Sunday, March 15, 2020

OECDピラー1のAmount A、B、CとALP (4)

コロナウィルスの感染拡大で、米国のプライベートセクターが迅速に対応し、米国全体がシャットダウン状態にある点は前々回触れたけど、2008年金融危機への対応でも実証されているように、米国企業は人員削減等のコスト抑制の動きも同様に迅速。雇用環境はつい数週間まで絶好調だったけど、今後、どの程度、米国企業が「Draconian」な対応に出て雇用が悪化するかは、コロナウィルスが米国の実体経済、果ては大統領選挙に与える影響度合いを大きく左右することになる。

う~ん、この10年ごとのサイクル、嫌な感じ。Michael LewisのThe Big Short同様に2008年の金融危機を題材にした「Margin Call」っていうドラマ(映画?)があるけど、その冒頭のシーンで大手投資銀行のリスク管理部長(?)のEric DaleがHRと社内弁護士に急に呼ばれて、退職パッケージの説明を受けて、プライベートセキュリティにエスコートアウトされるシーンがある。あれって米国の大手企業ではリアルな世界なんで、米国エグゼクティブの人員整理の実態を垣間見てみたい方は、覗いてみるといい。ただ、実際にはガラス張りのオフィスであれをやられることはないだろうから、そこは唯一ハリウッドっぽい演出だけどね。ただ、あのような形での通告、そして同時にセキュリティエスコートは常套。Margin Callでもそうだけど、強面のプライベートセキュリティが見守る中、家族の写真とかを箱にしまうシーンは当人だけでなく、その周りにいる従業員に与える精神的ショックも大きい。何年にも亘り、いつHRから電話があるんだろう、電話があったら何カ月Surviveできるかな、みたいなリスクと裏腹の関係にあるキャリア、特にProfessional Service Firmのような環境で結果を出さなくては、って緊迫した毎日でみんな頑張ってるんで、あんなシーンを見ると背筋がゾクッとする。

で、元々ゾクッとしてたけど、物事は相対的なので、今となっては平和な議論に見えてきたOECDのBEPS 2.0。その中でもピラー1、特にそこに規定されるAmount A、B、Cと既存の国際課税システムの基盤として長年君臨しているALPとの関係の検討アレコレを続ける。

前回はAmount Aの主に重複解消法に関して触れけど、これには2つの切り口がある。まずは単純にALPで既にどこかの国で課税所得として認識されている所得の一部が、Amount Aという名で再度課税されることになるので、重複を避けるため、Amount A相当額に関して、どこの国のどの主体に課税所得を献上させるか、という検討。もう1つは、市場国に配賦されるみなし超過利益のAmount Aが、ALPに基づき既に当市場国に課税権がある金額、超過利益の話しなので主にAmount Cに相当する所得、と重複してるかどうかという検討。前者はグループ全体で帳尻を合わせなくては、っていう話しで、後者はそのサブセットと言えるけど、フォーカスは個々の市場国にピラー1の意図通りに市場に報いるレベル相当額の所得が配賦されているか、すなわち、Amount AとCを介して重複してラッキーしていないか、という話し。これらの点に関して、現状のピラー1提案では、重複は必ず避けなくてはいけない、と強調されているものの、具体的な解消策には踏み込んでいない。この検討、特に前者の検討、は現状のALPベースの国際課税システム下で、全ての超過利益を一国、例えば親会社、が独占している場合には分かり易い。

例えば、ピラー1適用の売上条件等を充たす「X」グループという日本の多国籍企業が、単独のセグメントで構成される「消費者向けビジネス」に従事していて、連結グループベースで高い利益率を誇っているとする。Xグループの親会社は日本法人JPで、JPはグループにおけるR&Dの成果、その他のグループ知財の全てを所有し、結果としてALPベースではグループの超過利益全額をJPが独占して認識しているとする。JPは当然、日本で販売にも従事している。USSはJPの米国販売子会社で米国における販売・マーケティング活動に従事している。さらにUSSはカナダに物理的な存在は持ってないけど、カナダの消費者向けに販売・マーケティングを米国から行っているとする。

まず既存の国際課税システムに基づく課税関係を整理してみると、米国にはUSSという物理的な存在があることから、従来より米国には課税権があり、ALPベースで米国をTested Partyと位置付け、CPM検証に基づき、USSの機能・リスクに基づくルーティン販売・マーケティング活動リターン、を米国課税所得として認識することになる。ただし、近年、米国税務当局から米国にMarket Intangibleがあり、それに見合う超過利益の一部を米国で認識するべきではないか、という議論が燻っているとすると、この議論はALPベースでの話しなので、ピラー1導入とは一切関係なく検討していかないといけない。一方、カナダには物理的な存在がないので、GST等のVAT的な外形課税は別として、法人税の観点からはカナダはJPにもUSSにも課税権はない。

で、もしピラー1が大枠現時点で提案されている内容のまま合意・実践されると、日本、米国およびカナダが市場国となるので、各国においてXグループが「Significant and Sustained Engagement」があり、売上高その他のThreshold条件も充たすとすると、3か国に新課税権が認められ、Amount Aにアクセスできる市場国となる。ソーシング国となる日本は市場としての位置づけと同時に、それ以外の位置づけのDual Capacityとなり、他の機能やリスク、例えば、R&D、開発、製造、サービス等が存在する。

グループXの連結財務諸表の税引前利益に基づき、例えば売上の20%超の部分をみなし超過利益と認定する。さらに当超過利益の「Upper Portion」、例えばさらにその20%部分が、市場国に新たな課税権を認める超過利益、すなわちAmount Aとなる。

ちなみに20%っていう数字はあくまで僕が例示目的で使用しているだけで、もちろん未定なのでくれぐれも誤解がないように。特に税引前利益の何%を超過利益とみなすか、っていう部分の最初の20%は諸説あり、OECDインパクト試算では10%の例も設けられていたし、口頭の説明では10かもしれないし、20かもしれないし、30かもしれないし、何も決まってないという点が強調されていた。なぜか日本では当初から10%というのが既定路線のように語られることが多いけど、米国では元々は20%だろうという推測が大概だった。現時点では未だ決まっていないということだけ理解しておけば十分。

ただ、10%を使用する方が、当然、みなし超過利益が大きくなり、結果としてそのUpper Portionで構成されるAmount Aも増えるので、市場国に再配賦される金額が大きくなる。Amount Aはグローバルのトータルで見ると、重複が適切に解消される前提でゼロサムゲームだ。すなわち、トータルでは課税所得は1ドルも増えず、既にどこかで認識されている所得を市場国に配賦し直すだけ。でも、日本以外の多国籍企業の超過利益は、多くのケースで税率の高い親会社所在地ではなく、タックスヘイブンで認識されているはずなので、課税される場所が変わるだけ、すなわちトータルの課税所得はそのままだけど、グローバルで見ると当然、税収は増えると予想されている。OECDのインパクト試算でもそういう結果になっているけど、その際に、タックスヘイブンを「Investment Hub」っていうLegitimateっぽい感じの名称で呼んでくれているのは、玉石混交のInclusive Frameworkならではの配慮なんだろうか。「うちの国、タックスヘイブンで・・」って言われるとチョッと悪者っぽいけど、代わりに「うちの国、実はInvestment Hubで・・・」って言われると「なんか凄いね!」って感じになるもんね。ならない?

で、Amount Aの総額を確定すると、次に新課税権を認められる国間の相対的な売上比率等の「Allocation Key」で各国の新課税所得が算定される。上の例を続けると、日本、米国、カナダの相対的な売上比率で、各国にAmount Aが配賦される。米国はさらにUSSが行っているルーティン販売・マーケティング活動のリターンに当たるAmount Bも課税対象とすることができる。このAmount Bは基本的に現状の国際課税システム、ALPでUSSに配賦されているであろうルーティンリターンと同じコンセプトの金額だけど、ALPでUSSの機能・リスクを基に個別に検証していたリターンの代わりに、グローバルで合意される固定%を基に算定する。結果、現状CPM等で検証しているリターンとの比較でマイナーな差異が生じることが予想される。Amount BやCは新課税権を生み出す訳ではなく、カナダでは、引き続き、Amount BやCが課税所得となることはない。

さらに、もし米国がUSSはルーティン販売・マーケティング活動以上の機能・リスクを持ってたり、Market Intangibleを所有していると認定する場合にはAmount Cも課税対象とすることができる。概念的にはこの金額は今でも既にALPベースで課税対象とできる金額。なのでピラー1有無にかかわらず要注意なんだけど、Amount Cって位置づけになると、係争を最小限とするため、強制仲裁等の強固な係争防止・回避策を適用することが義務付けられるのだろう。日米だったら既に議定書で強制仲裁が規定されてるので、余り何も変わらないけどね。

で、米国やカナダに配賦されるAmount Aだけど、この例では、 JPがALPベースで全ての超過利益を認識しているっていう例示に便利な定型としているので、全額、日本のJPが献上することになる。コンセプト的には米国やカナダが、自国に配賦されるAmount Aに関して、JPを直接課税することになる。日本では、重複を避けるため、ALPベースで認識する課税所得から米国、カナダに再配賦される金額を「献上」するため、非課税処理を認める措置を取らされることとなる。日本に配賦されるAmount Aは自らの超過利益を献上することになるので相殺されてネットでプラスマイナスゼロとなる。

また、米国でAmount Cの認識があると、超過利益の全額をJPが認識という例示の前提が成り立たなくなる。その場合、Amount Aを献上させられるのは、JPだけでなくUSSもなのか、どのように献上額の負担比率を決めるのか、という問題に加え、米国に配賦されるAmount AとAmount Cにどの程度重複があるのか、というとても複雑な検討が必要となる。

この例では、潜在的な米国のAmount Cの議論を除くと、ALPベースの超過利益は日本一国が独占しているので、Amount Aの献上元が分かり易い。日本企業的にはあり得るパターンなのかもしれないけど、多くの多国籍企業のビジネスモデルはこんな定型例とは比較にならないほど複雑なので、Amount Aをどのように献上させるか、どこの市場国でAmount A以外の市場国としての超過利益、すなわちAmount Cと重複しているのか、を整理するのは最終的に多くの部分でフォーミュラを使用することになるとしても、実務は困難を極めるだろう。

また超過利益って言うのはリスクマネーのリターンだから、マイナスになることもある。その場合、Amount Cはマイナスになり得るのか。Amount Aは少なくともセグメントベースでマイナスになっていれば、存在しようがないけど、OECDはAmount Aの認定に繰越欠損金的な概念を導入する予定だと提唱しているので、実際のデザインは難しそう。

ちなみにJPの単体所得計算時には、移転価格やグループ内所得配賦に影響を受けない金額とか市場国とは関係のない金額も加味されている。例えば、単純に日本国内で第三者に販売している取引からの所得とか、金融取引関係の損益とか、Amount Bには関係のない製造やサービスにかかわるルーティン所得、を認識しているけど、これらはピラー1の導入により影響を受けることはないはず。すなわち、日本的にはALPベースで認識している超過利益のうち、どれだけがAmount Aとして米国やカナダに配賦されてしまうか、が主たるネットの影響となるはずだ。

日本が超過利益独占、市場国は3つっていうこんな単純な例でも、検討は山積みなので、実際に多国籍企業がピラー1を適用する際のコンプライアンス負荷の増大は凄まじいように見えるけど、ピラー1では負荷はない、またはあっても「Bare Minimum」、すなわち最低限とするシステムを模索するとしている。「Wonder if you can」だけど「No possession」をImagineするよりは可能かもね(笑)。次回はもう少し現実的な込み入ったケースに関して考えてみたい。