Sunday, February 9, 2025

「Global Tax Deal」対抗・報復措置

「Global Tax Deal」大統領令に続き、前回は「America First Trade Policy」大統領令に触れた。双方とも「差別的または域外課税を行使する税法」への対抗・報復措置にかかわる令だけど、前者のGlobal Tax Deal大統領令は法的に、すなわち連邦憲法の三権分立的に、議会の立法を伴わずに行政府で実行可能な対抗・報復措置にかかわるもの。行政府の権限内でも相当なことができるけど、法人税増額とかBEAT強化とかの税法をTweakするような措置は立法が必要。立法には時間が掛かる。行政府権限内の措置は即日実行できるっていうメリット(UTPRとか導入したり、しようとしている国にはデメリット?)がある。米国のポリティクスや税制を考える際、特定の権限が三権分立のどのBranchに属してるか、またはケースによっては連邦なのかデフォルトで州なのか、っていう点は常に意識の中に留めておく必要がある。

前々回のポスティングで触れたけどGlobal Tax Deal大統領令では、財務省長官にUSTRと協議しながら「米国との租税条約に違反している税法、または差別的または域外課税を行使する税法」を可決している、またはそのような税法の導入可能性が高い(「Likely」)国を特定し、行政府が「法的に有する権限」の範囲で可能な限りの対抗・報復オプションをリストアップするよう指示している。行政府の権限で可能なことって実は結構あるよね。前々回も想像の域を出ない話しだけど考えられる措置にチラッと触れた。例えば条約適用一時停止または破棄通知、高関税導入、政府要人ビザ発給停止、とか。条約、例えば日米租税条約は既に発効から5年経過してるんで、テクニカルには6か月Noticeで破棄可能。まさかArticle 31を読んだりする日が来るとは。っていうか未だ来たわけじゃないけどね。

でもUTPRやGlobal Tax Dealごときで条約まで破棄しちゃう訳ないじゃんって思うかもしれないけど、バイデン政権時にはEUの中で最後までGlobal Tax Dealに反対してたハンガリーに、2022年の七夕祭の翌日7月8日に条約破棄を通告してる。そして6か月後の2023年1月8日には実際に条約は失効してしまった。表向きには条約はハンガリーにメリットが大きいとか言ってたけど、EUで最後までGlobal Tax Dealに反対していたハンガリーに対する報復措置(なんで米国がEUに代わってそこまでしないといけないのか、グローバルエリートの世界にしか分からない美徳があったんだろうね)っていうのは周知の事実だ。今度は一転してGlobal Tax Dealに賛成したっていう理由で条約破棄…?なんてことになったら米国相手にする他国は本当に苦労が絶えないね!米国って4年毎に別の国になる、みたいな表現は前からあったけど、第二次トランプ政権は前代未聞のスピードとScopeで発足後数週間の間に米国、そして間接的に世界も(?)、根底から変えてしまった観がある。

で、財務長官のBessentに課せられたGlobal Tax Deal大統領令の報告Due Dateは3月21日。でもUSTR候補のJamieson Greerの承認は未だ完了してなくて、2月11日に再度 Senate Finance Committeeのセッションで議題に上るってことだから果たしてDue Dateまでにリストアップ完了するんでしょうか。

Section 891

で、後者のAmerica First Trade Policy大統領令の方は同じくGlobal Tax Dealのような「差別的または域外課税を行使する税法」に対する措置だけど今度は税法にかかわるもの。税法は議会の立法を伴う措置になるんで前述の通り立法されないと法的効果がなく時間が掛かる。そんな中、America First Trade Policyでは既に存在するSection 891の発動に必要な調査を命じている。

「Global Tax Deal」大統領令のポスティングでチラッと触れたけど、Section 891は1934年から存在する税法で、「差別的または域外課税を行使する税法」を米国市民や米国企業に適用してると、大統領権限でその国の市民や法人には所得税、法人税、源泉税を倍にすることができる規定だ。議会により大統領権限が既に与えられてるんで、税法マターだけど手続きを踏めば大統領により即日発動可能な点がキー。大統領の一声で個人所得税、保険会社に対する課税を含む法人税、クロスボーダー源泉税が倍になるっていう条文だ。

その適用にはいくつかキャッチがある。まず、section 891をトリガーさせるには「米国市民または米国法人が他国の税法に基づき差別的または域外課税の対象になった」っていう事実認定をする必要がある。Section 891に言及しているAmerica First Trade Policy大統領令もここは正確に記載されてて、米国市民または米国法人が実際に弊害のある課税対象になったかっていう点にフォーカスがあるように見える。これは他方の「Global Tax Deal」大統領令の調査対象および対処・報復措置のトリガーとなる「他国がそのような税法を可決しているか、または可決する可能性が高いか」とは当然ハードルがかなり異なる。後者は実際に米国市民や米国法人が課税対象になったっていう事実を特定する必要がないんで、かなりハードルが低いし、税法有無の判断となると(Likelyかどうかの判断を除き)主観的な部分がない。ちなみに下院に再提出されている「the Defending American Jobs and Investment Act、section 899」は審議中だけど、Global Tax Deal大統領令同様、差別的または域外課税を行使する税法の存在のみをもって発動するんで、この点だけをもっても既存のsection 891より発動可能性が相当高まることになる。

またsection 891は、米国市民や米国法人に弊害のある税法を課している国の市民または法人に適用がある。すなわち、そのような国の法人そのものには適用がある一方、その法人の「米国子会社」には適用がないと思われる。支店形態で米国事業に従事している金融機関とかは法人税そのものが倍になる一方、子会社の場合は主に源泉税が問題なるだろう。一方、個人は米国居住者になったとしても国籍ベースで適用が決まると思われ、例えば、駐在員の税率は倍(現状の所得税法で連邦だけで74%!)になる。日本企業の場合は多くのケースで駐在員報酬は手取り保証のグロスアップだから、会社負担の税金はナンと260%だ。

2025年税制改正途中経過

チョッと話は変わるけど、共和党Trifecta下の2025年税制改正の進展は…っていうと実はクリスマス前に特集した「2024年11月米国選挙結果と米国税制 (2)「予算調整法2回どう使い分ける?」」「同(2)」の頃と変わってない。すなわち下院と上院で予算調整法の使い分け方の調整中という状態。フロリダとかのRetreatやMar-a-Lagoでのトランプとの会合とかを重ねてるけど未だにはっきりしない。え~年末恒例の陸軍・海軍フットボール(Army-Navy game)をスイートで観戦しながらトランプ、下院議長Johnson、上院Majority LeaderのThuneの「Big 3」で方向決めたんじゃないの?って思うかもしれないけど実はその後も難航してる。その理由は過去のポスティングで触れた通り下院内の不協和と、下院と上院の制度的な差異に基づく好みのアプローチの差。で、今日2月9日もうすぐNew Orleansのthe Caesars Superdomeで始まるSuper Bowl LIXに現職大統領としては初めてトランプが観戦するっていうことだけど、そこには下院議長のMike Johnson と上院WhipのJohn Barrassoがジョインするっていうことで、そこでまたしても首脳会談になるみたいだ。いつもフットボールで面白い。Eaglesとトランプは因縁の仲だしね。

ということで次回は「the Defending American Jobs and Investment Act」と時間があればもうひとつの対抗・報復法案「the Unfair Tax Prevention Act」に関して。