Saturday, August 4, 2007

FIN 48(4) グレーな申告ポジションの例

グレーな申告ポジション

2007年8月1日のポスティングではFIN 48の分析をする対象となる申告ポジションの単位に関して触れた。申告ポジションそのものはかなり沢山存在するが、「お決まり」の申告ポジションも多く、そのようなグレーではないポジションに関しては、申告書上の取り扱いがそのままFIN 48下でも認められる。したがって最終的に詳細な検討が必要となる「グレーなポジション」の数は限定されてくるであろう。

申告ポジションに関してFIN 48負債計上の対象とならないという判断をする際、「このポジションは鉄壁である」といった主張は必要ではなく、あくまでもRecognitionが50%超であり、かつMeasurementに関しても50%超で全額認められるという主張があれば十分であるという点にも触れた。

日本企業にとってグレーとなりがちな申告ポジションとしては次のような項目が考えられる。

*移転価格

移転価格税制上の「独立企業間価格」の認定は、いくら科学的に分析したとしても、APAでも締結していない限り最終的にIRSに認められるかどうかは分からず、Measurementに係る確証を得るのは難しい。したがって移転価格に係るFIN 48の検討は「Measurement」規定下で、いくらを50%超の確証度に基づくものとできるかという点にフォーカスされる。

移転価格スタディーの文書化がされており50%超のオピニオンが出ている、またはAPAが締結されており、その後の実際の取引きがAPA内容に準拠しているといった場合にはFIN 48負債の計上は必要なくなる。一方、移転価格スタディーがされていない、または簡素化されたスタディーで「Reasonable」ベースのオピニオンしか出ていないようなケースでは50%超に係る根拠がなく、追加のスタディーが必要となるケースもあるだろう。金額の大きい取引きに関してAPAの有効性は以前にも増して高くなる。

ある程度の確証度を推測する法的な分析が可能な他の申告ポジションとは異なり、移転価格が税務調査で最終的にどのように取り扱われるかは予想が困難である。この点は日本企業に限定される問題ではない。米国上場企業の第一四半期の報告をみても大手企業が軒並みに移転価格に係るポジションはグレーであり、現時点でのFIN 48の負債額が将来の展開次第で大きくブレる可能性があるという開示を行っている。

FIN 48に記載されている「例題」は、100%、80%、50%、30%等の確証度で認められるであろう金額が正確に把握できえるという架空の世界の中で成り立っているが、FIN 48のコンセプトは理解できたとしても実際の適用時には数量化が困難であるケースが多いのが現実の世界であろう。

*申告書未提出

米国法人で連邦に法人税の申告をしていないというケースは通常はまずあり得ないであろうことから、未提出は主に「州税」の問題となる。すなわち、本店所在地以外の州で何らか活動があるにも係らず特別な理由もなく申告をしていないケースである。これは思ったよりも一般的に見受けられる。しかも日本企業に限ったことではなく、米国企業のM&Aに係るDue Diligenceをすると頻繁に指摘されるポイントである。

州に申告をする必要があるかどうかという問題はすなわちその州に「課税権」があるかどうかという問題だ。これは憲法上の「Commer Clause」または「Due Process Clause」の問題となる。州と何らかの係りがある場合にのみ州は企業に課税ができる。この係りを税務用語で「Nexus」という。

最近、チョッとした州との係りで直ぐにNexusが発生する傾向にある。違憲の可能性のあるものは裁判に持ち込まれるが連邦の最高裁判所は多くのケースを取り上げないため、州の最高裁判所で州側のポジションが支持されているとその時点では州側のポジションに従わざるを得ない。ひどいケースになるとライセンス供与契約を締結している相手の「非関連企業」がその州にあるというだけでNexusを認定されるようなこともある。受動的にロイヤリティーを受け取っているだけがその州とのコンタクトであるにも係らずだ。

企業としては、どの州にどのような活動があるのかという事実関係をまず整理する必要がある。その上で何らかの活動がある州に関して、申告をしているのか、していないのであればその理由は何か、を検討する。申告をしていない理由としては、その州に法人税がない、活動が物販に係るものでありその内容が課税対象となるに至らない、単に忘れている、が考えられる。申告が必要となるかどうかの分析は州毎に基準が異なるので極めて面倒な検討となる。この検討は一般に「Nexus Study」と呼ばれ会計事務所等で州税の専門家が取り組む分野である。州税の専門以外には頼まない方が無難であろう。

申告が必要であるにも係らず、過去に申告をしていない場合には、FIN 48の負債を算定するために最終的なExposure、すなわち支払いが必要となる金額の確定が必要だ。申告書を提出していない場合には「時効の成立」がないため、理論的には州で活動が開始された年まで遡る必要があるが、Measurementの際には該当州における実務的な慣例に基づき負債を算定することが認められる。例えば、自主的に申告を申し出た場合には過去6年のみの州税を支払えばいいという慣例がある場合には、6年分の州税(プラス金利、ペナルティー)の算定が必要であるということになる。FIN 48の負債を計上すると同時に、実際に州への働きかけに係る最も有利な方法を模索し、実行に移す必要がある。

州税以外の未申告の可能性として海外の申告がある。すなわち、海外で活動を展開している場合にはその相手国で必要な申告を行っているかどうかが検討課題となる。租税条約が締結されている国であれば、恒久的施設(PE)の有無、PEに帰属する所得の把握、等を検討しなくてはならないし、租税条約がない国であれば、その国の内国法に基づく取り扱いを検討することとなる。

*R&D税額控除

R&D税額控除は対象となる費用の認定などを巡り、税務調査の際にはまず必ずIRSが精査を行う。R&D税額控除を申告書上に反映される際には、多少グレーなものであっても主張が通り得る範囲であれば計上しておくのが常である(この点に関しては2007年7月21日の「米国における申告書上の申告ポジション」を参照)。しがって、IRS税務調査では20%ほどの減額が加えられるケースは珍しくない。

*IRS税務調査

過去のIRS税務調査で問題として指摘された項目、現在進行している税務調査で質問が来ている項目に関してはそれなりの分析が必要となる。過去に調整の対象とされた項目に関しては、その後同様の取引きに対してどのような処理をしているか確認をする必要がある。例えば、期末在庫評価に係る税務上の「追加コスト」である「Sec.263A」の算定方法に関して調整されたような経験がある場合には、現時点でのSec.263Aの算定方法がIRSの指摘に準拠しているのか、またはそれでも申告ポジションがある(法的に主張が通り得る)ということで過去のままの方法を踏襲しているのか、等を把握し適切なFIN 48負債を認識しておく必要がある。

*文書化

具体的な文書化の方法に関しては各企業の実態に合わせて監査人等と相談して決定することになるが、FIN 48の分析過程、結果に係る何らかの記録が必要となることは言うまでもない。

*FIN 48の累積効果の管理

単年毎にグレーな申告ポジションを見極める作業に加えて、過去に認識されたグレーなポジションの変動も管理する必要がある。一旦FIN 48に基づき認識されたグレーなポジションはその後の展開次第でいろいろな「運命」をたどることとなるためだ。この管理は一般に「Roll-Forward」スケジュールと呼ばれる計算表で行われる。SFAS109下での繰延税金の管理がバランスシート・アプローチであることから、繰延税金に関して同様のRoll-Forwardスケジュールを作成しているケースが多く、形態としては似たようなものだ。FIN 48を始めて導入する年は時効が成立していない過去の年に関して一からRoll-Forwardスケジュールを作成する必要があるため初年度の負荷は大きい。

一旦認識されたグレーなポジションに対するFIN 48負債に、どのような運命が待ち構えているかに関しては次のポスティングで触れる。