Saturday, August 6, 2022

失速BBBAの法案に見る米国税制の方向「Leveraged Spin」(7)

前回のポスティングは、セカンドアルバムで盛り上がり過ぎて申し訳なかったけど、法人税の話しの部分はAeolian cadencesで半音下降して・・・、じゃなくてBBBAで提案されていた課税メカニズムと本当にそんな法律になっていたら直面したであろう複雑性に触れ始めたところで時間切れになっていた。

そのメカニズムっていうのは本当に申告書とか作ったりする羽目になってたらかなり面倒だっただろうけど、頭の体操的には結構面白い。Practitionerとしての正直な感想としては、すでにあまりにも複雑な税法と格闘している中、これ以上の複雑性は避けてほしいところ。その意味では実際に法律にならなくてよかったけどね。Inflation Reduction Actとか子供だましの名前の法案で、BBBAの増税案の一部がまた息を吹き返してるけど、15%の法人AMTと株式バイバックに対する懲罰的外形課税、以外は削除されてるんでLeveraged Spinにかかわる規定も今のところお蔵入り。ちなみにGILTI改定やBEAT改定も今のところ入ってないし、議会側にOECDに合わせるようなTractionは感じられない。それにしても、コロナ緊急対策の名前で規律・節操のない身の丈に余る巨額の歳出を繰り返し自ら作り出したインフレを、今度はさらなる歳出や増税で「Reduction」するっていうテーマで救世主のように登場する政治家たちってクリエイティブというか、懲りないよね。今後もいろいろな「Crisis」を演出し、そのたびに個人の自由をカーブアウトしたり大きな政府になって国民を救ってくれるつもりなのかしら。

で、Leveraged Spin課税のBBBA法案メカニズムだけど、Distributingの既存債権者、通常は投資銀行、とDistributingの間でスピンの一環で実行されるControlledのSecuritiesと既存Distributingの債務をスワップする部分を課税取引にするっていう骨子。この部分の取引、すなわち債務スワップ部分は、もともとDistributingがControlledに資産を出資した際の含み益に対していくら課税するか、っていう基準としてBootの金額を見るアプローチとは全く異なる。趣旨は似てるんで逆に混同しがちで分かり難い。Securitiesと既存債務の交換が課税取引になるということは物々交換だから、普通に土地やトラックを譲渡したり交換したりするケースと同じ。え~、BBBA法案下ではスピンに使用されるSecuritiesはトラックなの?ってなるけどもちろんこれは例えだからね。たまたま譲渡の対象資産、対価のタイプがSecuritiesだったり債務だったりするということ。物々交換ってことはクラシックなSection 1001で時価と簿価の差額が譲渡損益ってことだよね。

Section 1001って一見イノセントな条文なんだけど、通常、適用時に考えさせられることが多いのは譲渡対価にRecourseやNonrecourseの負債をどんな風に加味するか、とか債務のForbearanceやその他の条件改定がマテリアル改定に当たり、連結納税規則の-13(g)のDSRに似ているけど、実質みなし返済+再発行になるか、みたいなケース。だけど、BBBA法案のSecuritiesの取り扱いを考える上では、そんな高等な検討ではなく、よりベーシックな譲渡損益を算数的にどう計算するの、っていう冗談みたいに基礎的なところが最重要となる。高校2年生の数学を勉強しようと思って鉢巻してデスクに向かったはいいけど、小学校2年生の算数で躓いてしまった、っていう状況だ。う~んRealty bites…。

前回のポスティングの最後に予告編的に触れたけど、Section 1001の話しをするにはSection 361を慎重に分解する必要がある。Section 361って買収型の組織再編とスピン時のD再編の双方に適用があるんでそれだけでもかなり分かり難い。でも、実はスピンを想定して考えるほうがSection 361の真価を理解し易いので安心して欲しい(?)。Section 361の話しをするには、まずSection 361が法人税法上どういう位置づけにあるのか、っていう哲学的(?)な話しをしないといけないのが辛い。ということでまずは米国における適格組織再編規定とそのOperating規定の関係の大ベーシックに関して。

このパラグラフは米国税務に関与している人にとってはあまりに当たり前なんで飛ばしてくれても結構だからね。米国の法人取引で非課税の取り扱いを享受できるパターンは、適格出資(Section 351)、適格組織再編(Section 368)、適格清算(Section 332)に大別される。各々、一生掛けて解析するに値する刺激的なテーマで、非課税の条件も各々異なり、また場合によってはひとつの取引に二つ以上の非課税措置がオーバーラップして適用できるようなケースもあるけど、今回のポスティング的にはSection 361の話しだから、Section 368の適格組織再編にフォーカス。適格組織再編を定義しているSection 368は、こういう取引は「適格組織再編ですよ」、ってうたっているに過ぎず、関連当事者の課税関係には触れらていない。取引が適格組織再編に当たるかどうかっていうテストをSection 368、関連財務省規則、多くの通達、判例、を基にパスして初めて当事者の取り扱いを規定している条文に駒を進めることができる。組織再編で登場する一般的な当事者は、買収する法人、買収される法人、買収される法人の株主、Triangularのパターンでは買収する法人の親会社、となる。スピンに関しては、既存の子会社をスピンする取引はSection 355の管轄なので適格組織再編の出る幕はない。でも実際には多くのスピンは、スピンする事業を子会社化して(または既存子会社にAdd-onで事業資産を出資し)、その子会社、すなわちControlled、の株式を親会社が株主に分配して行われる。分配する親会社をDistributingと呼ぶ点は前回までのポスティングをフォローしてくれている皆さんにはもうすっかりお馴染みだろう。DistributingがControlledに資産を出資してConrolledの株式を分配するスピンは株主側の課税関係こそSection 355の管轄下にあるものの、法人側の課税関係はSection 355ではなく適格組織再編でカバーされる。

適格組織再編の定義の一つにスピンされるControlledにDistributingが資産を出資する取引がカバーされている。D型再編だ。D型は、法人が所有する事業資産のほぼ全てをグループ法人に移管する買収型と、スピンの前兆として行われる分割型の双方をカバーしてるんで注意。同じD型でも各々で支配要件が異なったりしてトリッキーだ。

適格組織再編になると、買収される法人の株主 (354, 356, 357, 358)、買収される法人(361)、買収する法人(362. 1032)やその親会社(Triangularのケース)各々の課税関係、受け取る資産の簿価、その他に関して別途規定される取り扱いを適用することになる。その中で、資産移管型、すなわち再編時に株式だけでなく、ひとつの法人の資産が他の法人格に移管されるステップが存在するタイプの組織再編、に関して資産を移管する側の法人の課税関係を規定しているのが、さて、何でしょうか?そうです、それが他でもないSection 361なんです。Section 361は、資産を移管する際の譲渡人としての課税関係、対価にBootが含まれる際の取り扱い、ばかりでなく、そしてここが分かり難いかもしれないけどSection 361の神髄でもあり今回のテーマに関連が深い部分だけど、買収する法人から受け取った資産譲渡対価をそこから更に株主に分配する際の、分配する法人側の課税関係もカバーしている。

D型再編を伴わないスピン、すなわちDistributingが既存のControlledを単にスピンする取引はSection 355のみの管轄下となり、分配を受け取る株主側の課税ばかりでなく、Controlledの株式を分配するDistributing側の課税関係もSection 355で規定される。そもそもSection 355が法律化された時代は、General Utilities原則時代だったんで、スピン時にDistributingがControlled株式の含み益に課税されるっていう概念は存在せず、Section 355のフォーカスはあくまでもスピンが、株主にとって本来配当課税となる現物分配を仮装した取引でない点を監視するものだった。なんで、Section 355(a)(1)(B)にあるDevice要件がスピンが適格かどうかの判断時の重要なエレメントになる。この歴史からDistributing側の含み益を非課税とするSection 355(c)などというのは1986年にGeneral Utilities原則が撤廃された際にできた「Afterthought」的な規定。さらに近年ではもともとGeneral Utilitiesが存在しなかった時代の概念なはずのDevice要件を流用して、Yahooによるアリババ株式の分配ストラクチャーに網を掛けるため、General Utilities撤廃違反を監視するようなPer Se Device規則案が出たりして混乱が激しいけどね。さすがに規則案は最終化してなくて、抜本的な見直しが入るんじゃないかって推測される。

で、D型再編を伴うスピンは、最初に資産が出資される部分だけでなく、資産譲渡の対価として受け取るControlled株式をDistributingが分配する部分のステップもSection 361の管轄下となる。ここはSection 355(c)じゃないんで要注意。この背景でSecuritiesの既存債権者への分配とSection 361が密接に関係してることになる。

今回も前座っぽい話しで終わったけど、次回はいよいよ真打トリのSection 361にフォーカスしたい。巨人の星の飛雄馬が目に炎とか出てるだけで、なかなか消える魔球を投げないみたいでゴメンね。