Saturday, August 11, 2007

FIN 48(6) 適用上のその他注意点

FIN 48に関しては2007年7月21日以来、過去5回に亘って基本的な考え方等を解説してきた。今回は規定の適用に際してのその他注意点に触れてみたい。

*FIN 48負債の表示区分

FIN 48下で認識される負債は、一般にその支払いが一年以内に行われる見込みかどうかに基づき「Current」「Noncurrent」に区分される。決算当年度の申告ポジションに対してFIN 48負債を認識するケースでは、決算日ではまだこれから申告書を作成、提出するという状況であり、申告書に支払いが反映されないからこそFIN 48負債を認識することを考えると、直ぐに支払いが起こることはなく、したがって通常は「Noncurrent」となる。FIN 48負債の表示をする際には他の偶発債務等と合算してはならない。また、FIN 48負債を「Deferred Tax Liability」または繰延税金資産に対する「Valuation Allowance」として表示してはならない。

*繰延税金資産に影響を与えるFIN 48負債

FIN 48負債を認識する際に、その相手勘定が「タックス費用」となるのか、それとも「繰延税金資産(Deferred Tax Asset)」となるのか、の決定は申告ポジションのグレーさがタイミング差異だけに係るものかどうかにより決定される。

例えば、資産買収という形態での企業買収に伴い、$15,000,000に上る無形資産を取得したとする。決算書上は「減価償却(Amortization)の対象とはならない」とする(毎年、Impairmentに係る評価は必要である)。一方、税法上の取り扱いは明確でないが、申告は「取得時に全額償却」というポジションに基づいて行われるものとする。この一括償却という申告ポジションに関してFIN 48の検討をしたところ、残念ながら50%超のRecognition基準を満たすことはできなかったとする。さらに、税務調査でIRSが一括償却を認めない場合でも、税務上15年での定額償却が認められることには異論がないものとする。

15年定額償却に基づく年間$1,000,000の費用化に関しては費用控除が認められるという点に疑問がないことから、当金額に関してはFIN 48下でも問題なく税効果を認められる。したがって、申告書上は実際には$15,000,000の償却をしているが、決算書上、税効果が認められる償却は僅か$1,000,000となる。決算書上は、あたかも申告書では$1,000,000の償却しか取っていないような取り扱いとなるため、税務上の当無形資産に対する簿価は$14,000,000であるかのように取り扱われる。この$14,000,000と決算書上の簿価である$15,000,000の差異となる$1,000,000に関してDeferred Tax Liabilityが認識される。金額的には実効税率を40%とすると$400,000となる。このDeferred Tax LiabilityはFIN 48の負債とは関係のない通常の考え方に基づく計上となる。

さらに、実際の申告書では$15,000,000全額が償却されているため、FIN 48下で認識される$1,000,000との差額となる$14,000,000に関してFIN 48負債が認識される必要がある。実効税率を40%とすると$5,600,000が負債額となる。ただし、申告書上$14,000,000を費用化することに係る不確実性は「控除の有無」ではなく、「控除のタイミング」に係るものであることから、このFIN 48負債を計上する際の相手勘定はタックス費用ではなく「Deferred Tax Asset」となるであろう。また、プラスで利息、ペナルティーに関する処理が必要となる。

*FIN 48負債に対する利息・ペナルティー

FIN 48では、グレーな申告ポジションに対する税額そのものを負債として認識するばかりでなく、そのような負債が現実にIRS等に支払われる事態となった場合に課せられるであろう利息およびペナルティーをも負債計上するように義務付けている。

IRSに対して支払いが発生する場合、利息はIRSが毎月公表する「Applicable Federal Rate (AFR)」に基づいて算定される。AFRは指標であり、追徴に関してはAFRに「3%」を足した利率が適用される。ちなみに還付に関してはAFRに「2%」しか足されない。したがって、IRSには「1%」のスプレッドが認められていることとなる。利率は四半期毎に更新され、複利で算定される。FIN 48下で認識される利息は、各企業の会計処理に基づき「タックス費用」または「支払利息」のいずれかに計上されればばよいとされている。

ペナルティーに関しても同様である。ちなみに申告書に計上されている申告ポジションが「申告書に載せていいポジション」の基準を満たしている場合には例え後から税務調査でIRSから調整を受けたとしてもペナルティーの対象とならないのが原則である(この点に関しては2007年7月21日のFIN 48(1)を参照)。注意を要するペナルティーとしては、財務省規則に基づく移転価格スタディーをしていない場合の移転価格調整に対するValuationペナルティー、未申告の州に対するペナルティー等である。利息同様に、FIN 48下で認識されるペナルティーは、各企業の会計処理に基づき「タックス費用」または「その他費用」のいずれかに計上されればよいとされている。

*決算書上の開示

決算書のFootnoteにて次の通りかなり多くの情報開示が求められる。

まず、FIN 48負債の期首・期末残高と年間の増減明細の開示として次のような項目をテーブル形式で開示する必要がある。


  • 過年度の申告ポジション見直しに基づくFIN 48負債の増減
  • 当期の申告ポジションに基づくFIN 48負債
  • IRS等の税務調査、不服申請、訴訟等に基づく申告ポジションの最終化に伴うFIN 48負債の増減
  • 時効の成立により減少したFIN 48負債

他にも次のような項目の開示が必要だ。

  • FIN 48負債の実効税率に与える影響
  • FIN 48に基づいて認識される利息・ペナルティーの損益計算書およびバランスシート上の金額

さらに、FIN 48負債の金額が決算日から12ヶ月以内に大幅に増減することが合理的に可能と判断される場合には次の項目を開示する。

  • グレーな申告ポジションの内容
  • 12ヶ月以内に増減を起こす可能性がある出来事の内容
  • 増減の予想レンジまたはそのような予想が現実的ではない旨の声明

*欠損金を計上している年のFIN 48

欠損金を計上している年に関してもFIN 48の分析は他のケースと同様に必要となる。将来の課税年度への繰越欠損金は繰延税金資産となるが、その金額の決定時にFIN 48の規定が関係してくることとなる。すなわち、申告書で計上された繰越欠損金も、FIN 48の基準を満たしていない限り、決算書上はあくまでのFIN 48基準を満たした範囲での繰越欠損金しか認められない。この場合には、FIN 48に係る負債勘定が設定されずに直接繰延税金資産の金額を減額するという処理が適切であるように読める。FIN 48基準をパスして認識された繰延税金資産でも、その次にステップとして従来からのSFAS 109の考え方に基づき、評価性引当の必要性有無が検討されることに変わりはない。

次回のポスティングではFIN 48負債を計上した場合のIRSの対応等に関して触れる。