Saturday, November 17, 2007

ヤンキースのジターはNYには住んでいない?

Derek Jeter(ジター)と言えばヤンキースのショートストッパー、MLBを代表する選手であり日本でも知らない人はいないくらいであろう。そんなジターがNY州およびマンハッタンの属するNew York City(NYC)から多額の税金追徴を請求されているというニュースがあちこちのメディアで報道されている。

*ジターの居住地はNY州か?

追徴を請求されているといっても年収を過少申告しているような悪質なケースではない。争点はジターは税務上、NYCの居住者(NYCの居住であれば当然NY州の居住者となる)となるかどうかという微妙な事実関係の認定である。ジター自身は「フロリダの居住者である」という主張をしており、NY州には「非居住者」としての税金を納めている。もちろん、税務上の居住地の決定はジター自身が熟考して決めたというよりも彼を取り巻く弁護士、会計士等がそのような申告方法をアドバイスした考えるべきであろう。

*なぜ居住地の決定が大切か?

どのような税金の取り扱いを決定する上でも、まず納税者がどこの居住者となるかを判断することが極めて重要である。これはジターのケースに見られるような州の税金問題に係らず、国税でも同様だ。居住地の定義に万能なものはないため、居住者となるかどうかは各々の国、州、市等の法律の規定に照らし合わせて決定される。規定がまちまちなため、二つ以上の国、州で居住者となるケースも十分にあり得る。その場合には国であれば租税条約、外国税額控除、州であれば他州に支払った税額の控除、等を通じて二重課税が軽減されるような仕組みがある。

一旦居住者となるとその間に受け取る所得は全てその地で課税されるというのが原則ルールである。一方、非居住者となる場合には、その地で役務提供した等、その地が「源泉地」となる所得だけに課税されるのが原則である。したがって、ジターが自分の主張通りNY州の非居住者となる場合には、NY州を源泉とする所得、すなわち、ジターの年棒のうち、NY州での試合となるヤンキースタジアムとかシェイスタジアムでの試合に見合う部分のみがNY州で課税対象となる。

一方、もしジターがNY州の居住者であると取り扱われる場合には所得の源泉地には関係なく、すなわち年棒全額にNY州で課税される。もちろん遠征で他の州でも試合をしていることから、他の州には各々の地での試合に見合う部分の税金を支払うことがある。NY州が居住地となる場合には、他州での税金は居住地となるNY州の税額から差し引いて相殺するのが一般的な取り扱いとなる。

このように、他州で支払う税額がきちんとクレジットされることから、もし仮に全州が同じ税率で所得に課税するのであれば、どこを居住地に選んでも合計の税負担は余り変わらない。しかし現実には州の税法はまちまちだ。例えばジターが居住していると主張しているフロリダには個人所得税という制度そのものが存在しない。ネバダ、テキサス、テネシー等も基本的に同様である。ジターが州の所得税がないフロリダを居住地としているのはもちろん偶然ではない。米国の多くのスポーツ選手、金持ち事業主等が同じように、フロリダに本拠(と本人は主張する)となる家屋を構え、実際の試合、ビジネス等はNY州、CA州等への「出張」ベースで行っている。

*NY州の居住者かどうかの判断

上述の通り、各国、州、市で居住者となるかどうかはその地の法律を検討する必要がある。NY州の居住者の規定に基づくと、二つのシナリオのうちどちらかを満たすと居住者となる。他の州でも同様の考え方が規定されている例は結構多い。

まず、「Domicile」がNY州にある場合。このDomicileというのは中々日本語でコンセプトを説明するのが難しいが、米国の法律、特に民事訴訟手続き等では必ず検討される重要なコンセプトである。Domicileは単なる物理的な居住場所を示すのではなく、どこにフラフラと引っ越していたとしても最終的には戻ってくるという意図を持つ場所というものである。本人の意図に基づくため、かなり主観的なコンセプトではあるが、状況証拠から、他の地に永遠に引っ越してしまったのか、いつかは戻ってくる準備があるのかどうか、を判断することになる。

DomicileがNY州にあると特定の例外規定を満たさない限りNY州の「居住者」となる。例外は1)NY州に居住する場所(Permanent Place of Abode)を持っておらず、2)年間を通じて他州(または外国)に居住する場所をもっており、3)年間にNY州に30日以下の滞在しかない、場合に認められる。すなわち、この3つの条件を満たせばDomicileがNY州にあると認定されたとしてもNY州の「非居住者」となる。もう一つ例外があり、それは家族で海外に滞在していてNY州には一年半のうち90日以下した滞在しない場合に認めらというものだ。こちらの例外は計算が若干複雑なので関心がある方はNY州の申告書説明を読んで適用が可能かどうか検討する必要がある。

DomicileがNY州にない場合でもNY州に年間11ヶ月以上居住する場所があり、年間に184日以上NY州に滞在しているとやはり居住者となる。

*ジターはどの規定で居住者となり得るか?

ジターのケースに関して上のどちらの理論で州が攻めているのかは明確ではない。まず検討されるのはNY州がジターのDomicileと認定することができるかどうかであろう。DomicileがNY州であると判断される場合、ジターがNY州に年間30日を超えて滞在していたのは間違いないと思われるため、居住の場所の有無に係らず、例外規定を満たすことができずNY州の居住者となる。

一方、DomicileはNY州ではない(フロリダ州?)となる場合には、ジターがNY州に「居住する場所(Permanent Place of Abode)」を持っているかどうかも焦点となる。ジターがマンハッタンにアパート(Trump Tower)を持っているのは周知の事実であるが、これが果たして「Permanent Place of Abode」に当たるかという点だ。また、DomicileがNY州にない場合には年間にNY州に184日滞在したかどうかも重要だ。Domicileありのケースでは30日が基準となる。試合の数だけみても30日は楽に満たしているはずだ。一方、184日となると微妙なところにみえる。国間の移動と異なりパスポートの記録もないことから飛行機の旅程、ホテル、クレジットカードの使用場所等を基に判断することになる可能性もある。

*大試合に強いはず?

ジターのパワーは大舞台での勝負強さと言われているがNY州税務当局相手にダウンスイング弾を放つことができるか今後に注目される。