国が出てきたらどうするのか。軍隊派遣する?まさかね。また、100社のために特別なパネルをセットアップしたりするんだろうか。いろんなポジションが増えて雇用にはいいかもね(苦笑)。でも、そんな大げさなパネルが必要になるってことをもってして設計に問題があるとも言えるのでは?

他にも、売上源泉地をどうやって決めるのか、税引前利益の算定、利益率基準に満たないケースの複数年度に亘る調整、超過利益配賦法、二重課税の排除、事務手続き、施行、等の問題が羅列されている。

DST

最後に、ピラー1の国際合意時に各国が取り下げることになる「関連する一方的な課税措置」の正確な定義を煮詰める必要があるとしている。それはそうで、せっかくピラー1に国際合意しても、各国のDSTと共存ではただ単に追加の税金が増えるだけ。正確に定義した上で、各国税務当局による取り下げ順守を確実にしないといけないとしている。関連する一方的な課税措置かどうかの判断基準の例として、条約と関係なく適用されるか、法的または結果として差別的な制度か、Amount Aとは別の課税権を構築しているか、を挙げている。イエレン長官のプレゼンはここで突如終わる。Abbey RoadのA面最後のI Want Youみたいに。

パラダイムシフトのピラー1

この提案を見るとAmount Aにアクション1から議論されてきたデジタル企業への課税法という色はなくなり、理由は問わず、儲かっている大手からは税金を国際的に取るという歳入フォーカスの制度に変わろうとしている。まあ、米国はずっとデジタル経済をリングフェンスしてはいけないって言ってきてたんで、Comprehensive Scopingだったら確かにリングフェンスはない。また、Amount Aのフォーカスは、物理的な存在を伴わなくても市場国から得ることができる無形資産から生じる超過利益だけど、一定サイズで利益率が高いことをもって無形資産の超過利益があるという推定事実認定になっている。もともとGILTIがそのアプローチに近かったけど、バイデン政権案では超過利益ではなく、CFCの所得は全てGILTI課税と提案されている点と不整合で皮肉。それにしてもComprehensive Scopingになると、金融はAmount A対象になるんだろうね。

Amount Bはどこに?

ところで、米国財務省が言うところのピラー1って、イコールAmount Aのことみたいなんだよね。実はイエレン長官のプレゼン自体にAmount Aって用語は一回も使用されてなくて、ピラー1って言及し続けている。その割に、内容的にはAmount Aの話ししか出てこない。Amount Bだって立派なピラー1の一部だったと思うんだけど、全く言及されてない点は興味深い。Amount Bの運命は不明だけど、米国案ではAmount Bは廃案かもね。まあ、Amount Bは所詮ALPの世界の話しに準じてるし、あんな単純な規定に関して各国がスコープで揉めたり、%にレンジを儲けるとかセクター別の%にするとか、そんなんだったら確実性を担保する目的も達成できないし、一層のことなくてもいいかもね。もともとピラー1の目的だった新たな課税権や利益配賦とは一切関係ないしね。

まだまだ残る不明点

この前のポスティングでも触れたけど、利益率基準の%は決まってない。10%っていうのは既存のOECDブループリント案だったらいくらの超過利益が認識されるか、っていうターゲット金額を算定するためだけに使われている。ブループリントに基づくインパクトアセスメントでは、10%の利益率基準だと、780社が抽出され、総計で$500Bの超過利益(Amount Aではない)を認識できると試算されてた訳だから、米国案で100社でこれを達成しようというからには一社当たりが負担するAmount A対象額は算数的にもっと大きくなるはずだよね。もしかして毎年変動するっていうか、利益率%ではなく、$500Bになるように調整するのかな。なんか変だね。お小遣いのバジット立てるときに、1000円あるからランチは700円に抑えておやつに300円回すか、っていう方向ではなく、ランチは1,200円で、おやつはお茶とケーキのセットで1,000円、ついでに帰りにアイス買うからプラス100円。ってことはお小遣いは2,300円下さい、っていう感じ?全然違うって?そうかな。

ところで、米国ピラー1提案が冒頭で宣言してる「結果として米国企業に差別的な適用となる制度には絶対反対・・」って部分だけど、ADS・CFBの代わりにComprehensive Scopingにして売上基準や利益率基準を適用しても、結局のところトップ100社は不均等に米国になるんじゃないだろうか。サイズだけ見ると中国企業も結構な数ランクインするだろうけど利益率の部分で結局大半は米国?最終的にAmount Aの対象となる企業数に米国企業が占める割合はADS・CFBのケースと大差ないんじゃないかな、ってチョッと不思議なんだけど、産業ミックスが変わり、金融とかも入ると超過利益の金額はそのままでも再配賦される金額のインパクトは小さくなるんだろうか。それくらい、チャッカリ裏で計算した上で提案してそうだよね。

それにしてもこんなの米国議会通るのかな。OECDをさんざん煽って結局議会で法律通らなかったら顰蹙。Sexy Sadieどころじゃなくて「They're going to crucify me」(?)。