前回、スピン時にDistributingの債務をControlledに付け替えたり、スピン後の双方の法人のCapital をベストなStructureにする際に、BBBAが厳しい制限を提案していたってイントロっぽく頭出しした。
例えば、トラディショナルなハード事業と過去5年成長著しいソフト事業の双方に従事する法人が、ソフト事業がハード事業と混在していることで、ソフト事業の市場価値が過小評価されてるっていうフラストレーションを感じているとする。そんなマーケットの認識を克服するため、ソフト事業をスピンし、双方の事業の時価総額合計アップを計るとする。ハード事業は重厚で資産が多い一方、ソフト事業は最近5~6年のR&D努力の結晶だとすると税務簿価のある資産はない。さらにソフト事業の事業価値はGoodwillを含む無形資産が占める比率が高いのが一般的だろう。ソフト事業のR&Dファイナンス時にはハード事業の資産によるCredit Supportが欠かせなかったとする。
ちなみにスピンの方向として、逆にハード事業をスピンしても問題ない。どちらの方向を選択するか、は今回のテーマの債務の振り分けも最重要ファクターだし、スピン後のM&AをReverse Morris Trust(RMT)でするのか、元祖Morris Trust(MT)でするのか、とか総合的な検討に基づいて行う必要がある。スピン以外にも、例えばカーブアウトM&A、IPO、またはSECの規制やIPO市場の冷え込みで急激に萎えているDe-SPAC、とか分割の手法は他にも多く存在する。スピンをアナウンスすることで、潜在的なバイヤーが名乗りを上げてきたり、SPAC上場したもののDe-SPACの18か月期限が迫っててこのままでは一攫千金にならないと焦ってるスポンサーが殺到したり、様々な買い手をあぶり出す効果がある。今日日のマーケットでは、これらの手法のいずれか一本に最初から絞ることは珍しく、カーブアウトM&A、カーブアウトIPO、De-SPAC、スピン、スピン+RMTとか、マルチトラックでPricingを最大限化するのが定石だ。
ちなみにスピン後にRMTする際の取引をDe-SPACで実行することも可能。その場合、PIPE投資家がSPAC法人に注入する現金をどのようにして旧オーナーのDistributingに税コストなく移管できるかが最重要課題の一つになるけど、この部分に大きな足かせとなり兼ねないのが、今回のテーマの債務の振り分けにかかわる諸々の制限(既存+BBBA提案)だ。まだSPACがもてはやされてた頃、スピン+RMT+De-SPACストラクチャーは結構な投資銀行が実行可能性を模索してたけど、結局、現金移管のハードルが高くて他の手法に落ち着いたケースが多いと、一般論としてM&Aバンカーの友人が言っていた。
Leveraged Spinは現金対価の事業売却?
Distributingが分割対象事業をControlledに現物出資する際、上のハードVソフトの例でも分かる通り、Distributingの既存債務をDistributingがそのまま全額負担し続けるのは実態に合わない。そこで、債務のうちどれだけをControlledに負担させるか、っていうCorporate Finance的な検討が必要になるけど、既存債務をControlledに継承させるということは、実質、Distributingは現金を受け取ったも同然なので、現物出資がD型再編で非課税になる場合には事業を非課税で譲渡、換金したも同然という位置づけも可能となる。一方で、もともと異なる事業がたまたま同じ法人格の中に存在し、債務が必ずしも法的にどちらか一方の事業にひも付きでなかったものを、スピン時に各々の事業に振り分けるステップは分割時に必然的に求められるステップとも言える。いくつか注意すべきトラップはあるとは言え、紆余曲折の末に現時点で財務省が辿り着いた原則は後者のCorporate Finance的な実態を反映しているものだ。一方で、バイデン政権がBBBAを通じてプッシュしていた法案は前者の見方に基づき、スピン時の債務振り分けを阿漕なものとして位置付けての話し。税務上の見方や取り扱いが異なるとは言え、取引そのものの最終的な経済効果は同じ。
現状の法律と債務振り分け手法の変遷
Distributingの債務をControlledに付け替える一番単純な手法は、Controlledに事業資産を現物出資する際に、Controlledに債務を継承(Assumption)させてしまうこと。この手法に対してはBasis Limitationがある。すなわち、D型再編と取り扱われる事業資産の出資時に、Distributingが課税所得を認識することなくControlledに継承させることができる債務の金額は、出資対象となる資産の税務簿価を上限とする、という制限だ。Section 351の現物出資およびスピンの前兆の分割型D型再編(今回の話しのケース)に適用されるSection 357(c)制限。
債務を直接的に継承させることが税務以外の事情、ローン契約とか何らかのRegulatory関係とか、で容易でない場合、現物出資時にControlledから株式と同時に現金を受け取ることもできる。Controlledは多くのケースで新設法人だから、現金を対価として支払うにはControlledが借り入れをして、現金をDistributingに分配する。このケースではD型再編で受け取る現金と言うBootがDistributing側で課税されないためには、現金をスピンの一環でDistributingの株主、または債権者に分配する必要がある。
この手のLeveraged Spinでは、現金は大概において債権者に分配されるので、蓋を開けてみるとDistributingの債務は減り、その分Controlledに債務が付け代わっていることになる。現金というBootを受け取っているにもかかわらず、Distributing側で課税免除となるかどうかの判断時に株主ばかりでなく債権者への分配も適格分配と認めてくれる点、スピン時にもともとのトータル債務をDistributingとControlledに振り分けるニーズを議会は認識していたと考えられる。債権者への分配も適格分配となったのは実は1984年からで、それまでのスピンで現金のBootが絡むケースでは、現金は「株主」に分配される必要があった。でないとDistributingで課税されていたというのがそれ以前の取り扱い。また、Distributing側でBootを非課税扱いするには、上述の債務の直接的な継承と同様にBootが、D型再編で出資される資産の税務簿価以内に収まっている必要がある。Bootを分配する際にも上述のSection 357(c)同様にBasis Limitationが適用されるって言う制限は、実は2004年ブッシュ政権時のAJCA(TCJAじゃないからね)で追加された結構最近(?)の話し。
上のソフト事業とハード事業の例からも分かる通り、ソフト事業にかかわる負債を切り出そうとすると、資産の簿価が低すぎて課税が生じることになる。資産の簿価と事業に紐付く負債の金額には必ずしも関連性がないからだ。
ControlledのSecurities分配
で、ここからが話しの真髄なんだけど、上で触れた債務の直接的な継承やControlledからの現金分配+Distributing側の債務返済よりもパワフルな手法がある。Controlledが株式と同時に「Securities」をDistributingに交付し、このSecuritiesをDistributingの債権者に分配するというもの。現金の分配とあんまり変わんないじゃん、って思うのはあわてんぼうのサンタクロースさんだ。実はSecuritiesの交付・分配がD再編適格となると、出資対象資産の税務簿価に基づく金額のLimitationがない。これは上の二つの手法との比較において格段に有利で弾力性に富むストラクチャーを可能にすることになる。
で、このSecuritiesを利用した手法そのものにも沿革があり、財務省側のアプローチにも変遷があるので、次回はその点に触れ、時間があればBBBAに見られた提案まで触れたい。