Sunday, August 26, 2007

パートナーシップ合併とSec.704(c)資産

つい先日、パートナーシップ「合併時」の「704(c)資産」の取り扱いに係る財務省規則案が発表された。パススルー、企業再編「おたく」の僕にとってはかなり興味深い分野であるため、早速その内容をポスティングすることとした。なお、ここでいうパートナシップは税務上パートナーシップと取り扱われるLLC(すなわちほとんど全てのLLC)を含む。今回はいつもよりも税法のSec番号が多く登場する点予めご了承頂きたい。

*704(c)資産

Sec.704(c)はかなり複雑な規定であるが、概要は次の通りだ。まず、Sec.704(c)資産とは「パートナーがパートナーシップに現物出資する際に含み益(または損)を持つ資産」である。通常、パートナーがパートナーシップに出資を行う時点では例え含み益を持つ資産を出資したとしてもパートナーは課税されない。その代わりにパートナーシップは資産の「税務上の簿価」をパートナーから引き継ぐ。結果として資産は含み益を持ったままパートナーシップの手に渡ることになる。将来的にパートナーシップが含み益を認識した時点で、出資時点の含み益が他のパートナーに配賦されるのを防ぐためにSec.704(c)が規定されている。すなわち、含み益が実現された時点で、含み益相当のゲインは出資パートナーに優先配賦されなくてはいけない。また、パートナーシップが資産を売却しない場合も、減価償却の特別な配賦を通じて、徐々に出資時点の含み益を出資パートナーに認識させるようなメカニズムも規定されている。

*704(c)資産の分配・代替資産の分配

パートナーシップが資産を売却する代わりに7年以内に他のパートナーに資産を分配した場合には、出資パートナーは出資時点の含み益(分配時点で残っている金額)を認識する必要がある。これをSec.704(c)(1)(B)ゲインという。これは「他に売却するとSec.704(c)ゲインを認識させられるから、それでは他のパートナーに分配してしまおう」というスキームに網を掛ける目的で規定されるものだ。

また、さらにSec.704(c)(1)(B)規定を迂回する目的で、出資パートナーがパートナーシップから「他の」含み益を持つ資産を受け取るようなケースが見受けられたことから、Sec.737という規定が設けられた。すなわち、もともと含み益を持つ資産をパートナーシップに現物出資したパートナーが7年以内に含み益を持つ他の資産の分配を受けた場合には、出資時点の含み益(分配時点で残っている金額)と新たに分配を受けた資産の含み益のいずれか低い方の金額を所得として認識する必要がある。これをSec.737ゲインという。

元来Sec.737は、含み益を持つ資産を出資したパートナーが既にパートナーシップから脱退してしまっているとSec.704(c)(1)(B)では課税できないというような事態に網を掛ける目的で制定されたはずなのだが、出資パートナーに対する通常分配(清算分配でないもの)にも適用されるため、その効果は単にSec.704(c)(1)(B)を補完するという目的を逸脱していると言える。

*パートナーシップ合併時の取り扱い

今回の規則案によると、パートナーシップが他のパートナーシップに合併という手法で全資産・負債を移管し、消滅パートナーシップのパートナーが存続パートナーシップの持分を受け取る場合には、その時点で合併による資産移管を理由にSec.704(c)(1)(B)またはSec.737に基づく含み益の認識はないとされる。しかし、合併後にSec.704(c)資産が分配される、または消滅パートナーシップの旧パートナーが合併後に存続パートナーシップから資産の分配を受ける場合にはSec.704(c)(1)(B)またはSec.737ゲインの認識を検討する必要がある。

Sec. 704(c)(1)(B)もSec. 737も「7年」以内の分配が問題とされるが、もともとの出資時点での含み益に関しては、出資時点から7年を数えればよく、パートナーシップの合併により新たな7年が始まる訳ではない。一方、合併時の含み益、すなわち消滅パートナーシップが持つ資産の時価が合併時点で税務簿価より高い場合の差額、に関しては新たにSec.704(c)に抵触する含み益となることから、その部分に関しては合併から7年以内の分配が問題とされる。

合併時に認識される含み益に関しては、単独のパートナーが存続パートナーシップに資産を出資した発生した訳ではなく、消滅パートナーシップによる資産移管により発生していることから、消滅パートナーシップのパートナー各々に含み益の一部が帰属することになる。したがって、合併により発生した含み益に関して、将来的に消滅パートナーシップの旧パートナーに資産が分配されSec.704(c)(1)(B)ゲインが認識される場合には、分配を受けるパートナー以外の消滅パートナーシップのパートナー達に帰属する含み益のみが課税所得として認識される。

*2度目の合併

パートナーシップが2度目の合併を経験する場合には、上述のルールがそのまま適用される。すなわち、最初の合併時に発生した含み益に関しては最初の合併から7年間Sec.704(c)(1)(B)およびSec.737の規制を受ける。そして、2度目の合併時に発生した含み益に関しては2度目の合併から7年間Sec.704(c)(1)(B)およびSec.737の規制を受けることになる。

*同一持分を維持するパートナーシップ合併

合併時に含み益を持つ資産がある場合に、合併により新たなSec.704(c)資産が発生するという上の規定は、合併前後でパートナーシップに対するパートナーの持分が同一である場合には適用されない。ここでいう「同一持分」とは、キャピタル(Sec.704(b)に基づ決定されるもの)、所得・損失等の配賦比率、パートナーシップ負債の配賦比率、が合併前後で同じ場合を意味する。つまり合併による存続パートナーシップも消滅パートナーシップと全く同様のパートナーで構成されており、各々の持分が完成に同じというケースだ。そのような合併は単なる形態変更であることから新たなSec.704(c)資産は発生しないと規定されるのは当然であろう。

また、正確には同一持分を受け取らない場合でも、キャピタル、所得・損失等の配賦比率、負債の配賦比率が合併前後で少なくとも97%同じパートナーに属している場合には、同一の持分を受け取っているもの同様に取り扱われる。

*Sec.704(c)処理法

合併前に存在する出資時の含み益に関する704(c)の処理(Ceiling Rule、Curative Allocation、Remedial Allocation等)に関しては合併前に選択された方法を継承してもよいし、合併時点で新たな処理法を選択してもよいとされる。合併時に新たに発生した含み益に関しては、合併後に適切な704(c)処理法を選択する必要がある。