前回はGlobal Tax Deal対抗・報復措置のうち「議会による立法」に基づく対処のひとつsection 899法案について話し始めた。特にsection 899の発動はSection 891みたいに米国市民や米国法人が差別的な取り扱いを受けたという点を認定する必要がなく、単に差別的または域外課税を行使する税法を可決したという点だけをもって発動するようにできているっていう重要な差異に触れた。行政府の対抗・報復にかかわるGlobal Tax Deal大統領令も同様。法律が存在する、または導入可能性が高いケースに発動されるようにできてるんで、認定は比較的容易で客観的だ。また、報復関税とかは他国の米国からの輸入に対する障壁度合い、例えばVATが課されてるか(以前から触れてるけど米国にはVATはないんで10%の関税そのものは多くのケースで他国のVATより低い。EUだと15%以上のVATがあるはず。もちろん関税と違ってVATは国内取引も対象だけどReciprocalの観点からはこの両者比較は常に議論を呼ぶところ)みたいな国別にテイラーされた対応になるけど、section 891や899は大統領や財務省が客観的な尺度で対象国を特定した後、国別に異なる対応は想定されていない。さらに大統領による対象国特定後、特定された国の税率がsection 891でダブルになる点そのものは大統領の裁量ではなく法的に自動的だ。後述のsection 899も問題税制を持つ国と認定される場合、税率アップ等の措置は自動的。すなわち他国の問題税制による米国への被害の大小にかかわらずその国の全市民・法人に対する税率がダブルになったりsection 899法案に規定される対抗・報復措置の対象となる。
Global Tax Deal大統領令に基づく行政府対応もフレキシビリティは余りないのかもしれないけど、条文はその文言的に自動的。America First Trade Policy大統領令に規定されているsection 891対象国リストアップ期限は4月1日だけど、ここでリストに載る国はリストを大統領が承認したその時点から税率ダブルになるってことかもね。
Section 899「Enforcement of Remedies Against Extraterritorial Taxes and Discriminatory Taxes」
Section 899法案の正式タイトルは「Enforcement of Remedies Against Extraterritorial Taxes and Discriminatory Taxes」。まあこれは読んでの通りだけど、米国の法解釈時に条文タイトルそのものには法的効果はない。法的効果を持つのはその直後に始まる条文本体。で、section 899法案は「財務省長官による域外・差別的課税が可決されている国のリストアップ」を命じ、「そんな税法を持つ国と行うべき交渉」を規定し、リストアップされた国に対して発動される「対抗・報復措置」で構成される。その後に条文に使用される用語の定義、そして財務省に付与される規則策定権のScopeが規定される。以前に触れたLoper Bright最高裁判決以降、議会による財務省に対する規則策定権Scopeは細心の注意で記載されないといけない。
Section 891と899法案の双方を見て一点面白いのは、双方共に「差別的または域外課税を行使する税法」をターゲットにしてるんだけど、元祖section 891は「Discriminatory or Extraterritorial Taxes」と表記してる一方、Brand Newのsection 899法案は「Extraterritorial Taxes and Discriminatory Taxes」と、「Extraterritorial(域外課税)」の方が先に表記されてる点。「そんなの同じで考え過ぎじゃん」って思うかもしれないけど、この手の用語はランダムに使用しないんで、section 899法案起草陣が最も不快に思ってるのは国家主権を侵害している域外課税にある点が垣間見える気がする。Section 899法案では何をもってExtraterritorialやDiscriminatoryと位置付けるかも具体的に規定している。その規定には「う~ん、なるほどね」っていう感じの驚きと言うか気合いが感じられるんだけど、この点は後述。
財務省長官による域外・差別的課税が可決されている国のリストアップ報告書
Section 899法案はまず財務長官(Scott Bessent長官から権限を委譲される者も含む)に、section 899可決後90日以内、そしてその後引き続き最低でも180日毎に両院の委員会(Committee)に域外課税(こっちが先に来てるね!)または差別的課税を規定している国をリストアップして報告するよう命じている。報告先の委員会は4つあり、上院は「Committee on Finance」 と「Committee on Foreign Relations」、下院は「Committee on Foreign Affairs」と「Committee on Ways and Means」。このうちCommittee of Finance(財政委員会)とCommittee on Ways and Means (歳入委員会)は税法策定に直接関連がある委員会だ。
報告書には、域外課税や差別的課税制度を持つ国としてリストアップされている各国の問題税制の内容、税率、税制可決日および効力が生じる日の情報を明記するよう命じている。さらに一旦問題税制を有する国とリスクアップされた後、そのような税制が撤廃されたと財務長官が判断する場合、報告書には問題税制が恒久的に撤廃された日または失効日、そしてそんな国に他に域外課税や差別的課税を規定した法律があるかどうかも報告書に盛り込むこと、としている。
Section 899の適用目的で問題税制を有する国は、そんな税制が可決された日または効力が生じる日のいずれか「早い方」から税制が撤廃された日または失効した日のいずれか「遅い方」までの期間、問題税制を有しているって取り扱われる。
Section 899の報告書や後述する他国との交渉は、大統領の裁量で交付されたり取り消されたりする大統領令ベースの報告や対処と異なり、財務長官は法的に議会の委員会に頻繁な報告をし続ける義務を負う。大統領や財務省の裁量で報告する訳ではない。そして報告書にリストされた国は自動的にsection 899の報復課税の対象となる。
これらの報告義務は緻密に規定されてて他国の視点からすると八方塞がり。
問題税制を持つ国への告知・交渉
で、次に報告書にリストアップされた国と財務長官が行うべき告知・交渉内容が規定されている。具体的には、報告書にリストアップされた各国に「相手国の(米国との)租税条約違反や国際課税標準からの逸脱する税制による二国間の通商・経済に与える悪影響に対する懸念表明」「問題税制の撤廃要求」「(section 899に規定される)対抗・報復措置の通告」。結構細かいよね。これ法律だから少なくともこの3点は財務長官として各国に告知・交渉を行う法的な義務があることになる。
で、続いて登場するのが対抗・報復措置。これは結構長いんでここから次回。