前回、下院・上院案のメリット・デメリットを比較検討する勢いで始めたけど、South DakotaとかFred Korematsuの話しになってしまったんで今日こそ。
下院・上院案のプロコン
下院案の一発巨大パッケージのメリットは前回のポスティングで触れた下院の議席数が僅差にある点の懸念を克服し易いと考えられる点。例えばもし国家財政責任に重点を置くいわゆるDeficit Hawkの共和党下院議員が減税に腰が引けてる場合、同じ法案に国境警備が盛り込まれてないと賛成意欲が削がれるリスクがある。それなんで全てひとつのパッケージ化しておくのが安全と言う理論。前々回触れた通り、下院の議席差異は僅少っていうリスクは十分に加味する必要がある。また同じようなポイントだけど、4月のフロリダ特別選挙まで一議席差が続くとすると、その間に争点が少ないとは言え、第一弾の国境警備法案を可決することができるのか、っていう不安もチラつく。
上院と共にチーム・トランプは下院がこんな懸念を持つこと自体を煙たがってる様子がある。税制改正にはある程度時間が掛かる。米国市民が願っている国境警備に関して第一弾で素早く対処するのは当然という感覚。また税法案のドラフトは複雑で議会と財務省との連携が重要だけどScott Bessentは早期に承認を得られると仮定しても、省内の税務担当も稼働している必要がありこの点でも時間を要する。
さらにチームトランプには第二弾の可決は下院が懸念するほど困難ではないだろう、という読みもある。国防長官候補のHegsethが息を吹き返してることからも共和党議員に対するトランプの影響力は絶大で、増してや選挙公約の減税に反対票を投じるような者は次回のPrimary(予備選)も考えるといないという強気の読みだ。
陸軍・海軍フットボール観戦首脳会談
そんな中、年末恒例の陸軍・海軍フットボール(Army-Navy game)が12月14日メリーランド州ランドーバー で開催された。Army-Navy gameは1890年から続く陸軍士官学校(West Point)と海軍士官学校(Naval Academy)が対決する由緒あるカレッジフットボール。勝者には「Commander-in-Chief's Trophy」が与えられるだけに歴代の大統領(Commander-in-Chief)が観戦することが多い。今年のゲームは現大統領は既に存在感がなくなってるせいかどうか分からないけど、バイデンは姿を見せず(2021年の観戦が最後)、今年は米国内外で既に大統領かのようなプレゼンスになっているトランプが観戦した。トランプと共に登場したのは新政権リーダーWho’s Who。VPのVance、両院リーダーのJohnson、Thune(South Dakota覚えてる?)、そしてどちらかと言うと上院での承認プロセスで精査が厳しそうなHegseth(国防長官)、Gabbard(国家情報長官)、Patel(FBI長官)の3名、DOGEのMusk、Ramaswamy両人、DeSantis(フロリダ州知事)、Chief of StaffのSusie Wilesその他。
で、スイートで観戦しながら予算調整法のアプローチに関してトランプ、下院議長Johnson、上院Majority Leader(2025年から)のThuneの「Big 3」による首脳会談が行われた。JohnsonもThuneも早期に方向性を決めてしまいたい、また最終調整・決断はトランプにしかできない点で意見は一致。報道によると上院ThuneがTwo-Trackを押したのに対して、下院Johnsonはチームトランプが上院案を好んでいることを知っているので必ずしも下院の一発案を押すのではなく、下院歳入委員長のJason Smith を代表とする共和党議員の2回に分けてしまって党内調整が難航する懸念をトランプに十分に伝え、その上で最終決定された戦略には100%従うという出方をしたそうだ。
結局どうする?
結局のところ究極の仲裁人はトランプということで判断はトランプに委ねられたようだけど、チームトランプはDeputy Chief of StaffのStephen Miller等が下院議員と密に連絡を取り調整をしている。その甲斐があってか、下院共和党派閥の中でもDeficit Hawkで硬派のFreedom CaucusがTwo-Trackを公認する旨の書簡を送付するに至っている。ということはほぼTwo-Trackに決まりそうな感じだけど、下院共和党議員にはトランプから直接最終判断を聞きたいという希望があるようだ。一応、方向性が決まれば全員一丸になる用意はできているということらしい。
Two-Trackのもう一つのアキレス腱
税制改正が後半にもつれ込むもう一つのリスクは2026年の中間選挙への影響。ただでさえ大統領が属する党の下院は中間選挙で歴史的に不利な立場にあるけど、税制改正が遅れてその効果を2025年中に有権者が肌で感じることができないと減税が中間選挙の強みっていうかセールスポイントになり難い。2017年のTCJA可決が12月22日までずれ込んだため、2018年の中間選挙は共和党が大きく議席を失ってる。1982年のレーガン政権もそうだ。The Economic Recovery Tax Act of 1981 (ERTA)の可決は1981年8月後半だったけど、1982年の下院で同じく結構な議席を失ってる。トランプ政権が目指す地殻変動的な連邦政府の無駄削減や国境警備強化を4年間継続して徹底するには2026年の中間選挙で下院の多数を死守する必要があり、そのためには2024年早期に税制改正や規制緩和を達成し、有権者がその恩典を肌で感じることができる期間を設けるっていうタイムラインが求められる。大恐慌後の1934年のFDR政権下の下院・上院多数維持みたいな状況が理想だ。
このタイムラインはかなりタイトだ。Two-Trackで2回目により複雑な税制改正を上院が主張するからには、税制改正および規制緩和を2025年の夏、願わくば独立記念日の7月4日までに税制改正を達成するコミットメントがあるかどうかが一つのキー。このコミットメントがあやふやな状況だと下院の言う通り一発で対処してしまう方がいい。このタイムラインを達成するには5月には審議が開始され、6月には両院委員で法案のすり合わせをする必要がある。上述の通り、2つの予算調整法は並行して審議可能だし、また2024年を通して「もしTrifectaになったら」っていうシナリオで予算調整法を想定した税制改正法案の基となる文言を両院で検討していたことから、もしかしたら可能なタイムラインかもしれないけど、それでもかなりタイトなスケジュールだ。
第二弾の早期達成は可能か
だったら下院が言う通り一発で税制改正も含む巨大パッケージにしたらいいじゃん、って思うかもしれないけど、税制改正はより複雑なんで、多数の市民が望む国境警備予算の法案可決が遅れる方のリスクも加味しないといけない。したがって、どうしてもチームトランプの希望としてはまず100日以内に、米国市民の信任を得ている国境警備問題に即対処し、次の巨大法案で税制改正っていうのが落としどころとなる。しつこいかもしれないけど、Two-Trackの場合も、第二弾の税制改正審議は国境警備法案可決を待つ必要はなく、国境警備は下院司法委員会、税制改正は下院歳入委員会が中心にDual Trackで法案をまとめないと時間的に間に合わないだろう。
さらに2025年になったらグラスルーツを総動員して民主党議員にもプレッシャーを掛けて僅差を補うような努力も必要。1986年のレーガン政権による税制改革(今のInternal Revenue Codeは1986年版が元)時には多くの有権者が民主党議員に賛成に回るよう働き掛け、下院を292-136で可決させている。Joint Committeeに行く前の上院バージョンは97対3だったっていうから凄い。もしチップが非課税になる規定が入るような場合、ネバダ州では民主党議員でも反対票は投じ難いだろう。
下院と上院の制度差異
でもそんなことポリティクスに素人の僕が言ってるくらいだったら当然、海千山千の両院議員は百も承知だろうから、そういう風にTwo-Trackで同時審議したらいいじゃん、って思うかもしれないけど、ここが下院と上院の温度差が表面化するところ。2026年の中間選挙では、下院は全議席入れ替わるけど上院は3分の1のみ。すなわち、下院を規定する連邦憲法第I条のsection 2に基づき、下院435全議席は2年が任期。これは下院議員が一般PeopleとOut-of-Touchにならないように、2年毎に定期的にチェックを受けるという連邦憲法の知恵。一方、上院を規定する連邦憲法第I条のsection 3では上院議員の任期は6年。2年毎に行われる選挙では約3分の1づつ入れ替わることになる。Hostile Takeoverの対抗策「Classified Board(3分の1づつ選任することで一気に過半数取られない仕組み)」に似てる。Poison Pillと比較してもClassified Boardはより有効な敵対買収対抗策だ。実際にはHostile Takeoverって今日日の米国ではほとんどないけどね。アクティビストファンドのプレッシャーは敵対買収とは違うからね。
で、上院の6年に亘る時間差選挙だけど、これは急激な民衆の意思変化やそれに伴う議会勢力の短期的変動を避ける目的がある。下院の短期的な民衆の意思の反映と安定性のある上院をかみ合わせた二院制の立法府とすることで民衆の意思は反映しつつも長期的な安定性も確保するっていう制度だ。1788年当時の創立者が継続可能性の高い民主主義にしようとしている思慮深さが反映されている。何と言っても現在機能している憲法としては世界最古だからね。前から頻繁に警鐘を鳴らしてるけど、立派な憲法があっても守らなくなったら終わり。独裁政権や全体主義の国でももしかしたら一見まともな憲法があるかもしれない。
本当の民主主義の国との違いは守るか守らないか。また守らないといけない制度設計になっているかだ。その基本は言論の自由と三権分立にあるだろう。1788年から240年近く連邦憲法が機能し続けているのは、米国における「法の支配」に対する意識が強いっていうのが一つの理由だろう。でも最近は急進派系の議員とかが、自分が気に入らない判決が出たりすると最高裁は不法だ、とか言い出したりするケースがあるけどとても危険なレトリック。一般の人がランダムにそういったことを言うのは仕方がないけど、議員は連邦憲法第VI条に基づき「連邦憲法に忠実であり、憲法を守る」って就任宣言してるんだからその宣誓に忠実に行動しないとおかしい。実際の宣誓文言は連邦法、5 USC section 3331に規定されている。憲法は個人の自由、財産、命を守るためにあるんだから米国も気を付けないとね。
という制度的な背景で中間選挙に対する緊迫度は下院100%とすると上院は30%チョッとっていう感じ。この差が第二弾の税制改正のタイムラインに対する感覚の差になって現れないよう規律を持って対処できるんだったらTwo-TrackでもOKかも。
まとめ
いろいろと書いたんで今日のテーマを簡単にまとめておくと、2回に分けるアプローチに対する下院の懸念はRealなもの。だけどチームトランプがTwo-Trackを好む以上、上院のアプローチに傾きつつある今日この頃。下院と上院で中間選挙に対する温度差があるのは制度上仕方がないけど、Two-Trackとなる場合、第二弾とは言え2025年夏までにはいずれにしても対処しないと2026年中間選挙に弊害が出るので、上院がそれにコミットメントできるかどうかがキーと言える。