Sunday, December 31, 2023

2023年大晦日「ゆく年くる年」

今年は結局ほとんどのポスティングをFIRPITA系とKiller Bの話しに費やしたけど、あっという間に大晦日。Times Squareのボールが落ちるまで後数時間ってタイミングであちこちから打ち上げ花火の音とか聞こえ始めたりして2023年も大詰め。FIRPTAとKiller B以外にもいろいろとトピックはあったよね。そんなトピックのいくつかをランダムに振り返ってみたい。

R&D支出の資産計上

2017年の税制改正で規定され2022年から施行されてるR&D支出(正確には「specified research or experimental (SRE) expenditures」)の資産計上および5年(または15年)償却規定。そのうち議会が廃案にしてくれるでしょうっていう期待は叶わぬまま大晦日になってしまった。2024年1月には何か起こるんじゃないかって淡い夢を抱きながらも暦年の法人は既に資産計上して申告書を提出済みだし、3月決算の日本企業も1月15日には申告期限が訪れる。

一点助け舟的だったのが9月に公表されたNoticeで研究開発を受託者として請け負っている者(「Research Provider」)は、研究開発に関して経済的リスクを負わず、かつ開発したIP(正確には「SRE Product」)の所有権を持たないケースはSREの支出をしているとは取り扱われない、って規定された点。多くの日本企業の米国子会社が従事する「研究開発」は親会社からの受託なんで条件を満たせば資産計上の対象にならない。研究開発を委託している者(「Research Recipient」)のSRE支出になるってことで一安心した日本企業米国子会社も多いのでは。ただ、独立企業の米国法人がResearch Recipientの場合は、そっちで資産計上すればいいんだけど、Research RecipientとResearch Providerが関連者だったり、更にResearch Recipientが外国法人の場合は特別なルールを検討するべきかどうかコメントを求めてるんで、もしかしたらNoticeに基づく規則案が公表される際には条件が厳格化される可能性はある。とは言え、このNoticeは納税者に「Reliance許可」を与えてるんで現時点ではNoticeのポジションで申告OKってことになる。

ヘッジファンド・Buyoutファンド

BuyoutファンドがLBOする際に調達するDebtのコストが上がり、また金融機関がシンジケートできる自信がなかったりでそもそもDebtがAvailableじゃなかったりして、BuyoutファンドによるM&Aは2023年激減。DealチームがDebtの調達に苦労しているんで、ファンドレベルの借り入れがよりクリエーティブに。Sub-Lineはここ何年も当たり前の存在になってるけど、NAVローンがBuyoutファンドにも浸透。またDebt供給サイドにDirect Lendingファンドがますます活用されるようになってる。

新規のDealへの影響ばかりでなく、既存ポートフォリオに希望するようなValuationがつかないんで、アセットの売却も思うようにいかない。ということはLPになかなか現金を分配できない。ファンドの既存LP、特にペンションファンドとかはシリアル投資家が多いから、ファンドスポンサー的には次号のファンドを立ち上げる際の資金調達時に頼りにするもんだけど、従来LPはファンドからWaterfallで現金分配を受け取って、それを次号ファンドの投資に充ててたんで、この歯車が狂ってしまって資金調達にも悪影響が多い。

Buyoutファンドは10年+の有限Termなんで、いつまでもポートフォリオを所有し続けるわけにいかない一方で、ファンドをCloseするタイミングが必ずしもポートフォリオ譲渡のベストなタイミングに当たるとか限らない。これは2008年の金融危機(「GFC」)の時も大きな問題となったけど、その際に編み出されたテクノロジーがその後、進化を続け、今日ではGP-LedのSecondaryのContinuation Fundがすっかり定着。しかも2009年とかには二束三文で仕方なくポートフォリオを移管して始まったGP-Ledだけど、今ではパフォーマンスの高いポートフォリオをGP-Ledで移管し、LPにはLiquidityオプションを提供し、GPはCarryをCrystalize(実際にはRolloverすることも多いけど)、さらなるValue UpにGPとして貢献でき、またSecondaryファンドで新規に調達される資金で移管対象ポートフォリオにAdd-On投資したりして、End of Fund Life時の解決策とするケースが目立っている。Cross-Fund Trade同様GPが売り手であり買い手でもあるんでConflictの解消法には最新の注意が払われているみたいだけどね。ファンドスポンサーは既存ファンドのLPAを隅々まで読んでRecycle条項を最大限利用しようとしたり、新規ファンドにLPを刺激し過ぎない範囲で今回の経験を活かした条項を導入したり、いつもながらその進化度合いには目を見張る。2024年は選挙の年なんで一定の利下げも規定され、Deal復活の年になるでしょうか。

ファンド周りのタックス関係のトピックとしてはケイマンヘッジファンドのYA Globalが裁判で負けて巨額のECIにかかわる源泉徴収義務違反に問われている。またファンドのUpper Tier系の話しでは、LPSとして組成されるManagement CompanyのLPがSelf-Employment Tax(通常の従業員のFICAに相当)対象となるかどうかも争われてこちらもファンドが裁判で負けてる。

IRSファンディング

$80Bという巨額のファンディングが付いたと思ったら、Appropriationその他のプロセスで実際にはいくら減額とか、紆余曲折あるけど、ファンディングでIRS税務調査や規則策定に勢いが出てるのは間違いない。パートナーシップに対する税務調査強化、移転価格文書内容の精査、国外関連者に対する支出がBase Erosion Tax Benefitになり得るかどうかの検討と関係する棚卸資産への支出の資産計上の濫用対抗、と戦々恐々としている納税者も多いのでは。

大谷選手

Angelsの近所球団、ロサンゼルスDodgersに高給で迎え入れられた大谷選手。巨額の契約金に関しては大きく報道されているけど、報酬のストラクチャーは複雑。本当のタックスじゃないけど、裕福な球団が優秀な選手を買い占めないようにMajor LeagueにはCompetitive Balance Tax(別名Luxury Tax)っていう制度がある。チョッと簡素化して言うと球団が選手(40人のRoasterベース)に支払う年間報酬合計が特定の金額(2024年の金額は$237M)を超えると超過額に1年目は20%、2年連続だと2年目は30%、3年連続だと3年目は50%の懲罰金が課せられる制度。超過額が多額になるとSurchargeも発生する。徴収された金額はMLBのBenefit契約等に基づいて再配賦されるそうだ。大谷選手の給与ストラクチャーはLuxury Taxに抵触しないよう後年に繰延報酬として支給されるってメディアで報道されてるけど、もしかしてLuxury Taxだけでなく、カリフォルニア州みたいな高税率州からテキサスとかフロリダに引っ越した後に受け取るようなことまで考えてるのかな、って直ぐにタックスの視点から考えちゃうのは夢がないかもね。

2024年

2024年11月は選挙。大統領府、両院の構成がどうなるかでタックスにかかわらずアメリカの近未来が大きく変わる。すべてがToss-upなんで一体全体どんな結果となりますでしょうか。

ということで皆様も良いお年をお迎え下さい。1月は引き続きKiller Bだね。