Wednesday, December 13, 2023

Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (4)

前回のポスティングではKiller Bの話しをする際に避けて通ることができないSection 367(b)に関して、その目的が外国法人の(当時はSub Fで)課税されていない留保所得を非課税のまま米国に還流する取引を取り締まる点にある点に触れた。ただ、取り締まる対象取引の大半が2017年のTCJAで合法的になった、または存在しなくなってしまったっていう新たな展開があり、とは言え財務省的にはSection 367(b)の役割は終わっていないという状況で今日まで推移している点にも触れた。Section 367(b)に基づく実際のルールは財務省規則で規定されていて、中でもKiller Bに直結してるのは2011年に最終化されたsection 1.367(b)-10の「Triangular再編に絡む親会社株式取得」(「2011年最終規則」)、ってところで終わっていた。

Triangular取引

Killer Bや2011年最終規則はTriangular再編にかかわる話しなんで、これらの理解にはTriangular取引の概要を知っておく必要がある。非課税組織再編を含むTriangular取引に対する税務上の取り扱いは当然税法で規定されてるけど、Triangular取引自体は州会社法に基づいて行われる。米国におけるM&Aや合併を含むCorporate取引の大半はDelaware会社法に基づくんで僕もDelaware会社法に基づくTriangular取引しか見たことがない。Triangularにもいろいろあるけど、要はストレートなForward Mergerみたいに存続法人と消滅法人っていう2法人で構成される取引じゃなくて、買収したり存続したりする側にもう一つ子会社が介在する取引。ダイアグラムにすると3法人あって三角形に見えるんで「Triangular」!または子会社を介在させるんでTriangularの代わりに「Subsidiary」っていう用語を使うこともある。例えば「Reverse Triangular Merger」を「Reverse Subsidiary Merger」って言うこともあるけど、これらは全く同じ意味。

Reverse Triangular Merger

で、最もお馴染みなTriangular取引は、買収ターゲット法人の株式を100%取得する際のメカニズムとして利用されるReverse Triangular Merger。具体的なステップは後述するけど、これは単純に言ってしまうと、法人(「ParentのP」)が買収ターゲット法人(「ターゲットのT」)の株式100%を取得しようとする際に、T株主と個々に交渉するのはTが単独株主に所有されているようなケースを除いて非現実的なので、代わりに合併法を適用して100%持分を取得するメカニズム。

上場企業はもちろんだけど、Private Companyでも複数の株主が居ると株式譲渡契約を個別に相対で交渉するのは難しいし、「僕は売らない」とかHold-upする株主が出てきたりするリスクもある。そこで合併というメカニズムを使うことになる。合併は株式を株主が個々に譲渡する訳ではないCorporate取引なんで、もちろんBoardによる合意、そして株主総会での承認決議は必要だけど、承認されれば強制的に100%株式を取得できる、っていうDelaware会社法のマジックの一つ。株主総会の承認はDelaware会社法のデフォルトは確か過半数って記憶しているけど、Charter(定款)で3分の2のSuper Majorityとか独自に規定されてることもある。

クロスボーダーのM&Aに関与すると、必ずしも全員がデラウェア法人じゃないんで、代わりにScheme of Arrangementとか慣れないステップが出てきたり、裁判所のSupervisionがあったりして面食らうことが多い。米国内でも取引の当事者の一社がデラウェア法人じゃなかったりすると、「デラウェア会社法と同じことできる?」っていう点の確認を含むプラスの検討が必要になる。米国のCorporate LawyerはNYC、Miami、DC、どこでプラクティスしててもデラウェア法を取り扱ってるんで、アドバイスも受け易い。現にパンデミックの2020年夏から8四半期に亘った空前のM&Aシュガーハイ期間は、Law Firmは忙し過ぎて、知り合いの大手法律事務所のCorporate Lawyerたちはデラウェア以外の会社法が絡む事案はEngagementとして受け付けない時期があったほどだ。

日本企業が米国に新規法人設立する際、どこの州で設立するかっていう点に拘ることがあり、デラウェア州だと税金が低いんじゃないかとか、本店所在地がデラウェア州じゃないとダメなんじゃないか、とか気にすることがあるけど、州税負担とは一切関係ない会社法の優位性の問題。年間登記料に当たるFranchise Taxは2つの計算法があって、デラウェア州のサイトに行くとデフォルトで高い方の計算が出てくるって話しなんでこの点は注意。低い方の計算にスイッチすると格段に低くなることが多いそうで、デフォルト見て泣きそうになるスタートアップが少なくないってVCにアドバイスしている弁護士が言ってた。また米国上場企業はほぼデラウェア法人だけど、デラウェア州に本社があるケースは超マイノリティだろう。支店すらないケースがほとんどでは?

SECのFilings、10Qとか何でもいいけど、開示見ると分かるけど、設立州(State or other jurisdiction of incorporation or organization)と本店所在地(Address of principal executive offices)は別表示されてて、前者は大概においてデラウェア州。例えばTesla、Amazon、Netflix全て前者デラウェア州で後者は各々テキサス州(Austin)、ワシントン州(Seattle)、カリフォルニア州(Los Gatos)。AmazonはJeff Bezosが30年近く居住していたワシントン州からフロリダ州のマイアミ(Biscayne Bay。いいね!)に引っ越すそうだけど会社はそのままなのかな。ちなみにAppleは珍しく設立州もカリフォルニア州なんだよね。詳しいことは知らないけど1970年代にカリフォルニア州のガレージで誕生してそのままなのかな。上場するときにDelaware州法人にMigrateしなかったんだね。設立州のMigrationは税務上はF Reorganizationで原則非課税だけどね。

Reverse Triangular Mergerステップ

で、Reverse Triangular Mergerのステップ概略は次のような感じ。

T株式の取得対価は現金、Note、P株式等どんな資産でも実行可能だけど、Killer Bの一環で話してるんでここでは対価はP株式としておく。繰り返しになるけど、PがT株式を100%取得するためのメカニズムで、もしT株主が1人や一社だったら単純にPが自分の株式(または他の対価)でT株式をT株主から買えば済むところ、複数の株主が存在する場合にReverse Triangular Mergerっていう手法で全く同じことを達成しようとしてる、っていうBig Pictureを忘れないように。

ステップ1としてまず、PがMerger用に特別に設立するSPC法人「Merger Sub」にP株式を交付。対価としてPはMerger Subの株式を受け取る。ちなみにM&Aの手法として用いられるReverse Triangular Mergerでは大概Merger Subは買収用にセットアップされるSPC、すなわち「Transitory」な主体だけど、そうじゃなくちゃダメってことはない。Pが所有する既存子会社を利用しても同じ。その場合はTransitory Merger Subと違って既存子会社に事業や資産があるだろうからそれらが合併を通じてTに移管されるんで税務上は適格組織再編になるかどうかの要件が増える。Transitory Merger Subの場合、ステップ1完了後のMerger Subの資産はP株式のみが普通。

PEファンドによるLBOに関しては対価がP株式ではなく現金になるけど、その際、典型的なストラクチャーとしてこのMerger Subに金融機関やDirect Lendingファンド、ヘッジファンドとかが貸し付けをしてLeverageを導入する。これがLBOの「L」に当たる。ここ何年も当たり前になったファンドレベルのLeverageと混同しないようね。LBOでポートフォリオ主体に導入されるLeverageはLBOが生まれてからズ~っと存在する。一方ファンドレベルのLeverageは「比較的」後年のテクノロジー。Sub-Lineは2000年代前半とかは「Cutting-Edge(今考えるとチョッと笑えるけど)」だったのが近年では当然と言える手法になったけど、NAVローンもパンデミック以降、クレジットファンドやSecondaryに続いてBuyoutファンドでもかなり一般的になりつつある。一般的とは言えますます複雑なストラクチャーで、Sub-LineのFeederからのPledgeやExcuse Rightsの問題とか、NAVの担保有無その他、さらに最近はSub-LineとNAVのハイブリッドとか、金利の上昇に伴い新たなテクノロジーが日々登場していてダイナミックな世界だ。

で、LBOだけど一旦Merger Subに行われる貸し付けは次に触れるステップ2の合併を通じてOperation of LawでTの負債に生まれ変わる。実際にはファンドがECLを出してClosingでEquity部分をTop Co経由で出資し、同様にDCLに基づきレンダーがDebt部分をファンディングするのが基礎的なストラクチャー。実際にはMerger SubがTwo-Tierだったり、さらにその上で幾層かLLCがあって、各々のレベルで劣後していくLeverageがあったり、Top CoレベルでECL部分をバックでDebtファイナンスしたり、そのVariationは尽きないし、また日々進化していく。ただ、最終的にはMerger Subレベルで導入されるLeverageは合併でTに亘り、当Leverageで調達された現金はEquity部分と合算されてT株式の取得対価になる。T株主の視点からはEquityファイナンス部分の株式譲渡対価は税務上、株式譲渡として取り扱われるのに対し、Debt Finance部分はTによるRedemptionと取り扱われる。Tが上場企業の場合、LBOが自社株買いの1%懲罰課税の対象になるとか、ならないの議論があるのはこれが理由。

で最初のステップで早くもLBOとかで興奮して少し逸れたけど(少なくともGrand Funk Railroadの話しじゃなくてよかったね)、復習するとこの時点ではMerger SubはP株式のみを所有、PはMerger Sub株式を所有、っていう状態にある。

ステップ2はMerger SubがTに合併。ここで買収する側Pの子会社Merger Subが存続せずにTが存続するんで「Reverse」となる。TriangularがReverseじゃないとダメってことはなくて、TがMerger SubにForwardで合併してくるForward Triangular Mergerもストラクチャーとしてはあり得るし、Sub Allとか追加要件を満たせば適格組織再編にもなり得る。ただ、Forward Triangular MergerはTが消滅してしまうんで、T株式取得の手法にはならないし、Taxableの場合はTのCorporateレベルで課税があり税務上の取り扱いは大きく異なる。またReverseの場合、Tの法人格そのものが存続するんで、Forward Mergerで懸念となる契約のAnti-Assignment免除のConsentとか、既存ライセンスの継承、その他のプレッシャーが低い。COCは考えないといけないけどね。

ステップ3はステップ2の一部とも位置付けられるけど、合併法のOperation of LawでT株主はMerger Subから合併を通じてTに移管された合併対価、すなわち今回の例で言うとP株式を受け取り、従来所有してたT株式は消去される。Ending Result的にはこのT株式はPに買収されたのと同じなんだけど、メカニカルには一旦既存のT株式は消去される、って僕は理解してる。これはデラウェア州会社法の話しで税法じゃないんでデラウェアCorporate Lawyerの助言が必要な分野だけど、今までの体験ではそのように整理してる。

で、最後のステップ4。これもステップ3同様にOperation of Lawでステップ2や3と同時に起こるんだけど、PがTransitoryに所有してたMerger Sub株式が新規に交付されるT株式に生まれ変わる。転換される、っていう方が格好いいかもね。

これら一連のステップが終わって蓋を開けてみるとPは自社株式で旧T株主からT株式100%を取得したのと同じになる。ちなみに合併なんで株主総会で承認されてれば個々の株主に反対する権利はない。P株式を受け取りたくない株主はデラウェア会社法に基づく「Appraisal権利」を行使してT株式を実質換金化できるっていうオプションはある。

なんか久しぶりにM&AとかLBO系の話しで楽しいです。楽し過ぎて結構長くなってきたんで、次も引き続きTriangular系の話しから入って、Reverse Triangular Mergerの前にTender Offerを実行する2ステップで100%取得する手法とかで盛り上がって、その後できれば核心の2011年最終規則とかに辿り着くことができれば、って考えてます。