Thursday, September 23, 2021

バイデン増税「下院歳入委員会」法文ドラフト(2)

前回は下院歳入委員会が公表した増税案法文ドラフトの中から、いきなりオタクなポートフォリオ利子免除の条件をタイトにする法案に触れた。

研究開発費用の資産計上延期

もう一点地味目だけどインパクトがあるのは研究開発費用の資産計上の延期。2017年のTCJAで研究開発費用は2022年1月以降に開始する課税年度から、資産計上して5年償却(国外の研究開発は15年)っていう、本来、優遇されるべきと考えられていた研究開発活動相手に不躾な取り扱いが規定されてビックリだった。とは言え2022年前に議会が撤廃してくれるだろう、って一般的には楽観視されてきたけど、パンデミックや選挙とかでいつの間にか2022年が目の前に来てる。で、下院案では、これを先延ばしして2025年1月以降に開始する課税年度からとしている。またこれで2025年までには議会が撤廃してくれるだろう、って楽観視されるんだろうね。

累進税率復活

肝心の法人税ヘッドラインレートは基本26.5%って、25と28の中間値に着地させて提案されてるけど、課税所得$400Kまでは18%、$5Mまでは21%って4年ぶりに累進税率の復活。累進税率って、Controlled Groupで税率区分を配賦したり面倒なんだよね。コンプライアンス上。で、以前と同じように課税所得が$10Mを超えると低税率区分の恩典はフェイズアウト。国内法人からの配当にかかわるDRDは、DRD後の税率が現状維持されるようDRDレートが調整されるとのこと。米国企業の反応を見てると法人税率はどうでもいいから(?)、GILTIのCbC化や実効税率の引き上げはやめて欲しい、っていう感じだろう。

GILTIとFDII(Preview)

GILTIに関しては詳細を別途書かないといけないって感じだけど、歳入委員会のこのドラフトはバイデン政権の提案とチョッと違って少しマシ。国別計算になる限りマシになりようはないんだけど。具体的にはGILTI計算時に、バイデン政権は撤廃するぞ、って言ってたQBAIリターンを10%から5%に減額するとは言え温存してる。また、GILTIの実効税率がバイデン言うところの21%ではなく16.56%になったり、OECDピラー2に近づけようとする努力が見られる。ピラー2で採択されると噂される15%のグローバルミニマム税に結構近い。GILTIのピラー2化を世界に演出することで、各国を牽制してるように感じられる。

GILTIバスケットのFTC対象CFC法人税が80%から95%に増額されたんで、GILTI制度化のグローバルミニマム税率は実質、17.43%となる(16.56/95%)。

FDIIも控除額が引き下げされる、すなわちFDIIの恩典が減少する、とは言え制度はそのまま温存されて首の皮一枚で生き延びてる。GILTIのルーティン所得計算時の有形資産ルーティンリターンが5%に低減された一方、FDIIは10%のまま。今後の審議でFDII自体いつ廃案って方向になっても不思議はないけどね。GILTIのFTC対象法人税の95%化やQBAIリターンの%差異の関係で、GILTIミニマム税率とFDII実効税率が乖離してしまい、2017年のGILTI・FDIIを対で導入した際のLevel Playing Field化が壊れてしまっている。ということは「FDIIはGILTIの裏返しです」って言う理由でFDIIは輸出助成の悪法ではない、っていう主張がチョッと通り難くなるってことかもね。GILTI増税、特にGILTIのCbC化は米国多国籍企業にとって大問題なんで、別特集しないとね。

バイデン政権のグリーンブックでは、FDIIがあるから有形資産が国外に行ってしまうというような懸念が強調されてるけど、実務経験が乏しい職員室での議論みたいに聞こえ、無形資産が米国に戻って来ている一因だと思われるFDII温存はアメリカのため。実際に一旦国外に出したIPを米国に持ち帰る取引も発生していた。米国から国外にIPをMigrateさせて367(d)でみなしロイヤルティーストリームで譲渡益認識してた状況で、このIPをRe-Domesticationで米国に持ち帰ったりするとテクニカルなチャレンジが多い。みなしロイヤルティーはIPが米国に帰ってきたからって無くならない一方、対応する費用控除は米国に戻ってきたからって急に認められる仕組みにはなっていないんで、制度上の不備としか言いようがないけど、ドライ所得が出ておしまい。それはないでしょ、ってことで連結納税グループ内取引の規定に基づくIRSの裁量に訴えたり、苦労が多い。この点は367(d)のテクニカルな問題として改正、または財務省規則に基づく救済策が望まれる。その場合、Outboundさせた張本人の納税者そのものに戻ってこないといけないのかとか、同じグループだったらOKなのかとか、身元に関係なく米国に戻って来ればいいよってなるのかとか、結構面白そう。

で、具体的には、現在の37.5%のFDII控除が21.875%に引き下げられる。21.875%は元々TCJAでも2026年から自動的にそうなるはずだったので、増税と言ってもどうせそうなるものが4年前倒しになった、って考えれば諦めも付くかもね。ただし、法人税率自体が21%から26.5%に引き上げられるんで、FDIIの実効税率は13.125%から20.7%にアップ。

支払利息

GILTI増税と並んでショックをもって受け止められているのは、支払利息のグローバル・レバレッジに基づく制限。これは日本企業の視点からはなかなか想像できないほど痛い。米国多国籍企業はレバレッジをどこに国にどれだけ導入するか、っていうグループ管理を科学的に徹底してきた。2017年前は全額米国っていうのが常識で、それ以上考える必要はないくらいだったけど、2017年TCJAでモデリングに変動があった。956の意味が低下したりした点も含めて、まだまだ最適なレバレッジ場所を見直し中だった矢先の新規制。OECDアクション4に類似するグローバルEBITDAベースの平準化規制だ。でも、これ導入するんだったらATI(国内EBIT)ベースの既存Section 163(j)を撤廃すればいいのに。両方共存っていうのはやりすぎでは。

で、新規制だけど、連結財務諸表に米国外法人が含まれる多国籍企業に関して、グローバル・グループのレバレッジを基に米国における支払利息の損金算入が制限される。以前から提案され続けてる規定だけど、まず、連結財務諸表グループ全体のネット支払利息をEBITDAベースで米国に配賦。この配賦額を分子とし、米国主体が財務諸表上、計上しているネット支払利息額を分母として制限枠%を算定する。米国に配賦される金額が、実際に米国主体が計上しているネット支払利息を上回る場合には制限はない。

で、米国にレバレッジを集中させている米国企業は、分子が分母を大きく下回ると予想され、制限枠%は大概のケースで100%を大きく割り込むだろう。この制限枠%に110%を掛けた%が最終的な制限%となり、当制限前の申告書で認識される支払利息に最終制限%を掛けた金額が損金算入の上限額となる。この制限は過去3年間(当期含む)でネット支払利息が$12Mを超えるケースにのみ適用。で、損金不算入額は5年間の繰り越し可能。で、現状では繰り越し期限がなかったSection 163(j)にも同じく5年間の繰り越し期限制限が導入される。

M&A時にどこでレバレッジを認識させるかっていうのはディープな検討だけど、956が245Aの関係でなくなったようでなくなってないようでCFCによる保証とか結構今でも頭が痛い。モデリングが更に複雑化するね。

パートナーシップと163(j)

163(j)と言えば、ここからは吉報だけど、2017年の税制改正で導入された新Section 163(j)はパートナーシップそのものに適用されている。パススルー主体そのものに直接制限を加える、っていうことで、とてつもない複雑な適用規則を要してた。11ステップの計算とか。それをパートナーレベルへの適用に変更してくれるそうだ。可決されたらコンプライアンス的にはグッドニュース。5年間と繰り越し期間限定と引き換えだね。

次回はBEATまたはDownward Attribution再撤廃のどちらか。