Sunday, November 12, 2023

Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (2)

前回のポスティングではKiller Bをキックオフしたけど、Killer Bを語るには、まずsection 367(b)の話しをしないとね、ってなって、さらにsection 367(b)の話しをするには、Section 367全体の話しをしないと、ってところで終了していた。そういえばチョッと前、って言っても一年くらい前かな、に流行ってたSZAの「Kill Bill」って曲があって詩はチョッと怖いけど曲は良くてWestsideに沈んでいく真っ赤な太陽が摩天楼のガラスに反射しているの見ながら黄昏れたりする時にピッタリの曲調だった。どうもこのKill Billって聞くたびにKiller Bを連想してしまってせっかくの黄昏感が台無し(?)でした。

Section 367

さて冒頭で触れた通りsection 367(b)の話しをさざるを得なくて、Section 367(b)の話しをするにはSection 367全体のフレームワークに触れておく必要があるってことでまずはSection 367の超ハイレベルオーバービュー。Section 367ってSub CのM&AとかのCorporate Tax絡みの規則とクロスボーダー課税のブリッジ役を果たしてる条文。なのである程度双方を知らないと理解が進まないSuper-ComplicatedかつInterestingな条文。

Section 367自体は今のCodeでは300番台ってことから分かる通りCorporate規定のSub Cに属する。感覚的にはSub Cっていうよりもクロスボーダー課税に属するって頭の中で整理しているPractitionerが多いんではないでしょうか。前々回のポスティングでも触れた通りSection 367は(a)から(f)で構成されるけど、他の多くの条文に見られる(a)で一般規定して(b)以降は例外や定義みたいなストラクチャーではなく、(a)、(b)、(c)…が各々異なる目的で独立している。とは言えSection 367全体に共通なテーマがある。それはSub Cをそのまま適用すると(Pureな国内取引だったら)非課税になるタイプの取引、具体的にはsection 332, 351, 354, 355, 356, 361等で非課税になる取引、に外国法人が関与している場合にSub Cの非課税措置をオーバーライドするっていうもの。含み益があれば課税するぞ、っていうものもあれば、Sub Cの非課税措置を実現するには追加の条件が課されたりする。

Section 367(a)とSection 367の歴史

Section 367のトップバッターは「一番レフト高田」(知っている人いる?)じゃなくて、もちろんSection 367(a)。(b)から始まる訳ないもんね。(a)はOutbound系の規定でSub Cの世界だけで考えれば非課税になるであろう資産移管でも、米国人が「外国法人」に資産移管を行う場合、「譲渡益」を認識するかどうかの目的のみ、その外国法人は米国税務目的で「法人」とは取り扱わない、っていう規定。このアプローチ回りくどくて面白しろいよね。例えば普通だったらSection 351の適用があり得る出資に対して移管先の法人が外国法人の場合はSection 351を認めない、って直接的に非課税措置を停止するんじゃなくて、移管先の外国法人を法人じゃない、ってすることで間接的にSection 351が不適用になる、っていう仕組み。移管先が法人じゃなかったら当然だけどSection 351の適用はないもんね。ただこれは含み益を持つ資産に対するオーバーライドなんで、含み損を持つ資産の譲渡には適用がない。すなわち(a)を使って含み損をトリガーすることは認められない。マンハッタンの道路みたいにOne-Way Streetだ。

う~ん、何で敢えてこんなアプローチを選んだんだろう、っていうのは個人的に昔から七不思議で、古い立法趣旨とか読んだことあるんだけど今一つ良く分からなかった。おそらく多くのSub Cの非課税措置を一気にTurn-offさせる手法としては容易だったんだろう。それはそうだよね。Sub Cっていうからには法人にかかわる規定なんで「あなたは法人ではありません」って宣言されてしまったら多くのSub C規定の適用はないもんね。

Section 367を紐解いくと、何と言ってもまずその歴史の長さに驚かされる。Section 367の前身にあたる条文はSection 112の一角を占める112(k)として 1932年に登場してる。1932年って言ったら100年近い昔じゃん、ってビックリ。詳細は異なるとは言え、こんな法律の大本がそんな昔に出来ていて、その後の企業側の再編Structureの進化やクロスボーダー取引のあり方の変遷と共に条文およびその傘下の規則も進化してきたっていう沿革は米国税務の法体系の複雑さ、そして人によっては面白さ、に繋がる。当時のCodeに規定されるSection 112は原則、資産譲渡は課税取引ってした上で現在のCodeのSub Cで規定される非課税措置、Section 351や組織再編のSection 368を例外として規定しているパワフルなSection。でSection 367の前身部分はその更に例外、ってことでオリジナルバージョンで既に「外国法人は法人とは取り扱わない」っていうアプローチを確立している。Section 1001とSub Cを一つのSectionでバッサリ片づけるって今の複雑なCodeを知ってたら考えられる?しかも当時はカナダをタックスヘイブンみたいに利用していたとのこと。

Section 112(k)によるアウトバウンド資産移管に対する網掛けって観点から「1932年」ってタイミングを考える際、これが「1962年以前」(当たり前だけど)っていう文脈はよ~く認識しておく必要がある。

1962年がどうした、って?もちろんThe Beatlesがデビューシングル「Love Me Do」を当時のEMI Studio、今のAbbey Road Studioでレコーディングした年だ。もともと1962年の新年早々にDeccaっていうレーベルのオーディションがあって、なんとそれには落ちてるんだよね(笑)。先見の明がなかったとしか言いようがない。で、そのオーディションのテープ(正確にはReelのテープを基に作成したマスターレコードでバイナルよりも固いアセテート版のレコード)を持ってマネージャーのBrian Epsteinが根気よくあちこちに売り込み行った際にEMI傘下のParlophoneレーベルのGeorge Martinの目に留まり、EMI Studioでオーディションに漕ぎつけたってことらしい。George Martinは歌唱力には評価を示したらしいけど、当時ドラマーだったPete Bestの力量に不満足で、直後にドラマーはRingo Starrに変わっている。その頃に既にAsk Me WhyとかPlease Please Meとかレパートリーにあったっていうから曲つくりの才能も相当早くから開花してたんだね。Please Please Meに至っては録音が終わった瞬間にGeorge Martinが「たった今、君達にとって初のチャート1位になる曲のレコーディングが終了した」とメンバーに宣言したのは有名な話し。それくらいの自信作だ。今聞いても格好いいもんね。G、A、Bって上がってくBreakみたいなリフとか。B面のAsk Me Whyもいいよね。ちなみにLove Me DoのレコーディングはPete Bestに変わって登場したRingo StarrにもGeorge Martinは満足できなかったようでセッションドラマーのAndy Whiteがピンチヒッター的にドラムを叩いてるTakeもあるということ。Ringo Starrはタンバリンとマラカス(苦笑)を渡されたって話し。George Martinってドラマーにうるさかったのかもね。それはそうだよね。バンドの屋台骨みたいな存在だからね。Pete Bestの脱退劇の直後だけにタンバリンとマラカス渡されたらRingo Starrも落ち着かなかっただろうね。ただ、結局その直後からRingo Starrのドラムは安定感があるということでGeorge Martinの評価も高くなっていったそうだ。よかったね。Ringo StarrのドラムってBeat感っていうかドライブ感があって格好いいよね。そんな出だしでレコードデビューし、その後は未だに匹敵するバンドはいない存在になるんだね。So the story goes…。

Love Me DoはどのTakeが最初にシングルカットされて、とかその後のEPのバージョンは別のTakeだとか、その後もBootlegとか出回ってて結局どのバージョンがRingo Starrのドラムなのか超分かり難いんだけど、UKバージョンのLove Me Doのシングル(B面がP.S. I Love You(日本のPink Sapphireじゃないからね。彼女たちのP.S. I Love Youも恰好よかったけどね))はRingo Starrだっていう話しがあったんで、小学生の頃、父がロンドン出張に行くっていうんでシングルをお土産に買ってきて欲しいってお願いして入手した。今から思えば父はThe Beatlesとか全然興味なかったんで、わざわざロンドンでレコード屋さん探して(Google Mapとかもちろんないからね)良く買ってきてくれたものだ、と今になって感謝。で、手渡されてビックリだったのは、シングルって日本だったら写真付きのジャケットモドキの表紙があってそれらしくできてたんだけど、UKのやつって黒い硬いドーナツ穴のレコードがただ白い紙のスリーブに入ってるだけなんだよね。「ワ~、本場は違う」って大感激だった。ああいうドキドキ感って、携帯があれば何でもかんでも全てのOuttakeとか動画が瞬時にどこからでも聴いたり見たりできる今の時代には逆に存在しないよね。感動が少ないっていうか。そんな風に思うこと自体Old-Fashionなんだろうけど、AIとかDeep Fakeで一体全体何が本当なのか全く分からない世界にまっしぐらの人類はこれからどうなってしまうのでしょうか。

で、結構派手に脱線したけど、1962年はケネディ政権下、CFC課税制度、すなわちSub Fが導入された年。そしてSection 367とは親戚関係にあると言えるSection 1248もCFC課税を完結させるために1962年に同時規定されている。Sub Fは世界のCFC課税やタックスヘイブン税制のお手本だけど、これ自体60年前、Anti-Deferralは100年近くだから新参の他国や国際機関とかとは年季が違うよね。まあ長くやってればいいとは限んないけど、今や議会よりも国際機関が世界の議会みたいな存在だもんね。誰が選挙で選んだんでしょうね~。え、誰も選んでないって?欧州とか見てると外交能力には一日の長があって「さすが」って感じ。余り神髄に触れない方がいいね。「これカットして下さい」(苦笑)って感じのコメントかもね。

で、CFC課税っていう概念がない時代、外国法人は原則米国課税対象じゃないんで、含み益を持つ資産、当時はHTVのIPとかじゃなくて主に投資資産、を外国法人に非課税規定を利用して移管されてしまうと所得が米国に還流されるまで課税できなかった。それで登場するのが後のSection 367(a)を含むSection 112(k)だ。元祖Anti-Deferralだよね。1962年のSub F導入後、外国法人に投資資産を移管した後の収益に一定の網を掛けることはできるようになったと言えるけど、その後、Section 367は衰えるどころか様々な異なるポリシーを取り締まる膨大かつ複雑極まりない法体系として大成長していく。1986年のPFIC導入後も同じ。

長らく米国クロスボーダー課税に関与しているPractitionerは覚えてると思うけど、実はひと昔前まで、Section 367とパラレルでアウトバウンド現物出資時に含み益に課税するっていう条文がもうひとつ存在した。1997年に撤廃されたSection 1491~1494だ。これはExciseタックス、すなわち懲罰税で法人税じゃなかったけど、パートナーシップや信託に対する拠出もカバーしててより広義なもので趣旨はSection 367(a)に酷似。Section 1491~1494の撤廃は、法人に関してはSection 367(a)で引き続き課税取引なんで、むしろパートナーシップへの出資にかかわる制限緩和の側面が強いな~、っていうのが撤廃された当時の個人的な印象だった。その点は議会も十分に認識していてSection 1471~1474撤廃と同時にパートナーシップへの非課税出資を活用(濫用?)したIP等の国外逃避プラニングに網を掛けるためSection 721に(c)を新設して財務省に濫用防止規則策定権を与えている。その後、しばらく音沙汰がなかったんだけど、時間を空けて2020年に規則が最終化されてる。最初に出された規則案に比べて適用対象が狭義になったりしててウェルカムだったけど罠みたいな規定なんで今でも要注意。Section 704(c)のRemedial Method of Allocationが重要な役割を果たすんで、クロスボーダー専門のPractitionerも当規則を機にSection 704(c)を復習した方が多いのではないでしょうか。

上述の通り、Section 367(a)は資産移管がsection 332, 351, 354, 355, 356, 361にて外国法人に移管される場合、その外国法人は米国税務目的で「法人」とは取り扱わない、っていうアプローチだけど、Sub Cの中にも当事者がCorporationかどうかは関係なく適用がある規則もある。そんなケースではSection 367(a)によるオーバーライドは原則ない。インバージョン対抗規則でIndirect stock transferになってとか狭義の例外は除いて。例えば、A型やD型再編の合併で存続法人の株式を受け取るターゲット法人の旧株主はSub CのSection 354で含み損益に課税はないけど、その適用に株主がCorporationじゃないとダメ、っていう要件はないんでSection 367(a)で急に課税になったりしない。それはそうだよね。株主は個人のケースも多いから。株主側の取り扱いはSection 354だけど、一方で合併当事者2社はCorporationでないと適格非課税再編にはならない。例えばForward Mergerで消滅法人が米国法人で存続法人が外国法人のケースがあるとすると、本来なら資産移管は非課税となるところを(a)がオーバーライドして譲渡人に当たる米国法人にSection 361(a)の適用が原則認められない、なので譲渡益には課税ってことになる。

ちなみに(a)がオーバーライドするのはあくまでもSub Cの世界で規定される非課税取引だけ(Section 1032は微妙だけどね)。全く別のCreatureと言えるSub Kのパススルー課税とかその他の規定には適用されない。もちろんSub K自体にもAnti-Abuseを含む恩典制限規則があるんで、Sub Kを活用するから常に非課税ってわけじゃないけど、少なくともSection 367(a)による制限はない。この点を利用して、バーガーキングとTim Hortonsの合併・一種のInversion取引でバーガーキングの米国人株主でファンドの3G Capitalがカナダに新設されたHold Co(米国税務上Corporation)の株式を受け取る代わりにをHold Co傘下のパートナーシップ持分を受け取ることで(a)を不適用にした取引は有名。バーガーキング取引は前回のポスティングで触れたUP-Cのストラクチャーでもあり、しかもパートナーシップ持分はUP-CのUpper-Tierの上場法人の株式とExchangeして換金できるばかりでなく、パートナーシップ持分自体も上場されていたというSuper-Interestingがストラクチャーだった。投資の神様Warren BuffetがHigh-YieldのPreferred Stockを$3B引き受けて取引に参加してて役者が揃っている取引だったね。さすがBerkshire!って感じの関わり方だ。Tim Hortonsってコービー屋さんでアメリカじゃあんまり見ないけど、地下鉄EからAir Train使ってJFK行く時はSutphin BlvdのAir Train乗り換え上りエスカレーターの手前に大きなお店があるよね。あそこ通るたびにSection 367(a)とかInversionを思い出す。読者の皆さんもMidtown Tunnelの渋滞を避けて安全策でAir Train使う時の乗り換えでSutphin Blvd駅を通過する際は必ずSection 367(a)を連想しながらエスカレーターに乗るように。

この例からも垣間見ることができるように、Section 367(a)はOutboundに対する一般的な禁止に加え、インバージョン対抗策の側面も兼ねている。っていうか1932年にはそんな立法趣旨はなかっただろうけど、Section 367のEver Changing Mood(いい曲!特にスローなピアノバージョンの方がお勧めです)的な拡大路線の一環で90年代前半から兼ねるように進化したって言う方が正確。インバージョン対抗規則と言えば2004年以降はSection 7874の方が主役だけど、それ以前の1996年には90年代前半のインバージョン、特にHelen of Troy取引に危機を感じた財務省がSection 367(a)の規則策定権に基づきSection 1.367-3で、一定要件下でSub Cの非課税措置を利用して実行されるインバージョン取引に関して米国人株主に課税すると規定している。この規則はその由来から今でも「the Helen of Troy regulations」として知られている。ただ、the Helen of Troy regulationsだけではインバージョンをスローダウンできなかったんだけど、その辺りは2016年になんと23回に亘るインバージョンシリーズのポスティング「Inversion/インバージョン(プラスSpin-Off)」で触れてるんで懐かく読んでみて欲しい。

で、Section 367はKiller Bポスティングの主人公格となる(b)以降続いていくけど、久しぶりの脱線も含めて長くなってきたんでここからは次回。