今回も引き続きGlobal Tax Deal対抗・報復措置のsection 899法案なんだけど、このタイミングで遂に2025年版の「Defending American Jobs and Investment Act」(H.R. 591 119th Congress)の条文がCongress.govに正式公表された。前回までのsection 899法案の話しは2023年に提出されていた同名のオリジナルバージョン(H.R. 3665 118th Congress)の条文を基にしてたんだけど、最新バージョンは構成等基本的なところは変わんないけど、噂通り一部強化および明確化されてる。それまでの業界でいろいろ言われていた海賊版じゃなくてオフィシャル条文だからね。
う~ん、Nakedの「the Long and Winding Road」と長い間こっちがオリジナルって信じてたPhil Spectorにより「Wall of Sound」化された元々のLP(Let It Be)バージョン程は違わないけど、シングルのGet BackとLPのGet Backくらいの差はあるね。シングルのGet BackはGeorge Martinの手によるProduceなんでPhil SpectorのLPバージョンに比べてもちろん加工が少なく微量なエコーでライブ感が出てて格好いい。LPのLet It Be全体にPhil SpectorのProductionは好みの問題だけど音も構成もToo Muchな感じはあるよね。特に「Get Back」プロジェクトのWhole Pointは(RevolverとかPepperの)スタジオProductionに基づくステージでは再現困難なArtからライブロックへの回帰(この反動はWhite Albumで既に達成されてた観はあるんだけどね)がテーマだったことを考えるとね。同じProductionでもLet It Beの後(幼いころはよく理解していなかったけど、Rooftopの直後なんだよね、あのRecording)に収録されたAbbey RoadはGeorge Martinの手によるものでthe Beatles本人たちの意思が反映されてた大傑作だけど、Let It BeのProduction版は必ずしもそうじゃないんでRubber Soul以降のthe BeatlesのLPとしてはチョッと趣が異なるね。「Get BackのJohn Lennonによるギターソロは難しいソロじゃないけど、一カ所John Lennonらしい(I Feel Fineのリフみたいにコードを押さえて上から小指でみないな指の使い方に順じる)普通ではそんな弾き方思いつかないみたいな手が大きめじゃないと弾き難いフレーズ部分があって・・・」とかまたしても不味い流れになりそうなんで、ここからは気を取り直して最新バージョンのSection 899法案に基づいたポスティング。今日は今まで触れた規定で最新バージョンがアップデートしてる部分。
個人納税者のECI
前回のポスティングで税率上乗せ対象の税金の話しをした際に、個人納税者に関しては複雑な言い回しで、FIRPTA以外のECIには上乗せはないって読める点に触れた。新バージョンでも同じ規定なんだけど、法文の構成が少し改善されててよりこの点が明確に表示されている。ただ、なんで個人のECIだけ救済されてるのかっていう理由は未だ不明のまま。
源泉税は条約適用ナシ+上乗せ税率
源泉税に対する税率上乗せにかかわる新バージョンのClarificationは超Deep Impact。まず源泉税のベース税率、すなわち上乗せ前の税率、は条約は加味しない点を明確にしてる。具体的には条約の適用を規定しているsection 894(このsection、ケイマンLPSをCheck-the-Boxする「オフショアフィーダー」経由のヘッジファンド投資とかストラクチャーしている人は良く知ってるね?)や憲法のArticle VI Supremacy Clauseを税法と条約に関して条文化しているsection 7852(d)にかかわらず、条約の適用は認められず源泉税率は米国内法の30%になる。
FIRPTA源泉にも同様の条約適用不可が規定されてるけど、こちらはそもそも条約のオーバーライドは通常ないんで特に条約の特典を否認するまでもない。
で、税率上乗せ前の税率には条約の適用がないっていうことで、結果源泉税率は30%にプラス上乗せ税率になる。この点はオリジナルのSection 899案では必ずしも明確ではなく、上乗せはあるとしても条約レートにプラスされることになるのかなっていう感覚だった。日米の例だと配当は6か月所有期間・50%以上持分とか条件を満たせば源泉税0%だけど、仮に上乗せが20%だとして、section 899の適用後は20%になるのかなと期待してたところ実は50%になることが明確になった。
米国非関連者に対するローン利息に関しては多くのケースで条約ではなく米国内法のPortfolio Interest Exemptionで源泉税はゼロになる。Portfolio Interest Exemptionを適用してるケースと上乗せ税率の関係はどうなるんだろうか。おそらく、源泉税にかかわるsection 899上乗せ対象税金はsection 1441(a)(個人)とsection 1442(a)(法人)を参照して規定されてて、section 1441に関してはPortfolio Interest Exemptionを含む源泉税免除部分のsection 1441(c) はsection 1441(a)に「Except as otherwise provided in subsection (c)…」ってBuilt-Inされてるんで上乗せ対象にならないだろう。法人側のsection 1442も同様で、section 1442自体に源泉税は「in the same manner and on the same items of income as is provided in section 1441」と明記され、さらに「the references in section 1441(c)(9) to sections 871(h) and 871(h)(3) or (4) shall be treated as referring to sections 881(c) and 881(c)(3) or (4)…」、すなわち普通の言語に直すとsection 1441が源泉税免除対象として言及している個人が受け取るPortfolio Interest Exemption部分はsection 1442の法人目的でも同じ扱いってことになる。
「でも源泉税と外国人に対するSubstantiveな課税はパラレルな規定だけど、テクニカルには課税と徴収を規定した別の税法なんで、源泉税の対象にならなくても外国人側のSubstantiveな課税が上乗せだったら意味ないじゃん」って思った読者は偉い。座布団5枚。その通りなんだけど、その点に関しては、Substantiveな課税にかかわる投資所得に対するsection 899上乗せ対象税金はsection 871(a)(1)と(2)(個人)とsection 881(a)(法人)を参照して規定されてて、Portfolio Interest Exemptionを含む例外部分の871(h)や881(c)は各々871(a)(1)と881(a)に「…except as provided in subsection (h)」、「…except as provided in subsection (c)」ってBuilt-Inされてるんでこっちも上乗せ対象にならないだろう。
Portfolio Interest Exemptionは超パワフルだけど、今までは仮にLPS経由で気づいたらVotingアレンジ的に議決権10%になっちゃったり、持分に対するUpwardやDownward Attributionを繰り返すうちに騙し船みたいに貸し手がCFCになっちゃりしても、源泉税に関して条約にアクセスできるストラクチャー、例えばForeign Reverse Hybrid、だったら「最悪条約があるからいいね!」っていうバックストップがあって安心してECIではない(受け取り利息がいつECIになるかは超Deepなんでいつか特集したいけどね)Private Creditとかに投資できてた。ところがsection 899の適用納税者になる外国人投資家はPortfolio Interest Exemption適格だったら源泉税ゼロ(上の理論でsection 899の適用はないっていう前提)、不適格だと源泉税35~50%だから、この差異はイコール投資するかしないかの判断になる。ヘッジファンド等がいくら高い利率のDebtを「Structure」してても(もちろんその分リスクは高い)、35~50%源泉税取られたんじゃリターンに与える悪影響大き過ぎだもんね。
ということで前回のポスティングで付加税率の対象となる税金に細かく触れたんで、同様の規定をsection 891が一行足らずで片づけてるのに対しsection 899では漏れがないように徹底して規定を明確化しようとしてる点は分かってもらえたと思うけど、最新バージョンではそれがさらに強化されたことになる。この手の法律はその性格から外国人に対する課税の話しなんで、SubstantiveなTaxと徴収メカニズムとしての源泉税や源泉徴収の双方を漏れなく個々にカバーする必要があるから複雑にならざるを得ないよね。
で、次回からはsection 899の具体的な付加税率パーセントその他の話しの続き。