Friday, January 26, 2024

Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (8)

前回は新年早々、Killer Bに網を掛ける目的で公表された2006年と2007年のIRS Noticeに触れた。2006年NoticeでIRSが策定予定の規則内容が明らかにされたけど、それはKiller B最初のステップとなるSによるP株式取得対価としてSが支払う現金を、取得対価ではなくDistribution(SのE&Pの範囲で配当所得)とするというもの。当時はまだ2017年のTCJA以前の世界だから多くのE&Pは米国では未だに課税されてない「Pure」なE&Pだったし、増してや外国源泉配当にかかわる100%DRD制度なんてなかったから、Distribution扱いされるとPは配当所得を認識することになる。「SにE&Pがなかったらラッキーだね」って思うかもしれないけど、そんなんだったらKiller BみたいなIntricateというか入り組んだストラクチャーを使わないでも、単純にSがPにDistributionしてもPが持つS株式の簿価の範囲で課税はない。また、当時、CFCからの受け取る配当所得には間接税額控除が認められてたけど、FTCで配当課税をオフセットできるんだったら単純に配当すればいい訳でKiller BはLow-Tax PoolのCFCの留保所得を米国に還流するのが狙いっていう基本を忘れてはいけない。Killer Bの「こころ」はSに多額のLow-Tax PoolのE&Pがあり、この埋蔵金をProhibitiveな米国課税を生じさせることなく合法的にPに持ち帰る点にあった。

で、2006年Noticeで「こんな規則にしますよ」って告知があり、2007年には前回触れた通り、2006年Noticeの補強Noticeが公表された。2006年NoticeでみなしDistribution案が披露されてたけど、それだけではP株式がSの手に渡らないんではって思われたんで、2007年NoticeではみなしDistributionの直後に同額をPがSに今度はみなし出資したって取り扱うっていう移転価格の二次調整みたいな取り扱いに言及されていた。みなし取引ってフィクションだから多くのフィクションが登場すると課税関係の検討が大変だよね。2006年NoticeでもみなしDistributionはSによるP株式取得とは「別取引」として認定するって言ってたんで一般には直後のみなし出資になるんだろうって解されてたけど、2007年Noticeでは実際にその点に触れてくれたように見えてて、「それはそうだよね」ってなったんだけど、結局その後の規則ではチョッと異なる表現だったんで、この点は後述する。

二次調整フィクション

移転価格の二次調整の話しがでたけど、99‐32とか、APAのRepatメカニズム、MAPのCompetent Authority Repatとか、実際の取引形態と異なる課税を強制する際にどうしても登場せざるを得ない必要悪というか複雑なメカニズム。

移転価格でPrimary Adjustmentがある場合、その相手方の米国税務上の取り扱いもPrimaryと整合性を持たせないといけない。Corelative Adjustmentだ。ただ、整合性を持たせてCorelative Adjustmentを強制したたところで取引の相手方が対象取引に関して米国で法人税申告義務のない外国法人、例えば日本親会社、の場合、二重課税救済策としては意味がない。米国側の税務調査でトリガーされるPrimaryとCorelative AdjustmentsはBilateralのAPAがない限り原則、米国税法の話しなんで、米国でPrimary Adjustmentがあったからと言って外国の税法上、もちろんだけどCorelative Adjustmentは認められない。それどころか米国とは関係なく税務調査が行われてたりすると逆方向のPrimary Adjustmentで課税されるリスクすらある。

そんな訳で米国税務調査でPrimary Adjustmentが生じると二重課税だから、MAPに助けを求める局面だ。いずれにしても米国の視点からはPrimaryとCorelative Adjustmentsを反映させる必要があり、それらは実際の取引価格に基づく課税所得とは異なる取引価格に基づくことになる。米国で課税所得増額のPrimary Adjustmentを受けたとすると、その額に関して相手方はマイナスのCorelative Adjustmentが入り、結果としてPrimary Adjustmentを受けた米国法人は本来認識するべき資産・留保所得と比較して、Primary Adjustmentの金額に関して実際の取引ベースに基づく低い額の資産・留保所得しか認識してないことになる。相手方の日本親会社は逆に米国税務上、本来認識するべき資産・留保所得と比較して、少なくとも米国の視点からはCorelative Adjustmentの金額に関して実際の取引ベースの過多な資産・留保所得を認識してしまっている。

ここの辻褄を合わせるため、米国子会社は日本親会社にみなしDistributionをしたと取り扱われる。Primary Adjustmentの方向が逆ならみなし出資だけど、米国の調査でPrimary Adjustmentがマイナスってケースは少ない。このみなしDistribution等をSecondary Adjustment(またはConforming Adjustmentと呼ばれることもある)って言う。米国移転価格税制上、このSecondary Adjustmentは強制。日米間のようにDistributionがE&Pに基づき配当になっても源泉税が免除されてれば実務的なダメージはないけど、いろんな国の租税条約を見ると配当源泉税はゼロ%とは限らないし、そもそも米国と租税条約がない国も少なくない。

例えば米国と租税条約がないシンガポール法人が米国子会社との取引に関して同様のPrimary Adjustmentが行われる場合、調整額は30%の源泉税対象になる。面白いことにSecondary Adjustmentは強制だけど、Secondary Adjustmentを帳消しにしようとして本当に資金を動かすっていう取引は原則認知されてない。え~、じゃあSecondary Adjustmentに30%源泉税払うのが嫌だからってPrimary Adjustmentと同額をシンガポール親会社から米国子会社に現金移管するとどうなっちゃうの?原則的な答えは単にそんなことしてもそれはSecondary Adjustmentとは別の取引として課税関係を考える必要が生じ、Secondary Adjustmentのみなし配当とは別に出資が行われたかのように取り扱われる。みなし出資を受けるっていうRecastの場合、Killer Bでさんざん触れたsection 1032や場合によってはsection 118で米国側にダウンサイドはないからフ~ンって感じだけど、みなし配当っていうSecondary Adjustmentを帳消しにできないのは痛い。

それはチョッと気の毒…ってことで、特別な選択が認められててPrimary Adjustmentが確定した時点で、Secondary Adjustment同額に関して米国子会社がA/R、方向によってはA/Pを設定し、90日以内に精算したり云々とメカニカルな条件を満たすとPrimary とCorelative Adjustmentsに準じた資金移管が調整の一環で認められる。で、この方法を使うとストレートなSecondary Adjustment後の資金移管と異なり、資金移管そのものに源泉税その他の課税関係は生じない。他にもOffsetとか手法が認められることもある。米国子会社に対する米国の移転価格調整そのもの、すなわちPrimary AdjustmentでトリガーされるCorelative、Secondary、Conforming等を総称して「Collateral Adjustments」とか表現するんで移転価格の調整を考える際にはどのAdjustmentの話ししてるのか、またその方向を良く考えないとね。特にCorelativeとCollateralは字面が似てるんで注意。

で、Killer Bに戻るけど、2007年NoticeではさらにSがP株式を既にP株式を所有しているP以外の者、例えばPublic Shareholderから取得する取引にも同様の取り扱いを適用する可能性がある点、さらに2006年Noticeに基づく取り扱いを迂回するため、E&Pが少額の主体を形式的にSとしてKiller Bを敢行する場合には、S以外の主体のE&Pを加味してみなしDistributionが配当がどうか判断、という乱用防止規定も設ける点にも言及していた。う~ん、だんだん納税者側のオプションが少なくなってきたね。

2008年暫定規則

2006年と2007年のNoticeで告知されてた内容に沿って、2008年には暫定規則(Temporary Regulations)が公表されている。Section 1.387(b)-14Tだ。最後のTは暫定って意味のTemporaryの頭文字。暫定規則と同時に、同一の規則が規則案としても公表されてる。なんでそんなややこしいことをするかって言うと、規則案だけでは規則に法的な効果がないんで、法的効果は最終規則と同じ暫定規則も同時に公表して暫定的に法的な効果を持つ規則とするため。暫定規則なんで法的効果を持つ一方で規則案としても公表されてるんでパブコメとかインプットを受け付けてさらなるTweakをした後に規則を本当に最終化することができる。その暁には当然、暫定規則は撤回となる。

で、暫定規則の内容は2006年および2007年Notice内容に準じてるんだけど、数点、より踏み込んでる部分がある。

PによるS支配有無

まずSがP株式を取得する時点で必ずしもSはPに支配されてなくても暫定規則のルールを適用するとしている点。これは面白い発想で、Triangular ReorganizationっていうのはT株式やT資産を取得するSが、Sを支配している「Controlling Corporation」のPの株式を使う取引だからだ。Controlling Corporationじゃない他法人の株式をランダムに使って資産や株式買収しても当たり前だけどTriangular Reorganizationにはならない。え~、でもKiller BってTriangular Reorganizationを利用した非課税Repatのはずじゃんって思うよね。暫定規則が敢えてPがSを支配してないタイミングでSがP株式を取得する状況に触れてるのは、SがP株式を取得した後に支配関係を構築してTriangular Reorganizationにするようなステップを踏んで巧みに最初のP株式取得自体はTriangular Reorganizationとは関係ないんでKiller Bじゃないですよ、っていうような議論を封じるためなんだろう。納税者もいろいろ考えるよね。この点を明確にするため、暫定規則は「Plan of reorganization」に基づきSがP株式を取得する取引を対象にしているとは規定されていなくて、代わりに「In connection with the reorganization」でSがP株式を取得という表現を使用している。

Section 368(c) Control

ちなみにここでいう支配「Control」は組織再編や適格現物出資に適用されるファンキーなsection 368(c)のControlのこと。すなわち、クラスに限らず議決権をトータル80%以上、そして議決権のないクラスがあれば、その「株数」の80%以上を所有している場合にControlが認められる。価値と関係ない点が特徴で適格清算や連結納税グループの判断時の価値および議決権の80% Controlとは異なる。Section 368(c) Controlは定義的に比較的容易に議決権を付与するしないで好きな時に達成できる。スピンオフのHigh Vote Low Value株式の使用もこの点に着眼したストラクチャーだ。

Bear Stearns

非課税取引が好ましくない場合には敢えて議決権のない優先株式を取得せずにControlをBustしたりする。この手法の適用例としては2008年金融危機の際に、J.P. Morgan ChaseがFRBのバックアップでBear Stearnsを救済した際の買収法が有名。Bear Stearnsの救済は翌日には倒産という状況で行われたんで当時の株主が所有していた株式はもちろん含み損の状態。そんな状況でJ.P. Morgan Chase株式との交換が非課税再編になってしまうとSection 354 Exchangeになってしまい含み損が実現しない。J.P. Morgan Chaseが交換してくれる株式はBear Stearns株式当たり0.21株だったって開示されてたから経済的には大損してもだからBear Stearns株主にとっては泣きっ面に蜂(これこそKiller B?)だ。まあ、その後J.P. Morgan Chaseの株式を市場で売却すればBear Stearns株式の高い簿価に基づくExchanged Basisになってるから損は認識できるけどね。で、J.P. Morgan ChaseによるBear Stearns買収はReverse Triangular Merger(この買収法に関しては「Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (4)」で詳細触れてるんで忘れちゃった読者、またはそもそも読んでない方は読んでみて欲しい)で行われ、Bear Stearnsの普通株式はMerger LawのマジックでJ.P. Morgan Chaseの普通株式に転換された。それが話しの全てだったらB Reorganizationまたは(a)(2)(E)のA ReorganizationでBear Stearnsの株主にはSection 354で非課税交換となってしまう。そこで、Bear Stearnsには議決権なしの優先株式が存在している点に着眼し、優先株式はJ.P. Morgan Chaseによる買収の対象外としている。ということは買収直後にJ.P. Morgan ChaseはBear Stearnsに対して税務上のsection 368(c) Controlを持ってないんでB Reorganizationにならない。またBear Stearns株主はJ.P. Morgan Chase株式とControlに至るBear Stearns株式を交換していないんで(a)(2)(E)に基づくA Reorganizationにもならない。Bear Stearns株主がControlを持たないんでもちろんSection 351にもならない。結果としてBear Stearns普通株式をJ.P. Morgan Chase株式と交換した株主にはSection 354の非課税規定が適用されず、通常の株式譲渡同様に損失が認識される。J.P. Morgan ChaseのBear Stearns買収は他にもオプションが盛り込まれていたりCorporate Tax的に関心度の高い取引だ。Prime-SubのHigh-Grade Structured Credit FundとかHigh-Grade Structured Credit Enhanced Leveraged Fundとかが原因で80年以上の歴史が瞬間的に終わってしまったSurrealな出来事だった。

Killer Bに用いられる「Property」

Section 301扱いされるみなし分配額はP株式取得対価としてSがPに支払う現金およびそれ以外の資産(Property)の時価。ここでいうPropertyは前々回Hook Stockやゼロ簿価の話しでチラッと触れたSection 317で定義されるProperty。すなわち原則S株式は含まれないはずなんだけど、SがP以外の者からP株式を取得する際にはS株式を含むとしている。また暫定規則ではSection 317の定義に加え、PropertyにはSが継承するPの負債も含むとしている。

みなし出資

で、例のみなし分配後のみなし出資だけど、暫定規則ではSがP以外の者からP株式を取得するケースのみ、みなし分配の直後にみなし出資があると規定している。う~ん、ということは普通にPからP株式を取得するKiller Bの場合は分配があったきりってことになる。じゃあP株式はどうやってSの手に移管されるんだろうね。ここは難しくて、おそらくだけど、現金等はP株式譲渡にしても分配にしても実際にPの手元に残るんで、P株式の取得は実際に起こるとした上で対価の現金受け取り部分だけに分配同様の効果を持たせるってことなんだろう。一方、P株式をSがP以外の者から取得する場合、実際には現金はPの手に渡らないんで、一旦みなしでPに現金を分配してPに課税した直後に、PがSにみなし出資で現金を戻し、Sはその現金を使ってP株式を取得したっていうフィクションになる。

Anti-Abuse規定

そして暫定規則には約束通り(苦笑)Anti-Abuse規定があり、暫定規則のKiller B対抗規定を迂回する目的で従事される取引に関しては、形式的にみなし分配で課税が起こらないような状況でも「無理やり(?)」適切な処理をするとのこと。暫定規則の例では、Pが通常のKiller Bのように潤沢なE&Pを持つSにP株式を譲渡する代わりに、新規に組成されるNew S(新設なんでE&Pゼロ)を見た目の取得者とし、従来から存在してるSがNew SによるP株式取得を実質ファイナンスしてるみたいなストラクチャーの場合、New SのE&Pは従来から存在するSのE&Pも含んで考えるということ。

2008年暫定規則その後

まあ、こんな感じで2008年暫定規則は2006年および2007年Noticeの流れそのものなんで大きな驚きはなかったって言える。Pから株式取得する元祖Killer Bのみなし出資がない部分は一瞬考えたけどね。で、暫定規則はその後最終化され、Killer Bも懲りずに進化していく。この進化がなければ2023年の規則案も不要だったことになるからね。深夜を回ってMozartの誕生日となったんでここからは次回。