Sunday, July 4, 2021

バイデン政権「グリーンブック」で増税案詳細公表(5) インバージョン (2)

前回はグリーンブック増税案でインバージョン願望が再編することから、そんな動きを牽制するため、グリーンブック自体がインバージョン規制法の厳格化を提案している、っていう点に触れた。

株主課税と法人レベルの2つの異なるインバージョン規制法

以前にも何回か触れたことがあるけど、米国におけるインバージョン規制法は大別すると2つ。ひとつは90年代に制定された株主レベルの課税を規定したHelen of Troy Regulations。インバージョンは適格組織再編を通じて実行されるんで、そのままだと当事者全員に非課税で(旧)米国親会社の上に米国外親会社を配置することができる。McDermottやHelen of Troyに代表される初期型の「Naked」インバージョンは独り芝居というか自作自演のM&Aでバミューダ法人グループに生まれ変わるっていう、第三者の外国法人を伴わないインバージョンだったから、ダブルダミーとかじゃなくて単純にReverse Sub Mergerというメカニクスを通じて実質株式交換になる。組織再編少しでもカジッたことある人だったら初級シロベルトで「… by reason of the application of (a)(2)(E)」って常套適用だな、って分かるだろうし、この手の再編に使用されるMerger SubはTransitoryだし、独りインバージョンする際にはBootは必要ないだろうから大概においてB型再編にも適格になることが多い、っていうのも中級前半のオレンジベルトで分かるはず。

インバージョン株主課税

Helen of Troyまで10年間くらいNakedインバージョンは続いたけど、これを問題視した財務省は94 年にNoticeを公表し、96年にインバージョン規制規則を最終化している。仮に適格組織再編になる場合も、米国株主が外国法人と株式交換する場合には、複数の要件を充たさないと株主レベルで含み益課税が起こる、っていう仕組みで、Helen of Troy Regulationsとして知られている規定だ。もともと、Section 367法文自体では、例外規定が適用されなければ株主課税が生じるんだけど、大本の暫定規則、87年のNoticeその他はフォーカスが5%株主で、それらも大概のケースでGRAを締結すれば課税されないような規定になっていたものを、上場企業がインバージョンしていく点に懸念を示して課税強化している。

米国法人の方が大きい再編はインバージョン?

Helen of Troy Regulationsの要件は実際には細かくて複雑で、時間があれば次回以降どこかで詳細触れてみたいけど、敢えて乱暴に言えば外国法人が少なくとも米国法人と同価値でないと株主レベルで課税が生じるというもの。財務省の感覚では米国株主が過半数の持分を受け取るってことは、インバージョン懸念大ということ。このHelen of Troy Regulationsの過半数持分に対する懸念部分は、なんと30年の時を超えて2021年のグリーンブックに繋がっていくんで覚えておいてね。

Helen of Troy Regulationsの株式持分部分テストは米国人株主だけを見るんで、単純な時価比較では答えがでないこともあるけど、別の要件となる3年間のATBテストは時価ベースだから、かなり狭義な例外を除くとこちらは外国法人が少なくとも同規模じゃないと株主課税が生じることになる。

インバージョンとスピン

結構よくあるパターンだけど、スピンした法人を同じプラン下で買収法人と合併させたりする場合、Helen of Troy Regulationsとは関係のないスピンオフ側の規定で、スピンCoの株主が50%超の持分を継続しないとスピンする側の法人レベルで法人課税が起こる。97年のAnti-Morris Trust法だ。Helen of Troy とAnti-Morris Trustでは持分テストが逆方向なんで、このスピンオフ後に米国外法人と合併とかすると、通常はどっちかの法律で課税されてしまう。Anti-Morris Trustだけなら本来法人レベルだけの課税だけど、Helen of Troy Regulationsは株主レベル。更にややこしいのは、Helen of Troy Regulationsで株主レベルで課税が生じる場合に下手するとスピンオフのDevice規定に抵触(?)するっていう懸念がある。Deviceの趣旨的には変だけどね。そんなことになろうもんなら、そもそもAnti-Morris Trust規制に至る以前にスピンオフ自体が不適格になる。ということはスピンする側の法人レベルだけでなく、株主レベルでも課税。ヤヤコシ過ぎるね。ちなみにAnti-Morris TrustはMorris Trustっていう判例にかかわるもので、独禁法(Anti-Trust)とは全然関係ないからね。一応。

でもAnti-Morris TrustとHelen of Troy Regulationsでは持分継続の数え方が異なるんで、例えば米国人だけを見るのか、とかオーバーラップをどう考えるのか、とかの規定の差異をうまくつくことで、双方で非課税にするような離れ業を見事にやってのけたケースがあるらしい。凄いね。EYのワシントン事務所のスピンオフグループとかM&A分野で著名な法律事務所とかが双方の条文を徹底的に理解し、株主の構成を丹念に分析した結果なんだろう。

クライスラー・メルセデス「対等」合併の意味

Helen of Troy Regulationsに関しては、1998年のクライスラーとメルセデスの「対等」合併への適用が有名。クライスラーとメルセデスの合併は僕が2007年当時ブログを書き始めたころに触れた。South BayのPCH沿いにあるスタバでポスティングした日がまるで昨日のことのようだ。この合併、「対応」合併って散々宣伝されていたのは、Helen of Troy Regulationsで米国株主が課税されないように、っていう意味が結構あったんだろうね。個別通達でいろいろなRepがあってなかなか生々しいけど、争点となったのは株主の持分継続ではなく、ATBの方。合併用に組成されるドイツの持株会社が、メルセデス株式の80%を取得できるのか、すなわちメルセデスが適格子会社になるか、とか、投資資産の取り扱いとかにかかわる例外規定の適用とかにかかわるルーリングで、あくまでATBのSubstantiality要件を充たすという点にお墨付きをもらったものだけど、Repを読むと組織再編全体の様子が良く分かる。

期せずしてHelen of Troy Regulationsに興奮して、株主レベルの課税にかなり入りこんでしまったけど、次回はインバージョン規制法の本丸Section 7874について。