Saturday, December 21, 2024

2024年11月米国選挙結果と米国税制

共和党Trifecta

米国選挙について最後のポスティングしたのが8月末だから、それからあっという間に3か月半の月日が経ってしまった。11月5日の選挙結果は皆さんもご存じの通り、大統領府、議会両院を共和党が制覇し「Trifecta」となった。大統領選に関してはレガシーメディアや世論調査が最後まで大接戦を報じてたけど、蓋を開けてみたら「Not even close」。選挙人ベースでトランプ312対ハリス226、全米得票数ベースでもトランプが多数、スイングステート7州全州、ブルーウォール州全州トランプが勝ち取った。

税制改正の行方

2025年TCJAクリフ対策の具体案やOECDのBEPS 2.0の運命に関しては、選挙でどちらかの党がTrifectaを達成することができるか、また両院や大統領府に関して党がSplitする場合は各府の構図がどうなるか、で大きな影響を受けるって「2024年11月米国選挙と2025年TCJAクリフ (4)」で触れた。特にどちらかの党がTrifectaを達成すると方向性が明確になるっていうことだったけど、共和党がTrifectaを実現させたので、選挙前よりも容易に今後の動向オプションを占うことができる。

2025年マイルストーン

Trifecta下で起こる税制や通商を取り巻く今後の主たるマイルストーンの第一弾は法的に新政権が発足する2025年1月20日正午。この時点で議会の関与なく大統領権限で実行できるExecutive Orderが複数公表されるだろう。Executive Orderには国境警備強化、学校教育等の社会問題と並び、通商・関税にかかわるものが含まれるって予想される。同日付けでパリ協定からの再度離脱もあり得る。

次のマイルストーンは政権発足後100日のMomentumが高い期間の議会による立法プロセス。上院は60議席に満たないんでFilibusterを回避できず、例によって多数決で法案可決ができる予算調整法を活用することになる。TCJAの多くの規定の延長、場合によってはトランプが選挙活動中に触れていたチップ、公的年金受給、残業代非課税化、国内製造に帰する所得に15%まで更なる法人税引き下げ、JDバンスのCTC拡充、等の税法改正を含む歳入・歳出にかかわる審議が行われる。予算調整法は会計年度一回のWild Cardだけど、国家会計期間が10月から始まるので実は暦年2025年に2回使える。この2回をどんな風に活用するかは見もの(後述)。予算調整法が2回使えることから3つめのマイルストーンは100日の速攻モーメンタム後の第二弾予算調整法審議・可決となる。実は2つの予算調整法は手続き的には並行して審議することができる。したがって第二弾が必ずしも2025年末にずれ込むとは限らない。2026年になると中間選挙が視野に入ってきて大きな法案の審議や可決がタイトになるんで2025年早めに可決させないとただでさえ難しい党内調整がさらに難航するリスクが高まる。

僅少な下院議席差異

下院では共和党が多数を押さえているとは言え、僅少差異なので今後の法案審議時に共和党下院議員が一枚岩になれるかどうかがキー。選挙結果だけ見ると220対215だけど、Defense Secretary候補だったMatt Gaetz(R-Fla)が下院から辞任、キャンパスでのユダヤ人学生差別問題でハーバードやUPennの学長を辞任に追い込んで有名になったElise Stefanik(R-NY)の国連大使就任、Michael Waltz(R-Fla)のNational Security Advisor就任、で3人の欠員となる。既に欠員になってるMatt Gaetzの議席にかかわるフロリダ州特別選挙が実施される4月まではナンと217対215だ。「二議席差か…」って思うかもしてないけど、1人でも寝返ると得票数としては216対216とかになり兼ねず万事休す。法案可決には多数決が必要なことから、ボトムライン全員一致団結が必要になる。

う~ん、下院共和党にできるかな~。共和党下院は党内コンセンサスを取り付けるのが困難っていうのは歴史が証明している。この辺りの熾烈なダイナミクスを描写したノンフィクションに2011年~15年まで下院議長を務めたJohn Boehner(R-OH)の回想録「On the House」っていう本があるけど、米国ポリティクスに興味ある方は必読。ハードロックの天才ドラムに興味ある方はJohn BonhamのMoby Dick必聴(関係ないね…。ここでLed Zeppelinの話しになると長くなるんで我慢しておきます)。Boehnerの後任のPaul Ryan(R-WI)も同じように派閥調整に苦労し、2017年共和党Trifecta下でオバマケア廃案に失敗しその後辞職している。2017年当時との比較で、今回は下院議長のMike JohnsonがトランプにAll-Inなので、トランプと確執が伝えられていたPaul Ryan時代よりはスムーズではないかっていう観測もある。さらに下院共和党派閥にも、2017年は内輪もめで貴重なTrifectaを最大限活用できなかった点の反省、また米国市民の信任を得たトランプ大統領のアジェンダは実行しないといけないっていう使命感は強いだろうからトランプが明確な方向性を打ち出せば「今回こそは・・・」っていう見方もある。でも今週のContinuing Resolution (CR)劇を見も分かる通り、実際にはそんなに単純な話しじゃないんでどうなりますでしょうか。

2回の予算調整法の使い道

暦年2025年に予算調整法が2回使える点は上述の通りだけど、この2回をどんな風に活用するかは見もの。この2回の使い分けは単なるタクティクスを超越した深淵な検討となる。

現時点で大別すると下院案と上院案が異なる形で浮上している。下院筋は第一弾予算調整法に国境警備、エネルギー政策、そしてTCJAクリフ対策やトランプ提案の新税制の全てを盛り込んだクリスマスツリー的な巨大パッケージを希望している。下院議長のMike Johnson、下院Majority LeaderのSteve Scalise、下院歳入委員会のJason Smithらがこの一派。一方の上院は第一弾予算調整法では争点が少ない国境警備、場合によってはプラスで国防やエナジー関係を盛り込み、こちらは初日とはいかなくても政権発足後直ぐに可決させ、より複雑な税制改正は第二弾で満を持す感じで対処したいという意向を持つ。上院Majority LeaderとなるJohn Thune、上院財政委員会のMike Crapoらがそちらの一派だ。トランプを含む大統領府一派はどちらかというと上院案に傾いてるらしい。

また、税制改正に関しては第一弾でTCJAクリフに対処し、第二弾にトランプ選挙活動中に提案していた新税制にフォーカスっていうマイナーなプランCも報道されている。

下院と上院が希望する異なるアプローチ。どっちも一長一短だけど、その真意や最新のダイナミクスに関しては長くなるんで次のポスティングでまとめてみる。