Sunday, June 6, 2021

バイデン政権「グリーンブック」で増税案詳細公表(4) COGSとSHIELD

前回は、米国法人から支払いを受ける側の実効税率が高くても、財務諸表連結グループ内のどこかに実効税率がミニマム税率より低い主体があると、その主体の税引前利益がグループ全体の利益に占める%分、米国法人の支払いは損金不算入になるっていうグリーンブックのSHIELD提案に触れた。直観的にピンと来ない規則だ。SHIELD恐るべし。

今日は、もうひとつグリーンブックのSHIELD提案で興味深いCOGSの取り扱いについて。BEATでもCOGSに計上できればBase Erosion Benefitにはならなかった。一見単純な話しなんだけど、その背景は複雑だ。

税法上のCOGS

COGSの話しをする際、最初に理解しておかないといけない最重要ポイントは、税法上、総収入から差し引くCOGSという金額は、物を再販したり、製造したりする棚卸資産のみに関係するっていう点。経済的にCOGS同様と思われる項目でも、税法上の要件を充たさないとCOGSにならない。例えば、実質、販売と同じだけど、棚卸資産をリースっていう形で買い手に提供して売上を計上しているとする。税務上、リース扱いされているとすると、資産の再販ではないから、資産の償却費用とか経済的にはCOGSみたいなもんだけど、税法上はCOGSではなく、Below-the-Lineの費用(Deduction)になる。

で、ここからはCOGSにまつわるDeepな話し。普段だったらDeep Purpleが云々って話しで思い切り脱線する場面だけど、COGSの話し長くなりそうなんで、今日はいきなり本題に入りたい。みんな安心した?

COGSとアメリカ合衆国憲法

アメリカ合衆国憲法上、1913年に修正第16条が追加されるまで連邦政府にはIncome Taxを徴収する権利はなかった。わずか百年ちょっと前の話しだ。変な修正入れないでいておいてくれれば良かったのに、って思っても後の祭り。連邦政府は肥大化し、国民の生活の細部に亘り干渉が激しい。

で、この修正第16条だけど、原文は「The Congress shall have power to lay and collect taxes on incomes, from whatever source derived, without apportionment among the several States, and without regard to any census or enumeration.」というもので、今日の話しのキーとなる部分は「taxes on incomes」の部分。修正第16条で議会に課税権が与えられているのは「Income」に対するもので、Gross Receipt、すなわち総収入ではない。

ここからがややこしいけど、ここで言う「Income」は、法体系的に税法上の「Gross Income」を意味すると解釈されている。Gross Incomeの税法上の定義は総収入からCOGSを差し引いた金額。通常のTaxable Income、すなわち課税所得、はGross Incomeから更にDeductionをマイナスして計算する。このことからも、COGSはDeductionではないことが分かる。COGS以外にも保険会社が支払う再保険料は、グロスの保険料収入から差し引いてGross Incomeに至るんでテクニカルにはDeductionではない。BEATで再保険料に関して特記されてるのはこの理由。

Deductionは議会の思いやり?

修正第16条に基づく議会の課税権はIncomeに対するものだけど、このIncomeはGross Incomeを意味するんで、Deductionはなくても憲法違反ではない。言い換えると、納税者がDeductionを取る内在的な権利は憲法的に存在せず、あくまでも、議会の「善意」「思いやり」に基づき、税法上認められる項目のみがDeductionとなる。この点は100年以上の数多い判例から明らか。ということは多くの費用をマイナスできてるのは議会の思いやりなんだね。ありがとう議会さん!って感謝して申告書作らないといけない。

Deductionは議会の思いやりに基づく裁量だとすると、Deductionをそもそも最初から認めなかったり、政策的に特定の活動に関して、他の活動だったら認められるDeductionを否認したりすることができる。もちろん憲法の他の条項、Equal Protection等に準拠する範囲でだけど。

分かり易い例は、ドラッグディーラーが得る所得に対する課税。修正第16条の「・・・from whatever source derived」っていう表現からも分かる通り、課税所得が合法的に稼得されたのかどうかは税務上は関係なく、不法行為から得る所得も含まれる。連邦議会がドラッグの濫用を規制するために制定しているControlled Substance Act(規制物質法)は、各ドラッグの濫用リスクや医学的な効用とかに基づき各ドラッグをダメなものから順にスケジュール IからVまで分類している。まるでsection 1060のPPAみたい。

Billion Dollar WhaleのJho LowがIMDBスキャンダルで横領した$5Bの一部でプロダクションがファイナンスされてたことが分かって後からチョッとケチがついたけど、デカプリオのThe Wolf of Wall Streetの中で、NYC郊外のLong IslandかどこかのJordan Belfortの豪邸ビーチハウスのパーティーシーン、映画ではJordanが初めてNaomiに会ったシーンで、ドラッグでハイになってるJordanやDannyたちがシューズメーカーのSteven MaddenのIPOをアンダーライトする計画を話すシーンがある。その中で、彼ら愛用のドラッグ「Quaaludes (methaqualone)はスケジュール Iになってる」って言う下りがあるけど、あれは連邦Controlled Substance Actに基づく分類の話しだ。スケジュール Iだからもちろん連邦合法のドラッグではない。

で、税法ではスケジュールIとIIに区分されるドラッグを取り扱う事業からの課税所得算定時には、Deductionは一切認めない、っていう懲罰的条文がある。ちなみに大麻はスケジュールIに分類される。近年、州法で大麻が解禁されていってるけど、ここの連邦法とのかかわりはそれだけでも専門家として食べていけるくらい複雑な領域。

で、ドラッグ・ディーラーに対してDeductionを認めない、って言う際に、議会が否認できるのは上の修正第16条の縛りの関係で、あくまでもBelow-the-LineのDeduction止まり。ドラッグを仕入れるコスト、すなわちCOGSを否認する権限は憲法的に議会にはないと考えられていて、議会の立法過程の記録条も、そのためDeductionのみを否認すると明記されている。仮にCOGSを否認するような条文を可決しても、それで過大な税金を払うようにな立場に追い込まれるドラッグディーラーに訴えられて裁判で負ける可能性大。憲法上、連邦政府が所得税・法人税として課税できるのはあくまでも「Income」であって、総収入ではないからだ。Schedule IやIIドラッグディーラーの申告書上、議会が好むと好まざるにかかわらず、COGSは堂々と計上可能だ。

でも、ドラッグディーラーなんてそもそも申告なんてしないじゃん、って思うかもしれないけど、必ずしもそうではない。州が大麻の「医学的な」使用を認め始め、近年のトレンドとしては娯楽目的でもOKっていう州が続出する中、正式なビジネスとして運営されている大麻業者も多くあり、それらの業者は申告書を提出しているし、法務や税務のアドバイザーもしっかり雇ってる。ドラッグディーラーにかかわる連邦法と州税のかかわり、司法省の管轄範囲とかと混ざって、ドラッグディーラーの課税関係に関しても訴訟があったりする。そこで開示されている情報を見ると、年商$25M(100円換算で25億円)規模で、複数年で売り上げが$100Mを超えてるそれなりの規模の事業活動だったりする。まあ、訴訟で公になっている記録を見るまでもなく、ロビイストやポリティシャンたちがあれだけハッスルしているっていうことは、結構なお金が絡んでるってことは想像に難くないはず。

また、更にドラッグを不法に取り扱ってる、っていう犯罪を立証するより、税法で攻めた方が容易に犯罪を立証できるケースもあるんで、そういう意味で厳しい規定が設けられてる側面もある。禁酒法時代のアル・カポネだね。スカーフェイス。

COGSがラッキーなケース

ちなみに通常の納税者にとっては、COGSよりもDeductionの方がありがたい。Deductionは期間費用だからAll-Eventテストさえクリアできれば、発生した課税年度に費用化できる一方、COGSになって、期末在庫に資産計上された状態で残ってると、税効果・換金メリットが遅くなる。

ドラッグディーラーの場合は逆で、Deductionになると何も取れない一方、支出をCOGSって名付ければ時間差はあるかもしれないけど控除が認められる。だったら、なんでもかんでもCOGSにしちゃえばいいじゃん、って思うだろうし、極限までCOGSにして法廷で争うケースもある。ただ、どの支出を棚卸資産に計上できるか、っていうのはオプションではなく、税法の規定に基づかないといけないんで自ずと限界がある。その際、税法上は2つの重要な条文が関係してくる。従来から存在するsection 471と1986年の税制改正で追加されたsection 263Aだ。263Aだけでもそればっかりやっている専門チームがDCに居るほどの複雑な分野で、UNICAPは僕の専門エリアではないんで、深くコメントするつもりはないけど、471はどちらかというとGAAPっぽい規定。263Aはプラスで、GAAP上は期間費用としてBelow-the-Lineで処理することが求められるタイプの間接費用を資産計上させようとする条文。

COGSに関して、憲法上、議会が認めないといけない控除は471部分と考えていいだろう。263Aは、そもそも控除が認められない費用に関して棚卸資産への資産計上という名を借りて間接的に控除するようなアプローチをその条文の中で禁じている。分かり易い例は接待交際費。接待交際費は原則50%しか損金算入できないけど、仕入業者を接待したので、仕入れにかかわる間接費用とか言って、263Aで資産計上した上、COGSとして100%費用化することは認められない。263Aで資産計上できるのは50%部分だけだ。一方、471でカバーされる項目は全額マイナスを認めないといけない。例えば工場の製造現場の電気代とかは263Aを使用するまでもなく元々471でCOGSだから、仮に何らかの理由で電気代を否認する条文があったとしても、認めないといけない。ドラッグディーラーとsection 263AのUNICAPとかあんまり似合わないっていうか、イメージ的にピンと来ないかもしれないけど、当事者にとっては重要な区別。

BEATを恐れる多国籍企業はドラッグディーラー?

で、BEATの算定をする際に加算が求められる項目を、議会がわざわざDeductionに限定しているのは上のような憲法上の懸念が大きい。BEATでは、例外的にDeductionではないにもかかわらず再保険料はBase Erosion Benefitと取り扱うと規定している。この特記がなければ、再保険料はDeductionではないので、Base Erosion Benefitにはなり得ないからだ。

また、BEATでは、外国法人傘下になった米国法人に関して、インバージョン規制法に抵触するケースでは、インバージョン後に米国外グループ関連者に行う支払いに関しては、Deductionでなくても、すなわちCOGSを含むGross Incomeを算定する前の控除でも、Base Erosion Benefitとして取り扱うと規定している。インバージョン規定で米国資産を取得したと取り扱われる外国法人が米国法人と取り扱われるケースはこの限りではない。インバージョンしたことにならないからそれはそうだよね、って感じ。

再保険にしても、インバージョンにしても、COGSとかGross Incomeを算定する前の支出を否認するアプローチは、憲法違反ではっていう論点はあり得るだろう。この点に関して法廷でチャレンジがあったという話しは聞いていない。インバージョンはTCJA以降SPAC以外の局面ではあんまり聞かなかったしね。

で、保険業やインバージョン企業でないケースで、米国外関連者への支出はDeductionだとBase Erosion Benefitになるけど、COGSだったらそうならないってことだったら、納税者としてはドラッグディーラーと同じで、どれだけ多くの米国外関連者への支出を税法上COGSと取り扱うことが可能か、っていう極限を追及することになる。ドラッグディーラーと同じで471だったら問題ないだろうけど、263Aのコストはどうなんだろうね。

このCOGSを否認できない、っていう憲法上の制約はBEATを語る際の過小包括問題のPoster Child的な存在。そこで登場するのがSHIELD。たかがCOGS、されでCOGSで超長くなってきたし、慣れないAccounting Method系の話しだったんでここで休憩。SHIELDによる驚くべきCOGSの取り扱いは次回。