Sunday, February 14, 2016

Inversion/インバージョン(9)

時は2012年。Section 7874のSBAテストにかかわる新財務省規則が発効され、実質SBAテストは有名無実な規定と化してしまう。こうして、30年におよんで実行され続けてきた単独Inversionに初めて効果的な網が掛けられることとなる。1980年代のSection 1248改訂、90年代のSection 367の新規則、2004年のSection 7874、2006年、2009年のSBAテスト財務省規則という沿革を経て、ひとつのゴールが達成されたかのように見えた。

しかし、米国税法の使い勝手の悪さからInversionは姿を変えて進化し続ける。すなわち60%とか80%の持分規定をクリアするため外国企業第三者との「統合型Inversion」全盛時代となる。果たしてこれは国のポリシーとして、米国にとっていいことなんだろうか?外国企業による米国企業のM&Aを税法が奨励している側面があり、後述するが遂にはファイザーとか米国を代表する大企業までが米国MNCでなくなってしまう状況を招いている。

取り締まりを強化することで逆効果となる例はExpatriationも同じだ。Expatriationに関しては「Inversion (3)」のポスティングでInversionの個人版として紹介したが、先日公表された2015年のExpatriationは過去最高の4,355人を記録したそうだ。リーマンショック後に株安を好感してExpatriationが増えた2011年の1,781人の倍以上だ。2015年の第4四半期だけで1,110人がExpatriationしているというから凄い。個々の事情は異なると思うが、実はFATCAとか、スイスの銀行の匿名口座を強制的に開示させたりと、海外口座、資産に対する締め付けを厳しくしてからExpatriationが増加の一途だと言う。Inversionも締め付ければ付けるほど皆早くやりたくなるのではないだろうか。抜本的な税法改正ナシにInversionを完全にストップさせるのは困難だ。

さて、Version 5となる統合型Inversion、iPhone 5はスクリーンサイズの縦横の比率が話題だったけど、Inversion 5.0 も同じく数字の比率が最重要課題となった。すなわち、SBAテストの例外に頼れなくなった今、Inversion時には旧米国法人の株主が再編後の外国法人の持分を、継続して80%(できれば60%)持たないように統合する必要があるからだ。分数を小さくするには、分母を大きくする、または分子を小さくする、という二つの方法がある。ここで言う分母とは統合後のトータルの持分で、分子は旧米国法人の株主による再編後の外国法人の持分となる。

ちなみに持分比率を算定する際、再編後に外国親会社となる法人の株式がグループ内法人に所有される場合には、その持分は比率算定には加味しないというルールがある。これは子会社が親会社の株式を持っている状態(=Hook Stock)を想定し、そのような株式を算定に加味させないとするものだ。例えば、再編後に外国親会社の株式に関して旧米国親会社が40%超の持分を持っていると、見た目、旧米国親会社の株主は60%未満の持分継続しかしていないような形となり、Section 7874の適用がなくなってしまうが、そのような抜け穴を塞ぐためのものだ。

比率算定の分母と分子の不当な捜査に網を掛けるための規定がSection 7874に盛り込まれているが、その解釈、適用が大きな争点となり、遂には2015年のNotice発行に至る。次回はその過程を。