Wednesday, May 16, 2007

日米社会保障協定(3)

1.協定発効時(2005年10月1日)現在の米国駐在員の取り扱い

協定が効力を持ち始める時点で既に米国に派遣されている駐在員に関しては、協定の発効日である「2005年10月1日から派遣期間が5年を超えない」と見込まれる場合に一時派遣規定の適用が認められる。過去の滞在期間は一切考慮されまない点は実務上の対応を容易にしているといえる。

2.派遣期間に係る「見込み違い」の取り扱い

一時派遣規定の適用があるかないか、はあくまでも派遣期間に係る「派遣時の見込み」に基づく。すなわち判断基準は「派遣時」の「見込み」であり、その後の予定変更は基本的に協定上の取り扱いに影響を与えないと考えていい。この考え方に基づく見込み違いに対する取り扱いは次の通りとなる。

[途中で予定変更があり派遣が5年を超えてしまう場合] これは現実にはかなり「あり得る」シナリオだと思われる。一時派遣規定の適用には、あくまで派遣が開始する時点でその期間が5年を超えないと見込まれていれば問題なく、したがって、そのようなケースでは、派遣時点で交付された適用証明書に記載されている期間に関しては、日本で社会保険に加入し続けることとなり、米国ではFICAの支払いはできない。派遣が5年を超える段階で「期間延長(後述)」を申請することとなる。期間延長が認められる場合にはその期間内は継続して一時派遣規定の適用が可能となるが、延長が認められないようなケースまたは延長期間をも超えて派遣が継続するようなケースでは、その後は通常の規定に戻り(つまり、一時派遣規定の適用がなくなり)、米国にてFICAの支払い、日本の厚生年金保険は加入取りやめということとなる。

[5年超と見込んでいたが、途中で予定変更があり5年以内で駐在が終了する場合] どちらかというと余り起こらないシナリオであるが、 一時派遣規定の適用は、あくまで駐在が開始する時点でその期間が5年を超えないと見込まれている場合に限って適用が可能となる。したがって、駐在が5年を超えると見込まれていた場合には、結果として駐在が5年を超えなかったとしても一時派遣規定を利用することはできず、派遣期間中を通じて日本の厚生年金保険には非加入、米国にてFICAを支払うこととなる。

3.一時派遣規定の延長申請

派遣時の見込みが5年であったにも係らず、予定が変わり派遣期間が延長される場合には「延長申請」を行う必要がある。上述の通り、一時派遣規定はあくまでも「派遣時の見込み」に基づいてその適用が決定されるため、元々の適用証明書に記載される派遣期間内に延期が見込まれるようになったとしても、その時点で一時派遣規定の適用を慌ててストップする必要はない。派遣期間が延期となる場合、元々の派遣予定期間(最長5年)が終了する前に延長申請を日本の社会保険事務所にて行なう必要がある。派遣期間がトータルで5年を超える延長に関しては米国の社会保障庁の審査が行なわれ、米国側のOKを得る必要がある。

延長申請を行なうには、「プロジェクトが長期化している」など、延長が派遣時には予想されなかった理由による必要がある。延長は最長4年(最初の5年を合わせて9年が最長)で、日本の社会保険事務所は当期間内の延長申請は基本的に一旦「受け付け」をするということである。その後の米国社会保障庁による審査で最終的に延長が認められるかどうかの決定が下されるが、1年までの延長申請には比較的柔軟な対応が取られるようである。逆に言うと、1年を超える延長に対してはより慎重な検討が加えられるということとなる。

実際にまだ日米社会保障協定の発効から5年経過していないので、延長の実績はないため、延長がどのような場合に認められるかどうかはあくまでも推測の域を出ない。したがって、現時点では社会保険庁の方の非公式コメント、米国社会保障局の他の国との協定に基づく延長許可例を基に判断するに留まる。比較的多く受ける質問のひとつに「延長の理由は必ず仕事に直結したものでなくてはいけないのか?」というものがある。延長申請の審査はケース・バイ・ケースなので一概にはコメントできないが、場合によっては「子供の学校事情」等の家族関係の事象も申請理由として認められることもあるようである。もちろん、延長理由は「派遣時」には見込まれなかったというのが大前提である。

また「延長は1年毎に申請する必要があるか?」という質問もよく受ける。延長申請時の延長期間については(最長通算の派遣期間が9年を超えない限り)特段制限はない。日本の社会保険事務所での受付時には、通算で9年を超えない限りは延長申請自体は受理される予定である。ただし、あまりに長期に亘る延長申請を一気に行うと米国社会保障庁の承認手続きがより慎重となることも予想される。