FIN 48に関しては2007年7月21日、26日とその基本的な考え方を取りまとめてきた。すなわち、1)FIN 48は決算書上のタックス費用を算定する際に、申告書上のグレーな申告ポジションをどう取り扱うかという会計原則であること、2)「50%超の法的説得力がない申告ポジションは決算書上その税効果を認めない」とする「Recognition」基準が規定されていること、そして3)「Recognition基準を満たした申告ポジションに関しても、IRS等と争った場合に費用、控除を認めてもらえる可能性が50%超あると思われる金額のみ決算書上の税効果を認める」いう「Measurement」基準が規定されていること、といった点である。
*FIN 48を適用する「申告ポジション」とは?
FIN 48は、時効が成立していない過年度の申告書で取られている、また決算の対象となっている期に対して提出される申告書上で取られるであろう「申告ポジション」が適用対象である。決算の対象となっている期に関しては、通常、決算時点では未だ申告書そのものが作成されていないため、この部分に関してはどのような申告書を作成するかという予想(Tax Provisionの金額)に基づく分析となる。
*申告ポジションを分析する際の単位
申告ポジションは申告書に無数に反映されているが、このポジションをどのような「単位(Unit of Account)」に括って管理するかはFIN 48の実際の適用に当たり重要な検討課題となる。この点に関してFIN 48は「あくまでも個々の企業の状況に基づく判断をするべき」というごく一般的なガイドラインのみを提供するに留まっている。どのような企業においても、申告書で別々に計上されている項目は、各々に別の税法上の条文・解釈等が適用されることから、最低限でも各々独立した申告ポジションと考えられるべきであろう。別の条文・解釈が適用される項目をひとからげに「50%の法的説得力があるかどうか」と分析しても意味がない、というか分析のしようがない。
そこで終わらずに個々に計上されている項目を「更に細分化」して検討する必要があることもある。FIN 48には、異なる部門から発生するR&D税額控除を別々の単位として規定の適用をする例が記載されている。すなわち、申告書ではR&D税額控除という一項目であるが、それを更に細かい単位に分解して、各々にFIN 48の検討を加えている。これは部門毎に機能等が異なる関係で各々の部門から発生するR&D税額控除に対する法的説得力、また最終的にIRSに認められるであろう金額の数量化が一定ではないからだ。
このように単位分けされた申告ポジションはかなりの数に上ることが予想される。しかし現実には申告ポジションに関して特に取り扱いに不確実性が存在しないと言えるものが多い。例えば、申告書に計上される一般従業員の人件費、事務所の賃貸費用、その他日常の費用項目に関しては取り扱いが明確であるケースが多い。このようなどちらかと「お決まり」の申告ポジションに関しては、グレーでなければ申告書上の取り扱いがそのままFIN 48下でも認められる。ここでのポイントは「このポジションは鉄壁である」といった主張は必要ではなく、あくまでもRecognitionが50%超であり、かつMeasurementに関しても50%超で全額認められるという主張があれば十分であるという点だ。
このことから最終的に詳細な検討対象となるのはグレーな取り扱いをしている一部のポジションに限られるケースが多いであろう。もちろん、不確実性がない場合でも、各ポジションをレビューしてそのような結論に至ったという記録は必要だ。
*要注意な申告ポジション
このことから、申告書に計上されている多くの通常の項目に関してはそれ程困難な分析とならないケースが多いはずだ。日本企業的には「関連者取引の対価の正当性(移転価格問題)」が大きな部分を占めるケースが多いだろう。 また、過去のIRS税務調査で問題として指摘された項目、現在進行している税務調査で質問が来ている項目に関してはそれなりの分析が必要となる。
また、むしろ申告ポジションで問題となりそうなのは「申告書を出していないケース」または「申告書に報告されていない所得項目」だ。このような項目は申告書をいくら見ても特定することができない。
申告書を出していないなどという大胆な状況はそれほどないだろう、と思われるかもしれない。確かに連邦法人税の申告をしていないというまともな企業はない。ところが本店所在地以外の州への申告となると、該当州内に何らか活動があるにも係らず特別な理由もなく申告をしていないケースはかなり一般的に見受けられる。これは日本企業に限ったことではなく、米国企業のM&Aに係るDue Diligenceをすると頻繁に指摘されるポイントである。
また、クロスボーダー取引きに目を向けると、海外で活動を展開している場合にはその相手国で必要な申告を行っているかどうかが検討課題となる。租税条約が締結されている国であれば、恒久的施設(PE)の有無、PEに帰属する所得の把握、等を検討しなくてはならないし、租税条約がない国であれば、その国の内国法に基づく取り扱いを検討することとなる。
次回はこの要注意な申告ポジションに関してもう少し詳しく触れてみたい。