11月8日の米国大統領選挙は結局、保守派の勝利でトランプ政権が誕生した。日本のメディアなんか見ると全くの予想外な結果で、しかも世の中終わってしまうかのような勢いの報道もあったりして実際の米国での感覚とは少し温度差がある感じ。
米国のメディアも直前までクリントン有利って報道し続けていたけど、実際のお茶の間感覚では必ずしもそうではなかったと思う。トランプが有利とまでは言わないまでも、どっちが当選しても失望するタイプの選択だっただけに投票してみるまで国民の真意は分からなかった。まさしく良くも悪くも民主主義。ちなみに米国大統領選挙の実施日は11月最初の月曜日の次の火曜日って決められているので算数的に11月8日っていうのは可能な日程では一番遅い。それだけ余計にサスペンスが多かったということになる。
選挙結果を目の前に各自の反応はまちまちだけど、これで世の中終わってしまうかと言うともちろんそんなことはなくて、人間の社会は放っておくと独裁者や暴政の手に落ちることが歴史上明らかなので、米国の憲法にはそうならないようできるだけの知恵・安全策が反映されている。なんと言っても徹底した三権分立。日本も一応三権分立だけど、実態として米国では本当により機能していて、行政機関が議会から権限を委譲されることなく法律を策定するようなことはない。なので、大統領府にいるトランプ政権が特定の宗教の人を入国させないとかいう法律を策定できる訳でもなく、仮に議会がそのような法律を制定しても裁判所が憲法に照らし合わせて合法性を判断する。なので候補者として行っていた過激な演出も法の前には実行困難なものも多いことになる。ただ、そんなことはトランプ陣営だって聞いている方だって最初から百も承知の上でのパフォーマンスだったと言える。
米国の大統領選挙の仕組みは他の国の選挙制度と比べるとチョッと分かり難い。知ってる人も多いと思うけど、憲法上はElectoral Collegeと呼ばれる僅か538人の「選挙人グループ」が大統領を選ぶと規定されており、国民全員に憲法上投票権がある訳ではない。この538人の選挙人は下院議員数(ザックリと州の人口に基いて配賦された数)と上院議員数(人口にかかわらず各州2名)の人数分各州に割り当てられている。で、この選挙人がどう投票するかは各州の法律(連邦憲法ではない)に規定されていて、原則は各州の得票数に準じて勝った政党にその州の全選挙人が投票するとされている。ただ、これも絶対的なものではなく、2州は州単位ではなくより小さな地区(District)の結果に基いたり、歴史的に稀ではあるけど、州の結果に背いた投票をした選挙人も居る。これらの複雑な規定も基本的には三権分立と同じ目的で、権力の集中、暴政の誕生を防ぐのが元々の狙いだろう。
なのでニュースとかで得票数ではクリントンが勝っていたと言っても制度上意味がない。ゴアとブッシュ(JR)の最初のShowdownでも、得票数ではゴア、選挙人数ではブッシュと、同じことが起こっていた。米国大統領選挙に関しては選挙人の得票こそが全てとなる。選挙人による投票は11月の国民投票とは別のもので、来年の1月6日に実施される。
米国でもリベラルなNYCとかではかなりガッカリしている人たちも多い。小学校のようなレベルでも朝礼で心配しないようにみたいな話しが先生からあったり、中高校生だと学校で泣き出す子がいたり、精神的にショックなケースに備えて精神科のカウンセラーが学校にしばらく常駐したり、と確かに米国でも従来の大統領選挙では考えられない反応が見られる。
ではどうしてこういうことになったんだろうか。米国ではこの8年間、「連邦」政府がヘルスケア等にまで手を出して(おそらく本来は違憲)ますます巨大化、それに伴って増税という建国・憲法の趣旨から遠ざかり、サンダースのような社会主義者に近い候補まで台頭していた。で、そんなトレンドをリバースしたいと願っている保守層は僕の回りにも実際には結構いた。Taxed Enough Alreadyとボストン茶会をかけた「Tea Party」とかが有名だ。投票とは余り関係ないと思うけど、Section 385の財務省規則にしてもかなり乱暴だ。
そんな保守層は結構居るなとは肌で感じていた、とは言えやはり共和党候補がトランプというのは抵抗も大きかったと思う。一方でクリントンも人格的な意味での信用・人望はおそらく日本で感じられるよりも相当低く、結局のところ候補者個人のレベルだとどっちが当選してもガッカリという前代未聞の厳しい選択となっていた。
で、候補者が2人ともダメなら、せめて党是的なイデオロギーで「Minimum Federal Government」「Maximum Individual Freedom」の実現に少しでも近い共和党にかけようと思った保守的な市民は少なからず居たのではないだろうか。マスメディアで報道されがちな「無知で貧しい白人」の票もあったのは数字的にそうなんだろうけど、それだけだったらメディアの予想があそこまで外れるのもおかしいし、またあれだけの得票、Sweepは説明し難い。
隠れトランプ、すなわち政策的には減税、小さな連邦政府を達成したいが人前でトランプ支持と公言するのはちょっと憚れるみないな層が相当居たのではないだろうか。それはアメリカに住んでいて税金を支払っていれば良く分かる。NYC税とかSE Taxとか入れるとオバマ政権下では実効税率が50%を超えているような状況もあり得るので「Taxed Enough Already」は本当にその通り。にもかかわらずクリントン政権になって、もっと課税しないと不公平みないな流れは本来の米国的、すなわち自己責任の「Live Free or Die」的なパイオニア精神とは程遠いように感じている人は多い。
今回の選挙結果、両院も共和党が制したことからねじれ状態から開放され、ようやく抜本的な税法改正、減税の実現が現実のものとなる可能性が大だ。トランプ案は法人税(というかビジネスに対する課税でパススルーも含む?)はナンと15%とタックスヘイブンの域に突入する超低税率を提案しているし、個人所得税トップレートも現行の39.6%から33%に低減しさらに累進税率区分(Bracket)を単純な3つのブラケットにまとめるとしている。かなり大胆。いくらSupply Side Economicsとは言え、余りの歳入減となりそうで財政大丈夫?って思うけど現実のものとなったら凄い。特に15%の法人税は低い。繰延税金資産とか持ってるところは資産が目減りするので戦々恐々かも?
また、小さい連邦政府の標的#1で違憲に近いオバマケアの撤廃はどうだろうか。余りに複雑な法律なので即撤廃は難しいようにも思えて、トランプが公約している「初日に即廃案」は現実的には難しいだろう。でも大きな改正が入ることはまず間違いない。
懸念の外交、通商等は不明な点が多いけど回りにブレーンが付いて何とか現実的な方向に行くことを願いたい。Global Economyを反転することもできないし、させたところで米国の製造業の競争力が増す訳でもないとう点は誰かが猫ちゃんの首に鈴を付ける覚悟で進言してあげないとね。