Saturday, June 4, 2016

日米租税条約改正は一体いつ発効?(2)

前回から、2013年1月にせっかく両国で合意されたにもかかわらず未だに米国での批准プロセスが終了しないために日の目を見ない「日米租税条約8年ぶりの改正」の話しを始めた。途中で憲法論というか、Federalismとは、みたいな話しで盛り上がり過ぎて肝心の条約改正の現状に話しが至らなかったので、今回はその辺りから始めたい。

租税条約の批准は上院の管轄である点は前回のポスティングで触れているが、実際には上院の中でも2つのステップを踏む必要がある。まず最初に「Senate Foreign Relations Committee(上院外交委員会)」というところがヒアリングを行い、そこで可決されると本当の上院の審理に回され、その後上院では「全員一致」の決議書、または議場で「Super Majority(特別多数決)」、すなわち2/3以上の投票、のいずれかで可決される必要がある。

米国では実はここ5年間、条約または条約改正が一度も批准されていない。批准を待っているものは、日米条約改正だけではなく、チリ、ハンガリー、ポーランド各国との条約、ルクセンブルグ、スペイン、スイス各国との条約改正と実に7カ国分に及ぶ。余りに進展がないので、2015年後半の上院外交委員会のヒアリングには、財務省国際税務課副次官補(日本語で書くと漢字だらけで凄いタイトルだけど、英語ではDeputy Assistant Secretary of International Tax Affairsと分かり易い)のRobert Stackが5年間も批准がない点に憂慮を表明し、迅速に批准をするよう要請したりして、財務省側のフラストレーションを露呈してていた。このRobert Stackは僕も法曹界の集まりみたいなところでライブで話しを聞いたことがあるが、歯に衣着せぬ物言いで、きつい感じではあったがはっきり意見を言うので、ある意味聞いていて気持ちが良い印象を持っている。大騒ぎになっている過少資本税制の規則案にしても「別に皆が言うような大転換(Seas Change)でも何でもなく、規定も大して複雑ではなく、なぜ皆が大騒ぎしているのか分からない」というような発言をして納税者側を唖然とさせたりして、話しを聞くのが楽しみな方の一人だ。

となると、日米条約改正も、まずは上院外交委員会を突破する必要があるが、何と、この条約改正、そもそもオバマ大統領から上院外交委員会に回されたのが2015年の夏になってのことだそうだ。上院外交委員会自体も租税条約を上院に中々回さないと聞いていたので、「本当に委員会はしょうがないな・・」と思っていたが、実は2年以上もそのレベルにも至っていなかったこととなる。「一体それまで何を・・」と不思議に思わざる得ないが、オバマ政権にしても上院に回したところで可決の目処も立たず、どっちにしても同じと諦めムードだったのかもしれない。

いづれにしても漸く2年という長い年月を経て上院外交委員会に回された日米条約改正だが、この上院外国委員会には「租税条約キラー」の上院議員Rand Paulが君臨しているため、ここを突破するのも並大抵のことではない。

このRand Paulは共和党議員だが、同じく共和党議員のRon Paulの息子だ。Ron Paulは共和党議員ではあるが、思想はLibertarianで、すなわち米国建国の理念に近い、Maximum FreedomおよびMinimum Governmentを理想としている。数年前には大統領候補として、若者を中心に草の根っぽい大きな支持を集め「Ron Paul Revolution」現象を引き起こした大物だ。Ron Paulには風見鶏的な要素が全くなく、共和党員でありながらイラク戦争に反対票を投じたのを始め、彼のVoting Recordは筋の通った立派なものだ。連邦政府が海外で覇権主義的な活動を繰り返すのがそもそも米国を標的にするテロの原因であるとか、Federal Reserve Boardのような機関が人工的に利率を調整したりするからサイクル的に必ず金融危機に陥る、とか指摘し、Federal Reserve Boardは大統領に当選したらその日に解散させる勢いだった。また、連邦政府が市場に介入して景気刺激策のようなことにかかわること自体、自由経済に対する弊害であるとして、連邦政府の経済へのかかわりは最小限、税率を低く(場合によっては連邦税は撤廃?)して環境を整えるべき、という発想の持ち主であった。同じ若者を魅了しているRevolutionでも今年のBernie Sandersとは両極端なアプローチであるところが興味深い。Ron PaulはDukeの医学博士号を持つ産婦人科医でもあり、また空軍の軍医だったりとスーパーマン的な経歴の持ち主でもある。

そんな父を持つRand Paulだが、なぜそんなに租税条約に拒絶反応を示すのだろうか?ここからは次回。