前回はGlobal Tax Deal対抗・報復措置を「行政府権限」の対処(Global Tax Deal大統領令)と既存のsection 891の適用すなわち「立法・税法対処」(America First Trade Policy大統領令)の2つに触れてみた。Section 891で税率をダブルにするっていう法律は1934年から存在し、大統領が一定の認定をすれば鶴の一声で直ぐに発動が可能っていう点に触れ、この点に関して実質行政府権限と同じだけど、section 891は条文の文言的に発動に求められる大統領側の事実認定がチョッと面倒っていう点にも触れた。Section 891のそんな不備を補うためか、議会では別途、発動が容易で1934年との比較においてよりモダンな対抗・報復法案が提出されている。今日はそのうちのひとつ「the Defending American Jobs and Investment Act(section 899)」下院案に触れてみたい。法案の正式名長いんでここでは「section 899法案」って言うことにするね。
で、その前に2025年税制改正に進展があったんで軽くアップデート。
会計年度2025年Budget Resolution承認で「初めの一歩」
バレンタインデーに至る数日も、報復関税、国内エナジー生産、Anti-Deep State系の閣僚承認、JDバンスの欧州メインストリーム政権の厳しい言論統制に対する叱責、等盛りだくさんだったけど、税制改正を取り巻く政局も時限爆弾の起爆装置を解除するかのような時間的プレッシャーの中、大慌てというか必死の下院共和党内の調整が続いていた。2月13日朝に、下院議長のMike Johnsonの指示で下院Budget Committeeが予算調整法に基づく法案可決の「初めの一歩」になるBudget Resolutionをドラフト。え~、フットボールとか見ていろいろ調整してたのに千里の道の最初の一歩も未だだったの?って思うかもしれないけどその通り。実際の審議に至る前の段階で、例によって下院共和党内の調整の難しさが露呈中だ。
で、13日午前中の段階ではBudget Resolutionの運命は引き続き不透明だった。TCJA延長とトランプが選挙活動中に披露してた複数の更なる減税の国家財政に与えるコストに関して、以前から触れている下院Freedom Caucus(HFC)、Deficit Hawk派の賛同が得られるかどうかがキー。その中でも発言力(迫力?)のあるChip Roy(R-TX)とRalph Norman(R-SC)の2名はBudget Committeeの委員。
その間、上院は同時並行して独自の2-Trackルートに基づく最初の予算案を策定中だったけど、こちらは国境警備、米国内エネジー生産、国防予算にフォーカスし、歳出削減とフルに相殺ベースで$400B弱くらいの規模(こちらはTではなくB)。下院の進展にかかわらず上院が2-Trackの準備をしている背景は、おそらく本当に下院が1-TrackのBudget Resolutionで一枚岩になれるのかっていう疑問が抹消し切れないってことだろう。大統領府も必ずしもどちらかのルートを確定的に奨励しているようには見えない。国境警備を直ぐにでも最大限としたい2‐Track派と下院が税制改正を通過できる可能性を重視する1-Track派に分かれる。Stephen Millerは2-Trackだよね。Stephne Millerは、沈着冷静に実質ウェストウィングを配下に置く大統領首席補佐官のSusie WilesのDeputyとしてメディアにも登場して歯に衣着せぬコメントで有名だけど、国境警備を含む税法改正以外の最重要政策に関して一日も予算を付けたいということなんだろう。他にもJDバンスも2-Track寄りって聞いたことがある。税制改正の行方に一番関心があるであろう財務省長官のScott Bessentはやはり慎重に(?)1‐Track派。同じお金を司る立場でもOMB長官のRuss Voughtは2-Track派っていう話しだから分からないもんだね。
上院Majority LeaderのJohn Thuneは上院のプランはバックアップで、1にしても2-Trackにしても結果は同じって強調。肝心のトランプも基本的に「どっちでもいいからチャンと可決するように」みたいな立ち位置にあるって報道されている。確かに同じようなタイミングで可決できれば結果は同じだけど、税法改正の可決可能性自体、また減税規模が掛かっている最重要課題なんでここまでの争点にになる。
そんな中13日のその後、滑り込みセーフで下院Budget CommitteeでBudget Resolution通過。10年間のBudget Windowベースで$2Tの歳出カットを条件にネット歳入減$4.5Tまでの税制改正を認める内容。早ければ2月最終週に下院で正式承認される。下院で承認されても次に上院バージョンと擦り合わせの必要があり、両院一致バージョンが完成した後に小委員会(Subcommittee)が自分たちの管轄分野に関する予算を作成し、最後は両院で法制化する。冒頭でBudget Resolutionは初めの一歩って言ったけど、こんな風にその後も千里の道が待っている。
Budget Resolutionの内容で興味深いのはマイナス$4.5Tっていう金額。以前にCBOがTCJAのBudget Window延長コストって予測していた金額とほぼ同じ。っていうことはTCJAの10年延長だけでトランプが言ってた米国製造15%、チップ、残業代、公的年金受給の非課税の運命はどうなるんでしょうか。上述のRalph Normanは$2Tの歳出カットはベースラインでこれ以上の歳出カットが実現できれば、その分はさらなる減税に回しても構わないって言ってる。逆にBudget Resolutionに合意した背景には$2Tの歳出カットができない場合には、不足分は減税を削減するっていうUnderstandingがあるとのこと。Elon Musk率いるDOGEがWe the Peopleの一般庶民の視点からは信じ難い連邦政府の無駄使いや不正を次々に公表したり、私企業みたいに早期退職制度を設けて既に7万5千人が応募、他にも多くのレイオフで人員削減を敢行してるけど、それらも含めた歳出カットがどれだけ実現できるかに掛かっている。もちろんTCJAの延長対象規則をメジャーの個人所得税分野に限定し、他のGoodiesを追加するとかいろんなオプションがある。また上院はTCJA延長を恒久化するべきっていうスタンスだからまだまだ文字通り初めの一歩で予断を許さない。
Section 899案
前座のP-Modelじゃなくて、Budget Resolutionの話しが終わりいよいよLight Up the SkyのVan Halen!って危ない感じで脱線しそうなんで自らを戒めてsection 899案。
Section 899案は元々2023年に118th Congress H.R.3665として提出されてた法案を2025年1月21日、Global Tax Deal大統領令公表とほぼ同時に119th Congress H.R. 591として下院に再提出されたもの。そのタイミングが議会と行政府が一丸になってGlobal Tax Dealに反対する姿勢の表れっていう点は以前の「Global Tax Deal大統領」で触れた通り。
行政府と議会のコーディネートと言えば、下院歳入委員会はダメ押しかのように2月3日に大統領に書簡を送付し、大統領令によるsection 891の適用手続き開始および行政府による追加対抗・報復措置の検討を絶賛している。その上で「下院歳入委員会はGlobal Tax Deal対抗・報復を遂行する行政府に立法面からのアシストをする準備があり、まずは手始めにsection 899案から着手する」、「過去4年間の前政権により米国はダメージを被ったが、大統領令はその対抗を助成」、「議論が屈折点に達した今、議会と行政府が協働して恒久的な解決に導く」と明言したと報道されている。
Section 899案は既存のsection 891とは比べ物にならない程詳細な規定。まずSection 899案に規定されている対抗・報復措置のトリガーだけど、前回のポスティングで触れた通り、Section 891みたいに米国市民や米国法人が差別的な取り扱いを受けたという点を認定する必要がない。単に差別的または域外課税を行使する税法を可決したという点だけをもって発動するようにできている点は繰り返しになるけど重要な差異。
規則そのものや行政府とのコーディネートに関しても詳細に規定されている。Section 891って1パラグラフで3センテンスだけど、section 899案は(フォントやフォーマット次第だけど)18ページ!ちなみに2025年版のH.R. 591の法文は現時点でCongress.govのオフィシャルページには未だ公開されていないんで、2023年のH.R.3665を基に解説する。同じ法案名なんでほぼ同じであることは間違いないけど、具体的な対抗・報復内容は一部さらに強化されてるっていう噂もあるんで要注意。
P-Model、じゃなくてBudget Resolutionの話しで長くなったんでここからは次回。