Friday, September 29, 2017

米国税法改正大綱 「Unified Framework」(2)

9月27日に公表された米国税法改正大綱とも言える「Unified Framework」。前回はその第一印象を中心に書いたけど、今回は全体のテーマと驚くべき低税率となる法人税および事業所得に対する課税について触れてみたい。

まずUnified Frameworkでは冒頭に大統領が目指す4つの原則が列挙されている。これは4月の大統領府による発表と同じようなテーマ設定だけど、1) 税法の簡素化、2) 勤労所得者の手取り給与の増額、3) 他国と同じ土俵で米国企業、個人が活躍できる経済環境作り、4) 海外に眠る巨額埋蔵金の米国還流促進、となる。そしてこれらのテーマは両院で税法原案作成の任を負う下院歳入委員会および上院財務委員会も共有しているとのこと。

このテーマの下、Unified Frameworkでは21世紀に相応しく、財政責任を持つ税法改正を提唱するとし、1)ミドルクラス減税、2) 大多数の米国市民がポストカード一枚で申告手続きが終わる税法簡素化、3) 事業、特に中小企業減税、4)労働、資本、所得の海外移転インセンティブ排除、5) 多くの各種恩典の排除による課税ベース拡大、の5つを目標として特定している。財政責任と明言しているけど、前回書いた通り減税に見合う歳入の議論はUnified Frameworkではされていないのでチョッと口だけな感じも否めない。後、ポストカードは実現したらうれしい。僕も自分の申告書を作成するけど、プリントするといろんなStatementとか付くので連邦税だけでも1.5センチくらいの厚さになるから相当な簡素化だ。

Unified Frameworkは今後の法律原案作成のテンプレートとなるが、委員会は必要に応じて更なる改正を盛り込んでFrameworkの目標を達成するようにと命じている。

ここでUnified Framework原文では個人所得税減税の説明に入るが、そこは次回触れるとして、今日はその次に論じられている法人税および事業課税に触れてみたい。

まず、冒頭に宣言されているミドルクラス減税の部分を前面に打ち出すため、法人税率より先に中小企業に対する減税が披露される。内容は簡単でスケジュールCで申告される個人事業所得、S Corporationおよびパートナーシップからの所得は一律25%で課税しますというものだ。これは個人オーナーに配賦されるパートナーシップ所得の話しで日本企業が他企業とJV等を実行する際に組成するLLC等のパススルー主体からの所得は含まれない。そのような法人が受け取るパススルー所得は後述の法人税20%で課税されることになる。

このパススルーに25%という部分はThe Blueprintそのものだ。4月の大統領府による発表ではここも15%と説明されていた。

で、The Blueprintの頃から燻っている不明点だけど、今回のUnified Frameworkでも25%税率の対象となるパススルーは「Small and Family Owned」と記載されている。ここはかなり重要ポイントだけど正確な意味は不明だ。すなわち、今までの大統領府、特にPrivate Jetに乗り過ぎのMnuchin財務長官とかの話を聞くと、彼らの頭では個人に所有されるパススルーはイコール中小事業だろうという先入観があるように思える節があり、25%税率適用判断の際に一定の売上とか、パートナーの頭数等の規模的な制限が規定されることとなるのか、それとも基本的にパススルーには全て25%規定が適用されるが、The BlueprintやUnified Framework、また大統領府の4月の発表でも懸念が表明されている通り、実際には給与所得に当たるパススルー所得を事業所得と仮装して本来は35%とかの個人所得税率の対象となる部分に25%が適用されないようなAnti-Abuse規定を設けるだけなのか、今ひとつ不明だ。

この点はThe Blueprintに関して詳解した頃、「米国タックス行く年・来る年(10)下院改正案「A Better Way(The Blueprint)」」にも記載しているので、そちらも参照して欲しいけど、このAnti-Abuse規定を法律化するのは大きなチャレンジだろう。何が合理的な給与水準かという算定はValuationという事実認定の問題となり、パススルーやオーナーが一万通りあれば、適正な給与水準も一万通り存在することとなる。これを個々のケースのFacts and Circumstancesで決めていては数多くの訴訟、係争に発展することは間違いない。となると、安全ガイドラインみたいなものを設けて70%はみなし給与とかするのだろうか。その場合、実際にLLCから勤労所得という形で給与も受け取っているオーナーに対してはどのように対応するのだろうか。パススルー所得は一律25%課税にしてあげます、というのは言うのは簡単だけど、実際に法律として運用するのはとても難しいと思われ、今後の法律原案でどのように扱われることになるか大変興味深い。この規定に代表されるようにUnified Frameworkでは税法を簡素化するって言ってるけど、Frameworkそのものはかなりハイレベル、すなわち大枠の議論で終わっているため、以前のThe Blueprint同様「the devil is in the detail」という感じは否定できず、結果として以前にも増して複雑な税法になってしまうリスクがあちこちに隠れている。

で、次に法人税率。ナンと本気で20%にするとしている。ご存知の通り、トランプ大統領は15%と言い続けてきたけど、Unified Frameworkでさすがに「Unified」して観念したのか、翌日のインタビューでは「20%はパーフェクトな税率でこれ以外にあり得ない!」と言い切っていた。「いよっ、大統領!」という感じの言い切りだったけど、つい一週間ほど前まで15%を主張し続けていた点に関しては「俺が言い続けてた15%っていうのは余りに低すぎてチョッと歳入不足なんだな。だけど俺は15%にしたいと言い続けてそのお陰で20%っていう数字に落ち着いたんだ。で20%っていうのが俺のナンバーで、この20%にこれ以上交渉の余地はないし、俺は交渉しない。なぜかと言えば20%が俺が目指してた数字だからだ」って僕の訳が悪くて意味分かんないと思うかもしれないけど、原文英語でもまさしくこの通りに言ってて意味分からな過ぎだった。まあ、要は15%って敢えて低いところから始めて20%で妥協したように見せてるけど、実際には15%っていうのは単なるGambit、すなわち序盤の先手であり、作戦通りというか計算通りにみんな引っかかって20%になったということなんだろう。

で、20%としか記載されていないんだけど、Flat Rateなんだろうか。現状では15%、25%、34%、35%となっていて、途中、低税率ブラケットの恩典を消去するためのSurtaxとかもあり、部分的に39%で計算したりする帯域もあるんだけど、さすがに今15%で法人税払っている法人が今後は20%となることはないような気もして、となると15%と20%の税率区分になるのだろうか?別にそれでもいいけど、15と20しかない累進税率って何か感覚的に妙だ。一層のこと、0%と20%にして、今まで15%だった法人は0%とかにしたら気前よくかつ分かり易い。

トランプ大統領の発言を訳すのに余計な(?)エネルギー費やしてしまったのでここからは次回。