Friday, February 21, 2025

Global Tax Deal対抗・報復措置「Section 899」法案 (3)

前回はGlobal Tax Deal対抗・報復措置のひとつsection 899法案の話しを続けた。特にsection 899の発動メカニズムや財務長官に法的に課せられる詳細なレポート・相手国との交渉義務に触れた。今日はsection 899が規定する具体的な対抗・報復措置に触れ、その後、section 899がどのような税法を域外課税や差別的課税と定義しているかに移りたい。域外課税や差別的課税の定義は多分、今日のポスティングでは辿り着かないと思うけど、section 899がターゲットしてる多国税法の詳細だから楽しみにしててね。

で、その前にまずは簡単に議会の立法動向。

下院 v 上院Budget Resolution

前回も触れた通り、下院がようやくBudget Resolutionに漕ぎつけた後も下院1-Track案と上院の2-Track案のどちらで進めるのか不確実な状況が続いていた。下院の進展にもかかわらず、上院は未だに下院の動向は不確実っていう読みで独自の2-Trackアプローチのうちの1つ目の国境警備、国防、エネジー生産にかかわるBudget Resolutionの可決を敢行した。民主党が決議を遅らせるために提出する多くの修正提案を尽く否決しないといけない「Vote-a-Rama」が10時間続き徹夜の勢いになった後の金曜日早朝に可決したんだけど、「どっちでもいいから可決させるように」的なスタンスを貫いてたトランプが上院審議の直前になって「下院のBudget Resolutionは一発で全てやりたいことが盛り込まれてるんでそっちの方が優れてる」って言いだした。とは言え、上院としては取り合えず独自のBudget Resolutionを用意しておいて、万一(?)下院共和党内で歳出減の対象や規模に関して一枚岩になれないケースに「プランB」で備えた状況。また上院が希望している2-Track第二弾のBudget ResolutionはTCJAを10年とかの時限立法ではなく恒久的に延長、さらにトランプが選挙活動中に言及していたチップ非課税その他の減税もフルに盛り込みたいということでもっとお金が掛かる。下院のBudget Resolutionではその点保守的な歳出上限に合意されてて上院の目から見ると物足りないってところでも意見が割れてる。

ここにきてトランプが下院1-Track案支持を表明したことで、下院議長のMike JohnsonはMedicaidの運命とかTouchyな議論が尾を引いている下院共和党内の調整に少しはレバレッジができたんだろうけど、今後の党内調整の先行きは引き続き余談を許さない。MarylandのNational Harborで開催されているCPACは従来から保守っていうか今ではMAGAのWho’s Whoイベントだけど、Mike Johnsonも昨日CPACでスピーチしてた。国境警備、減税、規制緩和、米国エネジー生産拡大、等の共和党のPriorityを一気に実現する現世代最大のチャンスを活用しないといけないって間接的に1-Trackを匂わせるテーマだったけど、1‐Track案進展に具体的に触れることはなかった。この1~2週間は下院の動向から目が離せないね。

Section 899法案対抗・報復措置

対抗・報復措置は当然だけどSection 899法案の神髄部分に当たるんで法案18ページのうち10ページを割いて詳細に規定されている。措置は大別して「付加税率」と「その他の措置」の2つで構成される。付加税率の方は元祖section 891の税率ダブルに通じるものがあるけど、規定の詳細度合いは比較にならない。

付加税率

Section 899法案の付加税率は更に「法人・所得税(Income Tax)」と「源泉税(Withholding Tax)」に区分されて規定されてる。これは、源泉税の最終的な負担者は外国人だけど徴収義務は支払い側、多くのケースで米国人、に課せられてるんで、通常の法人・所得税と区分して規定することで源泉徴収を行う者が源泉時に付加税率を上乗せする義務がある点を明確にするため。

で、法人・所得税に関しては、「適用日」の後に開始する課税年度に「適用納税者」に課される法人・所得税の計算は「適用パーセント」上乗せした税率を適用して行うっていうもの。カッコで表示している各用語はSection 899法案で定義されてて、これらは各々後述する。

付加税率の対象となる税金は1) 米国投資所得(ECIでないFDAPおよびほぼあり得ないに近いSituationでも個人のCapital Gain)に対する30%課税(原則、源泉税で徴収されるタイプの税金だけど、税法的にSubstantiveなChargeは投資所得を受け取る外国人が対象で、源泉が不十分な場合に正確には外国人が1120Fや1040NRで自ら支払う義務がある)、2) ECIに対する法人・所得税、および法人に対するBranch Profits Tax、の2タイプとなる。

ただ、個人納税者に関しては軽減措置(?)が複雑な言い回しで規定されていて、FIRPTA以外のECIに関しては付加税率の上乗せはない、としか読めない面白い緩和策がある。すなわち個人納税者はFIRPTA課税(=みなしECI)に対する所得税は付加税率が上乗せされた懲罰税率に基づいて税金を計算するけど、それ以外の通常のECIは付加税率は加味しない普通の税率がそのまま適用されるってことみたい。条文の構成が複雑で条文何回か読んだんだけどチョッと唐突な緩和で、おそらく法人だったら多くのケースで子会社を介して米国で事業してるんで米国事業所得には付加税率の上乗せがないっていう情状を酌量してのご厚意(?)かもね。でも、現地法人の取り扱いとパラレルにするっていう意図だとしたら(現時点では個人的な推測に過ぎない)、法人でも支店だったら上乗せが税率対象だし、逆に個人でも米国法人組成できるから個人的にイマイチに謎。もっと別に奥深い理由があるのかもね。

源泉税

源泉税に関しては、まず適用日後に適用納税者向けの投資所得支払いに課せられる源泉税は税率上乗せ対象。さらに適用日後の適用納税者による米国不動産持分(USRPI)譲渡に関して譲受人がFIRPTA源泉徴収する際の税率も上乗せとなる。最初の投資所得に対する源泉税は、納めるのは支払主だけど、税金としては受け手の外国人の税金。ただし、正しく源泉されてる限り源泉税をもって納税義務終了なんで、上述の投資所得に対する法人・所得税に適用される上乗せ後の税金は、源泉税もきちんと上乗せ後の税率に基づいて行われてる場合、それ以上の作業はない。万一、支払主が上乗せ前の通常の税率で源泉税を徴収してしまったケースは、受け手の外国人が申告書を提出して差額を納付する義務が生じる。源泉税徴収の時点で税率を上乗せしないといけないってことは、支払主は相手がsection 899の適用納税者かどうかをW-8とかから把握しないといけなくなる。法的には源泉が過小だとその分源泉税徴収義務者にも差額支払責任が課せられるからね。ただでさえ源泉税を徴収する側はコンサバなポジションを取ることが多いんで、怪しきは…みたいにやたらめったら上乗せ税率で源泉されたりしたら大変そう~。

FIRPTA源泉

投資所得に対する源泉税と異なり、FIRPTAに適用される源泉徴収は、源泉「税」ではなく仮払いの性格。最終的にUSRPI譲渡人の外国人はいずれにしても別途譲渡益をECIとして申告する。その際に源泉済みの金額は前納の予定納税同様に申告時のクレジットになる。FIRPTAの源泉徴収額は原則、譲渡益とは関係ないグロスの譲渡対価の15%なんで最終的に譲渡人の外国人が申告する時点で大概還付になる。上乗せでグロスの譲渡対価に対する源泉徴収が20%だの35%だのになると、いくら実際のFIRPTA課税も連動して25%だの40%だのになるとしても、両者の乖離はますます大きくなるだろうから、そんな時にはIRSにAdvance Withholding Certificateの交付申請をしないとね。あれもなかなか交付されなかったりして結構面倒だよね。Elon MuskのDOGEチームがAIとかで自動化してくれて瞬時に交付されるような日が来るかもね!

FIRPTAの源泉はそのルール自体が複雑なんで、上乗せ対象の税金の説明も複雑。具体的には次の一連の源泉徴収時の税率が上乗せ対象となる。

適用納税者パートナーがいる米国内パートナーシップがUSRPIを譲渡する場合(不動産ファンドに投資してるようなケース)FIRPTA源泉徴収は譲受人ではなくパートナーシップが行うんだけど、その際の源泉徴収税率。ちなみにこのストラクチャーに適用されるFIRPTA源泉はグロス対価の15%のではなく、譲渡益に通常の法人・所得税率を適用して計算するっていう合理的なもの。もちろん源泉する者が譲渡損益の計算をできる立場にあるからこそ可能な規則だけど、この理由だけでも直接USRPI所有するよりパートナーシップ経由で所有するのが有利だよね。

FIRPTA関係の源泉徴収はまだまだいろいろある。一点大枠の話しだけど、以前にFIRPTA大特集を何か月か掛けてポスティングした際にも触れた通り、FIRPTA課税(USRPIを譲渡する外国人に対する申告課税)とFIRPTA源泉(譲受人や分配人に義務付けられる前納)は個々に別の規定と考えておく方が安全。ここでもFIRPTA課税の方は源泉税ではなく通常の法人・所得税に対する上乗せが規定されてて、ここではFIRPTA課税のバックストップみたいな役割を果たすFIRPTA源泉時に適用する税率に対する上乗せの話しっていう点を覚えておくようにね。

で、上乗せ税率対象となるその他のFIRPTA源泉を列挙しておくと、適用納税者に当たる外国法人による含み益を持つUSRPIの分配。これはFIRPTA源泉徴収対象だけど、分配する法人自体のFIRPTA課税に対する源泉だから実態としては自分の税金の予定納税。株式がUSRPIと取り扱われる米国内法人による適用納税者への償還分配、清算分配、E&Pを超える分配に対する源泉徴収。米国・外国パートナーシップ等によるUSRPIの適用納税者に対する分配に対する源泉徴収。財務省規則で規定される範囲でUSRPIを所有するパートナーシップ持分等譲渡。RICやREITによる適用納税者への分配。

よくここまで詳細にFIRPTA源泉カバーしてるよね。次回は適用納税者と以外に難しい適用日について。