Monday, December 23, 2024

2024年11月米国選挙結果と米国税制 (3) 「予算調整法2回どう使い分ける?(2)」

前回、下院・上院案のメリット・デメリットを比較検討する勢いで始めたけど、South DakotaとかFred Korematsuの話しになってしまったんで今日こそ。

下院・上院案のプロコン

下院案の一発巨大パッケージのメリットは前回のポスティングで触れた下院の議席数が僅差にある点の懸念を克服し易いと考えられる点。例えばもし国家財政責任に重点を置くいわゆるDeficit Hawkの共和党下院議員が減税に腰が引けてる場合、同じ法案に国境警備が盛り込まれてないと賛成意欲が削がれるリスクがある。それなんで全てひとつのパッケージ化しておくのが安全と言う理論。前々回触れた通り、下院の議席差異は僅少っていうリスクは十分に加味する必要がある。また同じようなポイントだけど、4月のフロリダ特別選挙まで一議席差が続くとすると、その間に争点が少ないとは言え、第一弾の国境警備法案を可決することができるのか、っていう不安もチラつく。

上院と共にチーム・トランプは下院がこんな懸念を持つこと自体を煙たがってる様子がある。税制改正にはある程度時間が掛かる。米国市民が願っている国境警備に関して第一弾で素早く対処するのは当然という感覚。また税法案のドラフトは複雑で議会と財務省との連携が重要だけどScott Bessentは早期に承認を得られると仮定しても、省内の税務担当も稼働している必要がありこの点でも時間を要する。

さらにチームトランプには第二弾の可決は下院が懸念するほど困難ではないだろう、という読みもある。国防長官候補のHegsethが息を吹き返してることからも共和党議員に対するトランプの影響力は絶大で、増してや選挙公約の減税に反対票を投じるような者は次回のPrimary(予備選)も考えるといないという強気の読みだ。

陸軍・海軍フットボール観戦首脳会談

そんな中、年末恒例の陸軍・海軍フットボール(Army-Navy game)が12月14日メリーランド州ランドーバー で開催された。Army-Navy gameは1890年から続く陸軍士官学校(West Point)と海軍士官学校(Naval Academy)が対決する由緒あるカレッジフットボール。勝者には「Commander-in-Chief's Trophy」が与えられるだけに歴代の大統領(Commander-in-Chief)が観戦することが多い。今年のゲームは現大統領は既に存在感がなくなってるせいかどうか分からないけど、バイデンは姿を見せず(2021年の観戦が最後)、今年は米国内外で既に大統領かのようなプレゼンスになっているトランプが観戦した。トランプと共に登場したのは新政権リーダーWho’s Who。VPのVance、両院リーダーのJohnson、Thune(South Dakota覚えてる?)、そしてどちらかと言うと上院での承認プロセスで精査が厳しそうなHegseth(国防長官)、Gabbard(国家情報長官)、Patel(FBI長官)の3名、DOGEのMusk、Ramaswamy両人、DeSantis(フロリダ州知事)、Chief of StaffのSusie Wilesその他。

で、スイートで観戦しながら予算調整法のアプローチに関してトランプ、下院議長Johnson、上院Majority Leader(2025年から)のThuneの「Big 3」による首脳会談が行われた。JohnsonもThuneも早期に方向性を決めてしまいたい、また最終調整・決断はトランプにしかできない点で意見は一致。報道によると上院ThuneがTwo-Trackを押したのに対して、下院Johnsonはチームトランプが上院案を好んでいることを知っているので必ずしも下院の一発案を押すのではなく、下院歳入委員長のJason Smith を代表とする共和党議員の2回に分けてしまって党内調整が難航する懸念をトランプに十分に伝え、その上で最終決定された戦略には100%従うという出方をしたそうだ。

結局どうする?

結局のところ究極の仲裁人はトランプということで判断はトランプに委ねられたようだけど、チームトランプはDeputy Chief of StaffのStephen Miller等が下院議員と密に連絡を取り調整をしている。その甲斐があってか、下院共和党派閥の中でもDeficit Hawkで硬派のFreedom CaucusがTwo-Trackを公認する旨の書簡を送付するに至っている。ということはほぼTwo-Trackに決まりそうな感じだけど、下院共和党議員にはトランプから直接最終判断を聞きたいという希望があるようだ。一応、方向性が決まれば全員一丸になる用意はできているということらしい。

Two-Trackのもう一つのアキレス腱

税制改正が後半にもつれ込むもう一つのリスクは2026年の中間選挙への影響。ただでさえ大統領が属する党の下院は中間選挙で歴史的に不利な立場にあるけど、税制改正が遅れてその効果を2025年中に有権者が肌で感じることができないと減税が中間選挙の強みっていうかセールスポイントになり難い。2017年のTCJA可決が12月22日までずれ込んだため、2018年の中間選挙は共和党が大きく議席を失ってる。1982年のレーガン政権もそうだ。The Economic Recovery Tax Act of 1981 (ERTA)の可決は1981年8月後半だったけど、1982年の下院で同じく結構な議席を失ってる。トランプ政権が目指す地殻変動的な連邦政府の無駄削減や国境警備強化を4年間継続して徹底するには2026年の中間選挙で下院の多数を死守する必要があり、そのためには2024年早期に税制改正や規制緩和を達成し、有権者がその恩典を肌で感じることができる期間を設けるっていうタイムラインが求められる。大恐慌後の1934年のFDR政権下の下院・上院多数維持みたいな状況が理想だ。

このタイムラインはかなりタイトだ。Two-Trackで2回目により複雑な税制改正を上院が主張するからには、税制改正および規制緩和を2025年の夏、願わくば独立記念日の7月4日までに税制改正を達成するコミットメントがあるかどうかが一つのキー。このコミットメントがあやふやな状況だと下院の言う通り一発で対処してしまう方がいい。このタイムラインを達成するには5月には審議が開始され、6月には両院委員で法案のすり合わせをする必要がある。上述の通り、2つの予算調整法は並行して審議可能だし、また2024年を通して「もしTrifectaになったら」っていうシナリオで予算調整法を想定した税制改正法案の基となる文言を両院で検討していたことから、もしかしたら可能なタイムラインかもしれないけど、それでもかなりタイトなスケジュールだ。

第二弾の早期達成は可能か

だったら下院が言う通り一発で税制改正も含む巨大パッケージにしたらいいじゃん、って思うかもしれないけど、税制改正はより複雑なんで、多数の市民が望む国境警備予算の法案可決が遅れる方のリスクも加味しないといけない。したがって、どうしてもチームトランプの希望としてはまず100日以内に、米国市民の信任を得ている国境警備問題に即対処し、次の巨大法案で税制改正っていうのが落としどころとなる。しつこいかもしれないけど、Two-Trackの場合も、第二弾の税制改正審議は国境警備法案可決を待つ必要はなく、国境警備は下院司法委員会、税制改正は下院歳入委員会が中心にDual Trackで法案をまとめないと時間的に間に合わないだろう。

さらに2025年になったらグラスルーツを総動員して民主党議員にもプレッシャーを掛けて僅差を補うような努力も必要。1986年のレーガン政権による税制改革(今のInternal Revenue Codeは1986年版が元)時には多くの有権者が民主党議員に賛成に回るよう働き掛け、下院を292-136で可決させている。Joint Committeeに行く前の上院バージョンは97対3だったっていうから凄い。もしチップが非課税になる規定が入るような場合、ネバダ州では民主党議員でも反対票は投じ難いだろう。

下院と上院の制度差異

でもそんなことポリティクスに素人の僕が言ってるくらいだったら当然、海千山千の両院議員は百も承知だろうから、そういう風にTwo-Trackで同時審議したらいいじゃん、って思うかもしれないけど、ここが下院と上院の温度差が表面化するところ。2026年の中間選挙では、下院は全議席入れ替わるけど上院は3分の1のみ。すなわち、下院を規定する連邦憲法第I条のsection 2に基づき、下院435全議席は2年が任期。これは下院議員が一般PeopleとOut-of-Touchにならないように、2年毎に定期的にチェックを受けるという連邦憲法の知恵。一方、上院を規定する連邦憲法第I条のsection 3では上院議員の任期は6年。2年毎に行われる選挙では約3分の1づつ入れ替わることになる。Hostile Takeoverの対抗策「Classified Board(3分の1づつ選任することで一気に過半数取られない仕組み)」に似てる。Poison Pillと比較してもClassified Boardはより有効な敵対買収対抗策だ。実際にはHostile Takeoverって今日日の米国ではほとんどないけどね。アクティビストファンドのプレッシャーは敵対買収とは違うからね。

で、上院の6年に亘る時間差選挙だけど、これは急激な民衆の意思変化やそれに伴う議会勢力の短期的変動を避ける目的がある。下院の短期的な民衆の意思の反映と安定性のある上院をかみ合わせた二院制の立法府とすることで民衆の意思は反映しつつも長期的な安定性も確保するっていう制度だ。1788年当時の創立者が継続可能性の高い民主主義にしようとしている思慮深さが反映されている。何と言っても現在機能している憲法としては世界最古だからね。前から頻繁に警鐘を鳴らしてるけど、立派な憲法があっても守らなくなったら終わり。独裁政権や全体主義の国でももしかしたら一見まともな憲法があるかもしれない。

本当の民主主義の国との違いは守るか守らないか。また守らないといけない制度設計になっているかだ。その基本は言論の自由と三権分立にあるだろう。1788年から240年近く連邦憲法が機能し続けているのは、米国における「法の支配」に対する意識が強いっていうのが一つの理由だろう。でも最近は急進派系の議員とかが、自分が気に入らない判決が出たりすると最高裁は不法だ、とか言い出したりするケースがあるけどとても危険なレトリック。一般の人がランダムにそういったことを言うのは仕方がないけど、議員は連邦憲法第VI条に基づき「連邦憲法に忠実であり、憲法を守る」って就任宣言してるんだからその宣誓に忠実に行動しないとおかしい。実際の宣誓文言は連邦法、5 USC section 3331に規定されている。憲法は個人の自由、財産、命を守るためにあるんだから米国も気を付けないとね。

という制度的な背景で中間選挙に対する緊迫度は下院100%とすると上院は30%チョッとっていう感じ。この差が第二弾の税制改正のタイムラインに対する感覚の差になって現れないよう規律を持って対処できるんだったらTwo-TrackでもOKかも。

まとめ

いろいろと書いたんで今日のテーマを簡単にまとめておくと、2回に分けるアプローチに対する下院の懸念はRealなもの。だけどチームトランプがTwo-Trackを好む以上、上院のアプローチに傾きつつある今日この頃。下院と上院で中間選挙に対する温度差があるのは制度上仕方がないけど、Two-Trackとなる場合、第二弾とは言え2025年夏までにはいずれにしても対処しないと2026年中間選挙に弊害が出るので、上院がそれにコミットメントできるかどうかがキーと言える。

Sunday, December 22, 2024

2024年11月米国選挙結果と米国税制 (2)「予算調整法2回どう使い分ける?」

前回はチョッと久しぶりなポスティングだったけど、一瞬Zeppelinで危険な局面があったとは言えVan HalenとかThe Beatles、増してやHendrixなどで大きく脱線することなく乗り切り、11月の米国選挙結果そして今後の米国税制審議動向を探り始めた。今回も急に極寒になったNYCでクリスマスのフロリダ行きを目標にフォーカスして頑張ります。 前回のポスティングでは、共和党がTrifectaを達成したとは言え、同床異夢(?)みたいな状況もあり得て、両院のダイナミクス的に2回の予算調整法の活用法に関して既に意見が割れてるって点をプレリュード的に話し始めた。2回の予算調整法をどう活用するべきか巡る駆け引きは2025年の審議を見守る際のキーポイントのひとつなんで今日はもう少し深掘りしてみたい。

予算調整法アプローチ下院・上院案

2回の予算調整法の活用法に関して浮上している下院案と上院案の異なる2つのアプローチの大枠は前回のポスティングで既に触れた通り。軽くおさらいしておくと、下院案は第一弾、っていうか合体一発メガ弾?で国境警備、エネルギー政策、国防、そしてTCJAクリフ対策やトランプ提案の新税制の全てを盛り込んだクリスマスツリー的な巨大パッケージを可決っていうもの。一方の上院案は第一弾予算調整法では争点が少ない国境警備、場合によってはこれにプラスして国防やエナジー関係を盛り込み、こちらは政権発足後直ぐに可決。その後、より複雑な税制改正を第二弾で可決というもの。上院案の第一弾は「Fully Offset」すなわち他の歳出削減等でネット歳出を伴わない法案を想定している。

下院・上院の重鎮プレーヤー

下院案は議長のMike Johnson、下院Majority LeaderのSteve Scalise、下院歳入委員会のJason Smithらの一派が提言していて、上院案は上院Majority LeaderとなるJohn Thune、上院財政委員会のMike Crapoらによるものっていう点も前回触れた。

上院のJohn Thuneは従来から税制改正には深い関与がある人物。2011年から上院財政委員会のメンバーでTCJAの2017年可決にRyan、Brady、McConnell、Hatchの「Big 4」と同等に尽力した功績を持つ。一貫して増税に反対し個人や事業主の税負担軽減による経済成長を促進する政策を支持してきた。South Dakotaの議員なので農場や牧場事業継承の足かせとなるEstate Taxにも常に反対を表明している。

ちなみにSouth Dakotaと言えば、現知事のKristi NoemがHomeland Security長官に推薦されている。コロナの頃、NYとかCAは州政府・地元の官僚による個人行動の規制が激しかったんで個人の自由が一番尊重されていたSouth Dakotaで夏のひと時を過ごしたりしたけど同じ国でも州政府によって対処が大きく異なり、米国は州が国家主権同様っていうのは頭では以前から理解してたけど、コロナ禍は期せずしてそんな米国の実態を体感する機会になった。South DakotaのNoemはLock-Down系の強制措置は一切取らず、情報提供やその他の対応に限定し、後は州民の自由・責任としていた。他にもArkansas、Iowa、Nebraska、近所のWyomingやNorth DakotaもSouth Dakota程ではないけどオフィシャルなLock-Downオーダーは出てなかったはず。2020年夏のWyomingからSouth Dakotaに向かう途中のハイウェイパトロールの話しは以前「2024年11月米国選挙と2025年TCJAクリフ (6)」で書いたから見てみてね。これらの州と並びFlorida、Georgia、Texasも比較的緩やかな規制で、コロナ対策と個人や事業主の自由のバランスを取る政策を取っていた。そのため、さすがに冬のSouth Dakotaは寒いんでNYCからはFlorida、CAからはTexasに移住する人やビジネスは多かった。

「クライシス」時に政府やポリティシャンの本性が出るよね。第二次世界大戦時の日系人収用もその一つだね。どう考えても差別で憲法違反だけど最高裁は6対3で容認(「Korematsu v. United States, 323 U.S. 214 (1944)」)。日本人として米国と言う国を考える際に必読の判例(前回から必読が多過ぎ?)。え~読んだことないって?その場合は3名の判事(Murphy、Jackson、Roberts)の反対意見から読むのがいいかも。JacksonやRobertsっていうと今の最高裁にも同姓の判事がいるけど関係なくて1944年当時の判事のことだからね。ちなみにKorematsuで強い反対意見を書いたFrank Murphyは当時の大統領、民主党のFDRに任命されてるけど、日系人収用はそのFDRが大統領令(Executive Order 9066)で決定している。自分を任命してくれた大統領の政策にもかかわらず強烈な反対意見を表明している点、現最高裁判事の一人Amy Coney Barrettが未だTrumpに判事を任命される前にHillsdale Collegeで講演した際、最高裁判事は憲法にのみ忠実でなくてはいけないとし、自分が誰に任命されたとしても判断には一切影響は受けず、ポリティクスに左右されない判事の鏡としてMurphyの名を挙げている。ちなみにKorematsu判決は何の罪もない多くの日系人個人(米国市民)の自由を奪った政策を合憲・合法としたとして一般には米国史に残る誤りと認識されている。

Jason Smithと上院の確執?

で、John ThuneのSouth Dakotaでチョッと脇道に逸れたけど、実は下院歳入委員会のJason Smithと上院の間にはチョッとした不和がある。2025年のTCJAクリフを待たずに、TCJAには前倒しで自動変更された規定がいくつかある。2022年から研究開発支出が費用化の代わりに資産計上の上5年(米国外の活動は15年)償却になったり、支払利息損金算入制限のベースがEBITDAではなくEBITになっている。また100%即時償却も2023年から20%づつ減額される仕組み。これらを変更前の規定に戻すため2024年1月にJason Smithが先導し下院でAmerican Families and Workers Act of 2024(H.R. 7024)が可決され、同法案は上院の手に渡った。法案には他にも、国家主権として認知されていないために租税条約の締結ができない台湾との間に条約以外の形で実質似たような合意をみる規則も盛り込まれていた。ところが上院は法案を審議することなく放置したまま結局可決を見ないままの状態になってしまったっていう経緯。このせいかどうかは分かんないけど上院のTwo-Track案にJason Smithが一番深い懸念を示しているって言われている。

なかなかそれぞれの案のメリット・デメリットの話しに行かなくてごめん。今日は第二次世界大戦とKorematsuの話しで興奮してしまったんでここから次回。

Saturday, December 21, 2024

2024年11月米国選挙結果と米国税制

共和党Trifecta

米国選挙について最後のポスティングしたのが8月末だから、それからあっという間に3か月半の月日が経ってしまった。11月5日の選挙結果は皆さんもご存じの通り、大統領府、議会両院を共和党が制覇し「Trifecta」となった。大統領選に関してはレガシーメディアや世論調査が最後まで大接戦を報じてたけど、蓋を開けてみたら「Not even close」。選挙人ベースでトランプ312対ハリス226、全米得票数ベースでもトランプが多数、スイングステート7州全州、ブルーウォール州全州トランプが勝ち取った。

税制改正の行方

2025年TCJAクリフ対策の具体案やOECDのBEPS 2.0の運命に関しては、選挙でどちらかの党がTrifectaを達成することができるか、また両院や大統領府に関して党がSplitする場合は各府の構図がどうなるか、で大きな影響を受けるって「2024年11月米国選挙と2025年TCJAクリフ (4)」で触れた。特にどちらかの党がTrifectaを達成すると方向性が明確になるっていうことだったけど、共和党がTrifectaを実現させたので、選挙前よりも容易に今後の動向オプションを占うことができる。

2025年マイルストーン

Trifecta下で起こる税制や通商を取り巻く今後の主たるマイルストーンの第一弾は法的に新政権が発足する2025年1月20日正午。この時点で議会の関与なく大統領権限で実行できるExecutive Orderが複数公表されるだろう。Executive Orderには国境警備強化、学校教育等の社会問題と並び、通商・関税にかかわるものが含まれるって予想される。同日付けでパリ協定からの再度離脱もあり得る。

次のマイルストーンは政権発足後100日のMomentumが高い期間の議会による立法プロセス。上院は60議席に満たないんでFilibusterを回避できず、例によって多数決で法案可決ができる予算調整法を活用することになる。TCJAの多くの規定の延長、場合によってはトランプが選挙活動中に触れていたチップ、公的年金受給、残業代非課税化、国内製造に帰する所得に15%まで更なる法人税引き下げ、JDバンスのCTC拡充、等の税法改正を含む歳入・歳出にかかわる審議が行われる。予算調整法は会計年度一回のWild Cardだけど、国家会計期間が10月から始まるので実は暦年2025年に2回使える。この2回をどんな風に活用するかは見もの(後述)。予算調整法が2回使えることから3つめのマイルストーンは100日の速攻モーメンタム後の第二弾予算調整法審議・可決となる。実は2つの予算調整法は手続き的には並行して審議することができる。したがって第二弾が必ずしも2025年末にずれ込むとは限らない。2026年になると中間選挙が視野に入ってきて大きな法案の審議や可決がタイトになるんで2025年早めに可決させないとただでさえ難しい党内調整がさらに難航するリスクが高まる。

僅少な下院議席差異

下院では共和党が多数を押さえているとは言え、僅少差異なので今後の法案審議時に共和党下院議員が一枚岩になれるかどうかがキー。選挙結果だけ見ると220対215だけど、Defense Secretary候補だったMatt Gaetz(R-Fla)が下院から辞任、キャンパスでのユダヤ人学生差別問題でハーバードやUPennの学長を辞任に追い込んで有名になったElise Stefanik(R-NY)の国連大使就任、Michael Waltz(R-Fla)のNational Security Advisor就任、で3人の欠員となる。既に欠員になってるMatt Gaetzの議席にかかわるフロリダ州特別選挙が実施される4月まではナンと217対215だ。「二議席差か…」って思うかもしてないけど、1人でも寝返ると得票数としては216対216とかになり兼ねず万事休す。法案可決には多数決が必要なことから、ボトムライン全員一致団結が必要になる。

う~ん、下院共和党にできるかな~。共和党下院は党内コンセンサスを取り付けるのが困難っていうのは歴史が証明している。この辺りの熾烈なダイナミクスを描写したノンフィクションに2011年~15年まで下院議長を務めたJohn Boehner(R-OH)の回想録「On the House」っていう本があるけど、米国ポリティクスに興味ある方は必読。ハードロックの天才ドラムに興味ある方はJohn BonhamのMoby Dick必聴(関係ないね…。ここでLed Zeppelinの話しになると長くなるんで我慢しておきます)。Boehnerの後任のPaul Ryan(R-WI)も同じように派閥調整に苦労し、2017年共和党Trifecta下でオバマケア廃案に失敗しその後辞職している。2017年当時との比較で、今回は下院議長のMike JohnsonがトランプにAll-Inなので、トランプと確執が伝えられていたPaul Ryan時代よりはスムーズではないかっていう観測もある。さらに下院共和党派閥にも、2017年は内輪もめで貴重なTrifectaを最大限活用できなかった点の反省、また米国市民の信任を得たトランプ大統領のアジェンダは実行しないといけないっていう使命感は強いだろうからトランプが明確な方向性を打ち出せば「今回こそは・・・」っていう見方もある。でも今週のContinuing Resolution (CR)劇を見も分かる通り、実際にはそんなに単純な話しじゃないんでどうなりますでしょうか。

2回の予算調整法の使い道

暦年2025年に予算調整法が2回使える点は上述の通りだけど、この2回をどんな風に活用するかは見もの。この2回の使い分けは単なるタクティクスを超越した深淵な検討となる。

現時点で大別すると下院案と上院案が異なる形で浮上している。下院筋は第一弾予算調整法に国境警備、エネルギー政策、そしてTCJAクリフ対策やトランプ提案の新税制の全てを盛り込んだクリスマスツリー的な巨大パッケージを希望している。下院議長のMike Johnson、下院Majority LeaderのSteve Scalise、下院歳入委員会のJason Smithらがこの一派。一方の上院は第一弾予算調整法では争点が少ない国境警備、場合によってはプラスで国防やエナジー関係を盛り込み、こちらは初日とはいかなくても政権発足後直ぐに可決させ、より複雑な税制改正は第二弾で満を持す感じで対処したいという意向を持つ。上院Majority LeaderとなるJohn Thune、上院財政委員会のMike Crapoらがそちらの一派だ。トランプを含む大統領府一派はどちらかというと上院案に傾いてるらしい。

また、税制改正に関しては第一弾でTCJAクリフに対処し、第二弾にトランプ選挙活動中に提案していた新税制にフォーカスっていうマイナーなプランCも報道されている。

下院と上院が希望する異なるアプローチ。どっちも一長一短だけど、その真意や最新のダイナミクスに関しては長くなるんで次のポスティングでまとめてみる。

Saturday, August 31, 2024

2024年11月米国選挙と2025年TCJAクリフ (6)

前回のポスティングでは法人税率に触れたんで今回はどちらかというと個人所得税関係。法人税が歳入に占める割合が8%程度なのに比べて2023年会計年度ベース(2023年9月期)で個人所得税は$3,713Bで歳入の80%以上を占める。正確にはこの金額所得税に加えて社会保障税(FICA・SECA)が含まれる。個人所得税は歳入への影響が大きいことに加え、有権者を直撃する税金なんで当然市民の関心は高い。

2025年TCJA CliffはGILTI、FDII、BEAT、一括償却とか法人税周りの規定も対象だけど、金額的にもポリティカルにも個人所得税の規定をどうするかがフォーカス。一般有権者には「GILTIレートを16%に引き上げずに13.125%に据え置くことにしました」って言っても「ギルティー?なにそれ?」ってなって琴線に触れることはない。「個人所得税率を39.6%に引き上げずに37%に据え置くことにしました」って言う方が分かり易いし選挙でも受ける。

個人所得税と法人税で歳入の90%を占めるけど、残りの10%は何かっていうと関税、Excise Tax、連邦準備委員会の歳入などで構成される。この数字だけ見てもトランプの思い付きの「所得税を関税に置き換える」っていうアイディアはDOA。でもタイムマシーンで前回触れた憲法の16th Amendmentが批准された1913年当時に戻ると連邦の歳入の90%は酒税(Liquor、Beer、Wine)そしてタバコ税っていうExcise Taxが占めていた。16th Amendmentは最後まで抵抗したWyoming州(さすが!)が世界大戦はもはや不可避っていうプレッシャーで折れて批准が達成された。それでIncome Taxが逆に90%を占めるに至る。Wyoming州って全米で最初にLLC法を導入したり実はデラウェア州よりも先を行く州。今でも個人所得税も法人税もない。冬もう少し温かければいいんだけどね~。

YellowstoneのNorth Gateから北上して一旦Wyomingの州境を超えてMontana州のLivingstonっていう宿場街みたいなところでSteak食べて一休。Livingstonの数ブロックで構成されるDowntownは雰囲気あるよね。たまに貨物列車が通過する音とか、なぜかいつも商店街(?)の向こうにたまたま満月が見えて。で、Interstate 90で一気にBillingsへ。その先の分岐で94に行くか90のまま行くか迷って、でも90にStayして、そのまま法定速度80Mなんで10%くらいの猶予を加味して90M(それでも周りが広すぎてバックしてるとは言わないけど止まってるみたい!)で南下する感じで突き抜けて再度Wyoming州経由South Dakota州まで突き抜けるコースは何回体感してもLiberateされるんで機会があったら皆さんもぜひ。Interstate 90ではどこから出現するのか分からないけど急に後ろにHighway Patrolが居たりするんだよね。The Wyoming Highway Patrolだ。レンタカーでランダムのFlorida、Georgia、Alabamaとかのナンバープレート(レンタカーに多いよね。特にFlorida)だったらいいかもしれないけど、自分のマシーンでNew Yorkプレートだと何か一本釣りされた感じ。

1918年に憲法18th Amendmentが批准されて米国は禁酒法時代になり、その後、憲法21st Amendmentで1933年に禁酒法が撤廃されるまでthe Wyoming Department of Law Enforcementは禁酒法違反を取り締まるのが唯一の使命だったっていうから凄い。1933年に禁酒法が撤廃されると同時にDepartment of Law Enforcementは解体されて、「the lives, property and constitutional rights of all people in Wyoming」を守るっていう使命のWyoming Highway Patrolが誕生して今日に至る。常に憲法に忠実な使命だ。

で、Pulloverされて路肩に停車。そこまではどこの州のInterstateでも同じ。Wyoming Highway Patrolに免許証みせて、「何マイルで飛ばしてたと思う?」って聞かれたら「う~ん、よく見てなかったんですが89マイルくらいでしょうか…?」とか言うと「ははは、ほとんど100マイルだよ。Good Try」ってなる。「ええ~空いてたんでついうっかりしていました。実は今日中にMount Rushmoreに着きたくて焦っていました」(Mount Rushmoreは少なくとも夏は11時までPublicにオープンしている)とかいう展開になり「それは急いだほうがいいね。だけどスピード出し過ぎないように。Good Luck。Interstate 90のトラフィックにのるまで先導してあげましょう」とかで一件落着になる。いつもなるとは限んないんで責任持てないけどね。

米国って禁酒法が終わってまだ90年しか経ってないんだよね。NYCでも「Speakeasy」バーが今では観光ノリで残ってるから、Mount RushmoreからSioux Falls(スーフォールスって読みます)、La Crosse、Madison、Chicago、Youngstown、とか通ってようやくLincoln Tunnel抜けてManhattanに戻ったらWyomingの景色を思い出しながらSpeakeasyでWind-downというかChillしてみてね。この旅程ある程度ゆっくり消化するにはYellowstoneから始まっても最低1週間は必要。西海岸から出発する場合は2週間ほど見ておくと随所で楽しめる。NYCから出発して西まで行って帰る往復だと、道中WFHで仕事しながらだろうから1か月以上必要かもね。でも価値あるからぜひ。

Tax Credits

ハリスの個人所得税関係の提案はWealth Transfer策のRefundableクレジット系が多い。トランプ提案同様、財源を含む具体的な詳細は分からず選挙後の実効性は不明。17歳未満の扶養子女に関して認められる個人所得税の税額控除(Child Tax Credit 「CTC」)を$3,600へ引き上げ、さらに新生児は$6,000というスーパーサイズCTC。CTCは所得制限があったり還付ポーションがあったりそれ自体複雑な規定だけどCTCセッションじゃないんでCTCの金額面にフォーカスする。

もともと$1,000だったCTCは2017年のTCJAで$2,000に増額されている。ところがこの$2,000のCTCも2025年TCJA Cliffのひとつで何もしないと2026年から自動的に$1,000に戻ってしまう。それは大変っていうことで両候補が自分が当選したら$1,000に戻さないどころか増額しますっていう提案をしているというのが背景。実はCTCにはもう一つ特筆すべき展開があって実は今年下院を通過した法案パッケージにCTCの$2,000引き上げが盛り込まれていた。The Tax Relief for American Families and Workers Actだ。この法案、CTCばかりでなくTCJA規定で2025年を待たずに既に自動改訂で憂き目にあっている規定の悪影響緩和が含まれてた。すなわち、R&D支出の資産計上の延期、100%ボーナス償却の復活、支払利息損金算入制限163(j)のベース額EBITをEBITDAに戻す、というビジネス関連のGoodiesだ。さらに条約を締結できない台湾に恩典を与える規定も入っていて盛りだくさんな法案だった。下院では両党、特に中庸派からサポートされて可決された。民主党の急進派はビジネスに甘い、共和党のFreedom Caucus派は就労義務に近い要件を直近過年度の状況を適用して判断できるCTCは勤労意欲にマイナス、という異なるイデオロギーで反対に回っていた。上院では共和党の反対で否決されている。

もともとサンダースよりも急進派の上院議員として知られるハリスがCTC増額を提案するのは自然。VP候補のワルズもミネソタ州がTrifectaになった段階で$1,750っていう全米で最も寛大な前払い・還付CTCを州レベルで可決させている。さらにワルズは州居住者240万人にRebateを交付したり、その財源として高額所得者の控除を減額、事業に対してはGILTIを州税にも導入、高額投資所得に1%のInvestment Tax導入、とカリフォルニア州をも超えるWealth Transfer派として知られているんでハリスの提案と整合性があるポリシー導入の実績を持つ。ちなみに「ミネソタ州でGILTI合致して歳入に大きく寄与するようなMNCとかあるんだっけ?」って不思議に思うかもしれないけど、実はUnited Health Group、Target、Best Buy、3Mなどはミネソタ州が本店所在地だ。ただ、これらのポリシーの影響で個人の高所得者は隣のSouth Dakota、南のTexasやFloridaのような個人所得税のない州に移住したケースが多いというセンサスデータがあるようだ。州税だったら引っ越せば解決するけど連邦で同じことされると市民権返上でもしない限り移住で税負担をManageすることはできない。

一方不思議なのはトランプ陣営。VP候補のJDバンスがOver-the-topの$5,000CTCを提案している。バンスは$2,000のCTCを否決した上院の議員。当人は上院投票の日、選挙活動でDCにいなかったということで投票はしてないらしいけど、この手の歳出に慎重な共和党支持の有権者からしてみると何ソレって感じだろう。寛容なCTCや同様のポリシーを支持するんだったらわざわざトランプに票を投じなくてもハリスに入れたらいい訳だからこれで有権者受けするんだろうか。しかもCTC増額を敢えて先制攻撃したのはバンス。ハリスはお株を取られては大変と、慌てて反撃に応じるがさすがのハリスもAcross-the-boardに$5,000は無理と判断したのか$3,600を提案。$5,000って聞いた後だと「結構セコイね」って感じるかもしれないけど、元々$1,000だからね。今でこそ時限立法で$2,000になっているけど。前回のポスティングで触れたポール・ライアンの「ポリティカルに延長せざるを得ない規定は時限でもいい」っていうコメントは言い当ててるよね。でもバンスが$5,000ってAll-Inだったんで何とかRaiseしないと急進派としては恰好つかないってことで新生児には$6,000を提案している。コストは組み合わせ次第だけと$1.3Tは下らないと言われてて「まるで軍拡戦争」って揶揄されたりしてる。

民主党がTrifectaになったらCTC増額は十分にあり得るけど、共和党がTrifectaになったからと言って$2,000に躊躇してたんだから$5,000のCTCになるとは考え難い。勝敗を左右するSwing Stateで受けたいっていうのは分かるけど党や候補者としてどんな国にしたいかっている大枠ポリシーのフレームワークの中で規律ある提案にしないと信憑性に欠ける。

ハリスは他にもEarned Income Tax Credit(EIC)から扶養子女要件撤廃、初めてマイホームを購入する者に$25,000のクレジット等を提案している。これらの恩典はもちろんだけど所得制限が設けられるんで一定の所得に達するとPhase-outされ最後は恩典ゼロになる。

ということで今日は両候補とCTCでした。

Thursday, August 29, 2024

2024年11月米国選挙と2025年TCJAクリフ (5)

元民主党でIndependentとして大統領選に出馬していたRobert F Kennedy Jr. (RFK Jr.)が撤退そしてトランプ公認を発表したり、まだまだ紆余曲折が続く大統領選挙。RFK Jr.はその名の通りRobert F Kennedyの息子だからトランプを公認とはね…。

そんな中、税制動向にかかわるコメントもちらほら出てきたんで代表的なものに触れておきたい。ただ前回触れた通りTrifectaにならないと税法は通らないし、またさらに言えば、Trifectaを得たとしても大統領の意向が最終的な法律に反映されるとは限らない。選挙活動中の公約は選挙目的だから実権を握った後のスタンスと同じじゃないし現時点のポリシー提案はディスカウントして聞いておくべき。特に今回の両候補の話しは…。

法人税率

ハリスは選挙運動広報のJames Singerを通じて法人税は28%に引き上げる方針を確認。もともとバイデン政権が28%を目指していたんで想定通り。

法人税率ってヘッドライン的に注目度合いは高いけど、米国の歳入に占める法人税の割合は実は高くない。2023年会計年度ベース(2023年9月期)でトータル歳入は約$4.5Tで、うち法人税は$368Bだから8%程度だ。一方個人所得税が$3,713Bを占める。法人税は21%だから単純計算すると法人税1%当たり$17.5Bの歳入になる。ってことは7%Headlineレートを上げると$122.5Bの増収。10年間で$1.2Tだからハリスが提唱する諸々のGoodiesの一部はファイナンスすることができる。

法人税が歳入に占める割合が低いのは、Corporationっていう形態自体が少ないのが大きな理由。LLCでCorporation同様にLimited Liabilityのシールドが得られ、ケースバイケースだけどClosely Heldの局面で1人のメンバーが持つLLC持分が差し押さえられたりしても、他メンバーの視点からLLC側のProtectionはCorporationより強力なケースもあるし、企業統治もCorporationよりかなりFlexible。LLCっていうのはCorporate Lawで統治が規定されるCorporationと異なり、メンバー間の契約で統治形態を含む権利関係が決まる。LLCは契約のCreatureだ。守秘面でもベールに包まれてるし、なんと言ってもCorporationと違ってパススルー課税の選択が可能。LLCのようなパススルー主体は最終的に所得が個人にフローアップしていくことが多いんで歳入は個人所得税としてカウントされる。もちろんCorporateベンチャーもあるんでそれらはJVメンバーのCorporateに配賦されるけどね。

ちなみにLLCが秘密のベールに包まれてるっていう点だけど、LLCはDelaware州等の州会社法(LLC法)に基づいて組成されるんで、一般市民ばかりでなく連邦政府にも実態が分からない。そこでCorporate Transparecy Act(「CTA」)ってい法律ができ行政府の複数の省庁で構成されるFinCENが規則を策定して、連邦政府にLLCを含む主体の最終的な個人Beneifical Ownerを開示させようとしてる。連邦と州の権限を規定するFederalism(およびAntFederalism)の観点から連邦にそんな権利はなく憲法違反っていう訴訟がアラバマ地方裁で起こり原告が勝利している。当訴訟の原告以外には判決の効果は及ばないけどCTAの行方は不透明。この手の訴訟や議論は他国では考え難いかもしれないけど、米国は元々州の集まりだった状態で各州が憲法を批准してようやく立派な連邦政府ができあがって来たっていう歴史に基づき連邦政府の権限は限定的。税金にしてもその歴史からWealth TaxみたいなDirect Taxは負担額を各州の人口数でApportionしないといけないとか(実質そんな法律は不可能)、1800年代から連邦の課税権には紆余曲折があって、1895年には究極の最高裁判決Pollockで止めを刺され、1913年の16th Amerndmentで連邦にIncome taxを徴収する権利(正確にはApportionなしでIncome taxを課すことができる権利)が認められるに至っている。この辺りの歴史から税制を取り巻く法的環境が他国とはかけ離れてて、国際合意とかで他国がいろいろ決めても連邦憲法的にできることとできないことがある。例えばUTPRなんかは仮に16th AmendmentはパスしてもSubstantive Due Process条項違反で違憲になる可能性があるんじゃないかなって思う。2017年のCFC留保所得一括課税の合憲性が問われたMooreケースも米国ならではの争いだろう。Mooreは超Deepで面白いからそのうちね。個人的には口頭弁論(Oral Argument)まで聞いたくらいのオタクぶりだからね!他にも最高裁の口頭弁論はThrillingなんでLoper Brightとかも聞いたけど憲法論は歴史の勉強にもなる。いろんなケースの口頭弁論聞き過ぎて声で9人のJusticeの誰が話してるか分かるまでになった。SotomayerとKagan、またRobertsとAlitoの区別は注意して聞いてないと分かり難いけどね。声や話し方が似てるっていうのもあるけど、質問内容的にこの組み合わせは似てるからね。

ということでCorporationの話しに戻るけど、上場企業(PTPはQualifying Income条件を満たさないと法的形態はパートナーシップやLLCでも税務上は強制的にCorporate扱い)、VCファンドからラウンド毎にファンディングしてもらうスタートアップ、日本を含むInbound企業の外国親会社に所得がパススルーして欲しくない米国現地法人(少なくともUpper TierのCommon Parent)とか、仕方なくCorporationにならざるを得ないケースを除き、わざわざ二重課税のCorporationを選択して事業を行うケースは少ない。結果としてCorporationの数は相対的に少ない。チョッと前になるけど、法人数と法人税額の日米比較とか2021年バイデン政権発足当時(こんな風に政権終わっちゃうなんて誰も想像しなかった頃。懐かしいね!)のポスティング「財務省によるバイデン「The Made in America Tax Plan」補足説明」で触れてるんで読んでみて欲しい。

軽くオサライすると、法人課税対象のC Corporation数は170万社程度(Tax Foundation調べ)。一方パススルー主体(S Corporation含む)は740万社、DREのオーナーを含む個人事業主2,300万人。一方日本は国税庁のデータによると法人数は約270万(最近のデータでは280万)って米国より100万社多い。日本の個人事業主の数ははっきりしないみたいだけど、フリーランサーが1,000万人程度らしい(ランサーズ調べ)。数は変わってきてるだろうけど方向的に$368Bを170万社で割ると一法人当り$216K。日本の法人税は直近のデータで約147,000億円。為替レートが乱高下するんでいくらでドルに換算するべきか悩むところだけど150円換算すると$98B。280万社で割ると一法人当り$35K。米国の170万社にはMagnificent Sevenみたいな巨大な企業も含まれるんで平均出してもあんまり意味ないけど、歳入に占める法人税の割合を基に「米国企業は他国との比較でFair Shareを払っていない」っていうコメントは会社法その他の環境が違い過ぎて正しくない。

で、トランプの法人税率は?っていうと本人は20%がきりがいい、とか2017年税制改正のブループリントで最初に提案されてた15%に言及したりしているけど、まともな提案には聞こえずTCJAの21%温存が現実的だろう。後日話すけどTCJAの多くの規定、特に個人所得税関係が2025年末で自動的に失効する。TCJAのCliff問題だ。ただ、21%の税率は法改正がない限りPermanent。政策オタクで2017年税制改正を主導した一人ポール・ライアンが「新たな法律で延長できる可能性が高い規定は自動失効になっててもいいけど、ポリティカルに延長が困難であろう規定は自動失効させない」って趣旨の発言をしてたけど、なるほど予算調整法でできたTCJAでも21%はだからPermanentなんだね。

バイデンのIRAも予算調整法でエネジークレジット規定の多くは10年で失効するけど、CAMTはPermanent。ただ、CAMTは未だに規則案も出てないほど非実務的(?)な規定だし、支払ったCAMTは後年クレジットが取れるんであくまで時間差。BookベースはWorkしないから1987年~89年だけの短命に終わった以前のBusiness Untaxed Reported Profits (BURP) みたいに予算調整法云々とは関係なくそのうち廃案になるんじゃないかって思うけどね。BURP(バープ=おくび、あいき、つまり「げっぷ」)っていう略が全てを物語ってる感じ。規則の出来や内容はともかくCAMTは「キャムティー」だから略は可愛いよね。GILTIにしてもBEATにしても略した時に何になるかを考えて命名する近年の規定と違って1980年台後半はそういうどうでもいい観点はなかったのかもね。

トランプはCAMTの廃止には触れていないんで基本的には当面温存されるのかもしれない。ちなみにCAMTは結構な歳入になるってプロジェクションされてはいたけど、前述の通り将来年度にクレジットになるんで歳入増は初期的な現象。単年ベースで最高時に$35B程度って言われてる。だったら一層のこと法人税率1~2%引き上げてCAMT撤廃してくれた方がコンプライアンス負荷面からマシって思う大企業も多いのでは。米国にはないけど他国のピラー2対応とか税務室が充実しているはずの米国企業もさすがにコンプライアンスは限界に達してる感がある。

ということで今日は法人税比べでした。

Friday, August 9, 2024

2024年11月米国選挙と2025年TCJAクリフ (4)

前回と前々回は大統領候補者を取り巻く現状(混乱?)を触れるに留まってしまい、税制動向に話しになかなか至らなかったけど、今回から税制および関連のポリシーに関して。

三権分立と米国議会制度

大統領選の話しをする際、僕が枕詞(?)みたいに必ず冒頭に触れるポイントに米国連邦憲法および議会制度(Congress)がある。Congressは欧州や日本の「Parliamentary」制度とはチョッと異なり、財務省や大統領府(ホワイトハウス)が属する行政府とは独立した立法府で、かつ立法府は各々独立した下院・上院で構成される。税制を含む歳入・歳出マターは下院で起草され審議の上法案が通ると、下院とは独立している上院が審議し、最後は同じ法案を両院を通過しないと法律にならない。立法は行政府とは完全に独立していて大統領でも直接的な関与はない。大統領は両院を通過した法律を署名する・署名しない(拒否権)という権限を持つ。大統領が拒否権を行使した法案は上院の2/3の票があればOverrideできる。

法律は議会のみが制定っていうポイントは、行政府に属する官僚チームは選挙で選ばれてる訳じゃなくて、また終身雇用的に存在することから、一般市民に説明責任がなく必ずしも市民の利益を第一に考えてポリシー策定するとは限らない、大げさに言えば市民の意思に反したポリシーや規則で一般市民の自由が束縛されたり奪われるリスクを考えての憲法上の対応策。共和制ローマやマグナカルタの影響も受ける連邦憲法の三権分立や法の支配を実現するための一つの決め事だ。官僚の人が悪者ってことではなく、歴史の教訓から人間のサガとしてそうなりがちなんで制度的にストラクチャー面から牽制する仕組み。

ただ、行政府のテクノクラート系の人材は専門分野の知識が豊富なんで、専門知識が求められる際には議会が認める範囲で規則策定権が与えられる。税法だと連結納税規則なんかがそうだよね。条文section 1502そのもの読んでも何も分かんないもんね。他にもCAMTとか行政府に丸投げに近い形で規則を策定させるようになる。しつこいけど議会が規則策定権を与えないと行政府は規則は作れない。また議会が条文で与えた範囲のみで規則を策定する必要がある。この範囲をどう判断するかは常にグレーだけどね。Anti-Abuseとかどこまで策定権が与えられてるのか主観的だし。2016年のオバマ政権末期に最終化されたSection 385のFunding規則とか、条文でそんな権限付与されてるかな~?って思うよね。ちなみにSection 385っていうのはそれだけではOperateしてなくてDebt/Equity Classificationの判断基準にかかわる規則策定権を財務省に与えてるのみ。にもかかわらず出てきた規則はDebt/Equity Classificationの判断基準は一切規定せず(この点は未だに判例ベースのCommon Law)、Common LawでDebtと認められた債務をBase Erosionの観点からEquityとみなす、っていう全然異なる趣旨のもの。たまに「米国税法のDebt/Equity Classificationはsection 385で検討」みたいなコメントを見ることがあるけどそれは不正確で、米国税法のDebt/Equity ClassificationはCommon Lawで判断する。債権の性格的にCommon LawでDebtになって(その時点で本来のDebt/Equity Classificationの検討は終了)初めてSection 385のBase Erosion規則、Funding規則の適用となる。すなわち税務上も債権はDebtという性格が認められるけど、借りたお金の使途が気に入らないんで(Base ErosionのためにDebt Push-Downされている)Equity扱いするという順番。Funding規則のハードルを越えるとめでたく(?)次に163(j)その他の多くの支払利息損金算入制限を検討できることになる。またIRAで導入された自社株買い懲罰課税(Excise Tax)の規則案に盛り込まれてる外国親会社が自社株買いしてる場合のFunding規則とかも権限逸脱有力候補だろう。自社株買いの規則は一部最終化されてるけどFunding規則は未だに案の状態。「それはないでしょう」みたいなコメントが殺到し、財務省の方で検討しているんだけど、その間に後述のLoper Bright判例が出てしまったんで冷却効果大で真剣に見直してくれるといいけどね。どちらもたまたま「Funding規則」って名前だけど、Fundingっていう名の付く規則はロクなのがないね!他にもFIRPTA大特集で触れた「QFPFはsection 897目的で外国法人ではない」って条文が名言しているのに規則では外国法人になったり。DC REIT判断時の「C CorporationのLook-throughルール」もかなりArbitrary。って愚痴(?)はこの辺で止めときます。

議会と行政府の関係は、憲法の理想からだんだんぶれてきていて行政府の力が大きくなってきてた。この辺りの一部行き過ぎとも言える規則策定時の行政府裁量拡大に2024年に複数の司法のメスが入っている。1984年の最高裁判決Chevron以降、議会が制定した法律が不明確だったり法律が取り扱いに言及してないケースで、司法判断時に法律の解釈は行政府による解釈を尊重するっていう決まりになっていた。Chevron原則だ。この原則下では実質、行政府が立法してるような結果となるケースも多く、「そんなこと法律のどこに書いてあんの?」とか近年はその傾向に拍車が掛かってた。こんな状態、すなわち行政府が巨大になり自らの世界で存在している状況を米国で「Administrative State」って言ったりする。一般的にはFDRのNew DealでAdministrative State的なポリシーが一定の完成をみたって言われていてその後もUp and Downはあるとは言えあの米国連邦憲法下でも人間というか国家のサガ的に拡大が進んできて、それと同時に連邦政府の歳出も増える一方。Administrative Stateと似たようなポリティカル表現に「Swamp」とかもあるし、更に陰謀めいてくると「Deep Purple」じゃなくて「Deep State」っていうのもある。これらは一般市民とはかけ離れたところで国が運営されている状態だ。オフィシャルな用語じゃないんで意味の範囲はルースだ。ちなみにBEPS 2.0で「なぜ米国は一旦合意しておいて梯子を外すのか」という質問を受けることがあるけど、憲法上、立法には関与がない行政府が他国と約束したところで実行する権限を持っていないんで本当の約束にはなり得ないよね。

で、つい最近Loper Brightっていう最高裁判決でChevron原則が撤廃された。敢えて略して言うと、この判決は連邦憲法成立当時目指されていた三権分立ストラクチャーに忠実に、立法は議会、Executive Branchの行政府は法の施行、法律が不明確だったりSilentだったりする場合は司法府の裁判所が判断、という体制に国家統治を戻したっていうもの。また、ほぼ同じタイミングで最高裁はCorner Postっていう判決も下し、行政府の規則等で損害を受けたケースの時効成立有無に関して、従来の規則最終化からタイミングを計るっていう考え方を、そうではなく行政府の規則で損害を受けた時点を起点にするとしている。多くの訴訟に繋がるかもしれないけど、規則は長年にわたって有効なものが多く、損害を受けるタイミングが規則最終化から3年とか特定の年数以内とは限らないし、また損害を受けないと訴訟を持ち込むためのStandingが生じないからCorner Postの判決は個人的にはそれはそうあるべきなんじゃないかと思うけどね。

Loper BrightとCorner Postの組み合わせ、さらにWest Virginia v EPAの「Major Decisions」原則、JerkesyケースにおけるSEC内部の裁決機関(Tribunal)違憲判決、とかで行政府の規則策定権を含む権限はかなり限定された感がある。このSECに対する判決は、Chevron原則時代の状況を考えると法律を策定・施行・法律違反かどうかの判断、の3つを全て行政府が担当していることになり得る状況にストップを掛けている。監査法人を監督しているPCAOBとかも同じストラクチャーなんで施行に影響があり得るよね。SECと違って直接連邦裁判所に訴訟を持ち込めないって聞いたことがあるんで、内部Tribunalで裁決できなくなると司法省に話しを持ってくのかな?複雑そうだよね。税法にかかわる憲法解釈ではMooreもあるしね(この件は選挙が落ち着いたら書くね)。憲法関係メガ判決連打のRoberts Court凄いよね。

税法を可決する議会も財務省の解釈が必ずしも尊重されなくなると、議会へのプレッシャーは高まる。すなわち、より強固な立法趣旨を残し、かつ条文自体曖昧な部分が少なくなるように努める必要が生じる。となると同じ税務のプロ中のプロIRSのChief Counsel Officeと並んで同じくプロの議会(「the Hill」)のJoint Committee等に属するの人材の活躍の場が増えるし責任重大になるね。IRAみたいに2週間でとりあえず可決、立法趣旨にかかわる記録なし、後は財務省お願いします、みたいなのはNGだね。

細かい制度上の話しはいろいろあるけど、税制は下院・上院を通過しないと成り立たないっていう点、またCongress制度では党議拘束がないので自分が属する党の議員が起草した法案に党議員が賛同するとは限らない、すなわち党内派閥の力関係や駆け引きが重要、っていう点、は税制審議を見守る際に必ず頭に置いておく必要がある。特定の党が両院を押さえていても、その党の議員が提出する法案可決に何の保証もない。多数党と他党の議席数差が僅少な場合には党内調整が困難を極めることも多い。同じ民主党でも今では主力の急進派とトラディショナルなリベラル(リベラルって今日日の民主党を描写する際には変な用語だけどね)では相当フォーカスが違うし、共和党のリベタリアン的なFreedom CaucusとCenter Right的な一派もそう。むしろ、両党の中庸派同士の方がポリシー的には合意できる部分が多いようにも感じることも少なくない。カリフォルニア州のような極端な左翼州、フロリダ州のような保守州(これも変な用語だけどね)以外ではむしろ両党中庸派のポリシーに賛同する一般市民が少なくないっていうのが肌感覚かな。

Trifecta

これらの点から大統領選挙だけにフォーカスして米国の税制を含む法律動向を考えても余り意味がない。シナリオは下院、上院、大統領府、っていう3府がどちらの政党(第三党がない前提で…)になるか、で考える必要がある。「組み合わせ」算数的には8通りあり、微妙なダイナミクスを考える際には8つのシナリオを見てみるのも面白いけど、ここでは「3府一党支配(2党なので2通りの可能性)」とそうでない場合の計3通りに分けて考えてみたい。ちなみに3府を一党が支配する状況を英語で「Trifecta」(トライフェクタ)って言うんで、毎回「一党が3府云々…」で書かなくていいようにここではTrifectaって用語を使用する。Trifectaは州政府の3府(大統領の代わりに州知事)にも同様に適用があって、憲法で一般市民の生活にかかわる多くの法律が州レベルのものなんでDay-to-Dayの生活にはこちらも重要。パームツリーが風に吹かれてて写真で見ると似たようなカリフォルニア州(大きな政府で官僚の力が強く規制が多く高税率)とテキサス州やフロリダ州(個人自由主義で(個人所得税は)無税)とか別の国みたいだもんね。これは米国の良さのひとつ。国家主権のような性格を持ってて各々異なるポリシーを持つ州が国内にあるんで、市民は嫌なら他の州に引っ越すことができる。憲法上、州間の移動は自由で他州市民に差別的な法律を適用することも禁じられてる。企業も同じ。Tesla、Space X、最近ではChevronがカリフォルニア州からテキサス州に脱出したり、Intelはカリフォルニア州からナッシュビルのあるテネシー州に脱出してる。これらは設立州ではなく本店所在地の話し。

またSuper-Trifectaっていう用語もあって、これは単に3府を制してるばかりでなく、Super-Majorityを有している状況。厳格な定義はないかもしれないけど、連邦レベルでは上院で(予算調整法を介した特殊な51票ベース以外の通常の法案可決に必要な)60議席を握っている状況と考えればいい。真っ二つに国民のイデオロギーが分かれがちな今の米国で上院60議席確保はなかなかのチャレンジなんで、ここでいうTrifectaは上院過半数で考えておく。これが具体的に意味するのは、税制改正は予算調整法を介してのみ可能ということ。予算調整法には10年間を超えて赤字になってはいけないとか多くの歯止めがあるんで調整が困難を極めるよね。ちなみにIRAもTCJAも予算調整法を利用して法制化されている。

さらにTrifectaになったからと言ってその党の多数や大統領府が希望する内容の法案を可決できるとは限らない。BBBAはその内容的に共和党の賛成は1票も想定されてなかったんで、民主党は上院で1票も失えない状況だった。長期に亘る党幹部の説得にもかかわらずManchin、Sinema両上院議員が首を縦に振らず結局、Skinny Downバージョン(って言ってもまだ巨額の歳出)になったIRAに落ち着いている。ちなみにManchinもSinemaも民主党を離脱しIndependentになり、今回の選挙には出馬していない。Manchinは一時第三党(No Label)の大統領候補になるんでは、っていう憶測があったけど結局、No Label自体徹底的に潰されてしまった。共和党も2016年にはTrifectaを実現し、「オバマケア廃案」と「減税」に着手したものの、党内調整が難航し「オバマケア廃案」は結局は失敗に終わっている。減税も当初の法人税15%で完全なテリトリアル課税でSub F廃止、または法人税とは言え消費税に近いDBCFTに全面置き換え、等の野心的なアイディアは頓挫し、既存の法人税にオーバーレイする形でTCJAになっている。

トランプ政権下の税制および経済ポリシー

トランプが当選した場合、どんな税制になるかは共和党がTrifectaを実現できるかどうかに掛かっている。民主党が2020年から2年のTrifectaをフルに活用してインフレ覚悟で巨額歳出を伴うIRAを通したのを目の当たりに、共和党幹部的には前回の2020年から2年のTrifecta時にそのメリットを十分に活用できなかった反省があり、「今度こそ」という勢いで新人も少なくない議員に予算調整法の枠で可能なこと、そうでないこと、等のトレーニング中。「Team of Vipers」っていうノンフィクションを読むと2020年時のオバマケア廃案を目指してた時代のホワイトハウス内のダイナミクスが垣間見えて面白い。ただ本や報道は全てそうだけど、著者の視点・イデオロギーに基づく描写っていう点は常に忘れないように。

トランプは規律に基づく強固な信念に基づくポリシーがあるっていうよりも、小さな連邦政府・再度強い米国っていうテーマ内で場当たり的なアイディアが多い。ベガスの集会で急に「チップ(半導体ではなくサービスに対して手渡すTipのこと)は非課税」とかシニア層には「公的年金受給は非課税」とか言い出したり、「法人税は20%っていうのが数字が丸くていいね」とか「15%なんかどうか?」とか、終いには「所得税は撤廃して代わりに関税で歳入を上げる」とか英語で言うところの「All over the place」。

ということで、次回のポスティングではこれらのトランプが「思いついた」アイディアの検証と小さな政府に期待するシンクタンク等の非公認アイディアに触れてみたい。

Sunday, July 21, 2024

2024年11月米国選挙と2025年TCJAクリフ (3)

ええ~、つい数時間前に反乱を起こしてる民主党議員とバイデン推進一派との確執でバイデンが持ちこたえるかどうかはここ数日が勝負ってポスティングしたけど、その間にバイデンやっぱりDrop-OutっていうBreaking Newsが入ってきた。数時間の勝負だったんだね。

で、後任に注目が集まるけどテクニカルには白紙撤回。バイデンは副大統領のハリスを支援表明。ただ副大統領だからって自動的にバイデンの後任になる訳ではない。他にも以前から噂されてた左翼州知事たち、ミシガンのウィトマー、イリノイのプリツカー、カリフォルニアのニューサムとか。バイデンが集めた選挙資金はバイデン・ハリスチケットで集めたものなんで、ハリスであれば全額自由に使えるとのこと。他の候補者になる場合にはそうはいかない。下手すると返金?

税務面では誰になってもバイデンと大差ないだろう。取り急ぎ。

2024年11月米国選挙と2025年TCJAクリフ (2)

前回のポスティングで触れた通り、天の神様の言う通りシュシュシュのシュで今回から2024年米国選挙とその後の税制やM&A動向に関して軽く特集することにしたんだけど、夏になったのをいいことにNYC、中西部、フロリダ、西海岸、日本とか各地でかまけてたらあっという間に1か月経ってしまった。

その間、6月27日にはアトランタでトランプとバイデンの大統領ライブ討論会があったけど、皆様もご存じの通りバイデンは支離滅裂。テレプロンプターで側近が書いた台本を読まないとまともな話しができない実態を世界中の人々に露呈してしまった。実際にはテレプロンプターがあっても棒読みしてるだけなんで、台詞を読むばかりでなく「演出その他の説明」もそのまま読んじゃったりする。これは冗談ではなく「ここでチョッと休止(Pause)」、「ここで引用終わり(End of Quote)」「人物の姓(Last Name)」とかをそのまま読むんで痛々しいというか聴いてる方が苦しい。

NATOサミットに至ってはウクライナのゼレンスキー大統領を紹介する際に「それでは皆様、強固な意志を持って勇敢に戦うウクライナ大統領、「プーチン大統領」をお迎えしましょう(「 I want to hand it over to the President of Ukraine, who has as much courage as he has determination, ladies and gentlemen, President Putin!」)」(苦笑)となってしまった。その後の会見ではハリス副大統領にかかわる質問に「私はトランプ副大統領にはいつ大統領になっても任務を遂行できるという完全な信頼を置いているからこそ副大統領に選んだのだ(I wouldn’t have picked Vice-President Trump to be vice-president if she was not qualified to be president)」とかもう無茶苦茶。人間、誰でも間違えはあるけど、ウクライナの大統領を戦争相手ロシアのプーチンって呼んじゃったり、自分の副大統領を対戦相手のトランプって間違えちゃったりするのは間違いの鉄人領域。Deep PurpleのギタリストをJimmy Pageとか余りに違い過ぎて間違いたくても間違えられないもんね。

で、散々な結果に終わったライブ討論会直後から民主党内にはバイデンでは不味いのではないかっていう声がちらほら出てきた。この展開に関して逆に不思議なのは、そんなことは前から分かってたことで大統領選候補を正式に任命する民主党全国大会やオハイオ州のルールの関係でその前にオンラインで指名するタイミング間近のこの期におよんで急にパニックになってる点。日頃からバイデンと接してるホワイトハウス側近、民主党幹部や党OB重鎮達は日常のやり取りその他からバイデンの支離滅裂ぶりは既に百も承知のはず。バイデンと接した外国の首脳からも懸念は漏れ伝わってきてた。にもかかわらず4年間に亘りその実態を国民にひた隠しにし、ホワイトハウスのプレス担当のKJPは討論会前まで「バイデンは機転が利き過ぎてて私でも付いていくのが大変なくらい…」とか記者に回答してた。KJPは50歳くらいで頭の回転も早いんで彼女が付いてけないはずはなく記者対策のスピンなんだろうけど。トランプ政権時代のケイリーとかもそうだけどプレスに吊るしあげられるからあのポジションも大変だよね。もちろんケイリーを責めるのはCNNやMSNBCで、KJPを責めるのはFox。分かり易いね!

で、ここ数週間の民主党の動きを見ていると、じゃあ討論会で実態が露呈されなかったらそのまま党一致でバイデンを大統領候補に指名してたってことになる。バレなきゃよかったってことなのかな?国民主権はどこに?

でも民主党はテレプロンプターがないと話しができないような人物をなぜ大統領にしたがってたんだろうか。副大統領、左翼州の知事数名、他に能力のある候補はいるだろうに。一般市民ではそんな真相は知る術もないけど、バイデン本人に判断能力がない方が反って裏から操り続け易くて、それを利用して利を得ることができる一派がいるって考えるのが自然だよね。それが奥さんのジルや妹のバル、息子のハンターとかのファミリー系なのか、オバマ時代からのブレーンのアニタやロン、議会対策のスティーブ(リチェティ)、Chief of Staffのジェフなのか、はたまた思った以上に過激な急進派政権になった点を評価し今後も同路線で行ってくれることを期待してるであろうマルクス・社会主義のバーニー一派なんだろうか。

失態が国民にバレて自分たちが選挙でとばっちりを食らっては溜まんないって心配し始めたSwing Stateの民主党議員とバイデン推進一派との確執が浮き彫りになる中、バイデンが持ちこたえるかどうかはここ数日が勝負だろう。民主党は自分たちが勝たないと「民主主義が終わる」って黙示録のように主張するけど、選挙で負けたらそれはそれで国民の判断なんで単に民主党のポリシーに国民が賛同していないってことで民主主義そのものは機能していることになるはず。それとも国民は良く分かってないからより優れた自分たちが一党支配的に権力の座に付いてないと民主主義じゃなくなるってことなのかな?何だかチョッと変だよね。

僕の周りを見ても両党や両候補者に嫌気がさしている中庸な一般市民は結構多く、第三の党(No Label)の立ち上げに期待してた向きもあったけど、これもつぶされてしまった。国民主権はどこに(Reprise)?

民主党がバタバタしてると思ったら7月13日にはトランプ暗殺未遂。屋外ラリーで演説中に130メートル離れた屋外会場の近くにある平屋建て倉庫みたいな建物の屋根からライフルで撃たれ、たまたま不法移民の数の説明をしてて会場のスクリーンに投影されたチャートの方を見るため横を向いた瞬間だったので弾は右耳上部を貫通したけど、頭を動かさなかったら頭蓋骨を直撃だっただろう。犯人はその場で別の建物の屋根に居たSecret Serviceに射殺されたけど、トランプが話しているステージの僅か130メートル先の建物のビルがなぜ無防備だったのか謎は多い。例によって「票稼ぎのやらせだったんでは」とか「Secret Serviceもグルだったんでは」とか根も葉もない陰謀説が流布中。

トランプ暗殺に関しては元Foxのタッカーが以前からそのリスクに警鐘を鳴らしてた。タッカー曰くトランプの存在自体を許せない一派は「今ではでっちあげだったとされるロシア疑惑、弾劾裁判2回、多くの訴訟、刑事罰確定」とこれでもかこれでもかと総力を結してトランプ潰しにかかったけど、その都度Surviveするばかりか国民の支持は高くなるばかりで、「残された手段は…」というような話し。未遂とは言えまさか本当にそんなことが起こるとはね。

過去にもリンカーン、JFK、未遂ではレーガン、とか米国には暗い過去があるけど、今回の事件は「起こってもおかしくない」って前から噂されてた点が米国の国としての質の低下を反映してる気がする。僕が最初に米国に来た頃(相当昔でブッシュシニアの末期・ビルクリントンの幕開けの頃)「この国は凄い」と思った理由の一つに「国民が意見を戦わせてDisagreeしても共存している大人の国」っていう点がある。時間はかかるかもしれないけど国民が良しと思う政策を実行してくれる議員(特に州レベル)を選挙で選び州や国の方向を決定していくっていう本当の民主主義だ。 有名なところではイデオロギー的には真逆なレーガン(80年代の大統領で共和党)とオニール(その当時の下院議長で民主党)とか、最高裁判事で憲法解釈に対するアプローチが逆のスカリアとギンズバーグが好例。喧喧囂囂の議論の後は貴重なFriendship関係にあったっていうからね。トランプとバイデンとかでは考えられない。日常生活でも意見が合わないからといって直ぐに相手の人格を否定したり、増してや暴力に訴えるなんて奴は「Civility」に欠ける幼稚で最低っていう雰囲気が漲っていた。

今の米国はだいぶちがっちゃってるよね。意見が合わない相手は力や暴力を使ってもやっつけないといけないみたいなアプローチが是認されてる感じ。しかもそんなアプローチはフリンジなOutlaw一派が提唱している訳ではなく、ポリティシャン、メディア、エリート大学を含む広範な支配階級にも蔓延している感がある。ポリティシャンのここ数年の言動は冷静な議論を奨励しているようには見えず、むしろ過激になる一方。反対意見が通ると「民主主義が終わってしまう」ので、手段は問わずに押さえつけるみたいな怖い雰囲気だ。30年前に感じた米国、イデオロギーや意見が違っても相手をRespectするカルチャーはどこに?

この現状は民主主義のリーダーだった国としてはとても嘆かわしいことだ。どんな意見が正しいかっていう点に必ずしも確固たる答えはなく、民主主義である限り全会一致はあり得ない。選挙を通じて選ばれた議員が議論を尽くした結果法律ができてるんだったら例えその内容に賛成できなくても納得感があるはず。それが民主主義、Civilityだったはず。歴史が証明するようにCivilityを失った人・社会はもろい。国としてこの点を是正しないと米国も先が危ない。そんな時はまずは国のリーダーがお手本を示すべき場面。特に年齢を重ねてるんであればそれをメリットとして若造にはマネができない高尚なレベルで戦ってもらいたいところ。それがバイデンとトランプじゃね~。

で、暗殺未遂から2日後の7月15日には共和党大会で副大統領候補にJDバンスが任命された。JDバンスの名前は初めて聞いた読者の皆さんも多いのではって思うけど、彼はオハイオ州の小さな街に生まれ貧困その他の恵まれない環境で育ったそう。高校卒業後、米国海兵隊でイラクに行った後、オハイオ州立大学卒。フル奨学金でYaleのLaw Schoolに行き、政治活動、Law Firm、そしてVenture Capitalで一旗揚げてシリコンバレーの大御所、Peter Thiel, Eric Schmidt, そしてネットスケープ(!)のMarc Andreessen等と関係を築く。2022年には上院議員にオハイオから出馬し当選。っていうアメリカンドリームを地で行く人物。生い立ち的にSwing Stateの中西部州一般市民とコネクトできるのは強み。彼の生い立ちや苦境は自叙伝「Hillbilly Elegy - A Memoir of a Family and Culture in Crisis」で知ることができるんで興味があったら軽く読んでみると面白い。

ただ、JDバンスは税制や規制緩和面からは疑問が残る人選。個人的にはトランプ独特の規律が欠けるっていうかランダムな意思決定を露呈してるように感じてしまった。経済界からは経験豊富なNorth Dakota知事のバーガム、国家統治面からはWest Virginia知事のヤンキンとか、トランプにはない「大人」感のある監督・監視ができる人物の登用を期待してたと思うんだけどね。同じ経済界でもテックと金融では受け止め方が異なるかもね。JDバンスの税制感は後日。

前置きでこの一か月を軽く振り返るつもりだったけど余りに多くのことがあり長くなってしまいました。まだまだ11月までFake Newsを含む多くの出来事があるだろう。毎日の生活に影響がある政策論以外は余り知ったりかかわりたくないって感じてる一般市民も多い。

本題の税制動向だけど、バイデンのポリシーは予算教書とかで分かる通り増税。MMTとか言ってとんでもない額のお金を使ってしまいインフレ・金利高を招き、今や国の借金に対する利払いが国防予算より多いというお粗末な状況で歳入はいくらあっても足りない。一方のトランプは?っていうと例によって「Who Knows...」的な世界だけどここから次回。

Sunday, June 23, 2024

2024年11月米国選挙と2025年TCJAクリフ

前回FIRPTA規則最終化速報を終えて今日から新トピック。米国タックスの世界は話題が恒常的に盛りだくさんでポスティングに値するトピックは常にOverloaded。Overloaded過ぎてDown the drainになっちゃうと「Somebody Get Me a Doctor」の世界になってまた超カッコいいギターソロとかの話しで長くなるんで自制しとくね(安心した?)。

で数多くのトピック候補から「Short List」を作ってみた。まず判例から列挙すると、YA Global(オフショアLending FundとECI)、Liberty Global(Economic Substance Doctrine(「ESD」))、Moore(一番最近の最高裁判例で2017年の留保金一括課税Transition Taxの合憲性)、Soroban(ファンドマネージャーがLPSとして組成するInvestment Management Vehicle LPSのLPとして受け取る報酬に対するSelf-Employment Tax(日本の国民保険みたいなもの)免除是非)、などが頭に浮かぶ。

行政府のRegulatory廻りでは、自社株買い1%懲罰課税(Excise Tax)を外国親会社が本国で自社株買いしている際に米国子会社に懲罰課税に適用しようとする超訳分かんない「Fundingルール」。

三面記事っぽいトピックの筆頭はトランプ再登場でメインストリームメディアが興奮しまくってこれでもかって報道を続ける11月の選挙とその後の税制の行方、大谷選手の報酬ストラクチャーと課税繰り延べ、IRS職員による富裕層の申告書リーク、などなど。

どれにしようかな?

結局は天の神様の言う通りシュシュシュのシュなんだけど、結果をお伝えする前に主要なShort Listトピックを簡単にWhirlpool的にツアーすると次の通り。

YA Global

まず「YA Global」。これはインバウンドPracticeに従事して長い僕としてはいつか語らずを得ない「Must」トピック。米国内のDirect Lending(Loan Origination)は直ぐにUS Trade or BusinessになってFeeや利子所得がECIになりがち。YA Global自体はケイマンのオフショアファンドで外国人LP用Vehicle。例によってスポンサーが米国に所有するInvestment Management Coが存在し、オフショアファンドに代わってLoan Originationをしてた。YA Globalやオフショアファンド一般に限らずファンド自体に従業員なんかもちろんいないファンドの世界に共通のストラクチャーだ。で、どんなLending活動がどんな基準でUS Trade or Businessになるのかっていう点に裁判所がどんな指針を提供してくれるかって興味津々で、ファンドCommunityやLegal Advisorに間では「初のLendingケース!」っていうことで裁判所の法解釈を首を長くして待ってた。YA Globalケースの争点となった事実関係は2006年~2009年だからそろそろ結果知りたかったよね。

YA Globalの投資Thesisやストラクチャーは今日のLendingファンドとは異なり結構Extremeな事実関係だったんで、結果としての敗訴はLegalコミュニティー的には覚悟済みだったって言えるけど、判決ではAgency、US Trade or Business、ECI、ペナルティ、おまけに475のDealer認定までBlow-by-blowで全敗。ただ意外かつ超ガッカリだったのは「どんなLending活動がUS Trade or Businessになるか」っていう肝心の議論はなく(判決文ではその検討は不要とすら位置付けられていた)、サービスFeeを受け取ってるんで何らかのサービスが提供されたに違いにないっていう逆説的なアプローチでUS Trade or Businessが認定されてた点。何らかの活動がUS Trade or Businessになり、そこにEffectivelyにConnectしてる所得がECIっていうのが法的なフレームワークなんで何回読んでも違和感が消えない。

その他の判例

Liberty Globalは、古くからのCommon Lawを条文化して今日に至るESDはReorganizationやEntity Classificationには適用がないっていう立法趣旨があるにもかかわらず、条文のRelevanceテストを逆さに適用してESDを適用し、$2.4Bに上る課税所得の認識が必要っていい渡した超ショッキングピンクなケース。YA Globalと共通して法律の適用法が逆説的でビックリしたけど、両社共に社名に「Global」ってついてるのが偶然だけど面白いよね。これらの判例のLessonは社名にGlobalってついてたら至急改名が望まれる?っていう点かもね。ちなみにYA GlobalはTax Courtケース、Liberty Globalはコロラド地裁ケースなんで納税者により控訴審に持ち込まれる。More to comeだ。

Mooreは判決の具体的な争点そのものは2017年の留保所得一括課税(テクニカルにはSub F課税のTransition Tax)が所得のRealizationを前提としている連邦憲法に違反するという納税者の訴えを最高裁が7‐2で却下したもの。違憲になってたらTransition Taxの還付、パートナーシップやS法人の課税の合憲性その他に多大な影響があった。ただ、民主党急進派は「Realizationがなくても合憲ってことはその延長でWealth Taxも合憲」って拡大解釈するリスクが多くその点からも注目を集めてた。最高裁の主たる判決文では今回の判決はWealth Taxを認めるような意図はないって釘を刺してるけど、Wealth Taxの是非を問う判決じゃないんであくまでDictaに過ぎず、今後も議論は続きそう。Mooreそのものは最高裁判決なのでFinal。

自社株買い1%懲罰課税とFundingルール

これは語りだすと長いけど、2023年に公表されたNoticeで展開された訳の分からないPer Se Fundingルールに「SignificantなModification」を施し、化粧直ししたFundingルールが財務省規則案に盛り込まれた話し。そんな規則策定権どこにあるの~とか法律を書き換えてるとか大不評なんで最終規則でどうなるでしょうか。

そして勝者は?

日本企業に対するインパクト的にはYA GlobalとFundingルールかな、って思う一方、最近取材とかクライアントからのカジュアルな質問に対応してて、やっぱり皆さんの関心が高いな~って感じざるを得ないのは2024年選挙と選挙結果の税法動向インパクト。たまに「トランプとバイデンどっちが当選しますか~?」みないな質問もあって面食らうけど。僕は占い師じゃないからね。ただ、選挙結果次第でアメリカは全く違う国になるのは確か。ってことでまずは2024年選挙と税法、そしてそれが終わったらYA GlobalのDeep Dive。Fundingルールは規則最終化時に廃案になってるかどうかで特集ってことにしました。このポスティングのタイトルでバレバレだった?。これらだけで今年も終わりそうな勢いなんであんまりVan Halenとかで盛り上がらないように要注意だね。

それでは早速次回のポスティングから2024年選挙特集。

Sunday, May 19, 2024

FIRPTAアップデート(QFPF規則最終化)

前回のポスティングではつい先日最終化されたFIRPTA関係の規則のうちREITがDC REITかどうかを判断する際の米国法人株主の取り扱いに触れた。規則では同じくDC REIT判断時のQFPFの取り扱いも一部最終化してるんで今回はQFPFの取り扱いに関してチラッと触れておきたい。

規則案のQFPF関係の規定に関しては「FIRPTAアップデート(DC REIT、外国政府、外国ペンションファンド規則案 (9))」および「(10)」で特集してるけど、そのうちDC REITの判断目的でQFPFはどこの国の人?っていう部分が最終化されている。一方、QFPFであると同時にsection 892の恩典を得ることができる外国政府に適格となる主体が、USRPHCになってもCCEにならないっていう有難い規則案は別途最終化するらしい。このルールの方がより早く最終化されるよう願ってるんだけどね。

QFPFの国籍

以前のポスティングで触れた通り、PATH Actを修正した2018年のTechnical Corrections Actにより、QFPFはFIRPTA規定目的(for purposes of section 897)では外国法人にも米国非居住者個人(NRA)にも当たらないって規定された。これは行政府が策定する財務省規則ではなくIRCの「条文」だ。IRCは憲法上のSubreme Lawのひとつ。ということは問答無用にFIRPTA目的ではQFPFは米国人扱いなんだよねって言うのが自然の解釈。すなわち米国内税法の定義的には米国人と外国人って互いに排他的な関係にあるんで、外国人じゃなかったら米国人、外国人だったら米国人じゃないし、両方ってことはないはず。

で、FIRPTA目的全体でQFPFは外国人ではないって条文を文字通りそのまま解釈すると、QFPFのREIT持分は米国人が所有しているって取り扱う以外の余地はないように見える。QFPFはもちろん実際にはDomestic Corporationじゃないんで限定Look-throughルールの適用もないだろうし。となるとDC REIT適格判定時には納税者有利な結果となる。

ところが規則案ではこの点に関してDC REIT判断目的ではQFPFは外国人と取り扱うと規定していた。すなわちREITがDC REITになり難くなるってことだ。ポリシー的に驚きはなかったんだけど、問題は条文にはそうは書いてない、って点で無理やり感が払拭し難かった。まあこじ付けられないこともないのかな~っていう理由は以前のポスティングを参照して欲しい。

最終規則のQFPF国籍

規則案には反対意見が多く寄せられた。財務省曰く一件だけ規則案に賛成という奇特なコメントがあったそうだ。反対意見は予想通り、条文の文言でクリスタルクリアな規定に関してポリシー的な見地から異なる解釈を規則という形で強制するのは行政府の規則策定権逸脱というもの。財務省はいろいろと理由を列挙して合意できないとし、結局規則案のQFPFはDC REIT判断時は米国人扱いっていうポジションで最終化された。QFPF自体はFIRPTA免除なんでDC REIT株式譲渡益免税の恩典有無に影響は受けないけど、QFPFが投資しているREITの他の外国人投資家にはバッドニュース。

ということでFIRPTA規則最終化速報でした。Van Halenの話しとかないから短かったね。次回は新トピック。何になるでしょうか。

Sunday, May 5, 2024

FIRPTAアップデート(DC REITのC CorporationのLook-throughルール最終化)

2023年の前半に「FIRPTAアップデート(DC REIT、外国政府、外国ペンションファンド規則案)」シリーズでFIRPTA、ECIやREITに関してかなり突っ込んで特集した。2023年がFIRPTA三昧になったキッカケは2022年12月末に公表されたDC REITやQFPFの規則案だったけど、その規則案がつい先日最終化されたんで簡単に触れておきたい。

DC REIT

今までの経緯を軽くおさらいしておくと、DC REITは「Domestically Controlled」REITのこと。REITがDC REITになるかどうかがなぜ重要かって言うと、REITそのものが所有する米国不動産持分が全資産の50%以上でも、すなわちREIT株式が通常であればUSRPIになる場合でも、「DC」REITになるとREIT株式自体はUSRPIにならないから。っていうことは外国人がPassiveにDC REIT株式に投資している場合、その譲渡益はFIRPTA課税の対象にならないことになる。外国人にとって米国でどんな所得が課税で、何が非課税かに関しては「FIRPTAアップデート(DC REIT、外国政府、外国ペンションファンド規則案 (2))」前後のポスティングで比較的詳しく書いてるんで見てみて欲しい。

DC REITは「直接・間接に「外国人」が50%未満の価値を所有しているREIT」って定義される。「Domestically Controlled」かどうかを判断する際に「米国人が支配しているか」ではなく、「外国人が支配していないか」っていう点が唯一の検討になる。「結局おんなじことじゃん」って思うかもしてないけど、米国人、外国人のどっちを引き合いにDC REITを定義するかで、間接持分にかかわるプレッシャーの方向が変わる。条文通り、「外国人」が直接「または」間接に50%未満の価値ベースでDC REITになるかどうかを判断する際、直接と間接を接続しているのは「Or」というDisjunctiveなんで、グラマー的にどっちでもOK。これが外国人にかかるっていうことは「外国人が直接持ってたらそれをもってその時点でアウト」、「米国人が直接持っててもそれを間接的に外国人がもってたらそれもアウト」、ってことになる。条文のこのさりげない表現、規則案や最終規則の限定Look-throughルールのお膳立てみたいで良くできてるね。

株式所有者は誰?

「直接・間接に「外国人」が50%未満の価値を所有しているREIT」をDC REITだとすると、当然のことながら誰が株式所有者かを正確に特定する必要がある。「そんなの持分が関係する規定ではいつもやってて当たり前で簡単じゃん」って思うかもしれないけど、米国税務上、株式所有者の特定は各適用条文や状況次第でルールが異なっていて、実は深淵な分析となる。DC REITの定義では「直接」持分と「間接」持分で見るけど、他の結構多くのケースで「みなし」持分も加味する必要があるんで込み入ってくる。みなし持分にはUpward Attributionに当たる間接持分が含まれるんで、みなし持分と間接持分双方のルールで同じ者を所有者にすることがあるけど、場合によっては各々のルールで当所有者が所有していると取り扱われる%が異なったりするんでややこしい。また大前提として所有者は「Beneficial Owner」のことで、Agent、Custodian、Nominee等が法的に名義人になっていてもPrincipalやBeneficiaryが所有者となる。

持分ルールの話し、さわりだけでも真面目に話し始めるとそれだけで「大」特集になるんでここでは超表面的に触れておく。例えば米国法人が連結納税グループに属すかどうかはsection 1504で「直接」持分のみ80%で判断する。同じくsection 332で非課税清算になるかどうかの親子間の80%持分も「直接」持分のみ。法人による株主への分配が税務上「Distribution」になるか「Redemption(Exchange)」になるかは会社法や会計の取り扱いにかかわらず税務上はsection 302で、分配前後の株主の株式持分の意味のある低下有無(Safe Harbor含む)で決まるけど、その際の持分は直接持分だけでなく広範な「みなし」持分も加味される。これが理由で日本企業グループの米国子会社がグループ内で株式償還、有償減資、優先株式償還、等を行うと米国子会社のE&Pの範囲で配当になる。Section 302のみなし持分は特定の要件下で家族メンバーにかかわるみなし持分は不適用とか例外もあるけどね。

Section 302と「Kissing Cousin」の関係にあるsection 304もみなし持分を適用して「Control」を図るけど、304には家族メンバーにかかわるみなし持分不適用のような除外規定はない。さらに法人の50%以上の持分を持つ株主は当法人が直接、間接、みなしで所有する株式の自己持分ポーションを所有しているって取り扱う一般的なUpward Attributionに関して、section 304目的では5%に引き下げられる。同様に法人の50%以上の持分を持つ株主が所有する株式は当法人が全て所有していると取り扱うDownward attributionもsection 304目的では同じく5%基準に引き下げられる。

クロスボーダー関係ではもちろんsection 958の持分規定!Section 958はCFC課税適用時に特定の米国人が「U.S. Shareholder」に当たるか、その結果、外国法人がCFCになるか、等の判断時に登場する持分規定。Section 958はその中に直接・間接だけ見る部分と、プラスでみなし持分も見る部分の2つで構成されてて慣れないと使い分けで混乱するかも。Section 958(a)と(b)だ。Section 958は複雑だけど、今回、section 958の特集をしている訳じゃないんで、敢えて簡便的に触れておくと、(a)は直接持分を見るのが原則で、米国人が「外国」主体(法人、パートナーシップ、信託、遺産)を所有している場合にはそれらの主体が所有している株式に関して間接持分も見るっていうルール。(a)はCFCからGILTIを計算するためTested Income/LossやSub Fをいくら取り込むか判断時に使う。従来、米国の主体は米国人なんでそれ以上Look-throughするっていう概念はなかったんだけど、2017年税制改正後に出た規則でTested Income/LossやSub Fの合算計算目的では米国パートナーシップもLook-throughすることになってる。(b)は直接・間接持分に加えてフルに「みなし」持分を加味するのが原則。(b)は特定の米国人が「U.S. Shareholder」か、US Shareholderが特定されたらそれに基づき外国法人がCFCか、の判断時に適用される。(b)のみなし持分の適用に関して2017年以前は「Downward attribution」は不適用とされていたけど、2017年税制改正で一転Downward attributionも加味されるようになり、世界中がCFCだらけになった。例えば、日本親会社が100%米国子会社を所有していると日本親会社が50%超所有する日本を含む米国外の法人は全てCFCになる。米国子会社がペーパーカンパニーでもルールは適用され、日本国内や欧州に大きな子会社を持ってたりするとそれらの子会社はCFCになる。

「ええ~じゃあうちの杤木の製造子会社は米国のCFCだったの~?」って驚くかもしれないけどその通りなんだよね。ただ外国法人がCFCになったところで、上述(a)の直接・間接持分がなければTested Income/LossやSub Fを合算する株主ではないんでCFC課税の対象になる者はいない。言い換えると、みなし持分のみ所有している株主は(a)の合算株主じゃないんで大きな実害はないことも多いけど、合算計算外の「CFCじゃダメ」っていう規定、例えばPortfolio Interest Exemptionとか、には思わぬ悪影響がある。ちなみに栃木って言うのは意外感を強調するために用いた一例で深い意味はなくて宮崎でも長野でも大連でもオランダのEindhovenでも全く変わんないからね。

所有者の特定に加え、ルール毎に株式所有%を価値で見るのか、議決権で見るのか、両方見るのか、Eitherなのか、がまちまちでこちらも要注意。また優先株式がどんな条件で加味されるか、云々も細かい規定があって例によって「たかが持分、されど…」の世界でした。

それでは本題のDC REITの所有者は誰になるんでしょうか?

規則「案」の限定Look-through

この点に関して2022年12月末に公表された規則案では「Non-Look-through所有者」だけをREIT株主として取り扱うとしている。すなわちREITがNon-Look-through所有者に「直接」所有されている場合はその時点で所有者の特定は最終で、Non-Look-through所有者が外国人か米国人かを判断する。 Non-Look-through所有者でない者、すなわち「Look-through所有者」がREIT株式を所有している場合、Look-through所有者の持分を所有する者の比率に準じて米国・外国を識別するとしている。すなわちLook-through所有者の場合はその上の所有者の間接持分を見るってことになる。当然だけど、Look-through所有者の所有者自身がLook-through所有者の場合、Non-Look-through所有者に辿り着くまで持分を紐解いていく必要がある。DC REIT所有者の判定にみなし所有者の概念はない。

で、Non-Look-through所有者は個人と一定条件を満たすC Corporation。この2つのタイプはパススルーじゃないんでそれはそうだよね、ってことなんだけど、C Corporationに関しては唐突な規定として外国人所有の米国法人(原文「Foreign-Owned Domestic Corporation」)に特別な取り扱いが規定されていた。すなわち、米国法人を含むC Corporationは原則Non-Look-through所有者だけど、濫用防止目的で外国人が「価値」ベースで25%以上所有する未上場(例によって正確にはRegularly Traded基準)の「米国」法人はLook-through所有者と取り扱うとしている。え~、C CorporationをLook-throughするって何それ~、って感じでビックリだったよね。さらに25%ってどっから来たのって感じで「何ですか、これは?」って感じの提案だった。C CorporationのLook-throughは外国法人には適用がないんで、例えばREITを直接所有する外国法人の株主が100%米国人でも、外国法人はNon-Look-throughなんでその時点でDC REITかどうかの判断目的ではPureに外国人が所有していると取り扱われる。DC REITになるのは米国人の所有者が必要なんでBad Newsだ。

規則案の「C CorporationをLook-through」するっていう財務省いうところの「限定」Look-throughに関しては「FIRPTAアップデート(DC REIT、外国政府、外国ペンションファンド規則案 (11))」および「FIRPTAアップデート(DC REIT、外国政府、外国ペンションファンド規則案 (12))」で詳細に触れたんで読んでみて欲しい。

最終規則の限定Look-through

米国C CorporationをLook-throughするっていう規則案には、多くの反論や疑問がパブコメとして財務省に寄せられた。立法趣旨に反する、条文の文言に反する、わざわざ他の外国人投資家がラッキーするためにフルに課税される米国法人を介してREITに投資するおめでたい外国人はいないんでLook-throughの適用は関連者のケースに限定すべき、等いろいろな反論が展開された。財務省はこれらの反論は何一つ受け入れない、ってバッサリ。

その上で「とは言え、規則案の限定Look-throughはチョッとやり過ぎでコンプライアンス負荷も高そうだから25%を50%に引き上げてあげましょう」って親切っぽく緩和策で最終化するとしている。結果として最終的な限定Look-throughは「外国人が「価値」ベースで50%以上所有する未上場(正確にはRegularly Traded基準)の「米国」法人はLook-through所有者」ってことになる。財務省は、この親切な改訂で「Significantly narrows the scope of look-through treatment…」と自負するけど、narrowはその通りだとしてもSignificantかどうかは各々の受け止め方次第だよね。自ら「significantly」っていう主観的な副詞を使わないといけなかった辺りに苦労というか、実際には大してSignificantな緩和ではない点が読み取れる。自分の行動を不要に大げさな形容詞や副詞を使って表現している場合、実際には本人も大したことないって認識しているケースが多い。「50%以上」っていう基準はDC REITそのものの定義や米国法人がUSRPHCかどうかの判断時に適用される%なのでFIRPTAにおける判断%として最適としている。それらの50%テストとC CorporationのLook-throughの50%は全然背景が違うと思うけどね~。そもそもじゃあ最適なじゃない25%テストは何だったの~って感じ。とは言え、50%以上テストで最終規則化されたんで法的な拘束力を持つことになる。不満がある場合、追徴を受けた者、すなわちStandingのある者、が裁判所に「規則は条文と不整合で行政府による規則策定越権行為」とかで訴訟に持ち込むくらいが考え得る対抗策だろうか。

DC REITのテスト期間と最終規則の効力開始日

最終規則は原則、規則が官報に記載された日から効力を持つとされている。ただし、DC REITにかかわる米国C CorporationのLook-throughルールには例外が規定された。

上述のDC REITの恩典、すなわち外国人が長期投資所有のDC REIT株式を譲渡してもFIRPTAの対象にならないんで米国で非課税になるっていう恩典、を得るにはDC REIT株式譲渡時点で過去5年間を通じてREITがDC REITの条件を満たしている必要がある。すなわち過去5年間を通じてREITは「直接・間接に「外国人」が50%未満の価値を所有している」必要がある。となると今まではC CorporationのLook-throughルールなんて誰も知らなかったにもかかわらず、この新ルールで「あなたは過去5年間を通じてDC REITではありませんでしたね」ってなってDC REITの恩典が否認されることになる。規則案はこの点に関して理解を示さず、規則が最終化された暁にはその後のDC REIT株式譲渡のFIRPTA恩典有無を判断する際の5年テスト期間が規則施行日以前の期間に属してても関係なく新ルールでDC REIT適格判断を行うと「つれない」宣言をしていた。

この点に関してはC CorporationのLook-throughルールそのものに対する反論以上に強い反対意見が殺到していた。大概「実質、過去遡及で到底認められない」っていう趣旨で「C CorporationのLook-through自体何の根拠もなく撤回するべきだが、百歩譲ってLook-throughルールを採択する場合には最終規則の施行日以降に開始するテスト期間のみを対象とするべき」というCollateral議論が多かった。また、コメントには制度移行措置の例が複数示唆されていた。

25%にしても5年のテスト期間の取り扱いにしても規則案で極端に挑戦的なポジションを提示していたのは、最終規則でこれらの点に譲歩して見せて元々落としどころって想定されてたポジションにソフトランディングさせる作戦?って思えてしまう。最初から50%って言われると25にしても50にしても80にしてもそんな%は条文には一切規定されてないんで「それはないでしょう~」ってなるところ、25%から始まってると「50%だったらいいね!」っていう感じになるからだ。

で、最終規則ではテスト期間に関して、従来のルール、すなわち米国C CorporationのLook-throughルールは加味しないルール、でDC REITだと思って投資していた外国人にLook-throughルールで予期せぬ課税が生じるのはさすがに気の毒なので既存のストラクチャーは今後10年に亘ってC CorporationのLook-throughルールの適用はお預けにするっていう制度移行措置を規定している。規則案のAggressiveな規定とは打って変わって最終規則は合理的だ。

この制度移行措置の適用を受けるには、多額のUSRPI新規取得または所有者の構成に大きな変更がない点が条件となる。何をもって多額のUSRPI新規取得になるかって言うと、最終規則施行日にREITが直接・間接に所有するUSRPI時価の20%を超える時価のUSRPIを取得する場合。

所有者の構成の大きな変更は、最終規則施行日後のREIT持分変動を見て、変動時点のNon-Look-through所有者各々が価値ベースで所有する直接・間接持分%が、当Non-Look-through所有者が最終規則施行日に所有していたREIT持分所有%からの増加%ポイント合計が50%超になるケース。この条文、section 382チックで難しいよね。Non-Look-through所有者のREITに対する持分%そのものの増加が合計でREIT持分の50%超になったかどうかをテストすると読めるんで(「increase by more than 50 percentage points…」)、Non-Look-through所有者の持分が最終規則施行日の1.5倍(50%増)になったかどうかっていうテストではない。また「…by such non-look-through persons」の部分は最終規則施行日以降にREIT持分を所有しているNon-Look-through所有者を意味すると思われ、その場合、最終規則施行日にREIT持分を所有していたかどうかにかかわらず、後日持分を取得したと取り扱われる者のREIT所有%を見て全体で50%ポイントの増加があったかどうかテストすることになる。最終規則施行日にREIT持分を所有していなければその時点の持分は0%で、その後取得した持分%分、REITに対する持分が増加したことになる。この持分50%テストの適用時には「米国C CorporationのLook-throughルール」をフルに加味する点も要注意。%テストなんで償還とかも影響がある。上場REITに関しては5%未満株主による譲渡はREITが譲渡詳細を実際に認識しているケースを除き無視。

で、多額のUSRPI新規取得や所有者構成に大きな変更がある場合、その時点からC CorporationのLook-throughルールが適用される。

FIRPTA系の話しではDC REITの定義と共にQFPFにかかわるルールも今回同時に最終化されてるんで次回はその辺りに触れてみたい。

Saturday, April 27, 2024

Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (最終回)

前回のポスティングでは「Ever changing mood」のKiller B変遷の新規則案の前座としては最後になる2016年Noticeに触れて今日は大トリ。 前々回(だっけ?)Van Halenのギターの話しをしたけど、そんな話しをしたんで急にいろいろと記憶がフラッシュバックしてて、あの後、ポスティングでも触れた「Unchained」とかBlastさせたりしてた。あの曲、Manhattanだとチョッと気分でないんでもちろんフロリダブルーのときめきで。

デビュー直後の絶頂期1979年に武道館で見たVan Halen。あのコンサートは要所要所今でも目に焼き付いてるけど、2016年Noticeが規則草案の前座だったように、P-MODEL(確か。子供バンドじゃなかったよね。チョッと記憶があいまい)っていう日本のバンドが前座で登場したはず。ジャンルが違うんで観客は結構「?」って感じだったけど、ようやく暗くなってDave Lee Rothが結構うまい日本語で「コンニチワ~」「マタキマシタ~」「Mighty Van Halen~」(笑)とかなんとか絶叫して登場。武道館は天井が爆発して落ちそうなくらいの大興奮に包まれた。もちろんEddie Van HalenがPicking HarmonicsプラスTremolo Armで「キュイ~ン」(分かるね?あの音)とか大音量のGuitarをランダムに弾いてて最初の30秒でオーディエンス全員完全に行っちゃってたね。

Electric Guitar弾いてた人は分かると思うけど、例えMarshallフルボリュームでやってもあの「キュイ~ン」って感じはEddie Van Halenにしか出せないんだよね。で、武道館のコンサートではその直後、いきなりOpeningの「Light Up the Sky」だったはず。まだUnchainedって曲は当時出てなかったからね。う~ん。あんな格好いいOpeningは後にも先にも見たことない。Van Halenより少し前に見たCozy Powellが入ったばかりのRainbowの「Kill the King」のOpeningも良かったけど、個人的にはVan HalenのLight Up the Skyが上を行ってた。Light Up the SkyのOpeningのリフ、EとB(もちろんTuningが半音下がってるんで絶対音感的にはEフラットとBフラット)で半音ずつ上がってくやつ。ベースが逆に下降してくんだけど、あれをあのリズムで正確に弾くって結構難しい。Guitarが半音上昇し切った後に本番のリフだけど、何気なく聴いてると単純に格好いいけど例によってテクニカルにはトリッキーな技が満載だ。Guitar Solo直前に急にペンタトニックっぽくなるBridgeでフランジャーじゃなくてPhase Shifter使ってるよね。Phase Shifterとか使いすぎると嫌味だけど、Eddie Van Halenは十分かつ必要な使い方してて流石。EVH 90とかEddie Van Halenの名前が付いたんで後から知ったんだけど、あれはMXRのPhase 90ペダルだったんだね。Unchainedで触れたフランジャーもMXR製でもちろんこちらもEVH 117 Flanger。Light Up the SkyのBridgeも当時動画とかなかったからレコード(プラスチックのやつね)からコピーしようと思ったんだけど聞こえてる以上に難しいんだよね。4回同じBridge繰り返すんだけど毎回チョッとだけ違う音がはいってたり基本8フラットから12フラットみたいな上の方で弾いてるんだけど、途中効果的に開放弦が使われる。しかも「お~開放弦混ぜたね!」とか全く分かんないんだよね、弾いてみるまで。でその直後のSoloはレコードよりさらにスピード感満載でカッコよすぎだった。

Light Up the Skyで完全にPass Out寸前になったところで2曲目は間髪入れずにナント「Somebody Get Me a Doctor」!!。Helter Skelter じゃないけど一回Pass Outして帰ってきてまたPass Out寸前。めちゃカッコいいリフで始まって、ああやって弾くんだ~みたいな程度にチョッと冷静に見れるようにはなってきてた。あの曲のソロってめちゃくちゃカッコよくてコピーしないと分かんないんだけど超難しいんだよね。特に途中でハーモニクスになる辺りのリズム超複雑でライブで見たらフラットの上下に動く手の速さとその正確さに愕然。で、Soloが終わってまたリフに戻るんだけど、レコード通り、4回目のリフの次に「どうやってこんな音出してんの~?」っていう「ペキペキペキペキ…」って下降してく部分があって(知っている人はすぐ分かるだろうけど、知らない人には何それ?ってなるよね)、ライブでもその通りにそれを再現してた。あれって左手で開放弦と多分2フレットと5フレットとかをZeppelinのHeartbreakerのソロみたいにPull Offしながら、右手は手の甲でミュートしてハーモニクス効果を出しながら下降させてあんな音出すんだよね。Eddie Van Halenが登場してくるまで存在しなかったRight Hand奏法はその頃にはすっかり知れ渡ってたけど、あのハーモニクスを使ったPull Offも今まで聞いたことがなかった。しかもカッコいいよね、あの音。同じSecond Album(伝説の爆撃機(笑))の1曲目の「You’re No Good」のSoloの前半でも同じ音が聞こえてて個人的にGuitar音色七不思議の一つだったんだけど、弾き方が分かって大収穫だった。今だったらYouTubeみれば直ぐに分かって夢がないんだろうけどね。

う~ん、あんなライブをこの目で見れて体感できたっていうのはラッキーで光栄で一生の思い出だけど、実際起こってる時ってそれがどれだけ貴重なMomentかって意識がないんだよね。今考えたらあんなにカジュアルに武道館行って、Van Halen見て、また飯田橋まで歩いて半チャンラーメン食べて国鉄(JRじゃないです)で家に帰る、って何ていう贅沢。タイムマシーンで戻って最初の2曲でいいからもう一回体験し直したい。歴史の凄い出来事ってそうなんだろうね。後から考えたらあの時凄かったね、とか。または実はあんな時がHappyだったんだな、とかね。そんな後から考えてHappyなMomentって必ずしもMiamiのBeachで横になってたりしてリラックスしてる時じゃないから不思議だよね。人によってもちろん違うんだろうけど、みんなにもあるんじゃないかな、そう言う感じ。例えば、前夜めちゃ忙しくて寝るの超遅くなって、でも翌日早朝に起きて家族のBreakfastとかLunch Boxとか用意してバタバタしながらコールに出て、ついでに犬の散歩、下のジムに慌てて寄るけどTreadmillは時間がなくていつもの半分しかできなかった~とか。そんななのにプロジェクト遅れ気味で怒られるとか。やってるときは「なんとかして~ヘルプ!」みたいなそんなMomentが実は後から考えると至福(?)のMomentだったりね。ということで皆さんもMinute by Minute(Doobie!)大切にして下さい。

で、最終回をいいことに冒頭から思い切り脱線してしまったけどKiller Bに戻りるね。じゃないと最終回じゃなくなるリスクがあるんで。

2016年Noticeによる規則改定案

2014年Notice以降に進化したKiller Bは以前にも増してテクニカルなものなんで、それに網を掛けようとしている2016年Noticeまたそれを基に実際に規則案化された2023年規則案の規定も必然的に高度にテクニカルなものになる。

まず、Priority規定で出し抜かれた点への対抗策アップデート。前回触れた通り、2014年Notice以降のKiller B+ではUSSが所有するT株式をFSがFP株式とTriangular Reorganizationで交換し、その際にGRA規定下、超少額のsection 367(a)所得を敢えて認識する。一方Killer B規則を見るとFSによる外国法人FPに対するみなし分配に源泉税はないし、FPを所有するUSPはLook-through例外規定でSub Fの認識がない。となるとKiller B規則の所得はゼロなんでSection 367(a)に軍配が上がる。さらにその後のFPのUSPへの統合時にFPのE&Pを全額USPの課税所得とするっていうsection 367(b)の規定もPriority規定でKiller B規則が適用されなければFPはFSから配当を受け取ってないんでFPにはE&Pはないってことで課税所得がない。またしても不適切にも程があるってことでPriority規定はターゲットTが米国法人の時だけ適用するって変更するとしている。ということはTが外国法人のケースはPriority規定にかかわらずKiller B規則が適用されるってことになる。上の例で言うとFSがFP株式取得対価としてFPに移管する現金やNoteはKiller B規則でみなし分配になり、FSのE&Pの範囲で配当所得となり、FPのE&Pが増える。Look-throughでSub Fから逃れたとしても、そんな状態でFPがUSPに統合されるとSection 367(b)に基づきUSPはFPのE&Pを所得として認識することになる。この所得認識によりUSPが受け取るFP資産の簿価継承は辻褄が合うことになる。この点は「Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (12) 」も読んでみてね。

一方、上の例ではUSSがT株式をFP株式と交換する取引がIndirect stock transferになるんで原則section 367(a)に抵触するはずだけど、2016年NoticeではKiller B規則に抵触するTriangular Reorganizationで米国株主が外国法人株式を外国法人に移管したと取り扱われる場合にはsection 367(a)の適用は停止するとしている。ただし、section 367(a)が適用されない代わりに、Tの株主はTのE&Pをみなし配当所得認識することになる。通常のsection 1248に準じてPTEPや米国源泉E&Pは対象外。で、こちらも通常のsection 367(b)のルール通り、みなし配当所得額に関する株式簿価の増額が認められ、簿価増額後に株式譲渡益の計算をする。Section 1248に似てるけど、チョッと違っててこのみなし配当や譲渡益認識は米国人株主やsection 1248株主でなくても適用がある。

これらのルールをKiller B+の上の例に適用するとTのE&PはT株式を移管するUSS等の手で課税され、FSのE&PはFP経由でUSPの手で課税されることになる。TにE&P以上の含み益があると超過分は譲渡益課税。Killer Bと最初に出会った頃はこんなじゃなかったのにこの頃はチョッと冷たいね、じゃなくて厳しいね。

Excess Asset Basis(「EAB」)

外国法人の資産が米国に適格清算や組織再編で移管されてくる際にE&P課税する主たる動機は、米国のタックスシステムに初めて登場する資産簿価に資本金、負債、課税済みのE&Pの総計でサポートされていない部分があると、そんな超過額は資産簿価のタダ乗りになるっていう点は以前に触れたし、上のFPの資産がUSPに移管されるKiller B+の例でも触れた。資本金も負債返済も税引き後の現金を利用しているって考えると米国で非課税の状態にある外国法人のE&Pさえ課税すれば、米国に移管される資産の簿価は適切に購入されていることになる。

Killer B+を見てこの点がとても気になったみたいで2016年のNoticeでは外国法人の資産が米国に適格清算や組織再編で移管されてくる際にE&P課税するルールを強化し、EABが存在する場合、一定要件下でEABを「Specified earnings」と指定しE&PにプラスでEABにも課税するとしている。このEABルールは必ずしもKiller B取引の後に実行される資産移管、すなわちKiller B+の「プラス」部分の取引、かどうかにかかわらずTraditionalなInbound資産移管全てが対象となるらしい。EABルール自体複雑だけど、上述の超過額が不適切っていう理論に基づいてて、EABは外国法人の「内部資産簿価」が「外国法人株式簿価合計額(ここは本来資本金になるはずだけどその代わりに簿価を適用)」、「外国法人の負債」、そして「E&P(PTEPや米国源泉E&Pは除外)」の合計を超える額。財務省も納税者に負けずに資産簿価に神経をとがらせてるね。

で、どんな金額がSpecified earningsになるかっていうと、いろいろ実際には細かいんだけどエッセンス的には、「米国に資産移管する外国法人が所有する外国子会社のE&P(PTEPや米国源泉は除く)」、「EAB」、米国に資産移管する外国法人株式の含み益」のうち一番小さい金額になる。

2023年Killer B規則案

前座P-MODELの演奏が終わり一回武道館が明るくなってワクワクして待ってたら会場が暗くなって凄い歓声の中、Dave Lee Rothの「コンニチワ~。マタキマシタ~」とEddie Van Halenの「キュイ~ン」でオオトリVan Halenが登場したように、ここで2023年Killer B規則案に至る。本当に「マタキマシタ~」って言うのがピッタリ。

2023年Killer B規則案は基本的に2016年Noticeを踏襲している。2016年Noticeに寄せられたコメントに基づき、EABルールは原則、Inboundの資産移管の前にSがTriangular Reorganizationに使用する対価となるP株式・債権をPから現金で取得しているにもかかわらずKiller B規則が適用されていないケースへの適用に限定。2016年NoticeはSpecified earnings算定時に「米国に資産移管する外国法人が所有する外国子会社のE&P」がEABと比較する対象の一つだったけど、その際にPTEPは除外されてた。2016年Notice後に留保所得一括課税(section 965)およびGILTIの導入でPTEPが爆発的に増額したため、この点に関して微調整があり、米国に資産移管する外国法人が子会社からPTEPを含む全E&Pを分配したと仮定し、この分配の課税関係を加味して計算をするっていう方法に変更されてる。

他にも細かいポイントはいくつかあるけどメジャーなのはこんなところかな。まだ規則案なんで最終化の際に更なる微調整があるかもしれないしね。ってことで長らくKiller Bにお付き合い頂きありがとうございました。次の物語は何にしようかな、って思ってたら昨年触れたDC REITの規則案がいきなり最終化された。他にもSWFっていうか外国政府系の話しも最終化されてるんで速報でひとまずそれをカバーして、その後にNew themeにしましょう。

Saturday, April 13, 2024

Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (12)

前回のポスティングではKiller B規則の2014年Noticeをカバーした。去年の10月に公表されたKiller B新規則案にトリガーされて書き始めたKiller Bシリーズ。2006年Notice、2007年Notice、2008年暫定規則、2011年最終規則、2014年Noticeまでカバーしてついに今日は新規則案の前座としては最後になる2016年Notice。トリ寸前だ。Killer BシリーズもますますFinal Phaseになってて寂しいよね。この感じって読み始めたら止められないタイプの面白い物語読んでる間、完全にその世界に入りこんでて物語が終わると今まで登場人物と一緒に暮らしてたのに誰も居なくなっちゃったみたいなのと同じ。世界広しといえども、Killer Bの話しが終わって寂しくなる人は中々いないって?そうだよね。まあ、次の物語読み始めると次の世界が展開されるように、ポスティングも次のテーマに移ったら直ぐ今度はそっちにハマるからいいね。Killer Bの次はどんなテーマになるでしょうか。

2016年Notice

難攻不落でSection 367(b)の西を守ってたはずのKiller B最終規則城は米国MNCの城攻めに合って屈してしまい、2014年Noticeで補強されて今度こそって感じだったんだけど、相手は何といっても上杉謙信の上を行く米国MNC。またしても2014年Noticeの裏を書くストラクチャリングで圧倒され更なる改修工事が必要になった。そこで登場するのが2016年Noticeだ。2014年Notice後に散見されるようになった取引は単なる2014年Notice準拠のKiller Bってだけではなく、Killer Bの後にもうワンステップ追加された「Killer B+」とでも言うべきRepat戦略。

「Killer B+」

2014年Notice後に蔓延し始めたストラクチャリングの代表的なものは次の通り。米国企業USPが米国外100%子会社FPを所有し、FPはさらに100%子会社FSを所有しててFPにはE&PはないけどFSには潤沢なE&Pがあるとする。早速Killer Bチックな設定だね。米国外の埋蔵金E&Pを米国で課税されることなく還流させるための手法として進化してきたストラクチャリングがKiller Bだからね。2017年のTCJAで全ては変わってしまったけど、2016年Noticeなんでこの時点ではまさかクロスボーダー課税がGILTIとか245Aとか今の姿になるなど露知らずっていう時代だ。

ちなみに外国法人の(当時はSub Fで)課税されていない留保所得が課税されることなく米国に還流される取引を監視するっていうのがKiller B規則を含むsection 367(b)全体の立法趣旨・テーマっていう点は「Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (3)」等で触れてるけど、その一環でCFCの事業資産が非課税組織再編や非課税清算を介して米国親会社に非課税で還流されてくる取引も当然section 367(b)の監視下にある取引。この手の取引では、CFCを非課税組織再編や非課税清算で米国株主に統合すると、CFCのE&Pは一度も課税されないにもかかわらず、そのE&PでファイナンスされたCFCの資産簿価がそのまま米国親会社にフローアップしてくる。そこで米国へのInbound資産移管に網を掛けるため、section 367(b)の規則の一つにInbound取引時には米国親会社がCFCを所有していた期間に生じた自己持分相当のE&Pを全額課税するっていうのがある。ここでは「Inbound資産移管E&P課税」って呼んでおく。

でも非課税清算等で受け取る資産はステップアップしないんだからいいじゃん、って思うかもしれないけどピュアな国内取引と異なり、CFCの資産簿価がCFCのE&Pにサポートされている限りにおいてその部分の簿価は米国で課税されていない所得を原資とした簿価。チョッと分かり難いかもしれないけど、B/S的に資産簿価は米国親会社による出資、CFCの負債、またはCFCが稼得した所得(イコールE&Pと仮定)のいずれかでサポートされているんでE&Pに課税できてれば全ての簿価はそのまま使ってOKってことになる。資産の簿価っていう属性は将来のNOLと同じっていう点は「Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (10)」で触れた。NOLは資産簿価の化石って考えると双方の価値が理解し易い。NOLとの比較において簿価の有無や大小に比較的無頓着なケースを見ることがあるけど、これらの属性の価値は基本的に同じだ。結晶化(?)してるかどうかの違いだけ。米国MNCは資産簿価の大小、また株式、有形資産、無形資産その他、どんなタイプの資産に簿価が付くかに細心の注意を払う。結果ここで話しているKiller B+みたいな発想に至ることになる。

で、ポスト2014年NoticeのKiller B+の例を続けるけど、Killer B規則の考え方を適用するとFSによるFP株式取得はFSによるFPへの分配になって、FSのE&Pの範囲で配当になる。FPにはE&PはないけどFSには潤沢なE&Pがあるっていう設定だから覚えといてね。でもFSは外国法人なんで配当に対する米国源泉税は通常関係ない。また配当を受け取るFPは米国外法人なんでそれが間違ってECIなんてケースは100年に1回あるかないかくらい珍しいだろうから、FPには直接米国法人税が課されることはない。FPはCFCなんでFPが受け取る配当が元祖CFC合算課税のSub F所得になるとUSPはその時点で自己所得に合算しないといけない。Sub Fには複数の例外があってこの手のケースで一番適用可能性が高いのは配当原資がFS側でSub FでもECIでもない事業所得の場合、グループ全体で考えると配当の性格はPassiveなポートフォリオ投資のリターンではないんでSub Fの趣旨的にSub Fで網を掛ける必要はない。Look-through規定だ。CFC課税の「Look-through」って複数あってConfusingだけど、ここでいうLook-throughは関連者から受け取る配当の原資が阿漕な所得でなければOKっていうsection 954(c)(6)に基づくSub F免除だ。まだTriangular Reorganizationにも至ってないけど既に複雑になってきてるね。Killer B+だからね。

Triangular Reorganization

で、USPの米国外100%子会社USSがFPやFSとは別の持分チェーンで米国外100%子会社FTを所有してるとする。FTをFP/FSと同じ持分チェーンに取り込んでインティグレーションするっていう事業目的でTriangular Reorganizationを通じてFSはFT株式をUSSから取得する。取引ステップはKiller Bそのもので、FSは最初のステップでFPから現金対価(Noteかもしれないけどここでは現金で統一しておく)で取得したFP株式を対価にFTの100%株主であるUSSからFT株式を取得する。B型再編になり絵に描いたようなKiller Bだ。Killer BのBはB型再編って覚えてるね?でもKiller BはB型再編で実行される必要はなくて、AやCのTriangular Reorganizationバージョンでも全く同じことができる点はKiller Bシリーズをフォローしてくれてる読者の皆さんなら既にご存じの通り。

Inbound資産移管

で、Triangular Reorganizationの後、Killer B取引とは別プランでUSPはFPを吸収する。手法は大概においてUpstream Mergerなんだろうけど100%子会社のUpstream Mergerは税務上はLiquidationになる。80%以上の議決権・価値を所有する子会社のLiquidationは原則適格Liquidationで非課税だ。このInbound資産移管によりFPが所有する資産はUSPに移管されるけど、移管されるFPの資産にはKiller B取引下でFSがFP株式の取得対価としてFPに移管した現金が含まれる。ということは蓋を開けてみるとE&Pを潤沢に持つFSの現金がFP株式取得、FPの適格清算でUSPに還流している。

でも、Inbound資産移管は上で触れたsection 367(b)のInbound資産移管E&P課税でFPが課税されるんじゃないの~って思うよね。適格清算でも未だに米国で課税されていないE&PはInbound資産移管時に課税対象っていうのがルールだからね。さてどうなるでしょうか。

2014年Notice下のKiller B規則適用

上の取引例に2014年Notice時点で存在するKiller B規則を適用してみると次のような取り扱いになる。まずTriangular Reorganization部分だけど、これは今までのKiller Bのポスティングで触れてきた通りの取り扱い。USSがFT株式の対価としてFP株式を受け取る取引は2014年のPriority規定で触れた「Indirect stock transfer」に当たる。すなわちUSSはsection 367(a)目的でFT株式をFPに移管したと取り扱われる。移管対象となる株式がFT株式って言う米国外法人の株式なんで、通常はGain Recognition Agreement(GRA)をIRSと締結することで株式移管時点の課税を避けることができる。GRA自体ディープな話しだけどここでは敢えて超乱暴にまとめとくと、本来section 367(a)で課税される株式移管時に一旦IRSとGRAを締結し、移管から5年以内に移管された株式の移管先からの更なる譲渡、または移管対価で受け取った株式の譲渡等のトリガー取引がなければsection 367(a)課税から免除されるっていう有難い制度。トリガー取引で過去遡及して課税される場合、元々の株式移管の課税年度の申告書を修正して追加払いの法人税には金利も課せられる。

Section 367(a)に抵触する外国法人株式の移管でGRA締結可能なケースは通常であればGRAを締結する。じゃないと即、課税所得になっちゃうからね。したがってアドバイザーとしてはGRA締結に落ち度はないか、全ての移管株式をカバーしているよねとか、その後5年に不要に譲渡益をトリガーさせないための内部管理とかがフォーカスとなる。ところがKiller B+取引ではUSSもGRAを締結するにはするんだけど、その際にFT株式の全株式に関してGRAを締結しないで敢えて超少数のFT株式をGRA対象外とする。この部分は当プランニングのキーとなる部分。FT株式の僅かな部分にGRAを選択しないっていうことは当たり前だけど、その部分のFT株式含み益はsection 367(a)で課税所得になる。少額の課税所得を敢えて認識っていうエキセントリックな怪しい行動でPriority規定を巧みに使うための技なんじゃないの~って予感させてくれる。で、本当にその通りなんです。Killer B+では、この超少額のsection 367(a)所得をKiller B規則の所得と比較してFP株式取得にKiller B規則を適用するかどうか判断する。

Killer B+とPriority規定

じゃあ、section 367(a)下の僅かな所得の比較対象になるKiller B規則下の所得が何かっていうとここも面白い。ここで登場するのが2014年Noticeだ。Killer B規則ではFSによるFP株式取得対価の支払いをみなし分配と取り扱って課税関係を決める。その際、section 367(a) にも抵触する取引ステップがあると、Priority規定に基づきKiller B規則とsection 367(a)でどちらがより高い所得を生み出すかに基づきどちらの規則で課税関係が決まる。この比較算式に使用される所得額に関してはさんざん紆余曲折があり、Priority規定のIRSの視点からの悪用を封じ込めるため、2014年NoticeではPriority規定適用検討時にsection 367(a)所得と比較するべきKiller B規則下の所得は「源泉税対象となる配当」および「実際にPに課税される範囲のみなしキャピタルゲイン」、そして「PがCFCの場合でPが認識する配当やみなしキャピタルゲインがSub FとしてPの米国株主に合算される額」に限定した。

上述の通り、Killer B規則で分配と取り扱われるFP株式取得対価の支払いは、FSのE&Pの範囲で配当扱いになる。でもFSは米国外法人なんで配当に対する米国源泉税は通常関係ない。配当を受け取るFPも米国外法人なんでFPが受け取る配当や分配がみなしキャピタルゲインとなっても直接FPに米国法人税の適用はない。FPが受け取る配当やみなしキャピタルゲインが元祖CFC合算課税のSub F所得になるとUSPはその時点で自己所得に合算しないといけないけど、section 954(c)(6)のLook-throughでSub Fからも免除される。となると2014年Noticeが規定するPriority規定適用時のKiller B規則所得はゼロになる。一方のsection 367(a)を見ると僅かな所得があるんでこちらが勝つことになってKiller B規則の適用はナシとなる。USSは僅かな所得に法人税を支払う。

そして最後のステップ、すなわちKiller B+をKiller B+たらしめる最終ステップのUSPによるFP吸収合併(または類似取引)だ。このステップは上述の「Inbound資産移管E&P課税」で課税されるんで結局苦労してsection 367(a)で僅かな所得認識を演出してPriority規定でKiller B規則から逃れてもこれで万事休すじゃんって思った読者は上杉謙信。米国MNCは上杉謙信よりも強力な攻略でKiller Bを落城させる。

城攻めのカラクリは次の通り。まずFPにはそもそもE&Pはない。これはKiller B+実行時にFPを新設したりしてそのようなストラクチャーにしてるからでこのポスティングでもKiller B+取引の説明冒頭に前提条件としている。そしてPriority規定でKiller B規定が適用されないんでFSによるFP株式の取得対価は分配にも配当にもなってない。したがってFSにE&PがあってもFP株式取得を通じてFPのE&Pが増えることはない。となるとストラクチャー的にはInbound資産移管E&P課税の適用対象取引でも、肝心のE&PがないんでUSPに課税される金額は存在しないってことになる。

う~ん米国MNCっていうかMNCにアドバイスしてるBig 4の国際税務チームやメジャーなLaw Firmは凄いね。僕もEYの国際税務Nationalチームだっからこの辺の変遷は生で見てきたけどIRSの解釈は異なる部分はあるとしても当たり前だけど全て法的なApplicationは正しいからね。ということはBig 4とかは虎千代の教育係の天室光育だったってことか~(?)。2014年Noticeで網を掛けようとした取引は、Priority規定を適用してsection 367(a)をTurn-offするケースだったけど、Killer B+では少額のsection 367(a)でKiller B規則をTurn-offしてる。

他にも似たようなバリエーションとして、USPがFPとUSSを所有してて、USSがFTを所有してるっていう同じストラクチャーでFPにはE&Pはなく今度は上の例のFSではなくFTが潤沢なE&Pを持ってるとする。FPはプレーンバニラの優先株式(section 351(g)非適格優先株式)を対価としてUSP株式を取得、USP株式を対価にUSSからFT株式をTriangularのB型再編で取得する。で、後日FPは自社優先株式のUSSから償還する。このバリエーションのキーはFPの自社株式は2011年最終規則で「Property」にはならないんで(Sub CのPart I、すなわちsection 301~318の目的でも、特に304で自社株式はPropertyにならないのと同じ)、Killer B規則の適用範囲外となる。さらにUSPによるFPへのUSP株式移管の対価は非適格優先株式となることから、適格現物出資にはならずsection 1001の課税交換となり、USPが所有するFP株式の簿価は時価になる。Section 351の適格現物出資になってしまうと「例の」ゼロ簿価っていう不思議の国のアリスに出てくるウサギの穴に入り込んじゃうもんね。ゼロ簿価に関しては「Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (6)」を参照のこと。FPによる自社株式の償還はFPにE&Pがないんで配当にならず、またUSPが持つ簿価が時価になってるんでみなしキャピタルゲインもないっていうポジション。経済的にはFTのE&Pを拠り所に償還してるって考えるとE&PのRepatになる。こちらもお見事。

壮絶な知恵比べで2000年台前半から2016年まで進化し続けたKiller Bと財務省規則。2016年Noticeが出た翌年2017年12月22日にクロスボーダー課税を根本的に変えたTCJAが可決される。TCJAでKiller Bを含むsection 367(b)の存在意義が大きく低下した点、およびそれでもsection 367(b)の一連の規則は引き続き必要という財務省見解に関しては特集前半の「Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (3)」で触れた。次回はKiller Bシリーズ最終回として2016年Noticeの対抗策、それに準じて2023年に公表された規則案に触れてみたい。

Sunday, March 31, 2024

Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (11)

前回はEddie Van Halenのハーモニクスを多用した斬新なギターテクニックがどれだけショッキングだったか、じゃなくてKiller B規則が2011年に一旦最終化されてから僅か3年弱の2014年に公表された2014年Noticeの話しを始めた。中でもSがPからP株式を取得する際に支払う現金のみなし分配後のみなし現金出資に軽く触れるつもりが深みにはまり、2011年最終規則を適用するとPが所有するS株式の簿価にチョッと不思議なことが起こるねってところで終わっていた。

みなし現金出資とS株式簿価

みなし分配とその後のTriangular ReorganizationでPが持つS株式(Reverse Triangularの場合はT株式)の簿価がどんな風に動くかっていうところまでは前回のポスティングで詳細に触れた。Killer BのBに当たるB型再編を例に取ると、SにE&Pが十分にある範囲でみなし分配では簿価は動かず、その後のTriangular BでT株主がT株式に認識していた簿価がPの手のS株式の簿価に増額される。ちなみにこのルールはPが組織再編で調整するS株式簿価はsection 358じゃなくてsection 362の世界の話しなんで当然旧T株主の簿価がTranserされるのはそうなんだけど、旧T株主が認識してたT株式簿価とか実際には把握できないこともあるよね。Tに多くの株主が居たケースは特に。そこで80年代初頭からIRSは簡便法の使用をSafe Harbor的に容認している。旧株主にサーベイを送るのがベストだけど、ターゲットが上場企業だったりするとRetail投資家全員にサーベイ送る訳にはいかないし、仮に送付したとしても開封されない、または開封しても「何ですか、これは?」ってなってそのままゴミ箱、ってケースも少なくないだろう。そこでサンプル、概算計算その他の簡便法が認められている。Transfer Basisのサガだよね。

で、これにSがPからP株式を取得する取引に関して、Killer B規則でみなし分配された金額同額をみなし出資があると考えると、すなわち2011年最終規則を適用すると、Killer BでPがP株式移管対価として受け取っている金額分まるまるS株式の簿価が増額されることになる。Pは自社株をSに移管して、その対価として現金を受け取るとその額に関してS株式の簿価が増えるっていう不思議な現象だ。たかが簿価されど、っていう点は前回のポスティングでも触れた通り。すなわち資産の簿価っていうのは将来のNOLでNOLは資産簿価の化石だから簿価はNOLと同様に重要な属性だ。

そんな重要な属性が意味不明に増額するのはKiller B規則の趣旨に反するということで2014年Noticeは現金みなし出資の取り扱いは全面的に撤廃するって宣言している。この撤廃は単に2011年最終規則で追加されたPからP株式を直接取得するケースばかりでなく、2007年NoticeでデビューしたP以外からP株式を取得するケースにも適用される。みなし分配の後、どうやってP株式がSに移管したことになるんだろうね、っていうオリジナルの疑問が再発してせっかくUnchainedのリフ聴いて快適になったのにまたしてもスタートに逆戻り?って思ったんだけど、実は2014年Noticeはこの点に関して、形式的にはP株式をSが現金対価で取得してるけど、S株式簿価算定目的では単純にTriangular Reorganizationに適用されるルールを適用すると整理している。つまりP株式はPからみなし出資でSに移管されて、Sがそれを対価にT株式やT資産を取得するってことなんだね。ウ~んなるほど。となると結局、2006年の初回Killer B Noticeを読んだ際に第一印象的に考えた簿価算定法に落ち着いたってことなんで、だったらこれでまたチョッとスッキリ。でもUnchainedの域には達してないんで超トリッキーなテクニックでコピー不可領域のMean Streetのイントロでも聴いて「天才とはこういうことか…」って何回も繰り返し聞いたあの日を感慨深く思っておきます。

Priority規定

2014年Noticeが次に問題視しているのが2011年最終規則のPriority規定の濫用。Priority規定に関しては「Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (9) 」で触れてるんで復習しておいて欲しい。Priority規定はsection 367(a)とKiller B規則の双方に抵触する取引に関して、どちらの規定を優先するか、すなわち双方では課税されないっていうルール。Killer B規則はsection 367(b)領域なんで、もう少し広範な(a)と(b)のオーバーラップ規定のサブセットみたいなもの。Killer B規則とsection 367(a)のどちらを適用するかは、各々の規則で「認識される所得」を比較して、金額が高い方の規定のみを適用して、他方はTurn-offするっていうもの。その際、Pが米国外法人でSが米国法人で、配当に対する源泉税が条約で免除されててS株式がUSRPIでない場合、すなわち苦労してKiller B規則でみなし分配を認定してもPに米国税負担がないケース、はKiller B規則の適用はなく、結果としてもし取引がsection 367(a) にも抵触するストラクチャーの場合、自動的にsection 367(a)のみを考えることになっていた。ここでは「No-US-Tax例外規定」って呼んでおく。

No-US-Tax例外規定とKiller B規則下の所得

で、IRSが問題視し、2014年Noticeで網を掛けようとした取引は、Priority規定を適用(悪用?)してsection 367(a)をTurn-offするケース。例えば、外国法人FPがFP株式を対価に米国株主に所有される米国USTの株式を買収するとする。その際、FPは米国子会社USSを新設し、USSに少額のE&Pを認識させる。で、ここからはKiller B取引で、USSがNote(Killer B分析上は現金と同じ。USSには十分な現金が存在しないという想定)を使ってFPからFP株式を取得。USSはFP株式を対価にUST株式を米国株主から取得する。Triangular B型再編だ。USTの米国株主がUST株式譲渡対価として受け取るFP株式は、FP株式の75%に当たるとする。

Killer B規則の適用でUSSのFP株式取得がみなし分配になるけど、USSのE&Pは少額なんで、配当も少額。源泉税対象になるのはこの少ない配当部分だ。USSが過去5年間、またはおそらくUSSは組成されて5年経ってないだろうから組成後一度もUSRPHCでなければUSS株式はUSRPIにならない。となるとE&Pを超える額がFPの持つUSS株式簿価を超えてみなしキャピタルゲインになってもFPには課税はない。USSに対するFPの株式簿価も低いって想定されるんで、Killer B規則のみなし分配はほぼまるまるみなし株式譲渡のキャピタルゲインとなる。しつこいけどこのキャピタルゲインはUSRPIではない株式の譲渡にかかわるもので、ECIでもないだろうからFPは米国で税金は支払わない。

これをPriority規定の視点からどう考えるかだけど、まず上で触れた2011年最終規則の「No-US-Tax例外規定」の適用があるかどうかを検討する。No-US-Tax例外規定の対象になるとKiller B規則の適用はなく、仮に取引がsection 367(a)対象でもKiller B規則とオーバーラップがなくなるんで、普通にsection 367(a)に抵触すればそのルールで課税されたりGRAを締結したりする。インバウンドのNo-US-Tax例外規定はPがSから受け取る配当が条約で源泉税から免除され、かつS株式がUSRPIでないケースに適用があるけど、上の例では少額のE&Pに対して30%源泉税が課せられるようなストラクチャーを敢えて演出してるんで、源泉税の大小にかかわらずNo-US-Tax例外規定対象取引にはならず、結果としてPriority規定で双方の所得を比較、Killer B規則かsection 367(a)で課税かを判断することになる。

分配がE&Pを超過すると、まず株式簿価を減額し、簿価がなくなると超過額はみなし株式譲渡キャピタルゲインが認識される。このキャピタルゲイン部分に関してUSS株式がUSRPIでなければ外国人であるFPに対する課税はない。一定のFIRPTAペーパーワークは付きまとうけどね。でもPriority規定は「Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (9)」で触れた通り、税額ではなく所得額に基づく比較。これは2011年最終規則でPriority規定を最終化した際に敢えてそんな設計を選んでいた。さらに2011年最終規則では、比較時にKiller B規則側の所得として加味する金額にみなしキャピタルゲインも含むと明言している。

となると源泉税対象の配当所得は少額だけど、配当所得に加えてみなしキャピタルゲインもKiller B規則の所得額に加算され、これをsection 367(a)でトリガーされる所得額と比較して大きい方の規則を優先することになる。Priority規定の比較時にFPに課税がないにもかかわらずみなしキャピタルゲインも加味しちゃうっていう点は直観的に大丈夫?って思うかもしれないけど、2011年最終規則では敢えてそのような設計チョイスをしてしまってるんで規則解釈的には不合理ではない。

Section 367(a)下の所得

で、比較対象のもう一方の数字となるSection 367(a)下の所得だけど、Killer B特集の初版Early Beatles時代にKiller Bの予備知識としてSection 367全体を軽くおさらいした際に(a)に触れてるんで詳細はその時の「Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (2)」を見て欲しい。簡単にsection 367(a)をおさらいしておくと、米国人が組織再編その他のSub Cの非課税規定を利用して外国法人に含み益を持つ資産を移管すると、移管先の外国法人はSub C非課税規定適用目的では法人格を否定され、結果、多くの非課税規定の適用が停止されてしまうっていう規定。その際、移管される資産は事業資産ばかりでなく含み益を持つ株式のケースもSub Cの非課税規定適用対象であればsection367(a)の対象となる。

株式移管に関してはInversion取り締まりの観点から特別なルールが規定されてて複雑。2004年にSection 7874が制定されてInversionの対象となる法人を罰するアプローチが導入されるまで、section 367(a)が米国におけるInversion対抗策だった。Section 7874とは異なり、Inversion的な取引に従事したと取り扱われる法人の米国株主が持つ株式の含み益に課税するアプローチ。このSection 367(a)下のInversion対策規則は財務省規則のsection 1.367(a)-3に規定されてて、1993年のHelen of Troy取引を基に規定されたことから我々の間では「Helen of Troy」規則って呼ばれている。ただ、このHelen of Troy規則はInversion対策としては余り効果がなかった、すなわちInversionは構わずに増えていった点は2016年に5か月23回大特集ボックスセットの「Inversion/インバージョン(プラスSpin-Off)(1)」で開始したシリーズで触れてるんで興味あったら読んでみて欲しい。Section 1.367(a)-3は移管対象となる株式が米国法人のものでも外国法人のものでも双方共に適用があり歴史的に異なる規則が規定されてるけど、当然、米国法人株式に対する規定の方が厳しい。

Section 367(a)とIndirect stock transfer

で、上の例に戻るとUSTの旧米国株主はUST株式をTriangular B型再編でUSSに移管してFP株式を対価として受け取っている。「だったら外国法人に資産移管してないからsection 367(a)は関係ないじゃん」って思った人はストラクチャーをフォローしてるんで座布団2枚。でも、ここで登場してくるのがsection 1.367(a)-3に規定される「Indirect stock transfer」だ。Indirect stock transferは前々回のポスティングでその存在には触れたものの、説明すると長くなるからって規定内容そのものには触れなかったんだけど、今回の例に関係する範囲に限定してここでチラッと触れておく。すなわち、外国法人FPに支配される法人S(米国内外を問わない)がTriangular B型再編でT株式を買収する場合、FP株式を(Sから)受け取るTの米国人株主はsection 367(a)目的でT株式をFPに移管したと取り扱われる。となると米国人株主はT株式を外国法人(FP)に移管してることになるんでSection 367(a)対象取引になる。

上の例だとUSTの米国人株主はUST株式を形式的にはUSSに移管してるけど、Section 367(a)目的ではFPに移管したことになる。しかも例ではFP株式の75%を受け取ってるんでUSTがInversionされたかのようになり(50%ルールに抵触するんで)UST株主を法人一社とするとHelen of Troy規則で課税される。場合によっては大きな課税となりかねない。

Priority規定の効能

そこで救世主として登場するのがPriority規定。Indirect stock transferでトリガーされるSection 367(a)対象所得額がKiller B規則の配当およびみなしキャピタルゲインの合計額より小さい場合、Section 367(a)はTurn-offされる。だけど、Killer B規則で確かに形式的に所得は認識はされるけど、少額の配当源泉税以外はFPには実際の課税はないから、Killer B規則下の見た目の所得額が大きい場合、Section 367(a)の潜在的に大きな課税負担を少額の配当に対する30%源泉税と交換することができる。

上の例ではUSSに少額のE&Pを認識させた上でのKiller Bなんで2011年最終規則のルールには表面的に合致しているけど、さらにもう一歩先を行く主張としてUSSにE&Pがないにもかかわらず、もしあったら条約で免除されずに課税されただろうからNo-US-Tax例外規定は当てはまらないっていうものもあった。概念的にはアグレッシブだけど、条文的には「P would not be subject…」という文言で「would」を本当は分配じゃないけどKiller B規則で分配とみなしてるっていう意味に加え「もし配当があれば」っていうニュアンスも含むんであれば可能な解釈のようにも見える。

2014年Notice新規則案

これは大変ということで2014年Noticeでは、これら不適切にも程がある(?)2011年最終規則の解釈・使用法に網を掛けようとした。上で既に触れたみなし現金出資全面撤廃に加えて、Priority規定を次のような改訂するとしている。まず、Priority規定適用検討時にsection 367(a)所得と比較するべきKiller B規則下の所得は「源泉税対象となる配当」および「実際にPに課税される範囲のみなしキャピタルゲイン」、そして「PがCFCの場合でPが認識する配当やみなしキャピタルゲインがSub FとしてPの米国株主の課税所得に合算される額」に限定するとしている。この改訂は2011年最終規則の税額ではなく所得で比較っていう概念は踏襲しつつも、所得が認識されても課税ない場合には比較時の所得に加味しないっていう税効果も考えるハイブリッド的なアプローチを取っている。

No-US-Tax例外規定に関してはKiller B規則のみなし分配に源泉税対象となる配当がなければNo-US-Tax例外規定が適用され、section 367(a)があればそちらで課税されることにするとしている。さらにPがCFCの場合にはNo-US-Tax例外規定の適用はない点を確認するとも提案している。すなわちTriangular ReorganizationでPがCFCの場合、Priority規定を含むKiller B規則の適用があるっていうことになる。2011年最終規則ではPとSが両社とも外国法人でどちらもCFCでなければNo-US-Tax例外規定が適用されるってなってたはずで、その内容とは合致してるけどダメ押し的な確認なんだろうか。

新規則適用開始日

2014年Noticeで提案されている新規則は原則、Notice公表日に当たる2014年4月25日以降にClosingするTriangular Reorganizationに適用があるとしている。とは言え、Noticeって法的な効果は持たないんで概念的にはNoticeの内容を反映した正式な財務省規則が最終化されて初めて過去遡及効果を通じて2014年から法的拘束力を持つことになる。何の前触れもない過去遡及はアンフェアなんで原則認められないと考えられるけど、Noticeが公表されている場合はその日に遡るのは珍しくない。最近、CAMT、自社株買い、IRA拡張再エネクレジット、R&D支出の資産計上とか多くの緊急課題に関して、正式な規則案を出して最終化っていう時間的な余裕がないためスピードの関係からNoticeが乱発されてるけど、納税者にとって有益なSafe Harbor的な規定を含むNoticeは、法的効果はないけど納税者による準拠が許される「Reliance」規定が含まれてることが多い。

2014年4月って文字通り10年前。規則公表をどれだけ待ってて、2023年末に案とは言え規則が公表されたときのExcitingな驚きはここまで読んでくれた読者には分かってもらえるね?現時点では規則案なんでNotice同様に法的な効果はない。ただ、2014年Noticeでは、Noticeで問題視している取引は既存の2011年最終規則に基づいてもIRSによるチャレンジの可能性ありと釘を刺している。

以上が2014年Noticeだったけど、Killer B物語はNever Ending Storyのようにまだ続いていく。2016年Noticeだ。次回は2023年の規則案が出る前の最後のNoticeとなるこの2016年Noticeに関して。

Friday, March 22, 2024

Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (10)

前回は遂に今日現在でもKiller Bに対する公式な規則としてSurviveしてる2011年最終規則に触れた。この時点でKiller Bサガの4分の3くらいはカバーした感じかも。今回のポスティングでKiller B特集はPokerに例えると「No more buy-in」で「Big blind is $1 million」みたいなFinal Phaseに突入する。Texas Hold’emを4人でプレーしてて、最初のプレーヤーがフラッシュ、次がフルハウス、その次がHigher Handのフルハウス、そして最後はストレートフラッシュ、とかハリウッドにしかあり得ない展開に近い迫力でKiller Bをフィニッシュさせたい。Killer Bは取引自体も対抗規則も共に高度に複雑な部類に属するんでなんだかんだ言って長編になってるけど、「We hope you have enjoyed the show」。ようやく「We're sorry but it's time to go」で「It’s getting very near the end…」だね。。

2014年Notice

Killer B規則最終化の2011年5月19日から僅か3年弱の2014年4月25日、IRSはNotice(「2014年Notice」)を公表し、またしても「子会社「S」が適格組織再編の一環で、P株式をS株式以外の資産を使って取得し、P株式をT株式またはTの資産取得対価とする取引で、PまたはSの少なくとも一社が外国法人のケース」に関して規則を策定するって宣言した。「え~、その取引って2006年Notice、2007年Notice、2008年規則案・暫定規則、2011年最終規則で取り締まるって言ってた取引そのもので規則は既に最終化されてるじゃん」って思ったかもしれないけど本当にその通り。最終規則まで出てんのにまた~?そうなんです。規則は2011年に最終化しては見たものの、納税者に出し抜かれて(?)規則を強化する必要が出てきたっていう展開。ここからKiller B物語のFinal Phaseが幕開ける。

難攻不落と思われた2011年最終規則だったけど…

2006年から5年の歳月を費やして最終化されたKiller B規則は大阪城級の難攻不落なものになってたはずだった。ちなみに難攻不落と言えば、一般には地味なイメージがあるかもしれないけど実は凄いのが小田原城。全国最長規模のお堀を駆使した城郭で他のお城に負けずに難攻不落。小田原って江戸の直ぐ西っていう戦略的ポジションに位置してるんで、もちろん江戸を西の敵から守るっていう重要機能を担ってたんだろうね。今日でも小田原散歩すると随所に当時の城郭の面影を見ることができる。復元だけど銅門とか迫力満点。お天気のいい日はわさび漬けとかまぼこだけ買って素通りしないように。

で、section 367(b)の西(?)を守ってたはずのKiller B城は米国MNCの城攻めに合って屈してしまった。ということは米国MNCって上杉謙信より強いってこと?

SがPからP株式を取得する際の現金みなし出資

またこの話し~?って思うよね。みなし分配された後に当現金がみなし出資で一旦Sに戻るのか戻らないのかは紆余曲折を経て2011年最終規則に至った点は以前のポスティングで触れた。この辺りのサガに関しては「Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (9)」等を見て欲しい。簡単に変遷を復習しておくと、2006年の元祖NoticeではKiller B規則の神髄と言えるアプローチ、すなわち「外国法人が関与するTriangular Reorganizationの一環で、SがPからP株式を現金対価で取得する場合、現金対価の支払いは分配同様と取り扱います」っていうフレームワークが導入された。この2006年Notice段階ではみなし出資への言及はなかった。

2006年NoticeとS株式簿価

SからPへの現金移管が分配になるってことはSのE&Pの範囲でPは配当所得を認識する。E&Pを超えると最初にPのS株式簿価減額、次にS株式みなし譲渡益となる。2006年Notice時点では「みなし分配として取り扱われる場合、P株式はSにどうやって移管されたって取り扱われるんだろう?」って疑問は何となく残ってた。2006年NoticeのConstructとしては、みなし分配扱いは「PによるP株式のSへの移管」とは別取引って位置づけられてたんで、その場合、仮に会社法的にはPがT株主に合併等の買収対価として直接P株式を交付したとしても、少なくとも税務上はP株式はSの手にわたらないとTriangular Reorganizationにならないんで、PによるP株式のみなし現物出資になるのかな~程度に考えていた。これらの検討は単にP株式がどう移管されたってRecastするかっていう学術的な議論に留まらず、Recastの結果、取引にかかわる各資産の簿価がどのように変動するかっていう点も加味する必要がある。資産の簿価って将来のNOLだし、NOLは資産簿価の化石、って考えると双方の価値が理解し易い。NOLとの比較において簿価の有無や大小に比較的無頓着なケースを見ることがあるけど、これらの属性の価値は基本的に同じだ。結晶化(?)してるかどうかだけの違い。

2006年Notice風のアプローチに基づき、PのS株式に対する税務簿価を考えてみると、Sに潤沢なE&Pがある前提で、みなし分配をもってPのS株式簿価は減額されない。配当だからね。もしかしたら一部Sub Fに基づくPTEPがあり、簿価減額ポーションはあるかもしれないけど、Killer BはSのE&Pをsection 367(b)その他の障害物を潜り抜けて非課税で米国にRepatするのが主たる目的なんでSに潤沢なE&Pが存在してるって言う前提で考えておくべき。じゃなければわざわざこんなIntricateな取引に従事しないだろうからね。

じゃあ、Killer B規則のみなし分配後、PがP株式をSにみなし出資したってみなすとすると、Pの持つS株式簿価は例のゼロ簿価をどう考えるか次第なんで確固たるルールはないんだろうけど、おそらくゼロになるって考えられる。Section 1032とゼロ簿価の恐ろしい話は「Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (6)」でまあまあ深堀りしたつもりなんで興味があったらそちらも読んでみて欲しい。ゼロ簿価だとすると、みなし分配とS株式みなし株式出資の時点でPのS株式簿価は取引前後で変動が見られないことになる。

Triangular Reorganizationと株式簿価

Triangular Reorganizationの世界では、次にSがP株式を対価にT株式やT資産を取得し、要件を満たせば各々Triangular B型再編/(a)(2)(E)のReverse Triangular MergerでA型再編、(a)(2)(D)のForward Triangular MergerのA再編になるけど、その際にPが持つS株式簿価調整はKiller Bの規則ではなくて通常のTriangular Reorganizationに適用される一般的な簿価算定ルールが以前から存在する。

まず、Forward triangular mergerの場合、実際にはT資産は合併でSに移管されるけど、Pが持つS株式の簿価調整目的では、あたかも一旦Pが直接ReorganizationでT資産を受け取り、T負債を継承したとみなされる。その場合、Pが受け取るT資産の簿価はTの簿価をそのまま継承する。で、もちろん実際にはPはT資産なんか受け取ってないんで次にT資産および継承負債をSに移管したとみなす。となるとPが持つS株式簿価はT資産の簿価マイナスT負債のネット額になる。このネット額が従来からのS株式簿価に加算される。

Reverse Triangular Mergerのケースも再編後にPが持つT株式の簿価調整に関しては、Forward Triangular Mergerと同様にアプローチする。すなわち本当はSがTに合併するんだけど、T株式簿価算定目的ではあたかもTがSに合併したかのようにみなして上のForward Triangular Mergerのステップを踏襲して計算する。もともとPが所有していたS株式の簿価はT株式の一部となる。米国でM&Aかじったことあるみなさんはご存じの通り、Reverse Triangular Mergerを活用して株式買収する取引は結構多くのケースでsection 351の適格現物出資、または後述のB型再編にも同時適格になる。その場合は上述のReverse Triangular Mergerに適用されるS株式簿価調整、またはsection 351やB型再編だったら行われるであろう簿価調整のどちらか好きな方で簿価を算定してOKとされてる。Reverse Triangular Mergerが条件を満たせばSection 351になるっていうのは多くの読者の皆さんが感じるであろう印象よりずっとパワフルかつInnovativeな取引を可能にする。Horizontal Double Dummyとか。Section 351にも支配要件はあるけど、組織再編と異なりContinuity of Interestはないんで英語でいうところの「nifty」なプラニングが可能になる。

次にTriangular B型再編時のS株式簿価調整。Killer Bの「B」はB型再編のBなんでB型再編時の簿価調整を語ることなくKiller Bの話しを継続する訳にはいかない。Forward Triangular MergerとかのRecastと似てるけど、まずTriangular BではPがT株主から直接B型再編でT株式を取得したとみなす。で、もちろん実際にはT株式はTriangularでSが取得してるんで、次にPがみなし取得したT株式をSに移管したと取り扱われる。これを簿価調整の視点から見てみると、最初のPによるみなしT株式取得時にはPが持つT株式簿価は原則、T株主の簿価を引き継ぐ。次に来るPによるT株式のSへの移管時には、SはPが一瞬認識したT株式を引き継ぎ、PはSに移管するT株式簿価と同額S株式簿価を増額させる。

2007年NoticeとS株式簿価

続く2007年のNoticeで初めてみなし出資に言及がある。2007年NoticeはP株式をPからではなく第三者やPの株主から取得するパターンにもKiller B規則を適用するって強調し始めたんで、それをきっかけにみなし出資の考え方が導入される。この時点ではSがP株式をPそのものから取得する取引にはみなし出資は適用されず、P以外の者からP株式を取得する際に適用があるって規定されていた。これは、でないとどうやってP株式がSの手元に移管され、また譲渡人にどのように対価が渡ったかの整理が難しかったからだろうか。すなわち、一旦Killer B規則に基づきSがPに現金をみなし分配する。でもP以外からP株式を取得してる場合、SはPには1ドルも支払ってないんで、PはKiller B規則のみなし分配で受け取った金額をSに即みなし出資して、Sはそれを原資にP株式を取得したっていう姿を演出することができるってことなのかな~って無理やり納得したもんだ。このポジションは翌年の2008年暫定規則でもそのままだったと思う。

2011年最終規則とS株式簿価

2011年最終規則ではみなし出資はP株式をPから取得した場合にも適用があるって規定した。このケースも要は現金分配だけではP株式はSの手元に渡らないんで、Sに一旦現金を出資したかのように取り扱い、その後に別取引としてSがP株式を時価取得したかのように取り扱うんだね、ってストラクチャー的に納得感十分でスッキリした感じで終わっていた。その時点の気持ちよさは超カッコいいロックのリフを大きなボリュームでブラストする、みたいな快感。カッコいいリフってPurpleのBurnとかZeppelinのWhole Lotta Love、古くはThe BeatlesのI Feel Fineとかたくさんあるけど、Top 20リストを個人的に作成する際に複数(結構たくさん)リスト入りするのはVan Halenだろう。Van Halenは「Somebody Get Me a Doctor」とかカッコいいリフやソロが多すぎてどれも甲乙つけ難いけど、敢えてここで一曲取り上げるとすると「Unchained」かな。Sus 4を多用したクラシックなリフだけど、今聴いても凄すぎ。開放弦E低音のフランジャー効果とかカッコよすぎ。Eddie Van HalenはギターTuningする際に全ての弦を半音下げてるんで絶対音感を持っているとEフラットに聞こえるのはそのため。Jimi Hendrixも同じことしてたよね。Bendingが派手かつ容易ってメリットはあるけど個人的には弦がベロベロするんで一長一短だな~って感じてて、Van HalenやHendrixコピーするときだけ半音下げてた。それにしてもEddie Van Halenってテクニカリティー的にも凄まじいVirtuosoだけどプラス抜群なセンスの良さが加わって向かうところ未だに敵なし。

Van Halenってデビューアルバムが出た直後に厚生年金会館、セカンドアルバムが出た後に武道館にライブ見に行ったけどEddie Van Halenのギターソロ的には一回目はEruption時代、2回目はSpanish Fly時代だった。ちなみに和文タイトルの件は前回のポスティングでも話題にしたけど、Van Halenのケースも当時のご多分に漏れずデビューアルバムは米国ではシンプルに「Van Halen」なんだけど日本ではなぜか「炎の導火線」(笑)。Eruptionに至っては歌詞もないのに「暗躍の爆撃」。他にも「お前は最高」とかムードぶち壊しな和文タイトルが炸裂してて懐かしい。セカンドアルバムでもこのTraditionは継続してて米国ではまたしてもシンプルに「Van Halen II」なんだけど日本でのパワーアップは止まるところを知らず「伝説の爆撃機」(大笑)。爆撃機ってなに~?って感じだけどね。セカンドアルバムに収録されているD.O.A(Dead or Alive)の和文タイトルが「生か死か」ってなってたけど、これチョッと感じ出てなくてフ~ンて思うよね。D.O.Aは19世紀の米国西部でならず者を指名手配する際にDeadになってもいいから捕まえて下さいっていう意味で、間接的におたずね者を殺しても罪には問われないっていうニュアンスだからね。歌詞も「Wanted~」(指名手配)ってDave Lee Rothが叫んでるしね。

あんなにアメリカンでギターカッコいいロックバンドはVan Halenが最初で最後だろうね。その後しばらく日本には来なかったけど、ロサンゼルスって言っても正確にはIrvineだったけど、ボーカルがSammy Hagerになってから見に行ったことがある。Sammy Hagerも凄いけどやっぱりDave Lee Rothの下品さが恋しかった。Eddie Van Halenのギターは相変わらず良かったから個人的にはそれが全てだったけどね。

で、2011年最終規則でみなし出資が常に適用ってことになってストラクチャー的にはスッキリしたんだけど、S株式の簿価を考えるとチョッと不思議な結果になる。Van Halenで興奮してチョッと長くなってきたんでここからは次回。

Saturday, March 9, 2024

Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (9)

前回は2006年および2007年のNoticeを受けて、2008年に遂に初のオフィシャルKiller B対抗規定が暫定規則および規則案(内容は双方同一)として公表されたところまで漕ぎつけたんだけど、深夜0時を回ってMozartの誕生日となったところで打ち止めになった。0時を回る前はEddie Van Halenの誕生日だったね。

2011年最終規則

2008年の暫定規則は2011年に最終化され、暫定規則そのものは撤回されている。暫定規則はsection 1.367(b)-14Tだったんで最終規則はTemporaryの「T」が外れてただの「-14」になると思いきや番号が代わりSection 1.367(b)-10に生まれ変わった。Killer B特集をトリガーすることになった2023年の規則案は未だ案なんで、この2011年最終規則は今日時点でもKiller B対抗策のオフィシャルバージョンだ。

Section 367(a) v Killer B規則の優先順位

2011年最終規則は原則2008年暫定規則の内容を踏襲しながら、いくつか注目に値する微調整が施されていた。

2008年の暫定規則にはKiller B規則の対象となる取引がSection 367(a)にも同時に抵触する場合の優先順位にかかわる規則が盛り込まれていた。いわゆる「Priority規定」だ。Section 367(a)に関しては「Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (2)」で比較的詳細に触れてるんで興味があったらぜひ読んでみて欲しい。CFC課税が導入される30年も前の1932年に導入された米国人がSub Cの非課税規定を利用して資産を外国法人にアウトバウンド移管すると、含み益を課税するっていう趣旨の規定。課税は資産移管先の外国法人を非課税規定適用目的で法人とはみなさないっていう一見まわりくどい方法で譲渡益をトリガーする規則で、その基本的なアプローチは90年以上経った現在も変わらない。

どんなケースでKiller B規則とSection 367(a)が共存し得るかっていうと、例えばSがP株式を現金対価で取得して当P株式を対価にターゲット法人Tの株式を取得するとTriangularのB Reorganizationになる。その際、P、S、Tが全て外国法人でTの旧来株主が米国法人だとすると、取引全体はReorganizationだけどSection 367(a)でT株主はT株式の含み益に課税が生じる。正確に言うと課税は生じるけどTが外国法人なのでGain Recognition Agreement(「GRA」)をIRSと締結して、譲渡から5年以内にトリガーイベントがなければ実際に税金を支払うことにはならないはず。これはT株式を「Indirect transfer」したっていう特別な扱いになるんだけど、367(a)のIndirect transfer規定を語りだすとポスティング2~3回は費やすことになるんで含み益が課税対象になるっていうsection 367(a)下の結論だけ触れておく。一般的に米国人株主が外国法人株式を譲渡する際にsection 367(a)に抵触すると、外国法人のE&Pに対する合算課税は大丈夫~?っていう観点が付きまとうんで常に(a)と(b)のオーバーラップ懸念にかかわる検証が必要で、そのためにコーディネート的な規則がある。Killer B課税はsection 367(b)の一派だけど、2008年暫定規則のPriority規則では、section 367(a)で米国株主が認識する譲渡益が2008年暫定規則に基づきKiller B課税でみなし配当となる金額より低い場合、section 367(a)の課税はなく、Killer Bのみなし配当課税のみ適用があるとしていた。

実はこのPriority規定は呪われた夜と言え、2008年暫定規則から2011年最終規則で手が加えられたけど、2011年以降もKiller Bが絶えなかった理由の一つとなる。ちなみにイーグルスの「呪われた夜」って英語の原題は「One of These Nights」で、歌詞の内容的にこんな邦題を命名したっていうのは十分に理解できるんだけど、呪われた夜がリリースされた頃は僕たちまだ子供だったんで、友達と「One of these…」って英語で「呪われた」って意味だったんだね、とか話し合ってたInnocentな時代だった。最近はわかんないけど昔は結構なケースで英語の曲名に邦題が命名されてたよね。結構面白いのが多い。ビートルズのディラン風John Lennonの曲「You've Got to Hide Your Love Away」が「悲しみはぶっとばせ」(笑)だったり、Jimi Hendrixの名盤Bold As Loveに収録されてた「Ain’t No Telling」が完全に誤訳で「みんなおしゃべり」とか(正しくは「そんなことは分からない」的な意味のThere is no tellingの口語なんでさすがに後年この邦題は消滅)。

Priority規定は何と何を比較?

で、2008年暫定規則下のPriority規定はsection 367(a)にかかわる例外規定の適用は無視して米国株主がsection 367(a)下で認識するであろう譲渡益とKiller B規則に基づきみなし配当となる金額を単純に比較するものだった。すなわち、所得そのものを比較するんで、その結果生じる米国法人税の大小が比較される訳ではない。例えば、米国外法人Pの米国子会社Sが米国法人TをP株式を対価に買収する際、SがP株式をPから現金対価で取得するとKiller B規則で取得対価は分配となる。分配はE&Pの範囲で配当になって米国内法では30%源泉税対象だけど条約の適用が可能だと5%とか0%に減免される。したがって所得額ではなく最終的な税額で比較すると結果が逆転するケースもあるけど大丈夫?っていう問題が2008年から2011年の間に浮き彫りになりつつあった。

とは言え、最終的な米国税負担額を使うことになると、条約だけの影響に留まらず、P、S、Tという全ての登場人物の税務属性、例えばE&Pはいくらあるの~?とかを総合的に加味して考える必要が生じて実務面での運用が難しいという現実に直面する。そこで2011年最終規則では、原則、2008年暫定規則通りに所得額で比較するアプローチは温存しつつ、2つのタイプの取引はKiller B規則適用除外とする、という対応策を盛り込んだ。除外取引の一つ目はPとSが双方ともに外国法人でCFCではないケース。2つ目はPが外国法人でSが米国法人のケースだけど、PがSから受け取る配当はECIでなく源泉税が条約で免税になり、S株式がUSRPIでないケース。要は双方ともにSがPからP株式を取得する際の現金対価をKiller B規則で配当にしたところで米国で課税はない取引だ。これらのケースでTriangular Reorganizationに関してsection 367(a)の適用がある場合にはKiller B課税ではなくsection 367(a)に軍配が上がるということになる。

まあ、Killer Bって主に米国企業がCFCから米国側の課税なしでE&PをRepatする際のプラニングとして検討されてたと思うんで、2011年最終規則に設けられた2つの例外の適用対象となるKiller Bが実際にどれだけ存在したかは興味深いところ。

PのSecurities

2008年暫定規則やその前身のNoticeでは、Killer B規則はSが現金等の対価で「P株式」を取得する取引が適用対象だったけど、2011年最終規則ではこれを「P債券(Securities)」の取得にも適用を拡大してる。T株式、Securities、資産をTriangular Reorganizationで取得する際、対価にP株式に加えてSecuritiesを使用するケースがある。対価がSecuritiesだけだと通常は持分継続に問題があるって考えられるんでSecuritiesは株式に加えて使用される。株式適格組織再編やスピンオフ時に使用されるSecuritiesは7年等の長期債券で、T債権者と交換されないといけない。債権者は株式またはSecuritiesを適格対価として受け取ることが認められる一方、T株主はSecuritiesと株式を交換しても適格対価にはならない。適格ではない対価を組織再編を語る際には「Other property」って呼ぶんだけど、これは俗に言うBootのこと。また買収時にOutstandingだったT債券の元本を超える額のSecuritiesはBootと取り扱われる。OIDの場合、ここで言う元本が組織再編時の「Adjusted Issue Price」なのか、単純に「額面」なのかっていう結構ベーシックな適用に関して未だに明確なルールがなかったりして不思議。

で、2011年最終規則ではPのSecuritiesがT株主またはT債権者にとってBootになる範囲で、SによるPのSecurities取得をKiller B規則の対象にするって規定している。P株式はBootになるかならないかにかかわらずKiller B規則の対象だ。

PのSecuritiesがKiller B規則の対象になったんで、Priority規定にもその点が反映され、T株主およびT債権者がsection 367(a)下でsection 367(a)例外規定の適用を無視したら認識したであろう譲渡益が、Pが認識するKiller B規則下のみなし配当に加えてE&Pの金額および簿価を超えて認識されるみなし譲渡益の合計、より低い場合にはsection 367(a)の適用は停止される。逆に前者の金額をsection 367(a)の例外規定込みで算定し、そっちの金額が後者より高い場合には、Killer B規則の適用が停止され、section 367(a)のみ適用されることになる。Section 367(a)例外規定の適用有無が双方のテストで異なったりしてPriority規定も複雑。

SがPからP株式を取得する際のみなし出資

2008年暫定規則では、Killer B規則に基づくみなし分配後のみなし出資はSが「P以外」の者からP株式を取得するケースのみに認定されると規定されてた。これは個人的にはチョッと釈然としてなくて、もともと2007年のNoticeで初めてみなし出資に言及があった際には、P株式は実際にはSに移管されてるんで、SのPに対する現金分配っていうKiller B規則のRecastだけではP株式はSに移管された取り扱いにならないんで、SがPからP株式を取得した場合も、第三者からの取得同様、みなし出資が認定され、その後形式通りにP株式取得があったって取り扱うのが当然だろうって考えてたんだけど(「Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (7)」)、2008年暫定規則ではそうなってなかったんで「う~ん、ということは普通にPからP株式を取得するKiller Bの場合は分配があったきり?」って不思議だった。つまり、じゃあP株式はどうやってSの手に移管されるんだろうね?っていう単純な疑問だ。2008年暫定規則は第三者からの取得のケースのみにみなし出資が認定されるって明言されてたんで、SがPからP株式を取得する場合、P株式譲渡にしても分配にしてもSから受け取る現金等の対価は実際にPの手元に残ってるんで、P株式の取得は実際に起こるとした上で対価の現金受け取り部分だけに分配同様の効果を持たせるってことなんでしょうか?とか「Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (8)」で触れた通りモヤモヤした気持ちで3年間を過ごした。

2011年最終規則ではこの点に修正があり、SがPから直接P株式やSecuritiesを取得する際もみなし分配後にみなし出資があったって取り扱うって規定された。これで超スッキリ。

2011年最終規則その後のKiller Bサガ

ここまで完璧にKiller Bを封じこめたかに見えた2011年最終規則。それでストーリーが終わってたら、今回のKiller Bシリーズのポスティングはなかっただろう。2011年後、予想に反してKiller Bはさらに進化し、2014年のNotice、それを受けて変身を続けたKiller Bに対して2016年には更新Notice、そして遂に2023年10月には新規則案公表に至っている。2016年から7年間待ち焦がれてた規則案の思わぬタイミングでの公表に興奮して、まるでローマ帝国の歴史を紐解くかのように長編に着手っていう展開になってるのでした。ポスティングを読んでもらえればテクニカル面で魅せられざる得ないであろう点、IRSと納税者間の息を呑む知恵比べ、の両面から興奮せざるを得ない点は十分に分かってもらえるだろう。

ということで次回からKiller B物語はいよいよFinal Phase。Pokerだったら「No more buy-in」で「Big blind is $1 million」みたいなPhaseに突入だ。

Friday, January 26, 2024

Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (8)

前回は新年早々、Killer Bに網を掛ける目的で公表された2006年と2007年のIRS Noticeに触れた。2006年NoticeでIRSが策定予定の規則内容が明らかにされたけど、それはKiller B最初のステップとなるSによるP株式取得対価としてSが支払う現金を、取得対価ではなくDistribution(SのE&Pの範囲で配当所得)とするというもの。当時はまだ2017年のTCJA以前の世界だから多くのE&Pは米国では未だに課税されてない「Pure」なE&Pだったし、増してや外国源泉配当にかかわる100%DRD制度なんてなかったから、Distribution扱いされるとPは配当所得を認識することになる。「SにE&Pがなかったらラッキーだね」って思うかもしれないけど、そんなんだったらKiller BみたいなIntricateというか入り組んだストラクチャーを使わないでも、単純にSがPにDistributionしてもPが持つS株式の簿価の範囲で課税はない。また、当時、CFCからの受け取る配当所得には間接税額控除が認められてたけど、FTCで配当課税をオフセットできるんだったら単純に配当すればいい訳でKiller BはLow-Tax PoolのCFCの留保所得を米国に還流するのが狙いっていう基本を忘れてはいけない。Killer Bの「こころ」はSに多額のLow-Tax PoolのE&Pがあり、この埋蔵金をProhibitiveな米国課税を生じさせることなく合法的にPに持ち帰る点にあった。

で、2006年Noticeで「こんな規則にしますよ」って告知があり、2007年には前回触れた通り、2006年Noticeの補強Noticeが公表された。2006年NoticeでみなしDistribution案が披露されてたけど、それだけではP株式がSの手に渡らないんではって思われたんで、2007年NoticeではみなしDistributionの直後に同額をPがSに今度はみなし出資したって取り扱うっていう移転価格の二次調整みたいな取り扱いに言及されていた。みなし取引ってフィクションだから多くのフィクションが登場すると課税関係の検討が大変だよね。2006年NoticeでもみなしDistributionはSによるP株式取得とは「別取引」として認定するって言ってたんで一般には直後のみなし出資になるんだろうって解されてたけど、2007年Noticeでは実際にその点に触れてくれたように見えてて、「それはそうだよね」ってなったんだけど、結局その後の規則ではチョッと異なる表現だったんで、この点は後述する。

二次調整フィクション

移転価格の二次調整の話しがでたけど、99‐32とか、APAのRepatメカニズム、MAPのCompetent Authority Repatとか、実際の取引形態と異なる課税を強制する際にどうしても登場せざるを得ない必要悪というか複雑なメカニズム。

移転価格でPrimary Adjustmentがある場合、その相手方の米国税務上の取り扱いもPrimaryと整合性を持たせないといけない。Corelative Adjustmentだ。ただ、整合性を持たせてCorelative Adjustmentを強制したたところで取引の相手方が対象取引に関して米国で法人税申告義務のない外国法人、例えば日本親会社、の場合、二重課税救済策としては意味がない。米国側の税務調査でトリガーされるPrimaryとCorelative AdjustmentsはBilateralのAPAがない限り原則、米国税法の話しなんで、米国でPrimary Adjustmentがあったからと言って外国の税法上、もちろんだけどCorelative Adjustmentは認められない。それどころか米国とは関係なく税務調査が行われてたりすると逆方向のPrimary Adjustmentで課税されるリスクすらある。

そんな訳で米国税務調査でPrimary Adjustmentが生じると二重課税だから、MAPに助けを求める局面だ。いずれにしても米国の視点からはPrimaryとCorelative Adjustmentsを反映させる必要があり、それらは実際の取引価格に基づく課税所得とは異なる取引価格に基づくことになる。米国で課税所得増額のPrimary Adjustmentを受けたとすると、その額に関して相手方はマイナスのCorelative Adjustmentが入り、結果としてPrimary Adjustmentを受けた米国法人は本来認識するべき資産・留保所得と比較して、Primary Adjustmentの金額に関して実際の取引ベースに基づく低い額の資産・留保所得しか認識してないことになる。相手方の日本親会社は逆に米国税務上、本来認識するべき資産・留保所得と比較して、少なくとも米国の視点からはCorelative Adjustmentの金額に関して実際の取引ベースの過多な資産・留保所得を認識してしまっている。

ここの辻褄を合わせるため、米国子会社は日本親会社にみなしDistributionをしたと取り扱われる。Primary Adjustmentの方向が逆ならみなし出資だけど、米国の調査でPrimary Adjustmentがマイナスってケースは少ない。このみなしDistribution等をSecondary Adjustment(またはConforming Adjustmentと呼ばれることもある)って言う。米国移転価格税制上、このSecondary Adjustmentは強制。日米間のようにDistributionがE&Pに基づき配当になっても源泉税が免除されてれば実務的なダメージはないけど、いろんな国の租税条約を見ると配当源泉税はゼロ%とは限らないし、そもそも米国と租税条約がない国も少なくない。

例えば米国と租税条約がないシンガポール法人が米国子会社との取引に関して同様のPrimary Adjustmentが行われる場合、調整額は30%の源泉税対象になる。面白いことにSecondary Adjustmentは強制だけど、Secondary Adjustmentを帳消しにしようとして本当に資金を動かすっていう取引は原則認知されてない。え~、じゃあSecondary Adjustmentに30%源泉税払うのが嫌だからってPrimary Adjustmentと同額をシンガポール親会社から米国子会社に現金移管するとどうなっちゃうの?原則的な答えは単にそんなことしてもそれはSecondary Adjustmentとは別の取引として課税関係を考える必要が生じ、Secondary Adjustmentのみなし配当とは別に出資が行われたかのように取り扱われる。みなし出資を受けるっていうRecastの場合、Killer Bでさんざん触れたsection 1032や場合によってはsection 118で米国側にダウンサイドはないからフ~ンって感じだけど、みなし配当っていうSecondary Adjustmentを帳消しにできないのは痛い。

それはチョッと気の毒…ってことで、特別な選択が認められててPrimary Adjustmentが確定した時点で、Secondary Adjustment同額に関して米国子会社がA/R、方向によってはA/Pを設定し、90日以内に精算したり云々とメカニカルな条件を満たすとPrimary とCorelative Adjustmentsに準じた資金移管が調整の一環で認められる。で、この方法を使うとストレートなSecondary Adjustment後の資金移管と異なり、資金移管そのものに源泉税その他の課税関係は生じない。他にもOffsetとか手法が認められることもある。米国子会社に対する米国の移転価格調整そのもの、すなわちPrimary AdjustmentでトリガーされるCorelative、Secondary、Conforming等を総称して「Collateral Adjustments」とか表現するんで移転価格の調整を考える際にはどのAdjustmentの話ししてるのか、またその方向を良く考えないとね。特にCorelativeとCollateralは字面が似てるんで注意。

で、Killer Bに戻るけど、2007年NoticeではさらにSがP株式を既にP株式を所有しているP以外の者、例えばPublic Shareholderから取得する取引にも同様の取り扱いを適用する可能性がある点、さらに2006年Noticeに基づく取り扱いを迂回するため、E&Pが少額の主体を形式的にSとしてKiller Bを敢行する場合には、S以外の主体のE&Pを加味してみなしDistributionが配当がどうか判断、という乱用防止規定も設ける点にも言及していた。う~ん、だんだん納税者側のオプションが少なくなってきたね。

2008年暫定規則

2006年と2007年のNoticeで告知されてた内容に沿って、2008年には暫定規則(Temporary Regulations)が公表されている。Section 1.387(b)-14Tだ。最後のTは暫定って意味のTemporaryの頭文字。暫定規則と同時に、同一の規則が規則案としても公表されてる。なんでそんなややこしいことをするかって言うと、規則案だけでは規則に法的な効果がないんで、法的効果は最終規則と同じ暫定規則も同時に公表して暫定的に法的な効果を持つ規則とするため。暫定規則なんで法的効果を持つ一方で規則案としても公表されてるんでパブコメとかインプットを受け付けてさらなるTweakをした後に規則を本当に最終化することができる。その暁には当然、暫定規則は撤回となる。

で、暫定規則の内容は2006年および2007年Notice内容に準じてるんだけど、数点、より踏み込んでる部分がある。

PによるS支配有無

まずSがP株式を取得する時点で必ずしもSはPに支配されてなくても暫定規則のルールを適用するとしている点。これは面白い発想で、Triangular ReorganizationっていうのはT株式やT資産を取得するSが、Sを支配している「Controlling Corporation」のPの株式を使う取引だからだ。Controlling Corporationじゃない他法人の株式をランダムに使って資産や株式買収しても当たり前だけどTriangular Reorganizationにはならない。え~、でもKiller BってTriangular Reorganizationを利用した非課税Repatのはずじゃんって思うよね。暫定規則が敢えてPがSを支配してないタイミングでSがP株式を取得する状況に触れてるのは、SがP株式を取得した後に支配関係を構築してTriangular Reorganizationにするようなステップを踏んで巧みに最初のP株式取得自体はTriangular Reorganizationとは関係ないんでKiller Bじゃないですよ、っていうような議論を封じるためなんだろう。納税者もいろいろ考えるよね。この点を明確にするため、暫定規則は「Plan of reorganization」に基づきSがP株式を取得する取引を対象にしているとは規定されていなくて、代わりに「In connection with the reorganization」でSがP株式を取得という表現を使用している。

Section 368(c) Control

ちなみにここでいう支配「Control」は組織再編や適格現物出資に適用されるファンキーなsection 368(c)のControlのこと。すなわち、クラスに限らず議決権をトータル80%以上、そして議決権のないクラスがあれば、その「株数」の80%以上を所有している場合にControlが認められる。価値と関係ない点が特徴で適格清算や連結納税グループの判断時の価値および議決権の80% Controlとは異なる。Section 368(c) Controlは定義的に比較的容易に議決権を付与するしないで好きな時に達成できる。スピンオフのHigh Vote Low Value株式の使用もこの点に着眼したストラクチャーだ。

Bear Stearns

非課税取引が好ましくない場合には敢えて議決権のない優先株式を取得せずにControlをBustしたりする。この手法の適用例としては2008年金融危機の際に、J.P. Morgan ChaseがFRBのバックアップでBear Stearnsを救済した際の買収法が有名。Bear Stearnsの救済は翌日には倒産という状況で行われたんで当時の株主が所有していた株式はもちろん含み損の状態。そんな状況でJ.P. Morgan Chase株式との交換が非課税再編になってしまうとSection 354 Exchangeになってしまい含み損が実現しない。J.P. Morgan Chaseが交換してくれる株式はBear Stearns株式当たり0.21株だったって開示されてたから経済的には大損してもだからBear Stearns株主にとっては泣きっ面に蜂(これこそKiller B?)だ。まあ、その後J.P. Morgan Chaseの株式を市場で売却すればBear Stearns株式の高い簿価に基づくExchanged Basisになってるから損は認識できるけどね。で、J.P. Morgan ChaseによるBear Stearns買収はReverse Triangular Merger(この買収法に関しては「Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (4)」で詳細触れてるんで忘れちゃった読者、またはそもそも読んでない方は読んでみて欲しい)で行われ、Bear Stearnsの普通株式はMerger LawのマジックでJ.P. Morgan Chaseの普通株式に転換された。それが話しの全てだったらB Reorganizationまたは(a)(2)(E)のA ReorganizationでBear Stearnsの株主にはSection 354で非課税交換となってしまう。そこで、Bear Stearnsには議決権なしの優先株式が存在している点に着眼し、優先株式はJ.P. Morgan Chaseによる買収の対象外としている。ということは買収直後にJ.P. Morgan ChaseはBear Stearnsに対して税務上のsection 368(c) Controlを持ってないんでB Reorganizationにならない。またBear Stearns株主はJ.P. Morgan Chase株式とControlに至るBear Stearns株式を交換していないんで(a)(2)(E)に基づくA Reorganizationにもならない。Bear Stearns株主がControlを持たないんでもちろんSection 351にもならない。結果としてBear Stearns普通株式をJ.P. Morgan Chase株式と交換した株主にはSection 354の非課税規定が適用されず、通常の株式譲渡同様に損失が認識される。J.P. Morgan ChaseのBear Stearns買収は他にもオプションが盛り込まれていたりCorporate Tax的に関心度の高い取引だ。Prime-SubのHigh-Grade Structured Credit FundとかHigh-Grade Structured Credit Enhanced Leveraged Fundとかが原因で80年以上の歴史が瞬間的に終わってしまったSurrealな出来事だった。

Killer Bに用いられる「Property」

Section 301扱いされるみなし分配額はP株式取得対価としてSがPに支払う現金およびそれ以外の資産(Property)の時価。ここでいうPropertyは前々回Hook Stockやゼロ簿価の話しでチラッと触れたSection 317で定義されるProperty。すなわち原則S株式は含まれないはずなんだけど、SがP以外の者からP株式を取得する際にはS株式を含むとしている。また暫定規則ではSection 317の定義に加え、PropertyにはSが継承するPの負債も含むとしている。

みなし出資

で、例のみなし分配後のみなし出資だけど、暫定規則ではSがP以外の者からP株式を取得するケースのみ、みなし分配の直後にみなし出資があると規定している。う~ん、ということは普通にPからP株式を取得するKiller Bの場合は分配があったきりってことになる。じゃあP株式はどうやってSの手に移管されるんだろうね。ここは難しくて、おそらくだけど、現金等はP株式譲渡にしても分配にしても実際にPの手元に残るんで、P株式の取得は実際に起こるとした上で対価の現金受け取り部分だけに分配同様の効果を持たせるってことなんだろう。一方、P株式をSがP以外の者から取得する場合、実際には現金はPの手に渡らないんで、一旦みなしでPに現金を分配してPに課税した直後に、PがSにみなし出資で現金を戻し、Sはその現金を使ってP株式を取得したっていうフィクションになる。

Anti-Abuse規定

そして暫定規則には約束通り(苦笑)Anti-Abuse規定があり、暫定規則のKiller B対抗規定を迂回する目的で従事される取引に関しては、形式的にみなし分配で課税が起こらないような状況でも「無理やり(?)」適切な処理をするとのこと。暫定規則の例では、Pが通常のKiller Bのように潤沢なE&Pを持つSにP株式を譲渡する代わりに、新規に組成されるNew S(新設なんでE&Pゼロ)を見た目の取得者とし、従来から存在してるSがNew SによるP株式取得を実質ファイナンスしてるみたいなストラクチャーの場合、New SのE&Pは従来から存在するSのE&Pも含んで考えるということ。

2008年暫定規則その後

まあ、こんな感じで2008年暫定規則は2006年および2007年Noticeの流れそのものなんで大きな驚きはなかったって言える。Pから株式取得する元祖Killer Bのみなし出資がない部分は一瞬考えたけどね。で、暫定規則はその後最終化され、Killer Bも懲りずに進化していく。この進化がなければ2023年の規則案も不要だったことになるからね。深夜を回ってMozartの誕生日となったんでここからは次回。

Wednesday, January 17, 2024

Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (7)

(チョッと遅くなったけど)明けましておめでとうございます!2024年もよろしく。皆様、新年はリラックスできまたでしょうか。新年早々の地震や羽田空港の衝突炎上にはビックリしたけど、被害を受けられた方には心からお見舞い申し上げると共に皆様のご無事をお祈りします。

1月の地震っていうと日本だと1995年1月17日の阪神淡路大震災を思い出す。またちょうどその1年前に当たる1994年1月17日には南カリフォルニアをNorthridge Earthquakeが襲っている。Northridgeの時はWest Los Angelesに居たけど、揺れるっていうよりも洗濯機や乾燥機の中で回ってるみたいだった。Santa Monica Fwy(Fwy 10)のLa Cienegaオーバーブリッジが落ちたり相当な被害だった。直後は周りのみんな非常食貯えたりしてたけど、天災は忘れた頃にやってくるんでその後の備えはどうなってしまったのでしょうか。当時は携帯とかSocial Mediaがなかったんで情報収集は不便だったかもしれないけど、逆にパニックやデマが少なかったように感じる。

で、新年早々Killer Bに戻るけど、前回のポスティングで特別なルールが規定される前のKiller Bの税務上の取り扱い、少なくとも納税者が税法を律儀に適用してそうだろうと信じてた取り扱い、に関してステップバイステップで触れた。

IRSによる新ルール

前回のポスティングでお分かり頂けた通り、Killer Bは決して脱法的な取引ではなく、当時のSection 367(b)傘下の規則やSection 1032等のルールを律儀にTriangular Reorganizationに適用して課税関係を決めていた取引だ。そんな適用に基づき「外国子会社でCFCのSの留保所得を現金でPに非課税で移管する」っていう結果となり、これは「外国法人の(当時はSub Fで)課税されていない留保所得が課税されることなく米国に還流される取引を取り締まる」っていうSection 367(b)の1975年当初からの立法趣旨に真っ向から対立し、当然ポリシー的に財務省やIRSは何とか手当てしないと不味いっていうまあある意味分かり易い展開となった。

で、どんな風に手当てしたかって言うと、Killer Bの第1ステップとなる「PがP株式を現金対価でSに移管」の現金移管をP株式移管とは別取引として「SによるPへのDistribution」とみなすというのが骨子。このルールが規定される前のKiller Bは、このステップを形式通りPが自社株式を対価に現金を受け取る取引、って整理してSection 1032でPに所得認識はない、としていた。もう一方の当事者となるSは単純に現金でP株式を取得したことになり、Sの手に入るP株式の簿価はSection 1012のコストベース。

Distributionとして取り扱われるってことは普通にSection 301でSのE&Pの範囲でPは配当所得を認識(2017年以前はDRDはない代わりにFTCはあり)、E&Pを超える額はまずPが所有するS株式の簿価を減額し、減額し尽くしたら超過額はS株式のみなし譲渡キャピタルゲインとなる。配当と取り扱われる金額に関してSのE&Pは減少。TCJA以降のGILTIの世界と異なり、SのE&PがKiller B以前にSub FとしてPで合算課税されるケースはかなり例外的だったと言えるけど、もしそんな所得があればE&Pは課税済み(Previously Taxed)になってるんで、その分は再度Pで課税されることはない。Section 367(b)の「外国法人の(当時はSub Fで)課税されていない留保所得が課税されることなく米国に還流される取引を取り締まる」っていう立法趣旨的にも既にSub Fで合算済みであればそんなE&Pがそれ以上の課税なく米国に還流されることは問題視されない。

更にIRSはSがP株式をPそのものから取得する代わりに、関連者が一旦PからP株式を取得し、Sがその関連者からP株式を取得するようなステップ取引にも同様のルールを規定するとしている。SがP株式を上場マーケットで取得とか、非関連者から取得する取引に関して特別なルールが必要か否かはパブリックコメントをリクエストしているに留まっていた。

「え~でもPからSへの現金移管がDistributionだったらP株式はSの手に渡んないじゃん」って不思議に思った読者が居たらちゃんと考えて読んでてくれてるんで偉い。本当にその通りで、この点をどうRecastして考えるかに関して2006年のNoticeでは特に触れられてなくて、2007年に慌てて(?)公表された補足Noticeでその部分の取り扱い意図が明確にされている。というか明確になっているように見えた。上述の通り、みなしDistributionをKiller Bの第1ステップとなる「PがP株式を現金対価でSに移管」する取引とは別取引と位置付けてる点をもってIRSがどんなRecastを念頭に置いていたかある程度図り知れてたけど。この点は実際の規則状の取り扱いに関して後述する。

2007年Notice

2006年のNoticeのインクが未だ乾き切っていない2007年5月、補足Noticeが公表されて、PからSへの現金移管をみなしDistributionと取り扱った直後に、同額がPからSにみなし出資されたって取り扱われる旨が確認されている。この段階でみなしDistributionにかかわる課税関係、主にPによるSのE&P額の配当所得認識だけど、を達成しながら形式はKiller B直前の大本の状態に戻る。さらにみなし出資されて元通りになった直後に、Killer Bの第1ステップとなる「PがP株式を現金対価でSに移管」って取引が生じた取り扱いとなり、このステップおよびその先のステップの取り扱いは従来のKiller Bにかかわるものと同じだと規定されている。

また、2006年Noticeで言及されていた関連者を介したP株式取得に加えて、2007年NoticeではPの株主からSがP株式を取得する取引にも網を掛けるとしている。P株主は持分次第で必ずしもSection 267とかでPやSの関連者には当たらないケースがある点に気が付いたのかもね。

2008年暫定規則と2011年最終規則

これら2つのKiller B Notice後、ついに満を持して2008年に暫定規則、続いて2011年に最終規則が公表される。ここからは次回。