Tuesday, January 28, 2025

「Global Tax Deal」大統領令 (2)

今日(1月27日)はモーツァルトの誕生日。Happy Birthday!たまたま先週数日Salzburgに行かないといけない用があり、無理やり日曜日にHeathrow経由になるように、しかも単なるLayoverではなくUKに一回入国するんで2025年1月8日発効のUK ETAも準備して行ってきたけど(ロンドンでSunday Roast食べるためって直ぐにバレるね)、Salzburgって今日でも未だモーツァルトが居た18世紀の面影が残るよね。実は40年近く前に行ったきりだったんだけど、Uberとかで断然便利にはなってはいるものの街全体の雰囲気は余り変わっていない。川岸から山頂のFortressやモーツァルトのResidence辺りの風景を薄目で見ると、まるで今でもモーツァルトが地元のArchibishopと揉めたり、Viennaに引っ越すまでこの街で活動してるような気がする。

モーツァルトが活躍した1770年~80年台って米国だったらちょうど米国が英国から独立を勝ち取り、フィラデルフィアで連邦憲法が起草されたりしてた頃。連邦憲法起草とフィガロの結婚が同じ時期って考えると、そんな時代に起草された連邦憲法に基づき引き続き21世紀の米国が統治されてるって凄いことだよね。フィガロの結婚だって今日でもあちこちで演奏されてるしね。結果としてどっちも単なるFaddishなものではなく時代の流れに耐えうるQualityを持ってたってことだろう。モーツァルトは今後も演奏され続けるだろうけど、連邦憲法に基づく統治が今後も続く保証はなくこれは米国市民次第。

Global Tax Dealを巡る欧州と米国の関係を単なる税金の世界ではなく、チョッとStep Backして広範なトレンド的に観測してみると、グローバルエリートと従来からの各国市民のことを考える国単位の民主主義の攻防のひとつに見える。すなわち、各国の選挙で選ばれてない、したがって各国市民に直接説明責任のないエリートが先導するグローバル的に美徳なグローバル統治が従来の西洋文明や民主主義よりも優れていると考える派と、旧来からの国家主権、各国の憲法、自国の有権者との社会契約に基づく国家統治制度派のテンションのひとつだろう。この辺りのポリティクスやイデオロギーの戦い・トレンドは単なる学術的な話しではなく、一般市民の毎日の生活や果ては今後の世界に大きな影響があるよね。トランプの「Make America Great Again(「MAGA」)」や「America First Policy」はその用語の意味からして直接的にグローバル統治との対比において後者の主権国家派。どっちの統治がいいって考えるかはもちろん各自のイデオロギーや自分が置かれている立場次第だけど、2024年の米国選挙では米国市民は後者を選択したんでGlobal Tax Deal大統領令となる。

米国新政権発足タイミングで、欧州にてローマ帝国、中世、ルネサンス、西洋文明とかに思索にふけるっていうかランダムに想いを巡らせたりしてたんでチョッと大袈裟な話しになっちゃったけど、背景にあるトレンドを頭の片隅に置いて今後の進展を見守るとより興味深いだろう。前回のポスティングで触れた通り、Global Tax Dealの大統領令が初日の大御所メニューに含まれてたっていう点からも「たかがGlobal Tax Dealされど」だ。

前回のポスティングではSection 2に突入した後、Hungry Like 「the」 Wolfとかで興奮し過ぎて途中で終わっちゃったけど、今日はSection 2の後半戦。

大統領令Section 2「Discriminatory and Extraterritorial Tax対抗オプション」

Section 2のテーマは「Options for Protection」なんで米国防衛手段対処にかかわる令で2ステップで構成されている。まず財務省長官にUSTRと協議しながら「米国との租税条約に違反している、(米国の所得に)域外課税したり米国企業に不均等な負担を強いる税法を持っている、またはそのような税法の導入可能性が高い(「Likely」)国がどこか調査する」よう命じている。

何が域外課税や米国に不均等な負担を強いる税法かは明文化されてないけど、大統領令のタイトルがOECD Global Tax Dealだからピラー2はもちろん含まれる。中でもUTPR。業界では見方によってはQDMTも、みたいな話しもチラついてるけどQDMTは各国独自で導入できるんでフォーカスじゃない気がする。またOECDって名指ししている大統領令のタイトルとは異なるけど、不均等な負担を強いる税法には当然DSTも含まれるだろう。ここで言うDSTは広義に考えておくべきでDSTっていう名前が付いてなくても同様の効果を持つ税制、例えばUKのDPTなんかも含まれるかも。Scope的にはピラー1のデジタル課税も含まれ得るけど、こっちは既に1年以上前にゾンビ化してるんで、その意味でAmount Aを今更蒸し返して議論することはないって考えられる。ピラー1でもAmount B・SSAはバイデン政権が駆け込みで規則草案を出してるけど、米国移転価格規則のALPと取り扱われる限り米国主権を侵害してるとは言えず、議論を醸し出す余地は少ない。となると長年議論してきて着地は結局のところAmount Bだけ?Amount Bとか概念的に反対の余地が少ない論点でも世界で合意するのは大変なことだし。せめてAmount Bで本当に移転価格コンプライアンスがSimplifiedされるといいね。

大統領令のこの部分でもう一つ興味深いのはこの手の法律を可決している国ばかりでなく、可決させる可能性が高い(「likely to put tax rules in place」)国も調査対象にしている点。「まだ審議中なんで…」っていう言い訳は通じず、いきなり25%とかの関税対象国になったりする可能性がある。

で、条約違反や差別的な税制を持つ(または導入可能性の高い)国を特定した後、次は米国の利益を守るまたは対抗するための措置のオプションリストを完成させ、60日以内に経済政策担当大統領補佐官経由で大統領に提示するよう求めている。大統領令は1月20日だからレポート提出期限は3月21日だ。結構Short Noticeだよね。財務省長官のScott Bessentは今日(1月27日)上院でConfirmation(68対29)されたばかりだし、USTR候補の Jamieson Greerは公聴会が1月29日に予定されているっていう状況。これらの状況から3月21日が厳守されるかどうかは不明。経済政策担当大統領補佐官は決まっててお馴染みKevin Hassett。大統領補佐官はホワイトハウスの職員っていう位置づけなんで上院のConfirmationは不要で大統領の一存で任命することができる。Hassetは第一次トランプ政権時にはthe Council of Economic Advisers (CEA)の議長の職にあり、TCJA可決に尽力した者の一人。Hassettは自社株式買いは健全な資本政策で何も後ろめたいことはないって昔言ってたから1%の懲罰課税はなくなるかもね。なくなると言えば、CAMTはそのコンプライアンス負荷が不可(洒落じゃないけど)に近く、企業には超評判悪いし、歳入も大してないんで撤廃可能性ありだよね。

大統領令が命じてるのは「防衛・対抗オプション」のリストアップ。その際、Section 1に明記されてる通り、法的に有する権限の範囲内で可能なオプションは全て列挙されるだろう。その上でこれらを発動するかどうかはトランプが決めるけど、挑発的なオプションでも平気で今日の午後5時から発動とか言い出し兼ねない。諸外国は自国への対抗策をTruth Socialで知ることになったり。想像の域を出ないけど、例えば条約適用停止、高い関税、政府要人ビザ発給停止、とかリスト化されたらそれだけで結構怖い。前回のポスティングで触れたKissinger外交論。

っていうことで1月27日に敬意を表し、今晩はVan Halenの代わりにモーツァルト聴いて寝ます。次回はもう一つの大統領令「America First Trade Policy」に関して。