前回は、スピンする資産の簿価大小にかかわらず、Securitiesを活用することで、ControlledによるDistributingの負債継承をBoot規定に抵触することなく非課税とすることができるストラクチャーの適用時に、Transitoryに投資銀行に交付されるDistributingのSecuritiesが税務上、認知されるための5‐14 Ruleの誕生と撤廃、そして代わりに財務省はSecuritiesの交付を含むスピン後の両社の債務が、歴史的なDistributingの債務の2者間の配賦かどうか、にフォーカスしてる点に触れた。
DistributingとControlledをトータルで見ると現状の財務省のルーリングポリシーは合理的なアプローチだ。一方でDistributingのみにフォーカスすると従来返済義務があった負債の金額が減少するんで、それって経済的には現金を受け取ったも同然。すなわち、スピンでControlledに出資する資産を現金を対価に譲渡し、換金化してしまったのと同様に見える。
そんな見方や指摘に基づき、Leveraged Spinを問題視する動きは今に始まったことではなく、以前触れたとおり、2013年に財務省がLeveraged Spinにかかわるルーリング交付を停止していたのも、この点を立法趣旨、判例、税務ポリシー面から再検討するため。最終的には5年間にわたるスタディの上、意識的に思慮深い判断に至っていたものだ。個人的な感覚としては、ここで言うSecuritiesは7年超の長期債権なので、現金等との比較において、株式に近いという点で、スピンの株式交付はOK(これが課税だったらスピンになんないよね)というポリシーに準じるべきではないか、って思うけどね。でもバイデン政権や民主党議会はそうは思わなかったようだ。
BBBAの法改正案
で、登場するのがBBBA。今ではほぼ完全にお蔵入りになってるんで、この規定がそのまま近々法制化されるリスクはなくなったんだけど、Leveraged Spinに対する締め付け強化は必ずしも今回初めて提案される考え方じゃないんで、政局の流れ次第では、将来いつ息を吹き返すかわからない。なんで、その内容は知っておくべき。
Leveraged Spinに対する規制強化を盛り込んだBBBAの法案の初期バージョンは、やろうとしていることは何となく理解できる反面、法文の文言が分かり難い。何回読んでも腑に落ちなかったんだけど、JCTの解説文を読んでようやく「結局、そういうことをしたいんだよね。やっぱり…」って納得できる代物。だけど、よく読むとJCTの説明はBBBAのオリジナル法文とは異なるアプローチになってる。今となっては、この差異はどうでもいいんだけど、将来、似たような法案が浮上する際には、もう少しわかりやすい書き方にしてくれることを願う。もちろんこんな法案が二度と出てこないことを一番に願うけどね。っていうか更に言えば、債務継承やBootに対する簿価制限をSecuritiesに拡大する方向とは逆に、Securitiesを自由に交付できる無制限な規定を債務継承やBootに拡大して欲しい。前にも触れたけど、現にBootに対する簿価制限は2004年までなかったんだから。
今は昔の2021年10月28日に公表されたBBBA下院法案の結構後半に当たる640ページ(苦笑)に隠されたようにSection 138143「分割型再編下の税務簿価制限」というOminousがタイトルが現れる。ちなみに改正の対象となるInternal Revenue CodeのSectionは361だけど、ここでいう138143っていうSectionはPublic Lawの番号で、Codifyされた後の361とは別の番号で管理されてるからごちゃごちゃにならないようにね。さすがのInternal Revenue Codeも9100番止まりで、6桁はないし。6桁になったら怖い。
この法文、ほぼ意味不明。あまり見られない不適格優先株式とかDistributingの債務の未払経過利息に対する分配とかにかかわる面倒な部分を無視したとしてもかなり難解。スピンのためのD再編、すなわちDistributingがControlledにスピン対象資産を出資する際、DistributingがControlledから受け取る現金その他の資産はそれを株主や債権者に分配する限り、Bootのみを見てその額が出資資産の簿価を越えなければ非課税ですよ、っていう現状のBoot Purgeルールをオーバーライドしようとしているように見える。これをとてつもなく変な表現で規定してる。
当時のBBBAを文字通り読むと、まずControlledがDistributingから継承する債務、Boot、そしてSecuritiesの金額を足し、その総額が出資される資産の簿価を超えている金額を算定する。この金額を「超過額」とし、次にBootとSecuritiesの金額を足し、その合計額が超過額を超えない範囲で、Boot Purgeを認めると読める。「…shall not apply to so much of the amount described… as does not exceed the excess (if any)…」って。なんか日本の大学受験の予備校で読まされる文書みたい。予備校って言えば、その昔高校3年生の夏休み、代ゼミの夏期講習申し込んだら原宿校舎になってしまって、結局、毎日原宿に遊びに行く大義名分ができただけ、っていう割高の講習になったあの日が懐かしい。
で、この規定の算式を見ると、合計額と超過額を比較する際、Equationの両側にBootとSecuritiesの金額が入ってるんで、小学校で習う方程式の考え方を適用すると、これらの金額は算式から削除することができるはず。すなわち、単純にControlledがDistributingから継承する債務と資産簿価を比べればいいんしゃないの、って思うんだけど、なんか違ってるかな。原宿でサボってたんでなんか見落としてるかもね。
結局、もともとControlledがDistributingから継承する債務が簿価を超えてる場合は、その金額は357(c)で課税されて、簿価は全額、継承される負債で食い潰されてそれ以上Boot Purgeする枠はない。これは今もBBBA法案も同じ。継承する負債の金額より資産の簿価が高くて、したがって簿価にPurgeするBootを吸収する余力がある場合、今の法律だと、その余力は全額Bootに充てることができる。もちろんBootがDistributingの株主や債権者にスピンの一環で分配されるっていう前提で。オリジナルBBBAでは、今の法律のこの部分、すなわち簿価にどれだけの与力があるかっていう算定部分、にSecuritiesの金額も加味して判断するように変えていると読める。これってすごく不思議なアプローチで、Boot Purgeを認めるか認めないかの判断に使う金額をアレコレ議論してるってことは、あくまでもBootに課税する世界の話しだから、Bootがなかったり少額だったりするケースでは、いくらSecuritiesの金額が大きくても、課税される金額はゼロか、またはBoot止まりってことになる。だったら納税者としては現金とかのBootなんか交付しないで、ControlledのSecuritiesに置き換えちゃったらいいじゃん、って思うよね。それって双六のスタートに戻る、みたいな状況だけど、実際にその通りなんだよね。オリジナルBBBAを読む限り。変な法文だ。
例えば、時価140で簿価が100の資産をスピン用にControlledに出資。Distributingの債務40をControlledが継承すると、Boot Purgeに使える簿価の与力は60となる。Controlledが50の現金と50のSecuritiesを交付する場合、現状の法律だと、50のBootは与力60の範囲内なので課税はない。BBBA案だと、与力がSecuritiesの金額分減額されるので、10となる。Bootは50だから10のみ簿価の与力でシェルターされて、40の課税となる。だったら、ということで、100まるまるSecuritiesの交付にすると、与力はゼロだけど、BootがないからBoot Purgeは不要。BBBAではBoot Purgeに使える枠を減額してるけど、課税方法はあくまでもPurgeできないBootに対するものだからBootがないこのケースでは課税もないってことになる。
何それ、って思うかもしれないけどオリジナルBBBAではそんな風に規定されてたんでビックリ。怪しいと思う人は原文読んでみてね。
さすがにこの規定は趣旨に反すると気づいたのか、その後公表されたJCTの「説明」は法文から乖離していて、本来あるべき姿に戻ってる。ちなみにその後、2021年11月3日の文化の日にBBBAアップデートバージョンが公表されたけど、そこではオリジナルバージョン同様、表現は難解なものの、債務移管が出資資産簿価を超えるケースの課税をBootだけでなくSecuritiesにも拡大している。長くなってきたんで、JCTに次ぐBBBAアップデートバージョンに関しては次回。