Friday, January 31, 2025

「America First Trade Policy」大統領令

前回はモーツァルトの誕生日に「Global Tax Deal」大統領令を語るっていう無粋な企画だったけど、最高裁主判事John Robertsの誕生日も1月27日。最高裁の口頭弁論で各判事が原告・被告の弁護士とやり取りする弁論、特に当事者のどちらかが「United States」の場合はSolicitor Generalとの弁論は連邦憲法を取り巻くLegal theoryが今が旬のトピックにどう適用されるかを考える際にCutting-Edgeな議論を満喫することができる。バイデン政権のSolicitor GeneralはElizabeth B. Prelogarでアイダホ出身だけど、MooreかLoper Brightか、もしかしたら他のメジャーなケースだったかもしれないけど、判事の一人(多分Gorsuchだった)がアイダホポテトのJokeを交えて議論した際に「私もアイダホポテトのことはよく知っている」とか言ってテンスな弁論中に一瞬法廷が和やかになるっていう一幕があった。

トランプ政権はJohn SauerをSolicitor Generalの候補に任命し上院の承認待ち。AGのPam Bondie(昔はフロリダ州のAG)と比較してメディアで語られることは少ないけど、最高裁でUnited Statesの代理人はSolicitor Generalだから最高裁で見ることができるのはSolicitor Generalの方だ。

ちなみに今では主判事のRobertsは、1980年台後半から90年代前半までDeputy Solicitor Generalだったことがあり(Rehnquistが主判事だった頃。ストライプの入ったローブなつかしいね!)U.S.Governmentに代わり「Cottage Savings」ケースをIRSの調査結果を最高裁で主張した歴史がある。Solicitor GeneralはUnited Statesに代わり最高裁で国側のポジションを主張するのが仕事だから当たり前じゃんって思うかもしれないけど、「Cottage Savings」ケースとRobertsには宿命(?)がある。90年代前半の米国不動産市況悪化で多くのS&L(この用語もなつかしい…)がピンチに陥ってたけど(昔から変わんないね~)、Cottage Savingsもその一つ。Mortgage Swapが1001のExchnageに当たるかどうかが争われた。簡単に言うとRobertsはIRSに代わりMortgage SwapはRealizationイベントじゃないんで損失は認められないって主張し、最高裁はSwap取引には「Realization」はあったとしてIRSが敗訴したんだけど、「Realization」がなければ課税なしっていうのは双方の主張の大前提。「Realization」ね...。ここで宿命というか後日のサガにピンときた人は偉い!全然きてないって?それはそうだよね。2024年にRobertsが主判事として最高裁で判決を出したMooreケース。965のMRTに関して、課税にRealizationが必要かっていう点が争われた(結果的にRealizationはMacomberっていう古い最高裁判例で既に求められるっていう前提で議論が進み、RealizationがあったかどうかっていうCottage Savings的な話しになり、最後はAttributionのケースになっちゃったけどね)。Mooreの口頭弁論ではRobertsは余り口を挟まず他の8人、特にThomasとGorsuch、がPrelogerとLivelyな弁論を交わしたけど、Robertsが静かだったのはCottage SavingsでRealizationが求められる点を既に体感してたからかもね。

う~ん、最高裁判決はDeep。最高裁傍聴席が一部オンライン予約になったんで早朝とか2日前から陣取って並ばないでも(オンラインでチケットが当たれば)傍聴可能になった。日によってはDCの朝寒いし、早朝4時に行けばいいのか前日、下手したら前々日から並ばないといけないかな、とかアレコレ予想しなくていいんでWelcomeなシステム。列に並ぶのと同じで、メジャーなケースは申請が殺到するだろうからライブで見ることができるケースはどちらかって言うと注目度合いが低め(って言っても最高裁まで行くんであくまで相対的な話しだけどね)のものかな~。4月のDocketのオンライン予約始まったら直ぐに申し込まないとね。ちなみに1月20日の大統領就任式には9人の判事が全員参加だったね。

で、今回のポスティングではGlobal Tax Deal大統領令とは別の大統領令でGlobal Tax Dealを含む弊害税制に触れている「America First Trade Policy」大統領令に関して。Global Tax Dealが直接・間接に2つの異なる大統領令でカバーされてる点も、先日触れた優先順位の高さを物語る。

「America First Trade Policy」大統領令

Trade Policyを統括する全体像的なテーマとして冒頭Section 1の一部に「通商は国家安全保障の重大な構成要素。他国への依存度を低下させることで安全保障に貢献する」としている。

その上、大統領令には多くのアクションプランが盛り込まれてるけど、大別すると「不公平・不均等な通商問題対応(Section 2)」、「中国との経済・通商関係(Section 3)」、「経済的国家安全保障(Section 4)」の3項目で構成される。 Section 2は更に(a)~(k)まで11項目(11で数合ってる?)のアクションが規定されてて、その名の通り外国の不公平な通商政策特定、USMCAを含む通商協定の再評価、為替操作、その他通商関連問題を広範にカバーしてる。

Section 3は中国に特化した(a)~(e)まで5項目のアクション。具体的には俗に「the U.S.-China Phase One Trade Deal」って言われる「the Economic and Trade Agreement Between the Government of the United States of America and the Government of the People’s Republic of China」(正式名は長いね)の合意内容に中国が準拠しているか、2024年の中国に対する「Four-Year Review of Actions Taken in the Section 301 Investigation」の再評価、サプライチェーン再構築による対中国関税迂回策の実態把握、追加関税の必要性、不当・差別的な通商慣習調査、クリントン時代の「U.S.-China Relations Act of 2000」に基いて中国に付与された「Permanent Normal Trade Relations (PNTR)」Statusの撤回にかかわる2023年の法案評価、知的財産プロテクション、等々。

中国って言えば、Deepseekが開発したR1 Chatbotの出来の良さに米国AI業界が強い衝撃を受けてたけど、実はDeepseekがシンガポール経由で不法に入手したNvidiaの半導体を使用してR1をトレーニングしたっていう疑惑が頭をもたげてる。Nvidia半導体の中でもH800は中国への輸出規制対象。最近Nvidiaのシンガポール向け出荷が急激に拡大したっていう話しもあり、今後の調査結果次第では対中国通商政策に更なる精査が加えられるだろう。AI合戦は宇宙開発合戦と同時に国の生死を分ける(?)とも言われてるんで、ただでさえ強硬派が揃ってる現政権による対応は迅速かつ強力なものになる可能性が高い。

宇宙開発は米国はStarship/StarlinkのSpace Xがあるけど東西陣営で競う姿は1950年~60年代のソ連(スプートニクス)v. 米国(アポロ)を思い出させてくれる。宇宙開発の広範なインダストリーに与える可能性、それらを実現させるテクノロジーはSpace X等のPrivateセクターの活躍で劇的に進化してるってPE、VCファンドスポンサーが言ってた。今日の宇宙開発競争相手は主に中国だけど、昔は何のプレゼンスもなかったにもかかわらず近年は米国同等、それ以上っていう見方もあるくらいだから安全保障面で相当なフォーカスになるだろう。月面基地とかは既に視野に入ってて、DeFiと並んで世界を変え得る超面白い分野。軍事面でのStakeの高さは、ロシアがウクライナに攻め入った際、最初にやったことはウクライナの衛星通信能力を除去したっていう点からも良く分かる。その際、Elon Muskは即座にStarlinkをウクライナ用にActivateしてウクライナの通信能力を復活させたけど、Starlinkがなければウクライナは即ロシアの手に落ちてただろう。戦術に全く無知の僕が考えても通信能力なしじゃ戦争になんないもんね。North Carolinaが強力なハリケーンで被害にあった際もElon Muskが即座にStarlinkで(無償で)通信能力を与えている。今年には携帯から直接Starlinkにアクセスできるようになるっていうことなんで(もうなってる?)、そうなったら使ってみようかな。今後、宇宙が主戦場になるんだったら今まで個人的にあまり注目してなかった1.863-8とか復習しないといけないかも。

Elon Muskはバイデン政権や民主党の計画経済的アプローチや過度な規制に批判的だったんで、この4年間FCC(Starlinkは過疎地のインターネット普及成果がないとか言われたり…)を含む複数の省庁から嫌がらせを受けてた観がある。その苦い経験がDOGEに活きるのかな。まあ、バイデンの再エネ補助金で政府が先導する経済と異なり、画期的かつ経済合理性のあるテクノロジーはリスクマネーで自力で勝ち抜かないと長期的にい生き残れない環境に置かれるPrivateインダストリーから生まれるよね。これが米国経済の強み。Apple、Tesla、Amazon、Uberその他、政府の指導とは関係ないところから世界中の市民が恩典を受けるテクノロジーが生まれてるもんね。NASAが巨額のコストOverrunでロケット生産するより、Space Xとか使ってどれだけ安くロケット作ったり、ランチできるか見るだけでも政府はMarket にParticipationしないでPrivateインダストリーに切磋琢磨させ資本マーケットにどこにお金を入れるか判断させる方が効率的で納税者の一般市民が帳尻を合わせる必要がないんで好ましいと思うけどね。

Section 4は安全保障面のフォーカスだけど、テクノロジー面の話しに加えカナダ、メキシコ、中国からの不法移民および薬物(Fentanyl)の流入の実態を調査し、通商・国家安全保障面からの対処提案を指示してる。Fentanylの流入は不法移民問題と同様にオープンボーダー化がもたらした米国にとって重大な問題で、元々中国が主たる供給源だったところ中国が直接Fentanyl生産を制限したことから、原材料をメキシコに輸出し、メキシコのカルテルがFentanylを製造、オープンボーダーを介して大量に米国に流入っていうモデルになってるらしい。この4年でFentanyl関係の米国における死者は30万人近くに上り、CDCレポートによると米国の心臓麻痺死亡者の数は年間16万人っていうことだからFentanylが死因のケースは相対的に決して少なくない。トランプ政権がカルテルをテロリスト認定したりしている理由が分かる。

America First Trade Policyと税金

で、AI、宇宙開発、薬物密輸とかで長くなったけど、前回2回に亘りポスティングした「Global Tax Deal」大統領令と並び、America First Trade Policy大統領令でもSection 2にタックスにかかわる項目がある。関税に関してはもちろん大統領令を通してのフォーカスだけど(この週末のメキシコ、カナダ25%関税はどうなることでしょうか)、内国歳入庁(Internal Revenue Service「IRS」)との対比で外国から関税で歳入を集めるって言う意味合いから「External Revenue Service」略はズバリ「ERS」(笑)の設立検討がいきなり2つ目の令として登場する。え~省庁とか公務員の数減らすんじゃなかったの?って思うけどIRSからの転籍なのかな。

そして次にSection 2の(j)だけど、ここにも「Discriminatory or extraterritorial tax」の話しが登場する。この部分は比較的簡素に既存の税法Section 891で認められている権限に基づき、米国市民または米国企業に差別的または域外課税を行使する国を調査するように命じている。Section 891は1934年から存在する税法でその背景は「「Global Tax Deal」大統領令」で触れてるんで参照して欲しい。Section 891はそんな税法を米国市民や米国企業に適用してると、大統領権限でその国の市民や法人には所得税、法人税、源泉税を倍にすることができる規定だ。

潜在的な立法による対抗・報復措置としてはSection 891の他にも、似たような趣旨のSection 896が既に存在するし、法案として既に提出されてるものとして「the Defending American Jobs and Investment Act」および「the Unfair Tax Prevention Act」がある。次回はこれらの条文、議会による対抗・報復に関して。