Saturday, January 25, 2025

「Global Tax Deal」大統領令

前回のポスティングでは就任初日に発令された多くの大統領令に触れた。って言ってもタイトルの意訳程度だったけど、大統領令のカバレッジの広さは伝わったと思う。大統領令の数、Scopeには国中で(世界も)仰天だったけど、同時に多くの記者会見、イベント、3つの夕食、その後も引き続きアクティブでハリケーンの被害が大きかったNorth Carolina、山火事のCaliforniaに飛んで現地視察。North CarolinaからL.A.って米国内移動だけど、通常、飛行機で5時間くらい掛かるから東京からバンコック行くのと同じだからね。で、California視察後はその足でNevadaに行き夜のイベント、と心身ともにどうやったらあのレベルのエネルギーを維持し続けられるのかな~ってそっちも知りたいよね。食品オタクのRFK Jr.が「選挙活動で目が回るようなスケジュールの中、ジェットの機内でKFCやMcDonnald食べたりしてる」って驚いてた。トランプはTeetotalerで一切お酒を飲まないけどそれで健康維持してるのかな。単に遺伝子のおかげ?または信念みたいなメンタルなのかな?

で、大統領令に関して、タックスの観点からは、IRSの新規雇用フリーズや財務省規則の見直し・新規公表一旦停止、等に加え、OECD「Global Tax Deal」拒絶が含まれている。また同時に公表された別の大統領令「America First Trade Policy」にもGlobal Tax Dealに対する厳しい省庁への指示が含まれている。

優先順位の高さと議会とのコーディネートにビックリ

Global Tax Dealにかかわる大統領令の内容そのものは選挙で共和党が勝利するとこんなことが想定されるって前から書いてた通りなんで、大枠は想定の範囲内って言えるけど、驚くべき点はOECDのGlobal Tax Dealに対する大統領令が就任初日に他の超大御所令と肩を並べて発令されてる点。Southern Borderの国境警備と同列ってことは相当な優先順位の高さを物語ってる。別の大統領令でSouthern Border(カナダとのNorthern Borderもだけど)のオープンボーダーは国家主権に対する物理的な侵略と位置付けられてるけど、国外の団体が先導して米国所得に本来法的管轄権がないであろう他国が課税するのは法的な侵略って考えれば同列なのかもね。America First Policyは多面的に国家主権復活を目指す政策と考えれば優先順位の高さの理由も分かる。

またGlobal Tax Dealにかかわる大統領令が発令された就任初日の翌日1月21日には下院歳入委員会が報復法案(Defending American Jobs and Investment Act。Section 899新設)を再提出してる。このタイミングも興味深い。大統領令とほぼ同時に法案が出るっていうことは、Global Tax Deal対抗策に関して議会と行政府間のコーディネートが徹底してることが計り知れる。さらに財務長官候補のScott Bessentも1月20日直前に行われた公聴会でGlobal Tax Dealにかかわる質問を受け、新政権誕生前に急いで既成事実を作ろうとしたり、法律を導入したりする国は重大な過ちをおかしている、と一刀両断だったもんね。米国議会・行政府が一枚岩になって反対してる点がよく分かる。

Global Tax Deal大統領令

「The Organization for Economic Co-operation and Development (OECD) Global Tax Deal (Global Tax Deal)」シンプルに略して「Global Tax Deal」と題された大統領令は財務省長官(もうすぐ承認されるはずのScott Bessent)、USTR(こちらも承認待ちのJamieson Greer)宛て。内容は他の大統領令同様に単刀直入。全ての大統領令に共通だけど歯に衣着せぬ表現で何を目指しているか分かり易い。

で、まずは前文と言うか総合的な宣言。「前政権(バイデン・イエレン)がサポートしていたOECDのGlobal Tax Dealは米国の所得に諸外国が域外課税するばかりでなく、米国議会が自国ビジネスや一般市民の利益を念頭に税制を立法化する権利を侵害している。諸外国の政策目的に米国が同調しないからという理由で、Global Tax Dealおよびその他の差別的な税法習慣により、米国企業が報復課税を受ける可能性があり、当大統領令はGlobal Tax Dealは米国においては何の法的効果も影響もない点を明確にし、米国の国家主権および経済的な競争力を取り戻す。」と。

で、その後に具体的なアクションが来る。Section 1だ。

財務省長官およびOECD米国代表はOECDに「前政権が表明していたGlobal Tax Dealへのコミットメントは議会の立法化なくして効力・効果は一切持たない」と告知するよう指示。この点は告知するまでもなく連邦憲法の三権分立で最初から明らかだし、そんな初歩的なことはOECDも当然知っているはずなんで、ここまで米国議会の承認を得ることなく事を進めてしまった点はBEPS 2.0手続き上の失態。世界で時間の無駄っていうか、既成事実を作り上げた上でUTPRとかで世界規模で脅迫すれば米国議会も降参するだろうっていう前提だったのかな。そうならない可能性も当然ある訳だからリスク管理的にそのアプローチはどうなんだろうか。やっぱりParliamentary制度とCongress制度の違いは頭では理解されてても体感できてなかったっていうことなのかな。う~ん、そんなことは連邦憲法101だからおかしいよね。バイデン政権・イエレン長官も議会のバックアップなく空約束してしまったんで米国側の落ち度も大。っていろいろ言ってもこの期に及んでは後の祭り。でSection 1は「財務省長官、USTRは当大統領令の措置を法的に有する権限を使い施行すること」と指示している。

で、具体的な対処法オプションが「Options for Protection from Discriminatory and Extraterritorial Tax Measures 」というタイトルのSection 2。

この「Discriminatory and Extraterritorial Tax Measures」っていう用語だけど、タイトルの「and」は一見Misleadingに見えるかも。ここの意味は「or」が近く、大統領令本文では「or」になってる。ただ、本文は特定の国が「Discriminatory」または「Extraterritorial」な法律を可決または用意しているかっていう判断をする文脈で「or」が使用され、タイトルは「Discriminatory」および「Extraterritorial」のどちらにしても、そんな法律を可決または用意している国への対処オプションっていう文脈で「and」となっているんだろう。

英語を外国語として勉強する際、例えば字数の多い単語(「Pneumonoultramicroscopicsilicovolcanoconiosis」がいつも出てくるよね!)を覚えたり、時制の一致を間違えないようにとか、単数・複数とかいろいろチャレンジがあるけど、実はこの一見Innocuousな「and」と「or」の解釈とかが日常一つのチャレンジ。特に法文解釈時にはね。もう一つInnocuous-ishなチャレンジは何と言っても「a」と「the」の違い。これはNative Speakerだと何も考えずに自然に(おそらくグラマーとかの理論は知らないでも)ほぼ本能的に使い分けてるように見えるけど、外国語として英語を習う際の最大ポイントのひとつ。こちらも特に法律の世界では雲泥の差になるからね。古いけどDuran Duranの「Hungry Like the Wolf」がなぜ「the Wolf」で「a Wolf」じゃないんだろう、とか昔ずいぶんと考えたもの。そんなのどっちでもいいじゃんって思うかもしれないけど最初に聞いた時、当然文脈的に「a」だろうと思ってたんだけど「the」に聞こえるんで、FMから録音したカセット(笑)巻き戻して(「再生」ボタン押したまま「巻き戻し」も押すと数秒戻るんだよね。中学の頃宝物だったアクタスFU使ってギターソロコピーする際にこの技使い過ぎてついにこわれてしまった(あんなに大事にしてたのに~。どうしよう~(大笑))何回か聞き直したけど「the」にしか聞こえない。もちろんインターネットでLyricsを検索するなんてことは更に15年とか待たないとあり得ない利便だしね。で、the Wolfってことは単にランダムなWolf(すなわちa Wolf)じゃなくて最も強い伝説に出てくるような「あの」Wolf、またはDuran Duran本人たちが醸し出したいイメージ、すなわち俺たちはその辺のWolfたちとは違い最も「危ない奴」なんだぞっていうニュアンスを出すためなんだろうって個人的に結論づけてた。実際にはDuran Duranに聞かないと分かんないんでどうなんでしょうか。単にゴロがいいからかもね。こうやって冷静になって書いてみると皆さんの言う通り本当にどっちでもいいじゃんって感じでした。

The Beatlesの「A Day in the Life」は短いタイトルに「a」と「the」が入っていて使い分けのお手本みたい。Duran Duranとかの話しだったらどっちでも害はないけど、法律はそれで意味が大きく変わるから要注意。

で、New Horizonの世界はこの辺にして、「Discriminatory」や「Extraterritorial」 Taxっていう用語そのものだけど、これらはDSTとかピラー2のように近年出てきた法律を意味する新しいものではなく、1934年(100年近く昔の昭和9年!)に制定されているsection 891(「Doubling of Rates of Tax on Citizens and Corporations of Certain Foreign Countries」)で既に使用されているもの。まさしく大統領令や下院法案section 899そのものの報復措置だ。う~ん、昔からそんなことの繰り返しだったのかって感無量だけど、実はSection 891は実際に発動されたためしはない。1934年当時の懸念は当然DSTとかピラー2ではなく、世界恐慌の混沌とした経済環境で国家間の利害の対立が生じやすく、各国が自国経済保護のため差別的な税制を導入しがちな状況にありこれらにPreemptive的に釘をさすもの。「アンフェアな国際税制習慣から米国を守る」っていう趣旨。え~それって2025年のことじゃん、って感じだよね。

実際に発動されないでもそれが法律にあるだけで抑止効果はあるだろう。Kissingerが昔、効果的な外交は力の均衡(Balance of Power)に基づくって言ってた。すなわち凄みのある軍事力を持ち、その行使を躊躇しない(または実際にたまに行使するとも言ってたような気がする)状況にない限り効果的な外交はできないといういうもの。その経済バージョンがsection 891であり、トランプの関税なんだろう。凄い関税を課す準備があり、その行使を躊躇しない、また実際に実行するっていう状況で外交に臨むって考えるとKissingerのBalance of Powerそのものだよね。

だったら今回は単純にsection 891を史上初で発動させたらいいじゃんって思うかもしれないし、もちろんそのオプションは常にあるんだけど、下院で新たな報復法案「Defending American Jobs and Investment Act」、新設section 899が検討されてる点には重要なポイントがある。この点は後述の「Defending American Jobs and Investment Act」部分で触れる。

Hungry Like 「the」 Wolfとかで興奮し過ぎてチョッと長くなってきたんでSection 2の後半は次回。その後は「America First Trade Policy」大統領令、「Defending American Jobs and Investment Act」、そして上院で以前に提出されていた別の報復法案にもチラッと触れてみたい。