Tuesday, June 16, 2009

時代に逆行(?)アメリカの国際課税ルール(4)

前々回のポスティングまで、オバマ政権による国際課税改定案の一つであるCheck-the-Box既定の使用制限に関して触れてきた。特に前々回は、なぜ別の国に設立される単独構成員パススルーが目の仇にされているかに関して、特にHybrid Branchの例に触れて説明してきた。

*Hybrid Branchの変形

前々回のポスティングでは、外国子会社A(所在地外国X)、外国子会社B(所在地外国Y、低税率国)という設定で、BがAにファイナンスを行い、Bが受け取る利子所得がYでは低税率で課税され、AはXにて高税率で費用控除を認められ、かつBがCheck-the-Box既定に基づきパススルー扱いを選択しているために米国目的ではAと同一法人とみなされ、Bの受け取る利子所得がSubpart F所得にならないという例を挙げた。

この手のプラニングには変形が数限りなくあるがもう一つ例を挙げておくと次のようなものだ。

米国親会社Pの子会社Aは外国Xにあり地域統括会社の機能を果たしている。Aは地域内の別国に複数の子会社を所有しており、そのうちBとCは各々外国Xと外国Yの事業主体である。外国Xは低税率国でYは高税率国とする。BとCはXおよびYの法律に基づくと独立法人だが、米国税務目的ではCheck-the-Box既定に基づきパススルー扱いを選択している。

BがCにファイナンスを行い、Cから利子所得を受け取るとする。目的はもちろん高税率国Yから低税率国Xに利子を支払うことで「Earnings Stripping」を行うことだ。しかし、Bが受け取る利子所得が世界有数の高税率国である米国で課税される(Subpart F所得として)となるとこの形態は基本的に意味がない。BとCがパススルーだとすると、A、B、C、が「一つの法人扱い」となることからこの米国税務上の問題は発生しない。一方でBとCが米国税務上、独立法人だと取り扱われるとBの受け取る利子はSubpart F所得となる。

今回の改定が現実のものとなるとB、Cは米国税務上、強制的に法人扱いとなり、Bの受け取る利子所得はSubpart F所得となる。ここがまさにオバマ政権の狙うところである。

*改定案の適用メカニズム

以前のポスティングで触れたが改定案でCheck-the-Box規定に基づきパススルーを選択できないのは次のケースとなる。

1) 「構成員(LLCではメンバーと呼ばれる株主のような存在)」が一人(または一社)、かつ
2) 「外国」事業主体

ただし、例外として、税法回避の目的が無い場合に限り、「米国の単独構成員」によって直接100%所有されている外国事業主体は今後もCheck-the-Box規定の利用ができ、納税者側で引き続きパススルーか法人かの選択を行うことが認められる。

構成員と同じ国にある外国事業主体は例え法人としたところで「同国内での取引」ということでSubpart F所得にはならない。したがって、パススルー選択を認めても認めなくてもSubpart F規定の適用回避にならず、規制の対象とするまでもない。また米国が直接所有している単独メンバー外国事業主体をパススルーとするとその事業主体で受け取る所得は全て米国にて課税されることになることから、この局面でも敢えてパススルー扱いを禁止するには至らない。という訳で上のような規定が提案されている。

*Check-the-Box規定制限の具体的適用

上の規定は読んでの通りだが、若干分かり難い部分を補足すると次の通りだ。まず、米国法人が100%所有する外国事業主体(「First Tier」)は例外規定に基づき引き続きパススルー扱いが認められる。もちろん、従来から「Per Se Corporation」規定に基づき強制的に法人扱いとなる事業主体(例、日本のK.K.)にはパススルー選択の余地はない。この点に変更はない。

このFirst Tierに対する例外であるが、適用は会社法上のFirst Tierに限定されないケースもある。例えば、米国法人が外国1に100%子会社Aを持ち、Aは外国2に100%子会社B、さらにBは外国3に100%子会社Cを持つとする。この場合、会社法的に考えるとAのみがFirst Tierとなるが、Aをパススルー扱いするのであれば、Aは米国法人の一部となることから、BもFirst Tierとなる。Bをパススルー扱いすれば、今度はCがFirst Tierとなるという具合だ。

*規定適用時の取り扱い

改定案が法律となると2011年から効力を持つとされる。となると今までパススルーだった事業主体がいきなり法人扱いに変更となる。その際にはみなし現物出資という取り扱いとなるだろう。また、現状でパススルーを選択している外国事業主体で改定案の適用を受ける際に、しばらくそのままパススルーの取り扱いを認める「Grandfather」規定の適用を期待する向きもあるようだが、いまのところそのような親切な規定が用意される兆候はない。

Check-the-Box規定の改定案に関しては十分過ぎるほど書いたので次のポスティングでは「Anti-Deferral」に関して触れたい。