Sunday, July 10, 2022

失速BBBAの法案に見る米国税制の方向「Leveraged Spin」(4)

前回のポスティングでは、ControlledのSecurities活用法の変遷、Securitiesの定義、Securitiesを利用した取引に対する財務省の反応に触れた。

投資銀行の介在と5-14 Rep

Securitiesを活用したLeveraged Spinに対する財務省のルーリングにも歴史があり、その昔は、投資銀行が介在するケースで、Bondを債権者から買い集める場合には買い集めてからDistributing相手にControlledのSecuritiesとの交換に合意するまでに最低5日の期間をあけること、また実際に交換がClosingするまで最低14日間の期間をあけること、という「5‐14 Rep」をする必要があった。これは投資銀行とDistributingが善意の債権債務者の関係にあることを確立するため。趣旨としては一定の期間、マーケットリスクを負うことで投資銀行とDistributing間の債権・債務という位置付けに一定の合理性を持たせることを目的としている。

前回のポスティングの最後に触れた通り、最初からControlledのSecuritiesにすり替わることが分かっている債権に関して、Distributingが債務者という位置づけをするのはCommon Law的には大きな疑問が残るところ。もし仮に、最初からControlledへの貸付という位置づけになると、実質、DistributingはControlledから現金をBootで受け取ったとみなされ、D再編時の出資資産簿価を超過する部分が課税となったりして、Securitiesを活用している意味がなくなってしまうことになる。

スピンを取り巻く財務省によるルーリングポリシーはここ10年以上、全体に紆余曲折があるけど、特にLeveraged Spinに対するルーリング・ポリシーは特筆に値する。すなわち、2013年頃には、Leveraged Spinが頻繁に実行されることを受けてIRSはその取扱いを深堀りして研究したいということでLeveraged Spinに関するルーリングの交付を中止していた。その後、2017年頃、Leveraged Spinにかかわるルーリングの交付を再開するが、どのような基準でLeveraged Spinにお墨付きを与えるかは必ずしも明確ではなかった。従来、スピンと言うのは、課税取引と認定されたりすると法人、株主双方へのインパクトが大きいのことからルーリングなしで実行するケースは珍しかったが、この頃からルーリング自体が不安定なことから、投資銀行が弁護士事務所のオピニオンベースでスピンを実行するケースが散見されるようになった。

5-14 Repの廃止

その後、2018年にIRSはLeveraged Spinにかかわるポリシーを明確化するため、新たなルーリングポリシーを公表している。この新ポリシーで興味深いのは、上述の5-14 Repを撤廃してしまったことだ。代わりにフォーカスとなったのが、スピン後のDistributingおよびControlled双方の債務合計額が、スピン前のDistributing債務の残高を超えないこと、という点。これはまさしく、スピン時に既存の債務をDistributingとControlledに振り分けている取引は問題なしとし、一方で、スピンを視野に入れてDistributingが借り入れをしているようなケースは実質、スピン対象事業の譲渡とみなす、というスタンスに基づいている。具体的にはスピンのプラン公開、BOD承認、スピン合意、の60日以前に存在するDistributingの債務のみ、歴史的な債務と認定される。また、Controlledが引き継ぐまたはControlledのSecuritiesに交換されるDistributingの債務は、過去8四半期末の非関連者債務残高の平均を超えてはいけないとされる。

新ポリシーでは更に、ControlledのSecuritiesを使用して既存のDistributingの債務を返済する取引は原則スピンから30日以内に実行されると想定されていて、それが無理な場合には、合理的な事業上の理由をRepすることと、される。その場合でも交換はスピンから180日以内に完了する必要があるとされる。単純に考えると、例えば既存の債務にPrepaymentペナルティーとかがある等の理由が思いつくんだけど、投資銀行の人と話すと、実務的に180日でも厳しいことが多いそう。この点に関して、スタンダードのRepは180日基準なんだけど、これを超過する場合にはIRSに事情を話すことで柔軟な対応は可能、ということらしい。

5-14 Repは歴史の悪戯

実は5-14 Repと言うのは、その昔、納税者側が勝手にこの期間を特定の取引に関してRepしたことを期にまるで法律かのように一人歩きした経緯がある。NYCの著名な弁護士事務所の署名なタックス弁護士が作成したRepだ。この事務所、超大手なのにNYCにしかオフィスがなく、請求書は「法律アドバイス」という一言で金額も明細なし、という伝説のところ。って言えば法律業界に明るい人ならどこか分かるね。未払いのFeeの取り立ても一回だけ電話が掛かって来るだけ、という話し。M&Aディフェンスのポイゾンピルを発案したところでもある。ポイゾンピルってコロナ初期に株価が急落したセクターで一旦復活しかけたけど、その後直ぐに株式市場が復活したので余り実際には適用されることはなかったように見える。ちなみに上場してからM&Aディフェンスを定款に入れるための株主決議を行うのは不可能に近いので、VCファンドにバックされる企業なんかが上場する時は直前に決議する項目のチェックリストのひとつだ。

で、その著名な弁護士がRepした後、あたかも5-14 Repが不可欠なものとなり、2018年に至っていたという裏話し。

ということで、ここからは次回。