Thursday, May 3, 2007

三角合併(3)税務上の取り扱い

米国における合併、三角合併の法的な取り扱い、その効用については前回二つのポスティングで触れたが、今回は本題の米国での三角合併の税務上の取り扱いに関して触れる。

日本でも同様であるが、米国での企業再編は「適格」と「非適格」に大別される。実際には「Tax-Free(非課税)」と「Non-Tax-Free(課税)」に大別されると表現した方が正確であるが、日本で適格ということばが定着しているのでここでは敢えて適格、非適格という表現を使うものとする。 また、米国で「Tax-Free」再編といわれる場合も、正確には「Tax-Free(非課税)」ではなく「Tax-Deferral(課税繰り延べ)」という効果を持つに過ぎない。永遠に税金を払わないタックス・プラニングなど現実には多くは存在しない。

言うまでもない話しであるが「非適格=非合法」ということでは全くなく、また「非適格=不利」ということでも必ずしもない。適格であれば単に課税繰り延べという(通常は有利な)取り扱いを受けることができ、一方非適格となる場合には課税繰り述べはなく、通常のルールに基づいて課税関係が決定されるということであり、どちらも立派な企業再編である。企業再編の対象となる法人の持つ資産または法人の株式に「含み損」があるような場合には、課税繰り延べにはメリットがなく、むしろ課税関係を生じさせる取引として再編を実行する方が有利な場合もある。また、適格となる企業再編では、買収される企業の資産の税務簿価はそのまま引き継がれるが、非適格となる場合には時価に「ステップ・アップ」し、その後の減価償却費用が大きくなることもある。

そのようなケースでは、敢えて不利な適格再編の道を選ぶ必要な全くなく、税法上の適格条件を自ら満たさずに、非適格再編とする(一般に適格条件を「Bust」すると言う)。日本でもこの点は同様であるはずだが、現実には損失を認識できるようなケースで「非適格」再編とする(すなわち損失を認識してしまう)ようなアプローチは税務当局の心証を悪くするということで、非適格であるものをわざわざ前以て税務当局に相談して適格かのように取り扱ってもらい、損失を認識しないでおくというような米国では考えられない話しを聞いたことがある。法律として適格、非適格の要件が規定されている以上、規定の濫用に当るような特別なケースを除き、課税所得となるケースでも、損失となるケースでも、適格、非適格の取り扱いは尊重されないとおかしい。

一方で、「Tax-Free」として課税をぜひとも繰り述べたいという状況であれば、企業再編が適格となるように念入りに再編プランを構築する必要がある。例えば、GoogleがYouTubeを16億5千万ドルで買収したが、この買収は株式交換という形(下で触れられているタイプB)で実行されている。YouTube買収の際に行われた投資家向けウェブキャストでオーディエンスから「なぜ現金取引ではなく株式交換なのか?」という質問が出たが、これに対してGoogleの法務担当弁護士は「株式交換はTax-Freeだから」と回答している。YouTubeのオーナーからしてみれば再編を適格とするのは当然であろう。16億5千万ドル(2000億円弱)と評価される対価を受け取り、これに課税されるとなると、もともとのYouTubeに対する投資簿価にもよるが、巨額のキャピタルゲイン課税となり、納税額が300億円にもなり兼ねない。また、買収するGoogleからしてみても、YouTubeオーナーの再編に係る税コストが増加するということは、買収コストがかさむということであり(Googleの資産規模をもってしてはたいしたことはないとは言え)、やはり適格再編とする必要があったであろう。

米国の税法上、企業再編が「適格」となるには、税法に規定される企業再編のタイプAからGまでのいずれかのパターンである必要がある。合併等の「統合」系の企業再編はタイプA、B、C、Dのいずれかに納まる必要がある。各タイプの詳細はいずれまた後日のポスティングで触れたいと思うが、基本的には、Aは州法(または最近では米国外の会社法に基づくものも認められることがあるようになった)に基づく合併、Bは株式交換、Cは株式・資産交換、Dは同一人物(個人・法人)の支配下にあるグループの再編、という内容である。企業再編は必ずしもひとつのタイプにのみ帰属するとは限らず、例えばタイプAでもあり、かつタイプDでもある、というケースも珍しくない。

税法上(すなわちInternal Revenue Code上)の適格企業再編タイプはかなりザックリと規定されているが、この上に財務省規則、判例等が積み上げられ、詳細が規定されている。例えば、タイプAとして適格となる企業再編は「州法上の合併」である。これだけを見ると、州の会社法に基づく合併は全て適格となりそうなものであるが実はそうではない。企業再編の中でも「適格」と取り扱われるものは「単なる組織変更」と言えるケースのみであり、買収される企業の株主が現金を受け取り、再編後の事業に参加しないようなケースは、組織変更ではなく譲渡という性格となり、課税繰り延べは認められない。
そこで、企業再編が適格となるためには、必ずしも税法上にそう記載されていないとしても、基本的にこれだけは満たす必要があるという「前提条件」のようなものがいくつかある。多くは判例により法体系ができあがったものである。1)持分の継続性、2)事業の継続性、3)事業目的、の3つである。ここで厄介なのは(というよりも面白いのは)、この前提条件の適用が各タイプ毎に微妙に異なることがあるという点である。特に注目するべきは、持分の継続性に関して、タイプA再編、すなわち合併に対する適用が他のタイプへの適用と比べてかなり「甘い」という点である。この点に関して次回のポスティングでもう少し詳しく見ていきたい。