前回はチョッと久しぶりなポスティングだったけど、一瞬Zeppelinで危険な局面があったとは言えVan HalenとかThe Beatles、増してやHendrixなどで大きく脱線することなく乗り切り、11月の米国選挙結果そして今後の米国税制審議動向を探り始めた。今回も急に極寒になったNYCでクリスマスのフロリダ行きを目標にフォーカスして頑張ります。
前回のポスティングでは、共和党がTrifectaを達成したとは言え、同床異夢(?)みたいな状況もあり得て、両院のダイナミクス的に2回の予算調整法の活用法に関して既に意見が割れてるって点をプレリュード的に話し始めた。2回の予算調整法をどう活用するべきか巡る駆け引きは2025年の審議を見守る際のキーポイントのひとつなんで今日はもう少し深掘りしてみたい。
予算調整法アプローチ下院・上院案
2回の予算調整法の活用法に関して浮上している下院案と上院案の異なる2つのアプローチの大枠は前回のポスティングで既に触れた通り。軽くおさらいしておくと、下院案は第一弾、っていうか合体一発メガ弾?で国境警備、エネルギー政策、国防、そしてTCJAクリフ対策やトランプ提案の新税制の全てを盛り込んだクリスマスツリー的な巨大パッケージを可決っていうもの。一方の上院案は第一弾予算調整法では争点が少ない国境警備、場合によってはこれにプラスして国防やエナジー関係を盛り込み、こちらは政権発足後直ぐに可決。その後、より複雑な税制改正を第二弾で可決というもの。上院案の第一弾は「Fully Offset」すなわち他の歳出削減等でネット歳出を伴わない法案を想定している。
下院・上院の重鎮プレーヤー
下院案は議長のMike Johnson、下院Majority LeaderのSteve Scalise、下院歳入委員会のJason Smithらの一派が提言していて、上院案は上院Majority LeaderとなるJohn Thune、上院財政委員会のMike Crapoらによるものっていう点も前回触れた。
上院のJohn Thuneは従来から税制改正には深い関与がある人物。2011年から上院財政委員会のメンバーでTCJAの2017年可決にRyan、Brady、McConnell、Hatchの「Big 4」と同等に尽力した功績を持つ。一貫して増税に反対し個人や事業主の税負担軽減による経済成長を促進する政策を支持してきた。South Dakotaの議員なので農場や牧場事業継承の足かせとなるEstate Taxにも常に反対を表明している。
ちなみにSouth Dakotaと言えば、現知事のKristi NoemがHomeland Security長官に推薦されている。コロナの頃、NYとかCAは州政府・地元の官僚による個人行動の規制が激しかったんで個人の自由が一番尊重されていたSouth Dakotaで夏のひと時を過ごしたりしたけど同じ国でも州政府によって対処が大きく異なり、米国は州が国家主権同様っていうのは頭では以前から理解してたけど、コロナ禍は期せずしてそんな米国の実態を体感する機会になった。South DakotaのNoemはLock-Down系の強制措置は一切取らず、情報提供やその他の対応に限定し、後は州民の自由・責任としていた。他にもArkansas、Iowa、Nebraska、近所のWyomingやNorth DakotaもSouth Dakota程ではないけどオフィシャルなLock-Downオーダーは出てなかったはず。2020年夏のWyomingからSouth Dakotaに向かう途中のハイウェイパトロールの話しは以前「2024年11月米国選挙と2025年TCJAクリフ (6)」で書いたから見てみてね。これらの州と並びFlorida、Georgia、Texasも比較的緩やかな規制で、コロナ対策と個人や事業主の自由のバランスを取る政策を取っていた。そのため、さすがに冬のSouth Dakotaは寒いんでNYCからはFlorida、CAからはTexasに移住する人やビジネスは多かった。
「クライシス」時に政府やポリティシャンの本性が出るよね。第二次世界大戦時の日系人収用もその一つだね。どう考えても差別で憲法違反だけど最高裁は6対3で容認(「Korematsu v. United States, 323 U.S. 214 (1944)」)。日本人として米国と言う国を考える際に必読の判例(前回から必読が多過ぎ?)。え~読んだことないって?その場合は3名の判事(Murphy、Jackson、Roberts)の反対意見から読むのがいいかも。JacksonやRobertsっていうと今の最高裁にも同姓の判事がいるけど関係なくて1944年当時の判事のことだからね。ちなみにKorematsuで強い反対意見を書いたFrank Murphyは当時の大統領、民主党のFDRに任命されてるけど、日系人収用はそのFDRが大統領令(Executive Order 9066)で決定している。自分を任命してくれた大統領の政策にもかかわらず強烈な反対意見を表明している点、現最高裁判事の一人Amy Coney Barrettが未だTrumpに判事を任命される前にHillsdale Collegeで講演した際、最高裁判事は憲法にのみ忠実でなくてはいけないとし、自分が誰に任命されたとしても判断には一切影響は受けず、ポリティクスに左右されない判事の鏡としてMurphyの名を挙げている。ちなみにKorematsu判決は何の罪もない多くの日系人個人(米国市民)の自由を奪った政策を合憲・合法としたとして一般には米国史に残る誤りと認識されている。
Jason Smithと上院の確執?
で、John ThuneのSouth Dakotaでチョッと脇道に逸れたけど、実は下院歳入委員会のJason Smithと上院の間にはチョッとした不和がある。2025年のTCJAクリフを待たずに、TCJAには前倒しで自動変更された規定がいくつかある。2022年から研究開発支出が費用化の代わりに資産計上の上5年(米国外の活動は15年)償却になったり、支払利息損金算入制限のベースがEBITDAではなくEBITになっている。また100%即時償却も2023年から20%づつ減額される仕組み。これらを変更前の規定に戻すため2024年1月にJason Smithが先導し下院でAmerican Families and Workers Act of 2024(H.R. 7024)が可決され、同法案は上院の手に渡った。法案には他にも、国家主権として認知されていないために租税条約の締結ができない台湾との間に条約以外の形で実質似たような合意をみる規則も盛り込まれていた。ところが上院は法案を審議することなく放置したまま結局可決を見ないままの状態になってしまったっていう経緯。このせいかどうかは分かんないけど上院のTwo-Track案にJason Smithが一番深い懸念を示しているって言われている。
なかなかそれぞれの案のメリット・デメリットの話しに行かなくてごめん。今日は第二次世界大戦とKorematsuの話しで興奮してしまったんでここから次回。