Tuesday, September 8, 2009

時代に逆行(?)アメリカ国際課税ルール(16)

前回のポスティングでは「80/20法人と源泉税」という比較的マイナーな規定に係わるオバマ政権の改定案に触れた。今回はおそらく適用可能性という意味では同様またはそれ以上にマイナーであると思われるが、技術的には一番面白い(僕にとっては)分野である非課税再編時に株主が受け取る現金等Bootの取り扱いに関する改定案を説明する。

*米国「非課税再編」

米国で使われる「非課税再編(Tax-Free Reorganization)」という用語は「C Corporation」が一定の要件を満たす場合の取引を意味する。他にも様々な形の再編(一般的な意味で)があり中には非課税または課税繰延のものもある。例えばパートナーシップが関与する再編、現物出資と取り扱われる取引(例ダブルダミー)なんかは立派な再編だが、米国税務で言うところの「Tax-Free Reorganization」ではない。これは「Tax-Free Reorganization」という用語はSec.368に規定される7つの取引形態に限定されて使用されるためだ。だからと言って他の取引が常に課税再編となるかというとそうではないので一般の方にはチョッと分かり難いだろう。ちなみに「Tax-Free Reorganization」と呼ばれる再編も実は本当の意味でTax-Freeではなく、課税繰り延べ、すなわち正確にはTax-Deferred Reorganizationと言える。

今回のトピックはTax-Free Reorganizationと取り扱われる取引のうち、買収型の取引の株主側の取り扱いに関連する。

*持分継続条件

買収型の再編がTax-Free Reorganizationとなるには条文で規定される条件に加えて、持分継続、事業継続、事業目的等の判例を通じて確立されてきた条件を満たす必要がある。

持分継続の条件は、買収の対象となった企業の旧株主が再編後の存続法人(または買収を行った法人)の一定割合以上の株式を所有することで満たされる。すなわち、消滅法人(または子会社化された法人)の旧株主が再編後もEquity Investorとして引き続き存在する必要がある。

B型またはC型再編のように条文上、買収目的で使用できる対価が議決権付株式に限定されているような再編もあり、その際には条文の条件を満たすことで自動的に持分継続も満たされることとなる。買収の対価が議決権株式に限定されているということは、売り手側が引き続き買い手の株式を持ち続けるため、持分継続が達成される。

一方でA型再編(会社法上の合併)のように条文で対価に係わる制限が規定されていない場合には、合併対価の何%を現金その他の株式以外の資産(=このような株式以外の対価ををBootと呼ぶ)で支払うことが認められるのか、という検討が必要となる。この点に関しては沢山の判例があるが、現時点で敢えて簡単に言ってしまえば対価の最低40%が株式であれば持分継続は満たされていると考えられる。すなわち、合併対価の60%までが現金等のBootでもよい、ということだ。過半数の対価がBootでも適格再編となり得るという極めて自由なルールだ。また更にA型再編では40%の株式対価が必ずしも議決権付きでなくてもよいという判例もあり、適格再編の中でもA型再編は一番弾力性に富むものだと言える。

*Bootを含む対価による再編

上述の通り、合併の対価の40%対価が株式で60%が現金(=Boot)の場合でも、その他の条件を満たせばA型非課税再編として適格となることが可能だ。しかし、非課税再編となったとしても、現金を受け取る株主には課税関係が生じる。具体的には「旧法人の株式の含み益」と「受け取る現金等、株式以外の資産の時価」のどちらか低い金額が課税所得となる。それでも取引全体が「非課税再編」に適格している意義は、まず、消滅法人レベルでの資産譲渡課税がない点(対価が現金の部分も含む)、また、株式を受け取る株主に対してはキャピタル・ゲイン課税がない点だ。

*キャピタル・ゲイン v. 配当

現金等のBootを受け取る株主が課税される際に、その課税所得は「どのような性格」なのかという点が問題になる。すなわち、キャピタル・ゲインなのか、それともみなし配当なのか、という点だ。現時点の税率では個人株主が認識するキャピタル・ゲインと配当は双方とも15%の優遇税率の対象となるが、キャピタル・ロスを持つ個人にとってはキャピタル・ゲインの方が好ましかったり、逆に法人にとっては配当の場合には内国法人からの配当(全額または一部)非課税措置が利用できることから配当の方が好ましかったりと、どちらか一方の取り扱いが有利となることがある。

この「キャピタル・ゲイン v. 配当」の判断は若干難解なので詳細はここでは省くがClarkという有名な最高裁判例で決着された判断法に基づいて決定され、基本的には「会社法上の償還が配当かどうか」という判断を行うSec.302の分析同様の手法で検証される。このSec.302同様の方法で「Exchange」ではなく「Distribution(分配)」であるとされた場合には、買収される企業のE&Pの範囲で株主が認識する課税所得は「配当」となる。E&Pの範囲で配当となるというのは米国税務ではお馴染みな考え方だが、通常の配当と異なり、このケースでは「累計E&P」のみを見る。すなわち「Nimble Dividend」コンセプトに基づき「累計がマイナスでも単年E&Pがあれば配当である」という規定の適用はない。

*再編の際のタックスプラニング

上述の適格再編でBootを受け取る際に認識される所得は「旧法人の株式の含み益」と「受け取る現金等、株式以外の資産の時価」のどちらか低い金額、という規定を利用した再編関連のタックス・プラニングが横行していた。すなわち、外国法人が再編・買収のターゲット企業の際に、米国人株主または米国法人株主が、外国法人のEarningsを米国で税金を支払うことなく現金化してしまうことが、一定の条件下で結構容易に達成できた。

外国法人に米国人株主がいる場合、外国法人のEarningsはいつかは配当として米国人株主に課税されるというのが大前提だ。

*改定案

オバマ政権の改定案では、上述の「旧法人の株式の含み益」と「受け取る現金等Bootの時価」のどちらか低い金額が課税所得となるという規定が改定され、Bootは常に課税されるとされる。ただし、この改定は買収を行う法人が外国法人であり、かつ米国人株主が認識する所得の性格が(上述のSec.302ベースの考え方に基づき)配当の場合にのみ適用されるとされている。

すなわち、株主が非課税再編で外国法人から現金等のBootを受け取る場合には、その性格が配当となる場合、株式に含み益があったかどうかに係わらず課税される(ということだと思う)。この改定が現実のものとなると、買収対象となる外国法人株式に含み益を持っていない米国人株主が適格再編でBootを受け取るようなケースへの影響が大きい。現金対価の大きいD型再編等に係わるタックスプラニングが今までみたいに簡単にできなくなる。

という訳で16回にわたって書いてきたオバマ政権による国際課税改定シリーズは一旦終了として、法審理その他の動きがあり次第、また触れていきたい。5月30日にビートルズの引用で始まったこのシリーズだけど、今日2009年9月9日は09/09/09で(9はJohn Lennonの好きな番号)、ビートルズのCDボックスが発売される日だ。Stereo版でテクノロジーの恩典を享受するか、Mono版で原版に忠実に行くか、悩ましい選択だ。という訳でビートルズに始まり、ビートルズで終わる「時代に逆行・米国国際課税ルール」シリーズでした。