Saturday, June 5, 2021

バイデン政権「グリーンブック」で増税案詳細公表(3) モーニング・アフター・恐るべきSHIELD

前回と前々回、グリーンブックの中でも圧倒的に関心が高い2つの規定、SHIELDとGILTIに触れた。早くインバージョンの話しに移りたい衝動を抑えて、SHIELDとGILTIに関して一夜明けた感想を共有しておきたい。

Blow-by-Blowの増税案

グリーンブックは増税案に次ぐ増税案で、どれだけ法人や富裕層からもっと税金を取らないといかないか、っていうナラティブをBlow by Blowで炸裂させてくれていて気絶するほど悩ましい。

Blow by Blowって言でばJeff Beck。BBA解散後、間違えてストーンズに加入かって言われたものの、どう考えてもサウンド的に和合しないって気づいたみたいで、Blow by Blowっていう歌なしのAll Instrumentalアルバム作成に至る。旧友Max Middletonと組みなおし、「あの」George Martinがプロデュース。Jeff BeckとMax Middletonって、チャーと佐藤準みたい。BBAは二枚組のライブが傑作だけど、あれってLive in Japanで実は日本だけで発売されてたんだってね。あんないいアルバムを聴くことができて僕たち日本の子供はラッキーでした。

BBAのライブでJeff’s Boogieを初めて知ってコピーした人とか、オープニングのSuperstition聴いてトーキング・モジュレーター欲しくなった人は多いのでは。僕はお小遣いが限られてたんで、他にもっと優先順位の高いフランジャーとか欲しかったからさすがにトーキング・モデュレーターには投資できなかったけどね。トーキング・モジュレーターは使いすぎると頭おかしくなるとか都市伝説もあったし。Jeff’s Boogieは周りの子たちもみんな競ってコピーしてて、前半の6連符が8回続く速弾き(当時の中学生的な感覚では)の部分の弾き方に関して僕たちの間では意見が割れていた。一弦から始まって開放弦を利用している派(僕でした)、とわざわざ3弦だか4弦だかから開放弦を使わない根性派、の2つのキャンプがあり喧々囂々だった。当時は動画がないから音から推測するしかなかったからね。それが反って上達を早めたり微妙な音色に注意を払うクセをつけてくれたと思うけどね。

で、BBA解散後のBlow by Blowは一転してフュージョン。最初の曲だった「You Know What I Mean」の9thで始まるイントロ格好よかったよね。難しくないけど、あれ弾けるとただのロックギタリストでは終わらずに(何それ?)フュージョンも知っているような感じを醸し出せたし。Blow by Blowに続いて発売されたWiredも同じ路線。Led BootsとかBlue Windとか、WiredってJan HammerのMoogの貢献が大きい。その後、何回か武道館にJeff Beck見に行ったけど、Jan Hammerが居た記憶はない。多分。ということはFreeway Jamのライブじゃなかった、ってことなんだよね。初めて動くJeff Beckを見て最初に感じたのはピッキングの際に右手があんまり動かないというか、凄くソフトに速弾きするんだな、っていう点。ギターってネックの弦を抑える左手に目が行きがちだけど(もちろんヘンドリックスみたいな左利きの人は逆)、上手なギタリストは実は右手のピッキングのテクニックで差を付けてることが多い。Jan Hammerはいなかったけど、一回はベースのStanley Clarkeと一緒だった。彼のアルバムからもSchool Daysとかやってくれたりして、最高だったね。School Daysって、NYCやMDRとか、South DakotaのI90とか、どこで聴こうと今でもなぜか第三京浜がフラッシュバックしてくるんだよね。懐かしいね。港北インターとか。

Blow-by-Blow攻撃後のモーニング・アフターと財務省のフォロー説明

で、また脱線してるけど、グリーンブックでBlow by Blowの攻撃を受け、頭がくらくらして、そんなモーニング・アフターな状態で再度、SHIELDとGILTIにかかわる部分を読み直したりしていた。特にSHIELDは前回の特集時に触れた通り、説明の一部がシックリ来てなかった。そんな中、タイムリーに財務省の国際租税副次官補のホセが複数の業界団体の会合で財務省の考えを補足説明してくれて、不明だった点が少し明らかになると同時にまだまだ不確実な部分が多い点を再認識。

ホセは数か月前までEYのNational Taxで同僚(って言うと格好いいけど、彼は重鎮)で、東京にも一緒に来てくれて銀座で串揚げ食べたりしてたんで懐かしい。ちなみに串揚げ食べるために出張したんではなく、ミーティング等に数日明け暮れてA Hard Day’s Night的に最後打ち上げたという経緯なので念の為(笑)。ホセはクロスボーダー課税の表裏の全てを知り尽くしているような人。もともと以前もEYから財務省に転籍し、その後、EYの国際税務に戻ってきてた経緯がある。その意味ではマージー・ロリンソンみたいな経歴で、ホセはマージーの弟子だ。

ホセは、EY在籍中、クロスボーダー課税に関して比較的アグレッシブなポジションをサポートしてくれてたけど、グリーンブックの説明をしているホセは、財務省のキャパでの発言なんで、立ち位置が逆になってて面白い。米国財務省、AgencyであるIRSのChief Counsel Office、また議会の歳入委員会や財政委員会のスタッフ、たちは結構な比率で法律事務所、Big 4会計事務所の経験者だったり、官民を行ったり来たりしてる人たち。なんで、お互いに手の内は見え見えで、それが逆に実務レベルに即した規則や法律の策定、合法的なプラニングの構築に繋がってる。こういうキャリアパスは日本では余り一般的ではない、って聞くけど、政府・民間の双方に有益なストラクチャーなんで、もっとあってもいいんじゃないかな。

で、モーニング・アフター的なクラクラした状態でSHIELDとGILTIに関していくつか追加コメント。

BEATの反省から生まれた(?)SHIELD

BEATはそのメカニカルな適用から、BEATって言う名称から想定される効果を十分に発揮していないし、BEATに基づく歳入も期待外れっていう反省があるそうだ。仕入れや、ロイヤルティー等の費用が棚卸資産に資産計上されるとBEAT対象でなくなるという過小包摂、支払い相手国が高税率でもBEATになる過大包摂、ミニマム税という計算メカニズムを採択していることから低収益の納税者や課税年度に被害が大きいという弊害、などの問題が指摘されている。

さらにBEATの負担はインバウンド企業ではなく、米国多国籍企業に重い点も問題視されているそう。でも、これは要は広範なBase Erosionプラニングに(合法的に)従事してるのが米国多国籍企業だから、デザイン的にそうならざるを得ないだろう。さらに、TCJAで法人税率が下がり、親会社所在国との税率差が少なくなって、Section 163(j)とかも変更され、インバウンド企業的に派手に米国からBase Erosionするニーズが低下したし、そもそも日本企業みたいに米国の法人税率が高いからイコールBase Erosion、っていう風に考えない国の企業もあるからね。ただ、財務省的にはもっとインバウンド企業を取り締まらないといけない、ってことなんだろうか。法人税率のアップも負担は外国株主みたいな下りもあったし、選挙権のない者たちを懲らしめるっていうナラティブが受け入れやすいのは分かるけど。ふと思い出してみると、確かにBEATって2017年のTCJAが可決された際のCodifyされる前の法文では「Inbound Transaction」っていうタイトル下に存在してたね。

SHIELD下の損金不算入

SHIELDは財務諸表の連結グループに含まれる米国外関連者の実効税率が特定グローバルミニマム税率、例えば15%、に至らない場合、その関連者に対する支払いを損金不算入にするというもの。仮に特定グローバルミニマム税を15%と仮定して、実効税率が14.9%だったら、その国への支払いは全額損金不算入になる。0.1%だけ違反しているんで、支払いの150分の1が損金不算入になる訳ではない。一方、実効税率が15%だったら全額損金OK。典型的なCliff Effect。

これだけ読むとSHIELDの世界では、支払い先となる関連者がグローバルミニマム税率に至る実効税率になっていればそれでセーフに聞こえる。「だったら日本親会社へのロイヤルティーはOKだな・・・」と。ここは実は「ところがどっこい」で、SHIELDの酷さが炸裂する部分。

高税率国に支払っても一部損金不算入?

グリーンブックのSHIELDの説明には一読しただけでは「はっ?」って思う部分が二か所ある。COGSにかかわる部分(後述)と財務諸表連結グループ内に低税率国に属するメンバーが存在するケースにかかわる部分だ。

グリーンブックでは、米国法人がグループ内の低税率国にある関連者に支払いを行ってる「全額アウト」なケースに加え、仮に支払いの受け手が高税率国にある関連者の場合でも、グループ内の他の関連者が低税率の場合には、支払いの一部を損金不算入すると規定している。最初意味が分かんない感はあったんだけど、直接の受け手がどれだけ高税率でも、グループ内に低税率の主体が世界のどこかに存在する場合、グループの税引前利益に占める低税率国の割合相当部分を損金不算入にするとしている。

え~、何それ、間違いじゃないの、って思うけど、そうではなく、そのような設計らしい。財務省としては、グループ全体の税引前利益およびグループ内に存在する低税率対象利益を各々合算プールとして捉え、米国外への支払いは直接的には高税率国に支払っていても、グループ内に低税率関連者が存在する限り、その分は損金不算入にするという理解で間違いないらしい。そんなんだったらグループ全体の実効税率がミニマム税率かどうかで判断してくれたらいいと思うんだけど、そうではなく低税率の主体が一つでもあれば、そこで認識される税引前利益が全体に占める%分は、間接的なBase Erosionとなるらしい。受け手で30%とかで課税されていても。不思議なアプローチだけど税金取る側っていうのはそんな風に考えるんだね。

例えば日本企業の米国子会社が日本親会社から商品を仕入れたり、ロイヤルティーを支払ったりして、日本親会社は余裕で15%を超えてるとする。米国子会社とは一切取引がない香港子会社の実効税率が14%だったとして、香港子会社で計上される税引前利益が連結グループの5%を占めてるとすると、仕入代金およびロイヤルティーのうち5%が損金不算入(?)になるということらしい。

ということは申告時には、直接的な支払いのあるなしにかかわらず財務諸表連結グループ内に存在する関連者所在国の実効税率を全て特定しないといけないってことだよね。日本がIIRを導入して、IIRに基づくトップアップ課税も、CFCの税率に加味してくれるんだったら大概において低税率に抵触するケースはなくなるはずだけど、ピラー2と米国の規則の法人税の特定の仕方とかに差異があるとややこしさこの上なさそう。ピラー2ではUTPRはIIRのバックストップだけど、SHIELDも明確にそうしてくれないとコンプライアンスが立ちいかない。

SHIELD目的の各国実効税率

SHIELD目的の実効税率は各国の表面税率ではないから、いろんな国でその国の税法上のNOLがあったり、R&Dクレジットがあったりその他の事情で期せずして実効税率がグローバルミニマム税率を下回ることもあるだろう。そもそも、どうやって実効税率を算定するのか、っていうメカニズム次第だけど、実効税率を単年で判断する場合、ある課税年度の支払いは全額損金不算入、翌年は全額損金OK、というような状況が十分にあり得る。過去には全く別の件で、60か月平均して実効税率を計算してはどうか、という平準化策が盛り込まれてた提案もあったけど実現してない。

米国税法のSHIELD目的で、外国の財務諸表ベースの所得と外国法人税を基に実効税率を算定する作業は複雑で負担は大きい。外国法人税は、既にFTC目的で各所得にどうやって紐付けるのか、2020年に規則が最終化されてるけど、その規則は珍しく外国現地の税法を加味して各所得項目に法人税を紐付けて行く手法を取っているので、50か国にCFCや関連会社があると、50の税法にある程度明るくないと法人税の配賦もできないことになる。

SHIELDとCOGS

そしてもう一つ、グリーンブックでは複雑怪奇な表現で説明されているCOGSに区分される関連者への支払いのSHIELD上の取り扱いに関しては次のポスティングで。ここは面白いので楽しみにね!