Tuesday, November 2, 2021

バイデン増税案大幅縮小「法人税率据え置き」(2) 代わりに税引前利益に15%AMT?

前回のポスティングでは、法人税率が21%据え置きとなる可能性が高いっていう意外な展開となる代わりに、会計利益15%AMT法案が急に浮上してきた進展に触れた。ついでに調子に乗って政治家の偽善ぶりや市民感覚のなさ、何年も米国に住んでるけど最近余りに目に余るので、にもチラッと触れたんだけど、ちょうど同じような記事がウォールストリートジャーナルの社説に記載されてたんで笑ってしまった。カーボンの話しや外食禁止に触れながらエリートたちの偽善ぶりが指摘されてて全く同じ切り口。市民や地球のことを本当に考えてくれる政治家が増えてくれますように。

テスト対象合算主体の特定

さてさて、前回のポスティングでは、どの法人が15%AMT対象になり得るか、って話しを始めた。最終的に15%AMTは米国で申告している米国法人、連結納税グループ、PEやUSTOBに関して申告している米国外法人、が計算をするんだけど、そもそも計算をする必要があるのかどうかの判断は関連者グループ全体で判断する。お馴染みのAggregation(合算)ルールだ。古くは、累進税率の低税率区分を利用するため、事業を複数の法人に分けて行うような作戦に網を掛けるような概念だったけど、売上やBase Erosion%とか、規模的な判断時にお約束のように登場してくる概念。ただ、必ずしも納税者にとって不利な結果となるとは限らない。自社だけだとBase Erosion%が3%行くようなケースでも合算してみると2.9%だったりすることもあり、その場合にはラッキーな結果となる。

前回も触れた通り、15%AMTの適用判断テストは、会計利益$1Bっていう原則テストとインバウンド企業のみに適用される会計利益$100Mの変形インバウンド企業テストがあり、インバウンド企業に当たる日本企業の米国子会社や支店は双方のテストを充たして初めて15%AMT対象になる。ここは最重要ポイント。

適用判断時には、まず50%超の資本関係で結ばれるグローバルグループのメンバーを正確に特定する必要がある。それらのメンバーが一人の納税者かのように取り扱われるからだ。これは直接・間接・みなし持分規定等を加味して決定する米国税法ベースだ。

メンバーを正確に特定したら、米国企業、インバウンド企業を問わずまずは全員に適用される原則テストで引っ掛かるかどうかテストする。簡単に言えば特定されたメンバーの会計上の利益を合算してみて3年間平均が$1B超えてるか、って話し。ザックリと単純に財務諸表ベースだと日本企業もグローバルベースで利益が$1B超えてるところは結構あるはず。

適用財務諸表

3年間平均会計利益を特定するには、まずどんな財務諸表の使用が認められるのか、っていうベーシックな検討から入る必要がある。使用可能な財務諸表には優先順位があり、GAAPベースで作成された監査済み財務諸表のうち10‐KをSECに提出しているケースは10‐K、10‐Kの提出義務がない場合には債権者・株主・パートナー・受益人その他の所有者向け、または税務以外の目的で作成されたもの、それもない場合には、SEC以外の連邦省庁に提出しているものを使用する必要がある。これらのGAAPベースの財務諸表が存在しない場合は、IFRSに準じて作成されたものでSECに準じる基準を持つ他国の証券取引委員会に提出されているものを使う。日本企業の多くはこれを使うことになるんだろう。さらにこれもない場合は、他国の省庁に提出する財務諸表を使用することになる。$1Bの利益があるかないかの話しだから、これらのうちなんかはあるはず。

で、財務諸表がカバーする主体と、税務目的で判断対象となる主体がピッタリ一致してたら苦労は少ないんだけど、通常はそうじゃないんで、そこをシンクロさせる必要がある。例えば、最終的に15%AMTを計算する際には米国子会社に限定された財務諸表が必要になるんだけど、使用が認められる日本で証券取引委員会に提出しているグローバルベースの連結財務諸表があるとすると、そこから対象となる米国子会社にかかわる部分の金額のみを抽出する必要がある。連結納税グループに関しても同じで、連結納税グループに属するメンバーにかかわる部分の金額のみを抽出することになる。

15%AMT対象法人となるかどうかの判断時は話が若干異なって、50%超ベースのControlled Groupメンバーを一人の納税者として取り扱うことから、まずは最初のステップで特定したControlled Groupメンバーに属する主体にかかわる利益を取り出す必要がある。一人の納税者とみなさられる複数の主体と、財務諸表がカバーしている主体は若干異なったりするだろうから、そこは調整が必要で、グローバルベースで50%超のControlled Groupメンバーとなる主体群に帰属する部分の金額を把握しないといけないからだ。

調整財務諸表利益(Adjusted Financial Statement Income)

で、調整はまだ終わらない。っていうか未だ調整は始まってなくて、この段階ではようやく適用財務諸表からControlled Groupメンバーに帰属するRaw Dataを抽出したに過ぎない。最初の調整は配当所得。他主体の所得は後述するCFCは除き、配当があるまで合算しないとされる。すなわち、最終的に15%AMTを算定する単位となる法人は自己帰属部分の利益として、投資先の所得を持分法とかで取り込むことなく、配当ベースで利益を認識しなさい、ってことみたいだ。もちろん連結納税グループのケースは、連結納税グループは一人の納税者同様なので、メンバーに帰属する利益は全て取り込まれるけど、それ以外の投資先の所得は配当ベース。15%AMT対象法人かどうかの判断時には、50%超Controlled Groupメンバーは一人の納税者なのでそこに属するメンバーの所得は原則まるまる加算され、それ以外の投資先の所得は配当ベースってことになる。面倒くさそう。

で、CFCに対して議決権または価値ベースで10%持分を所有する米国株主に関しては、配当ベースではなく特別に毎期、CFCの利益の持分相当を合算する。ここで言う持分はSub Fの取り込みやGILTI計算時のTested IncomeやLossの取り込み%を適用するそう。これはクロスボーダー課税では「Pro-Rata Share」と呼ばれる%なんだけど、優先株とか複数のクラスの株式が存在する場合はそれだけでも大変な検討。GILTIの財務省規則でもかなりの紙面を割いて苦労していた部分だ。Tested IncomeやLossだけでなく、みなしルーティン所得の計算根拠となるQBAIの取り込みとか。これを財務諸表に適用するってことだけど、優先株式とかあって特定のCFCに関して会計上損失だったらどうするんだろうか。Tested Lossに対するコンセプトを流用するのかな。税法と会計を混合して適用する事務的な負荷は高い。また持分に準じてCFCから合算額を計算してみてネットでマイナスとなる場合、マイナス額はその期に認識することはできない。マイナス額を繰り越し、将来的にCFCからの合算額合計がプラスとなる課税年度に繰り越しマイナス額を差し引くことができる。Sub FのQualified Deficit規定みたいだけどこんな面倒な計算・トラッキング誰がするの?って感じ。

ただ、CFCは大概において50%超Controlled Groupメンバーになるだろうから、最終的に15%AMTを計算する際にはこのルールは重要だとしても、15%AMTの対象法人となるかどうかの判断時にはCFCを含むグループ法人の利益は自動的に合算される。ただし、15%AMT対象法人となるかどうかの判断を行う際に、Controlled Groupメンバーとして一人の納税者の一部に取り込まれる外国法人の利益に関しては、ECI(おそらく財務省規則で条約国に関してはPE帰属所得)または上述の米国株主に合算が求められる金額のみを加味するよう規定されている。

ここで面白いのは、このままこのルールを単純に適用してしまうと、インバウンド企業のControlled Groupメンバーの多くは親会社を始め、米国傘下にはない主体だから、それらの法人の利益はECIがない限り(普通はない)、すっかり抜け落ちてしまう。そこでインバウンド企業には特別な規定があり、$1Bの原則テストを適用する際には、インバウンド企業は米国傘下のCFCでなくても米国外法人の全ての利益を加味させられる。その上で$1Bを超えるかどうかの判断をすることになるんで、米国企業同様、グローバルの利益を合算して同じレベルでテストされることになる。その際、自分の持分相当だけ合算すればいいのか、それとも持分にかかわりなく利益の全額を取り込むのか法文の書き方が曖昧。概念的には当然前者だろうけど、どうもそう読み難い。例えば、日本親会社がオランダに80%子会社を持っている場合、オランダ法人の80%の利益を合算するのか100%入れさせられるのか、っていう点。財務省規則が出て80%って明確化されるんだろうか。

インバウンド企業$100M変形テスト

で、$1Bを超えてしまった場合、米国企業は適用が決定。インバウンド企業はもう一回敗者復活戦みたいなセカンド・チャンスがある。すなわち$1Bテストに抵触しても、変形の$100Mテストに抵触しなければ15%AMTから逃れることができる。この$100Mテスト時には、さっき触れたインバウンド企業は米国傘下のCFCでなくても米国外法人の全てを合算しなさい、っていう特別ルールの適用が停止される。すなわち、米国法人とその下のCFCの持分相当額の利益だけを基にテストする。その結果が$100M以下だったら15%AMTの対象にはならない。

BEATもそうだったけど、実際の計算する前に、そもそも対象になるのかどうかのテストがややこし過ぎて本番間違いそうだよね。次回は財務諸表の利益に対する調整の続き。