Monday, January 16, 2023

新春IRSガイダンス特集「CAMT適用対象法人Safe Harbor」

前回は、太陽の下、サウスビーチで財務省が大晦日直前に炸裂させた複数のNoticeを読まざるを得ない状況に陥ったところまで話した。その上で、お正月特集として、2023年を迎える際の米国投資環境、特にファンド投資絡みで見られる急激な進展に触れた。VC、Sub-Line、NAVの話しは、変化の激しい市場に柔軟に対応し続ける投資形態・テクノロジーの変化の一例に過ぎず、他にも独創的なアイディアで苦境を乗り越える、または高い投資収益を実現させるために常に多くの発明がある。ファンドのスポンサーは、VCでもPEでもHedgeでも、自分のサイフ賭けて勝負してるんで、House Moneyで遊んでる訳ではない点で気合が異なる。必要は発明の母で怠慢が発明の父、だとするとGreedは発明のおばあちゃん・おじいちゃん、かもね(なんだそれ?)。

ということで今日から何回か新春特集で、財務省が炸裂させたガイダンスに触れてみたい。頑張らないと新春特集のはずが、お中元企画や年末商戦になっちゃうんで気を付けます。で、今日はまずNoticeの中でも注目のキャムティー(CAMT)から。

CAMT

CAMT法文の概要に関しては以前のポスティングを参照して欲しいけど、法文やほとんど存在しない立法趣旨だけ読んでも、「うちの会社ってCAMT適用対象なの?」っていう超基本的な判断基準からして不明点だらけ。さすがにこのまま2023年1月の施行開始タイミングを迎えさせては議会から多くの規則策定権を丸投げされた財務省としてもチョッと肩身が狭いということで、法律適用開始の5日前に当たる12月27日に滑り込みセーフでガイダンス公表にこぎ着けた。Notice上のガイダンスは今後策定される公式な財務省規則案に同様の内容が規定される点、またNoticeという法的にShakyな位置づけにあると言えるガイダンスでもその内容に準拠しているポジションにはIRSによる調査時のチャレンジはない点明確にされている。それはそうだよね。財務省が公表した今回のNoticeがCAMTにかかわる唯一の拠り所で、それに準拠して後からルール変わって文句つけられる筋合いはない。

CAMTに関してはまだまだこれからさまざまなガイダンス策定が続くんだろうけど、Noticeはその第一弾。取り急ぎインパクトが大きくかつ緊急性の高い項目の取り扱いがカバーされている。カバー内容は、大別して1) 非課税組織再編等の取り扱い、2) M&Aでグループ構成が変わった場合のAFSIの3年平均の算定法また適用法人身分の継続・停止、3) 連結納税グループの取り扱い、4) 非課税債務免除益の取り扱い、5) 会社更生法終了時の取り扱い、6) 法律可決直前に押し込まれた減価償却費用周りの取り扱い、7) Safe Harbor、8) 税額控除の取り扱い、9) 適用法人かどうかの判断時に使用するAFSIとパートナーシップからの所得配賦の関係、って感じで大御所を網羅。NoticeっていうInformalなガイダンスとは言え、全20ページで結構読み応えがある。内容は全体的に合理的で分かりやすい。で、登場の順番としては後ろの方だけど、まずはSafe Harborから。

CAMT適用法人判断時の安全ガイドライン (Safe Harbor)

Safe Harbor規定を適用すると、通常のルールに基づくフルの(超面倒な)テストの代わりに、簡素化テストに基づきCAMT対象法人ではないと結論づけることが認められる。この手の緩和措置の策定はある程度予想されていて、というのも、じゃないと例えば大げさに言うと財務諸表の利益が3ドルでも、フルのテストを適用してようやく「私は対象法人ではありません…」というポジションをとることが可能になるからだ。

米国MNCフルバージョンのテスト

簡素化テストを理解するには、簡素化のないフルバージョンの概要知識がMust。RIC、REIT、S Corp以外の法人は3年平均AFSIテストに抵触するとCAMT対象となる。AFSIっていうのは「Adjusted Financial Statement Income」で、これは「アフシー」じゃなくて「エイ・エフ・エス・アイ」って呼ぶ点は以前のポスティング通り。AFSIはCAMT導入時に税法に定義が足された新用語で、財務諸表の利益に一定の調整を加えた数字。で、法人の申告課税年度直近3年間のAFSI平均が$1Bを超えるとCAMT対象となる。BEATもそうだけど、対象になるイコールミニマム税を支払う必要があるってことではないからね。対象になるとCAMTミニマム税の支払いがあるかどうかの計算をしないといけなくなるってこと。もちろん、それだけでも超面倒なことだけどね。

で、3年平均テスト目的では通常のAFSIの定義に盛り込まれている財務諸表NOLは無視するよう規定されている。AFSIがマイナスの年があれば、3年平均計算時にマイナスのまま加味されるんで、そのマイナスを翌期以降に繰り越して使用するNOLを加味しないのは当然。

インバウンド企業一般フルバージョンテスト+特別テスト

上の一般フルバージョンテストは米国MNCを対象とするもので、「Foreign-Parented Multinational Groups」って規定されるグループに属する法人(ここでは「インバウンド企業」って言っとくね)には特別なテストが適用される。概念的には、外国親会社を頂点とする連結財務諸表のAFSIが$1Bを超え、「かつ(And)」その中で米国を頂点とするサブグループのAFSIが10分の1の$100M以上だと、そんなインバウンド企業グループに属する米国法人がCAMT対象になるって理解しておけば当たらずしも遠からず。

とは言え、敵は本能寺、じゃなくて「The devil is in the details…」。インバウンド企業100Mテストは、米国MNC$1Bテストと同じ規定で計算されるのに対し、インバウンド企業$1Bテストは、米国MNC$1Bテストとは異なる基準で算定されるんで要注意。この点から、双方の$1Bテストを一般テスト、インバウンド企業特有の$100Mテストをインバウンド企業特別テスト、って区分する一般の見方は語弊が多く良くない。同じ$1Bなんでそちらを同じテストと見たい気持ちは良く分かるけど、個人的には一般テストは米国MNCに関しては$1Bでインバウンド企業に関しては$100M、特別テストはインバウンド企業のみに存在する$1B、とロジカルに区分するようにしている。財務省がどう区分しようが…。特別テストはインバウンド企業のみが気にすればいいテストで、米国MNCには一切適用がない。

で、米国MNC$1B、インバウンド企業$100Mの一般テストは次のようなルールで計算する。単に連結財務諸表の利益を使用する訳ではない点、常に頭の片隅に置いて考えるように。

一般テストとグループ合算

まず一般テストのみの目的で、Section 52(Work Opportunity Creditの計算をする際に、グループ法人群を一社と取り扱う規定)で一社扱いされるグループ法人群のAFSIは、グループ法人群に属する各法人個々の法人の自分のAFSIとみなす、としている。すなわち、CAMT適用一般テスト目的では、グループ法人群を一社と扱うというのではなく、結果は似てるけど、各社のAFSIは自分のAFSIとみなす、というものだ。Section 52は直接・間接・みなしで50%超の資本関係にある法人に加え、共通支配下にあるパートナーシップや個人商店も一社扱いに含むとしてるんで、それらの主体のAFSIも自分のものとなる。「え~、でもパートナーシップのAFSIはSection 704のDistributive Share(Section 704が使用する「Distributive」って用語はDistributionを意味するわけではないので最悪のWord Choiceで実際には「Allocable Share」のこと)でパートナーが合算するんで重複するじゃん~」って即座に反応した人は偉い。100点満点中90点。GPA 3.8だ。ただ、この一般テストで共通支配下のパートナーシップのAFSIも自分のAFSIと考えるっていう規定目的では、Section 704ベースのDistributive Shareの合算は停止される。なんで、例えば、パートナーシップ支配なんかしてないCapitalおよびProfits Interestが10%とかのLPは、投資先パートナーシップのAFSIは(一般テスト目的では)一切合算しなくてもいい一方、75%とか持ってるGPやLLCで管理支配権を持つメンバーはパートナーシップのAFSI全額を自分のAFSIとして取り込む必要があることになる。Section 52のクレジットの金額はパートナーシップの持分相当だけど、CAMT一般テスト目的ではSection 52で「一社と取り扱われる」主体のAFSIは自分のAFSIって規定しているんで、Section 52で共通支配下パートナーシップはパートナーと一社扱いなので、その後のWork Opportunity Creditを持分相当取り込む規定があっても、主体ベースのAFSIの取り込みが求められると考えられる。さらに通常のAFSI計算目的では、財務諸表に反映される確定給付型退職金にかかわる損益は加味せず、代わりに米国税務上取り込まれる損益があればそちらを反映するんだけど、一般テスト目的ではこの調整は行わず、すなわち、確定給付退職金も財務諸表に反映される損益をそのまま使用する。分かり難い~。

一般テスト合算とCFC

一般テスト目的で使用するAFSIは、上のパートナーシップ持分と確定給付型退職金にかかわる例外を除き、CAMTの計算(15%掛けて暫定CAMT計算したりするための)に使用するAFSIと同じ金額を使用することになる。AFSIの定義だけでも書き始めるとお中元セールの季節までひっぱれそうだけど、特筆すべきは、外国法人に関して、外国法人の財務諸表利益のうち米国から見てECIに相当する部分の利益のみが外国法人のAFSIになる、っていう部分と、CFCのAFSIは米国10%株主がSub FやGILTI目的のTested IncomeやLossの合算する際に使用する「Pro-rata Share」に基づくCFCのAFSIを自分のAFSIとして取り込むっていう点。複数のCFCがあって合計でネットLossになる場合は、Lossは繰り越し。

このECI、CFCのルールと一般テスト目的のSection 52合算ルールを合体させて考えると、米国法人から見て50%超の資本関係にあるんで関連者に当たる外国法人のAFSIはECIがなければ(プラニング失敗してECIとか生じるケース以外、普通はECIなどない)、AFSIはゼロになるはず。したがってSection 52で世界中の関連者のAFSIを自分のAFSIにしなさい、って言われても結果としてプラスになる金額はなくて実害はないことになる。代わりに、米国法人は自分が10%株主のCFCの財務諸表利益(AFSIかのように計算し)の自分の持分相当額を自分のAFSIとして取り込む。この取り込みは一般テスト目的の合算とは異なり、AFSIの定義そのものに基づく。したがって、Section 52で合算対象となってAFSIが増えるケースって、連結納税グループ外の米国内関連者のAFSIに起因するケースに限定されるんだろう。

日本企業の米国子会社のようなインバウンド企業が$100M一般テストを適用する際にも、米国MNCと同じルールなので、その目的で、親会社または米国外関連者にECIなんてない(またはないと信じてる?)前提だと、親会社とか米国外関連者のAFSIをSection 52のルールで自分のAFSIとする場合も、日本親会社や外国関連者のAFSIはゼロなのでAFSIは増えない。一方で、米国傘下のCFCに関しては持分に準じた財務諸表利益を自分のAFSIとするんで、その分だけは入ってくる。米国MNCのケースと異なり、インバウンド企業は親会社や米国外関連者の利益が加算されないので、一般テスト目的では$100Mとハードルが低くなってる。

CAMTガイダンスのごく一部に過ぎないSafe Harborの、それもその説明の前段の一般テストの話しが長くなって、CAMTだけで年末商戦にならないように気を付けるね。ただ、Safe Harborがなければどうなるか、っていう背景概要を理解しないとSafe Harborの理解にはならないんで、今しばらくジッと我慢して頂きたく。ここからは次回。