Wednesday, September 29, 2021

バイデン増税「下院歳入委員会」法文ドラフト(5)「Downward Attributionの再撤廃 (3)」

前回のポスティングでは、クロスボーダー課税を考える際にどんな目的で株式の直接・間接所有に加え、みなし所有も加味する必要があるか、に触れた。で、今日はクロスボーダー課税での具体的なAttributionに関して。

クロスボーダー課税とAttribution

前回のエンディングで触れたとおり、米国株主やCFCかどうかの判断時には、前々回紹介した国内の法人税扱いに関して規定される4つのAttributionをそのまま適用するのが原則。だけど、クロスボーダー課税用にいくつか重要な例外が規定されている。または一部に関しては規定されていた、と過去形になる。何回もしつこく書いておくけど、間接持分は米国外の法人その他の主体経由でしか認定されないけど、間接持分は米国の主体経由でも普通にAttributionされるから、くれぐれもこの2つの微妙な差をお忘れなく。

家族メンバーAttribution

まず家族メンバーAttributionに関して、非居住者の家族メンバーが所有する株式は米国市民や居住者家族メンバーにAttributionされない。この免除にはチョッとマイナーな例外があって、TCJA以降、米国法人が受け取る国外源泉配当の多くに100%DRDが認められることから存在していること自体不思議と言ってもいいくらいの(だけど撤廃されてないんで反って罠のようにややこしくなった)CFCから米国株主への貸付その他のみなし配当規定の適用除外を検討する際にはAttributionを加味する必要がある。

Upward Attribution

UpwardのAttributionっていうのは下から上に上ってくる方向なんで間接持分に類似しててDownward Attributionとの比較で直観的に分かり易い。前々回触れた通り、Upward Attributionは、パートナーシップ、遺産(Estate)、信託、法人が直接・間接・みなし所有している株式はそのオーナーが所有していると取り扱う規定。法人に関しては、50%以上の価値を直接・間接・みなし所有する株主のみに適用され、法人が直接・間接・みなし所有する株式の価値に基づく持分%に相当する株式がAttributionされるというのが原型。

で、このUpward Attributionをクロスボーダー課税目的で適用する際にはみなし所有の範囲が拡大されるので要注意。まず、法人からその株主に対するAttributionが拡大され、通常は50%以上の価値を所有する株主からAttributionしてくる、っていう規定に代わり「10%」以上の価値を所有する法人株主は法人からのAttributionがある。10%って結構低いよね。

さらに、パートナーシップ、遺産、信託、法人(つまり個人以外)が直接・間接に法人の50%超の議決権を所有する場合には、100%議決権を所有しているとみなされる、っていう変形というよりも新たなUpward Attribution規定が追加される。元々、法人が所有する株式は、50%「以上」の「価値」を持つ株主(個人を含む)に価値持分に準じてAttributionされるというもの。これを議決権に置き換え、また50%超とし、100%議決権のみなし所有としている。この変形はあくまで議決権のAttribution。

で、今の法律はここで不気味に終わっている。

Downward Attribution禁止撤廃

なぜ不気味かというと、2017年のTCJA前はその次にもうひとつ3番目の例外が存在したからだ。撤廃されたことで逆に有名になり、今では誰でも条文番号を知っているSection 958(b)(4) だ。

この(b)(4)は米国外信託、米国外遺産、米国外パートナーシップ、米国外法人から米国人にはDownward Attributionは適用されない、っていう賢明なルールだった。こんな重要な例外を、インバージョン後のCFCの非支配下取引に網を掛ける、っていうかなり狭義な目的を達成するために、単純に撤廃してしまったのだ。

撤廃された翌日には、そんなことをしてしまったら「こんな大変なことになります」って感じの副作用、っていうかほぼ本作用が続出して大パニック。しかも改正の施行日が「2017年12月31日以前に開始する最後のCFC課税年度から適用」となってたんで、CFCの課税年度が暦年のケースだと2017年から、3月決算の場合は、2018年3月期から適用となった。今まで米国株主じゃなかった者が急に米国株主に変身したり、CFCじゃなかった外国法人が急にCFCになってしまったのだ。で、この2017年はCFC留保所得一括課税、すなわちTransition Taxの年。Downward Attribution禁止の撤廃のせいでTransition Taxに抵触したケースも多い。救いだったのはTransition Taxの対象となる留保所得は、外国法人がTransition Taxに対象であるSpecified Foreign Corporation、SFC(キャンパスの名前じゃないから三田會の方は興奮しないように)の期間に留保された所得のみが対象だったんで、9か月分とかセコイ期間を「留保所得一括課税」されたものだ。

他にも禁止撤廃の影響は大だったんだけど、法律なんで一旦条文になってしまうと、真っ向から対立する解釈はできない。財務省が苦労して、行政府に権限があると思われる範囲でマイナーな部分は少しづつ規則で手当をしてきた。

そんな訳で、次回はDownward Attribution禁止撤廃後のクロスボーダー課税乱世(?)について。