Friday, December 30, 2016

米国タックス行く年・来る年(7)下院改正案「A Better Way(The Blueprint)」

前回は下院の米国税法改正案であるBlueprintの中でも意表を突くアプローチで世間をあっと言わせている「国境調整(Border Adjustment)」を中心に触れた。従来では考えられない法人税の在り方に最初は「まさか・・」と思っていたけど、トランプ政権も下院案には歩み寄りを見せる傾向にあり、またトランプ政権の目指す製造業等の米国回帰の路線に一見合っているとも思われ、WTOのチャレンジ等の紆余曲折はあるかもしれないけど、もしかしたら思ったよりも実現の見込みは高いかもしれない。

日本企業も、仕入れのうち輸入が占める金額、売上のうち輸出が占める金額をザックリとはじき出し、ネットした金額に15%または20%を掛けてインパクトの概算を計り知っておくのがいい。国境調整の世界では輸出と輸入の金額は課税所得に大きな影響を持つが、税率も変わるので実際に最終的にどちらが得かは実際に自社の数字で試算してみるのがいいだろう。前々回触れたが、ネット支払利息は損金不算入となる、R&Dクレジットを除く各種恩典がなくなる、また設備投資等、土地を除く有形無形の資産取得が一括費用化できる、等の変数も加味してプロジェクションを進化させ、自社の弾性を試すことも必要だ。結果を見るのが恐ろしいケースもあるかもしれないけど、税率が低くなるので意外に「吉」と出るケースもあるかも。またテリトリアル化する国際課税の影響も大きいけど、こちらは米国MNCの方により大きなインパクトがあるだろう。

この国境調整、Trade Balanceに実際のところどんな影響が出るんだろうか。経済学者曰く、短期的には影響があるかもしれないけど、その影響は中長期的には為替で調整され、最終的には影響は排除されるそうだ。そうなんだ・・?って感じだけどマーケットが効率的に機能するのであればそんな感じなのかもね。

さて、順序は逆っぽいけど、ここらで国境調整を含む下院が気合を入れて策定したBlueprintをもう少し詳しく見てみたい。Blueprintの正式タイトルは「A Better Way」ってもので更に「Our Vision for a Confident America」という副題が付いている。下院歳入委員会の正式なサマリー等には更に「A Better Way for Tax Reform」とも書かれている。更に「Built for Growth」っていうバイクのハーレーに付いてそうな60年代っぽいロゴまであって気合十分。「Blueprint」って表現はタイトルページ等には一切なく、本文が始まるページに「このBlueprintでは・・・」みたいな形で登場してくるものだ。

ここでまず目に付くのは不定冠詞の「a」が多様されている点。日本語にない感覚なので「a」でも「the」でも又は何にも付いてなくてもあんまり気にされないこともあるけど、英語の表現上は不定冠詞「a」は強力な意味を持つ。「a」はもちろん「the」ではない。決まってるじゃんって思われるかもしれないけど、この2つの意味は全然違うので法律とか判例を読む際には常に冠詞を気にする必要がある。下院のBlueprintもあくまで「A Better Way」であり「The Better Way」ではない。これは文字通り解釈すると複数あり得るBetter Waysのうちのひとつの提案というようなニュアンスとなるのだろうか。一方で「Blueprint」は常に「the」で始まり「B」は大文字。この改正案は一つしかないのでそうなんだろう。「A Confident America」の部分も、Confidentという形容詞が付いているとは言え、固有名詞のはずのAmericaに敢えて「a」が付いているのも面白い。米国税法の改正案って局面で、大統領候補とかが歴史的にというか文学的にというか情緒的によく使う「America(単数)」って表現を「United States」の代わりに使ってるし。「Make America Great Again」っていうトランプ選挙活動のスローガンに呼応とういかシンクロさせたのかも。意味としては米州の中の確信に満ちた一つの国っていうこと?何か日本語になってない、って言うか原文の意味が伝わってこない。「Confident」っていう単語の選択は極めて興味深い。現状では自信を失っているのかしら、とでも思わせる表現だ。ここで言う「Confident」はアメリカがConfidentっていうよりも、米国市民が政府に信頼を寄せる的な意味と考える方がピンと来る感じ。トランプ政権だったら「Confident」の代わりに「Great」だろうか?Demi Lovatoだったら「Confidentで何が悪いの?」って言われそうだけど、こんなタイトルを適当に付けるはずもないので、そこに下院のメッセージが込められていると考えるべきなんだろう。

ちなみにこの冠詞っていうやつ、中学の頃から英語を勉強していても中々分かり難い(というか深く気にしてない?)という日本の人も多いと思うけど、究極に分かり難いのがバンド名。Beatlesはもちろん「The Beatles」でリンゴスターのドラムにもちゃんと「The」が入っている。Rolling Stonesだって「The Rolling Stones」だ。でも「Led Zeppelin」を間違っても「The Led Zeppelin」って言う人は居ないよね?そんなのバンドの当人たちが勝手に決めただけじゃん、って言う単純な話しかもしれないけど、人に聞いた話しでは複数、つまり最後に「s」が付くバンド名は当人たちも「the」を付けることが多く、周りも実際には付いてないバンド名にも「the」を付けて呼んでしまうことが多いそうだ。その訳は、複数の形を取るバンド名は、暗にそのバンドメンバーの1人1人が単数、すなわち「a」を意味すると取ることができ、全体では「the」となるそうだ。例えば、John Lennon、Paul McCartney、George Harrison、Ringo Starrは各々「A Beatle」で、4人全員集まると「The Beatles」になるという訳。厳格に適用できるルールではないかもしれないけど、経験則的にはなるほどって感じかもね。だって誰もJimmy Pageを「A」 Led Zeppelinって形容する人はいないもんね。バンドとしてのThe Eaglesのデビューアルバムのタイトルは「Eagles」だったり「たかが冠詞、されど冠詞」で奥は深い。

と、かなりどうでもいい話しになったけど、次回は「A Better Way」すなわち「The Blueprint」の続きをもう少し。