Tuesday, February 25, 2025

Global Tax Deal対抗・報復措置「Section 899」法案 (5) + Budget Resolution下院可決

今晩の一番のニュースは火曜日午後の時点でもまだ下院共和党が可決できるかどうか不明だったBudget Resolutionがさきほど(火曜夜)予定通り何とか可決された点。元々議席数が僅少だからしょうがないけど217 -215。結局のところ最後の最後まで歳出規模に難色を示してたTim Burchett(R-TN)等の3人のうち、Thomas Massie(R-KY)のみがNoで解決をみた。

ただ、これってBudget Resolutionの話しなんで本当の議論はこれから。すなわち税制改正担当のWays and Means Committeeには10年間のBudget Windowで$4.5Tの歳出を認め、他のCommitteesには$2Tの歳出減を予定するっていう大枠が決定されたに過ぎない。下院議長Mike Johnsonの苦労は計り知れないけど、最後はBudget Resolutionは「手続き的な話しでまだ本当の議論の前段階」って説得してたっていう話しだから、本当の審議ではMedicaid、SALT Capその他の火種に関してどのように調整できるんでしょうか。また上院はTCJA恒久延長プラスその他の減税も盛り込んで「All-In」っていうスタンスなんで、下院内の調整に加え、両院の調整もチャレンジングだろう。

付加税率パーセント

で、Global Tax Deal対抗・報復措置のsection 899法案の続き。前回までのポスティングでどんな税金に対して税率が上乗せになるのかっていう点、またその際、条約の低減は最初から認められない点とかは分かったと思うけど、今日は一体いつから何パーセント高くなるのかって言う規定に関して。いきなり税率が倍になるsection 891と異なり、section 899法案では徐々に上がっていく仕組み。後述の適用開始日からも読み取れるけど、税率の上乗せが徐々に上がる設計は一気に懲らしめるよりも段々プレッシャーを掛けて早期に域外課税や差別的課税を相手国に取り消させる点に重きが置かれていることが分かる。

税率上乗せパーセントは各国に割り当てられる適用日(後述)を基に国単位で決まる。原則、適用日から最初の1年目は5%、その後2年目は10%、3年目は15%、それ以降は20%となるけど、法人・所得税に適用される上乗せパーセントは課税年度単位で、課税年度の「期首」がこれらのどの年(1年目、2年目…)に属しているかで決まる。混合税率の計算はしなくてもいいみたいだ。源泉税に適用される上乗せパーセントはその基となる取引、分配や譲渡、がいつ行われたかによる。

こうなると弊害税制を持つ各国各々に特定される適用日がキーになるよね。今日はBudget Resolution下院通過で号外だったんでここからは次回。

Sunday, February 23, 2025

Global Tax Deal対抗・報復措置「Section 899」法案 (4)「最新条文はやっぱりさらに強化」

今回も引き続きGlobal Tax Deal対抗・報復措置のsection 899法案なんだけど、このタイミングで遂に2025年版の「Defending American Jobs and Investment Act」(H.R. 591 119th Congress)の条文がCongress.govに正式公表された。前回までのsection 899法案の話しは2023年に提出されていた同名のオリジナルバージョン(H.R. 3665 118th Congress)の条文を基にしてたんだけど、最新バージョンは構成等基本的なところは変わんないけど、噂通り一部強化および明確化されてる。それまでの業界でいろいろ言われていた海賊版じゃなくてオフィシャル条文だからね。

う~ん、Nakedの「the Long and Winding Road」と長い間こっちがオリジナルって信じてたPhil Spectorにより「Wall of Sound」化された元々のLP(Let It Be)バージョン程は違わないけど、シングルのGet BackとLPのGet Backくらいの差はあるね。シングルのGet BackはGeorge Martinの手によるProduceなんでPhil SpectorのLPバージョンに比べてもちろん加工が少なく微量なエコーでライブ感が出てて格好いい。LPのLet It Be全体にPhil SpectorのProductionは好みの問題だけど音も構成もToo Muchな感じはあるよね。特に「Get Back」プロジェクトのWhole Pointは(RevolverとかPepperの)スタジオProductionに基づくステージでは再現困難なArtからライブロックへの回帰(この反動はWhite Albumで既に達成されてた観はあるんだけどね)がテーマだったことを考えるとね。同じProductionでもLet It Beの後(幼いころはよく理解していなかったけど、Rooftopの直後なんだよね、あのRecording)に収録されたAbbey RoadはGeorge Martinの手によるものでthe Beatles本人たちの意思が反映されてた大傑作だけど、Let It BeのProduction版は必ずしもそうじゃないんでRubber Soul以降のthe BeatlesのLPとしてはチョッと趣が異なるね。「Get BackのJohn Lennonによるギターソロは難しいソロじゃないけど、一カ所John Lennonらしい(I Feel Fineのリフみたいにコードを押さえて上から小指でみないな指の使い方に順じる)普通ではそんな弾き方思いつかないみたいな手が大きめじゃないと弾き難いフレーズ部分があって・・・」とかまたしても不味い流れになりそうなんで、ここからは気を取り直して最新バージョンのSection 899法案に基づいたポスティング。今日は今まで触れた規定で最新バージョンがアップデートしてる部分。

個人納税者のECI

前回のポスティングで税率上乗せ対象の税金の話しをした際に、個人納税者に関しては複雑な言い回しで、FIRPTA以外のECIには上乗せはないって読める点に触れた。新バージョンでも同じ規定なんだけど、法文の構成が少し改善されててよりこの点が明確に表示されている。ただ、なんで個人のECIだけ救済されてるのかっていう理由は未だ不明のまま。

源泉税は条約適用ナシ+上乗せ税率

源泉税に対する税率上乗せにかかわる新バージョンのClarificationは超Deep Impact。まず源泉税のベース税率、すなわち上乗せ前の税率、は条約は加味しない点を明確にしてる。具体的には条約の適用を規定しているsection 894(このsection、ケイマンLPSをCheck-the-Boxする「オフショアフィーダー」経由のヘッジファンド投資とかストラクチャーしている人は良く知ってるね?)や憲法のArticle VI Supremacy Clauseを税法と条約に関して条文化しているsection 7852(d)にかかわらず、条約の適用は認められず源泉税率は米国内法の30%になる。

FIRPTA源泉にも同様の条約適用不可が規定されてるけど、こちらはそもそも条約のオーバーライドは通常ないんで特に条約の特典を否認するまでもない。

で、税率上乗せ前の税率には条約の適用がないっていうことで、結果源泉税率は30%にプラス上乗せ税率になる。この点はオリジナルのSection 899案では必ずしも明確ではなく、上乗せはあるとしても条約レートにプラスされることになるのかなっていう感覚だった。日米の例だと配当は6か月所有期間・50%以上持分とか条件を満たせば源泉税0%だけど、仮に上乗せが20%だとして、section 899の適用後は20%になるのかなと期待してたところ実は50%になることが明確になった。

米国非関連者に対するローン利息に関しては多くのケースで条約ではなく米国内法のPortfolio Interest Exemptionで源泉税はゼロになる。Portfolio Interest Exemptionを適用してるケースと上乗せ税率の関係はどうなるんだろうか。おそらく、源泉税にかかわるsection 899上乗せ対象税金はsection 1441(a)(個人)とsection 1442(a)(法人)を参照して規定されてて、section 1441に関してはPortfolio Interest Exemptionを含む源泉税免除部分のsection 1441(c) はsection 1441(a)に「Except as otherwise provided in subsection (c)…」ってBuilt-Inされてるんで上乗せ対象にならないだろう。法人側のsection 1442も同様で、section 1442自体に源泉税は「in the same manner and on the same items of income as is provided in section 1441」と明記され、さらに「the references in section 1441(c)(9) to sections 871(h) and 871(h)(3) or (4) shall be treated as referring to sections 881(c) and 881(c)(3) or (4)…」、すなわち普通の言語に直すとsection 1441が源泉税免除対象として言及している個人が受け取るPortfolio Interest Exemption部分はsection 1442の法人目的でも同じ扱いってことになる。

「でも源泉税と外国人に対するSubstantiveな課税はパラレルな規定だけど、テクニカルには課税と徴収を規定した別の税法なんで、源泉税の対象にならなくても外国人側のSubstantiveな課税が上乗せだったら意味ないじゃん」って思った読者は偉い。座布団5枚。その通りなんだけど、その点に関しては、Substantiveな課税にかかわる投資所得に対するsection 899上乗せ対象税金はsection 871(a)(1)と(2)(個人)とsection 881(a)(法人)を参照して規定されてて、Portfolio Interest Exemptionを含む例外部分の871(h)や881(c)は各々871(a)(1)と881(a)に「…except as provided in subsection (h)」、「…except as provided in subsection (c)」ってBuilt-Inされてるんでこっちも上乗せ対象にならないだろう。

Portfolio Interest Exemptionは超パワフルだけど、今までは仮にLPS経由で気づいたらVotingアレンジ的に議決権10%になっちゃったり、持分に対するUpwardやDownward Attributionを繰り返すうちに騙し船みたいに貸し手がCFCになっちゃりしても、源泉税に関して条約にアクセスできるストラクチャー、例えばForeign Reverse Hybrid、だったら「最悪条約があるからいいね!」っていうバックストップがあって安心してECIではない(受け取り利息がいつECIになるかは超Deepなんでいつか特集したいけどね)Private Creditとかに投資できてた。ところがsection 899の適用納税者になる外国人投資家はPortfolio Interest Exemption適格だったら源泉税ゼロ(上の理論でsection 899の適用はないっていう前提)、不適格だと源泉税35~50%だから、この差異はイコール投資するかしないかの判断になる。ヘッジファンド等がいくら高い利率のDebtを「Structure」してても(もちろんその分リスクは高い)、35~50%源泉税取られたんじゃリターンに与える悪影響大き過ぎだもんね。

ということで前回のポスティングで付加税率の対象となる税金に細かく触れたんで、同様の規定をsection 891が一行足らずで片づけてるのに対しsection 899では漏れがないように徹底して規定を明確化しようとしてる点は分かってもらえたと思うけど、最新バージョンではそれがさらに強化されたことになる。この手の法律はその性格から外国人に対する課税の話しなんで、SubstantiveなTaxと徴収メカニズムとしての源泉税や源泉徴収の双方を漏れなく個々にカバーする必要があるから複雑にならざるを得ないよね。

で、次回からはsection 899の具体的な付加税率パーセントその他の話しの続き。

Friday, February 21, 2025

Global Tax Deal対抗・報復措置「Section 899」法案 (3)

前回はGlobal Tax Deal対抗・報復措置のひとつsection 899法案の話しを続けた。特にsection 899の発動メカニズムや財務長官に法的に課せられる詳細なレポート・相手国との交渉義務に触れた。今日はsection 899が規定する具体的な対抗・報復措置に触れ、その後、section 899がどのような税法を域外課税や差別的課税と定義しているかに移りたい。域外課税や差別的課税の定義は多分、今日のポスティングでは辿り着かないと思うけど、section 899がターゲットしてる多国税法の詳細だから楽しみにしててね。

で、その前にまずは簡単に議会の立法動向。

下院 v 上院Budget Resolution

前回も触れた通り、下院がようやくBudget Resolutionに漕ぎつけた後も下院1-Track案と上院の2-Track案のどちらで進めるのか不確実な状況が続いていた。下院の進展にもかかわらず、上院は未だに下院の動向は不確実っていう読みで独自の2-Trackアプローチのうちの1つ目の国境警備、国防、エネジー生産にかかわるBudget Resolutionの可決を敢行した。民主党が決議を遅らせるために提出する多くの修正提案を尽く否決しないといけない「Vote-a-Rama」が10時間続き徹夜の勢いになった後の金曜日早朝に可決したんだけど、「どっちでもいいから可決させるように」的なスタンスを貫いてたトランプが上院審議の直前になって「下院のBudget Resolutionは一発で全てやりたいことが盛り込まれてるんでそっちの方が優れてる」って言いだした。とは言え、上院としては取り合えず独自のBudget Resolutionを用意しておいて、万一(?)下院共和党内で歳出減の対象や規模に関して一枚岩になれないケースに「プランB」で備えた状況。また上院が希望している2-Track第二弾のBudget ResolutionはTCJAを10年とかの時限立法ではなく恒久的に延長、さらにトランプが選挙活動中に言及していたチップ非課税その他の減税もフルに盛り込みたいということでもっとお金が掛かる。下院のBudget Resolutionではその点保守的な歳出上限に合意されてて上院の目から見ると物足りないってところでも意見が割れてる。

ここにきてトランプが下院1-Track案支持を表明したことで、下院議長のMike JohnsonはMedicaidの運命とかTouchyな議論が尾を引いている下院共和党内の調整に少しはレバレッジができたんだろうけど、今後の党内調整の先行きは引き続き余談を許さない。MarylandのNational Harborで開催されているCPACは従来から保守っていうか今ではMAGAのWho’s Whoイベントだけど、Mike Johnsonも昨日CPACでスピーチしてた。国境警備、減税、規制緩和、米国エネジー生産拡大、等の共和党のPriorityを一気に実現する現世代最大のチャンスを活用しないといけないって間接的に1-Trackを匂わせるテーマだったけど、1‐Track案進展に具体的に触れることはなかった。この1~2週間は下院の動向から目が離せないね。

Section 899法案対抗・報復措置

対抗・報復措置は当然だけどSection 899法案の神髄部分に当たるんで法案18ページのうち10ページを割いて詳細に規定されている。措置は大別して「付加税率」と「その他の措置」の2つで構成される。付加税率の方は元祖section 891の税率ダブルに通じるものがあるけど、規定の詳細度合いは比較にならない。

付加税率

Section 899法案の付加税率は更に「法人・所得税(Income Tax)」と「源泉税(Withholding Tax)」に区分されて規定されてる。これは、源泉税の最終的な負担者は外国人だけど徴収義務は支払い側、多くのケースで米国人、に課せられてるんで、通常の法人・所得税と区分して規定することで源泉徴収を行う者が源泉時に付加税率を上乗せする義務がある点を明確にするため。

で、法人・所得税に関しては、「適用日」の後に開始する課税年度に「適用納税者」に課される法人・所得税の計算は「適用パーセント」上乗せした税率を適用して行うっていうもの。カッコで表示している各用語はSection 899法案で定義されてて、これらは各々後述する。

付加税率の対象となる税金は1) 米国投資所得(ECIでないFDAPおよびほぼあり得ないに近いSituationでも個人のCapital Gain)に対する30%課税(原則、源泉税で徴収されるタイプの税金だけど、税法的にSubstantiveなChargeは投資所得を受け取る外国人が対象で、源泉が不十分な場合に正確には外国人が1120Fや1040NRで自ら支払う義務がある)、2) ECIに対する法人・所得税、および法人に対するBranch Profits Tax、の2タイプとなる。

ただ、個人納税者に関しては軽減措置(?)が複雑な言い回しで規定されていて、FIRPTA以外のECIに関しては付加税率の上乗せはない、としか読めない面白い緩和策がある。すなわち個人納税者はFIRPTA課税(=みなしECI)に対する所得税は付加税率が上乗せされた懲罰税率に基づいて税金を計算するけど、それ以外の通常のECIは付加税率は加味しない普通の税率がそのまま適用されるってことみたい。条文の構成が複雑で条文何回か読んだんだけどチョッと唐突な緩和で、おそらく法人だったら多くのケースで子会社を介して米国で事業してるんで米国事業所得には付加税率の上乗せがないっていう情状を酌量してのご厚意(?)かもね。でも、現地法人の取り扱いとパラレルにするっていう意図だとしたら(現時点では個人的な推測に過ぎない)、法人でも支店だったら上乗せが税率対象だし、逆に個人でも米国法人組成できるから個人的にイマイチに謎。もっと別に奥深い理由があるのかもね。

源泉税

源泉税に関しては、まず適用日後に適用納税者向けの投資所得支払いに課せられる源泉税は税率上乗せ対象。さらに適用日後の適用納税者による米国不動産持分(USRPI)譲渡に関して譲受人がFIRPTA源泉徴収する際の税率も上乗せとなる。最初の投資所得に対する源泉税は、納めるのは支払主だけど、税金としては受け手の外国人の税金。ただし、正しく源泉されてる限り源泉税をもって納税義務終了なんで、上述の投資所得に対する法人・所得税に適用される上乗せ後の税金は、源泉税もきちんと上乗せ後の税率に基づいて行われてる場合、それ以上の作業はない。万一、支払主が上乗せ前の通常の税率で源泉税を徴収してしまったケースは、受け手の外国人が申告書を提出して差額を納付する義務が生じる。源泉税徴収の時点で税率を上乗せしないといけないってことは、支払主は相手がsection 899の適用納税者かどうかをW-8とかから把握しないといけなくなる。法的には源泉が過小だとその分源泉税徴収義務者にも差額支払責任が課せられるからね。ただでさえ源泉税を徴収する側はコンサバなポジションを取ることが多いんで、怪しきは…みたいにやたらめったら上乗せ税率で源泉されたりしたら大変そう~。

FIRPTA源泉

投資所得に対する源泉税と異なり、FIRPTAに適用される源泉徴収は、源泉「税」ではなく仮払いの性格。最終的にUSRPI譲渡人の外国人はいずれにしても別途譲渡益をECIとして申告する。その際に源泉済みの金額は前納の予定納税同様に申告時のクレジットになる。FIRPTAの源泉徴収額は原則、譲渡益とは関係ないグロスの譲渡対価の15%なんで最終的に譲渡人の外国人が申告する時点で大概還付になる。上乗せでグロスの譲渡対価に対する源泉徴収が20%だの35%だのになると、いくら実際のFIRPTA課税も連動して25%だの40%だのになるとしても、両者の乖離はますます大きくなるだろうから、そんな時にはIRSにAdvance Withholding Certificateの交付申請をしないとね。あれもなかなか交付されなかったりして結構面倒だよね。Elon MuskのDOGEチームがAIとかで自動化してくれて瞬時に交付されるような日が来るかもね!

FIRPTAの源泉はそのルール自体が複雑なんで、上乗せ対象の税金の説明も複雑。具体的には次の一連の源泉徴収時の税率が上乗せ対象となる。

適用納税者パートナーがいる米国内パートナーシップがUSRPIを譲渡する場合(不動産ファンドに投資してるようなケース)FIRPTA源泉徴収は譲受人ではなくパートナーシップが行うんだけど、その際の源泉徴収税率。ちなみにこのストラクチャーに適用されるFIRPTA源泉はグロス対価の15%のではなく、譲渡益に通常の法人・所得税率を適用して計算するっていう合理的なもの。もちろん源泉する者が譲渡損益の計算をできる立場にあるからこそ可能な規則だけど、この理由だけでも直接USRPI所有するよりパートナーシップ経由で所有するのが有利だよね。

FIRPTA関係の源泉徴収はまだまだいろいろある。一点大枠の話しだけど、以前にFIRPTA大特集を何か月か掛けてポスティングした際にも触れた通り、FIRPTA課税(USRPIを譲渡する外国人に対する申告課税)とFIRPTA源泉(譲受人や分配人に義務付けられる前納)は個々に別の規定と考えておく方が安全。ここでもFIRPTA課税の方は源泉税ではなく通常の法人・所得税に対する上乗せが規定されてて、ここではFIRPTA課税のバックストップみたいな役割を果たすFIRPTA源泉時に適用する税率に対する上乗せの話しっていう点を覚えておくようにね。

で、上乗せ税率対象となるその他のFIRPTA源泉を列挙しておくと、適用納税者に当たる外国法人による含み益を持つUSRPIの分配。これはFIRPTA源泉徴収対象だけど、分配する法人自体のFIRPTA課税に対する源泉だから実態としては自分の税金の予定納税。株式がUSRPIと取り扱われる米国内法人による適用納税者への償還分配、清算分配、E&Pを超える分配に対する源泉徴収。米国・外国パートナーシップ等によるUSRPIの適用納税者に対する分配に対する源泉徴収。財務省規則で規定される範囲でUSRPIを所有するパートナーシップ持分等譲渡。RICやREITによる適用納税者への分配。

よくここまで詳細にFIRPTA源泉カバーしてるよね。次回は適用納税者と以外に難しい適用日について。

Sunday, February 16, 2025

Global Tax Deal対抗・報復措置「Section 899」法案 (2)

前回はGlobal Tax Deal対抗・報復措置のうち「議会による立法」に基づく対処のひとつsection 899法案について話し始めた。特にsection 899の発動はSection 891みたいに米国市民や米国法人が差別的な取り扱いを受けたという点を認定する必要がなく、単に差別的または域外課税を行使する税法を可決したという点だけをもって発動するようにできているっていう重要な差異に触れた。行政府の対抗・報復にかかわるGlobal Tax Deal大統領令も同様。法律が存在する、または導入可能性が高いケースに発動されるようにできてるんで、認定は比較的容易で客観的だ。また、報復関税とかは他国の米国からの輸入に対する障壁度合い、例えばVATが課されてるか(以前から触れてるけど米国にはVATはないんで10%の関税そのものは多くのケースで他国のVATより低い。EUだと15%以上のVATがあるはず。もちろん関税と違ってVATは国内取引も対象だけどReciprocalの観点からはこの両者比較は常に議論を呼ぶところ)みたいな国別にテイラーされた対応になるけど、section 891や899は大統領や財務省が客観的な尺度で対象国を特定した後、国別に異なる対応は想定されていない。さらに大統領による対象国特定後、特定された国の税率がsection 891でダブルになる点そのものは大統領の裁量ではなく法的に自動的だ。後述のsection 899も問題税制を持つ国と認定される場合、税率アップ等の措置は自動的。すなわち他国の問題税制による米国への被害の大小にかかわらずその国の全市民・法人に対する税率がダブルになったりsection 899法案に規定される対抗・報復措置の対象となる。

Global Tax Deal大統領令に基づく行政府対応もフレキシビリティは余りないのかもしれないけど、条文はその文言的に自動的。America First Trade Policy大統領令に規定されているsection 891対象国リストアップ期限は4月1日だけど、ここでリストに載る国はリストを大統領が承認したその時点から税率ダブルになるってことかもね。

Section 899「Enforcement of Remedies Against Extraterritorial Taxes and Discriminatory Taxes」

Section 899法案の正式タイトルは「Enforcement of Remedies Against Extraterritorial Taxes and Discriminatory Taxes」。まあこれは読んでの通りだけど、米国の法解釈時に条文タイトルそのものには法的効果はない。法的効果を持つのはその直後に始まる条文本体。で、section 899法案は「財務省長官による域外・差別的課税が可決されている国のリストアップ」を命じ、「そんな税法を持つ国と行うべき交渉」を規定し、リストアップされた国に対して発動される「対抗・報復措置」で構成される。その後に条文に使用される用語の定義、そして財務省に付与される規則策定権のScopeが規定される。以前に触れたLoper Bright最高裁判決以降、議会による財務省に対する規則策定権Scopeは細心の注意で記載されないといけない。

Section 891と899法案の双方を見て一点面白いのは、双方共に「差別的または域外課税を行使する税法」をターゲットにしてるんだけど、元祖section 891は「Discriminatory or Extraterritorial Taxes」と表記してる一方、Brand Newのsection 899法案は「Extraterritorial Taxes and Discriminatory Taxes」と、「Extraterritorial(域外課税)」の方が先に表記されてる点。「そんなの同じで考え過ぎじゃん」って思うかもしれないけど、この手の用語はランダムに使用しないんで、section 899法案起草陣が最も不快に思ってるのは国家主権を侵害している域外課税にある点が垣間見える気がする。Section 899法案では何をもってExtraterritorialやDiscriminatoryと位置付けるかも具体的に規定している。その規定には「う~ん、なるほどね」っていう感じの驚きと言うか気合いが感じられるんだけど、この点は後述。

財務省長官による域外・差別的課税が可決されている国のリストアップ報告書

Section 899法案はまず財務長官(Scott Bessent長官から権限を委譲される者も含む)に、section 899可決後90日以内、そしてその後引き続き最低でも180日毎に両院の委員会(Committee)に域外課税(こっちが先に来てるね!)または差別的課税を規定している国をリストアップして報告するよう命じている。報告先の委員会は4つあり、上院は「Committee on Finance」 と「Committee on Foreign Relations」、下院は「Committee on Foreign Affairs」と「Committee on Ways and Means」。このうちCommittee of Finance(財政委員会)とCommittee on Ways and Means (歳入委員会)は税法策定に直接関連がある委員会だ。

報告書には、域外課税や差別的課税制度を持つ国としてリストアップされている各国の問題税制の内容、税率、税制可決日および効力が生じる日の情報を明記するよう命じている。さらに一旦問題税制を有する国とリスクアップされた後、そのような税制が撤廃されたと財務長官が判断する場合、報告書には問題税制が恒久的に撤廃された日または失効日、そしてそんな国に他に域外課税や差別的課税を規定した法律があるかどうかも報告書に盛り込むこと、としている。

Section 899の適用目的で問題税制を有する国は、そんな税制が可決された日または効力が生じる日のいずれか「早い方」から税制が撤廃された日または失効した日のいずれか「遅い方」までの期間、問題税制を有しているって取り扱われる。

Section 899の報告書や後述する他国との交渉は、大統領の裁量で交付されたり取り消されたりする大統領令ベースの報告や対処と異なり、財務長官は法的に議会の委員会に頻繁な報告をし続ける義務を負う。大統領や財務省の裁量で報告する訳ではない。そして報告書にリストされた国は自動的にsection 899の報復課税の対象となる。

これらの報告義務は緻密に規定されてて他国の視点からすると八方塞がり。

問題税制を持つ国への告知・交渉

で、次に報告書にリストアップされた国と財務長官が行うべき告知・交渉内容が規定されている。具体的には、報告書にリストアップされた各国に「相手国の(米国との)租税条約違反や国際課税標準からの逸脱する税制による二国間の通商・経済に与える悪影響に対する懸念表明」「問題税制の撤廃要求」「(section 899に規定される)対抗・報復措置の通告」。結構細かいよね。これ法律だから少なくともこの3点は財務長官として各国に告知・交渉を行う法的な義務があることになる。

で、続いて登場するのが対抗・報復措置。これは結構長いんでここから次回。

Saturday, February 15, 2025

Global Tax Deal対抗・報復措置「Section 899」法案

前回はGlobal Tax Deal対抗・報復措置を「行政府権限」の対処(Global Tax Deal大統領令)と既存のsection 891の適用すなわち「立法・税法対処」(America First Trade Policy大統領令)の2つに触れてみた。Section 891で税率をダブルにするっていう法律は1934年から存在し、大統領が一定の認定をすれば鶴の一声で直ぐに発動が可能っていう点に触れ、この点に関して実質行政府権限と同じだけど、section 891は条文の文言的に発動に求められる大統領側の事実認定がチョッと面倒っていう点にも触れた。Section 891のそんな不備を補うためか、議会では別途、発動が容易で1934年との比較においてよりモダンな対抗・報復法案が提出されている。今日はそのうちのひとつ「the Defending American Jobs and Investment Act(section 899)」下院案に触れてみたい。法案の正式名長いんでここでは「section 899法案」って言うことにするね。

で、その前に2025年税制改正に進展があったんで軽くアップデート。

会計年度2025年Budget Resolution承認で「初めの一歩」

バレンタインデーに至る数日も、報復関税、国内エナジー生産、Anti-Deep State系の閣僚承認、JDバンスの欧州メインストリーム政権の厳しい言論統制に対する叱責、等盛りだくさんだったけど、税制改正を取り巻く政局も時限爆弾の起爆装置を解除するかのような時間的プレッシャーの中、大慌てというか必死の下院共和党内の調整が続いていた。2月13日朝に、下院議長のMike Johnsonの指示で下院Budget Committeeが予算調整法に基づく法案可決の「初めの一歩」になるBudget Resolutionをドラフト。え~、フットボールとか見ていろいろ調整してたのに千里の道の最初の一歩も未だだったの?って思うかもしれないけどその通り。実際の審議に至る前の段階で、例によって下院共和党内の調整の難しさが露呈中だ。

で、13日午前中の段階ではBudget Resolutionの運命は引き続き不透明だった。TCJA延長とトランプが選挙活動中に披露してた複数の更なる減税の国家財政に与えるコストに関して、以前から触れている下院Freedom Caucus(HFC)、Deficit Hawk派の賛同が得られるかどうかがキー。その中でも発言力(迫力?)のあるChip Roy(R-TX)とRalph Norman(R-SC)の2名はBudget Committeeの委員。

その間、上院は同時並行して独自の2-Trackルートに基づく最初の予算案を策定中だったけど、こちらは国境警備、米国内エネジー生産、国防予算にフォーカスし、歳出削減とフルに相殺ベースで$400B弱くらいの規模(こちらはTではなくB)。下院の進展にかかわらず上院が2-Trackの準備をしている背景は、おそらく本当に下院が1-TrackのBudget Resolutionで一枚岩になれるのかっていう疑問が抹消し切れないってことだろう。大統領府も必ずしもどちらかのルートを確定的に奨励しているようには見えない。国境警備を直ぐにでも最大限としたい2‐Track派と下院が税制改正を通過できる可能性を重視する1-Track派に分かれる。Stephen Millerは2-Trackだよね。Stephne Millerは、沈着冷静に実質ウェストウィングを配下に置く大統領首席補佐官のSusie WilesのDeputyとしてメディアにも登場して歯に衣着せぬコメントで有名だけど、国境警備を含む税法改正以外の最重要政策に関して一日も予算を付けたいということなんだろう。他にもJDバンスも2-Track寄りって聞いたことがある。税制改正の行方に一番関心があるであろう財務省長官のScott Bessentはやはり慎重に(?)1‐Track派。同じお金を司る立場でもOMB長官のRuss Voughtは2-Track派っていう話しだから分からないもんだね。

上院Majority LeaderのJohn Thuneは上院のプランはバックアップで、1にしても2-Trackにしても結果は同じって強調。肝心のトランプも基本的に「どっちでもいいからチャンと可決するように」みたいな立ち位置にあるって報道されている。確かに同じようなタイミングで可決できれば結果は同じだけど、税法改正の可決可能性自体、また減税規模が掛かっている最重要課題なんでここまでの争点にになる。

そんな中13日のその後、滑り込みセーフで下院Budget CommitteeでBudget Resolution通過。10年間のBudget Windowベースで$2Tの歳出カットを条件にネット歳入減$4.5Tまでの税制改正を認める内容。早ければ2月最終週に下院で正式承認される。下院で承認されても次に上院バージョンと擦り合わせの必要があり、両院一致バージョンが完成した後に小委員会(Subcommittee)が自分たちの管轄分野に関する予算を作成し、最後は両院で法制化する。冒頭でBudget Resolutionは初めの一歩って言ったけど、こんな風にその後も千里の道が待っている。

Budget Resolutionの内容で興味深いのはマイナス$4.5Tっていう金額。以前にCBOがTCJAのBudget Window延長コストって予測していた金額とほぼ同じ。っていうことはTCJAの10年延長だけでトランプが言ってた米国製造15%、チップ、残業代、公的年金受給の非課税の運命はどうなるんでしょうか。上述のRalph Normanは$2Tの歳出カットはベースラインでこれ以上の歳出カットが実現できれば、その分はさらなる減税に回しても構わないって言ってる。逆にBudget Resolutionに合意した背景には$2Tの歳出カットができない場合には、不足分は減税を削減するっていうUnderstandingがあるとのこと。Elon Musk率いるDOGEがWe the Peopleの一般庶民の視点からは信じ難い連邦政府の無駄使いや不正を次々に公表したり、私企業みたいに早期退職制度を設けて既に7万5千人が応募、他にも多くのレイオフで人員削減を敢行してるけど、それらも含めた歳出カットがどれだけ実現できるかに掛かっている。もちろんTCJAの延長対象規則をメジャーの個人所得税分野に限定し、他のGoodiesを追加するとかいろんなオプションがある。また上院はTCJA延長を恒久化するべきっていうスタンスだからまだまだ文字通り初めの一歩で予断を許さない。

Section 899案

前座のP-Modelじゃなくて、Budget Resolutionの話しが終わりいよいよLight Up the SkyのVan Halen!って危ない感じで脱線しそうなんで自らを戒めてsection 899案。

Section 899案は元々2023年に118th Congress H.R.3665として提出されてた法案を2025年1月21日、Global Tax Deal大統領令公表とほぼ同時に119th Congress H.R. 591として下院に再提出されたもの。そのタイミングが議会と行政府が一丸になってGlobal Tax Dealに反対する姿勢の表れっていう点は以前の「Global Tax Deal大統領」で触れた通り。

行政府と議会のコーディネートと言えば、下院歳入委員会はダメ押しかのように2月3日に大統領に書簡を送付し、大統領令によるsection 891の適用手続き開始および行政府による追加対抗・報復措置の検討を絶賛している。その上で「下院歳入委員会はGlobal Tax Deal対抗・報復を遂行する行政府に立法面からのアシストをする準備があり、まずは手始めにsection 899案から着手する」、「過去4年間の前政権により米国はダメージを被ったが、大統領令はその対抗を助成」、「議論が屈折点に達した今、議会と行政府が協働して恒久的な解決に導く」と明言したと報道されている。

Section 899案は既存のsection 891とは比べ物にならない程詳細な規定。まずSection 899案に規定されている対抗・報復措置のトリガーだけど、前回のポスティングで触れた通り、Section 891みたいに米国市民や米国法人が差別的な取り扱いを受けたという点を認定する必要がない。単に差別的または域外課税を行使する税法を可決したという点だけをもって発動するようにできている点は繰り返しになるけど重要な差異。

規則そのものや行政府とのコーディネートに関しても詳細に規定されている。Section 891って1パラグラフで3センテンスだけど、section 899案は(フォントやフォーマット次第だけど)18ページ!ちなみに2025年版のH.R. 591の法文は現時点でCongress.govのオフィシャルページには未だ公開されていないんで、2023年のH.R.3665を基に解説する。同じ法案名なんでほぼ同じであることは間違いないけど、具体的な対抗・報復内容は一部さらに強化されてるっていう噂もあるんで要注意。

P-Model、じゃなくてBudget Resolutionの話しで長くなったんでここからは次回。

Sunday, February 9, 2025

「Global Tax Deal」対抗・報復措置

「Global Tax Deal」大統領令に続き、前回は「America First Trade Policy」大統領令に触れた。双方とも「差別的または域外課税を行使する税法」への対抗・報復措置にかかわる令だけど、前者のGlobal Tax Deal大統領令は法的に、すなわち連邦憲法の三権分立的に、議会の立法を伴わずに行政府で実行可能な対抗・報復措置にかかわるもの。行政府の権限内でも相当なことができるけど、法人税増額とかBEAT強化とかの税法をTweakするような措置は立法が必要。立法には時間が掛かる。行政府権限内の措置は即日実行できるっていうメリット(UTPRとか導入したり、しようとしている国にはデメリット?)がある。米国のポリティクスや税制を考える際、特定の権限が三権分立のどのBranchに属してるか、またはケースによっては連邦なのかデフォルトで州なのか、っていう点は常に意識の中に留めておく必要がある。

前々回のポスティングで触れたけどGlobal Tax Deal大統領令では、財務省長官にUSTRと協議しながら「米国との租税条約に違反している税法、または差別的または域外課税を行使する税法」を可決している、またはそのような税法の導入可能性が高い(「Likely」)国を特定し、行政府が「法的に有する権限」の範囲で可能な限りの対抗・報復オプションをリストアップするよう指示している。行政府の権限で可能なことって実は結構あるよね。前々回も想像の域を出ない話しだけど考えられる措置にチラッと触れた。例えば条約適用一時停止または破棄通知、高関税導入、政府要人ビザ発給停止、とか。条約、例えば日米租税条約は既に発効から5年経過してるんで、テクニカルには6か月Noticeで破棄可能。まさかArticle 31を読んだりする日が来るとは。っていうか未だ来たわけじゃないけどね。

でもUTPRやGlobal Tax Dealごときで条約まで破棄しちゃう訳ないじゃんって思うかもしれないけど、バイデン政権時にはEUの中で最後までGlobal Tax Dealに反対してたハンガリーに、2022年の七夕祭の翌日7月8日に条約破棄を通告してる。そして6か月後の2023年1月8日には実際に条約は失効してしまった。表向きには条約はハンガリーにメリットが大きいとか言ってたけど、EUで最後までGlobal Tax Dealに反対していたハンガリーに対する報復措置(なんで米国がEUに代わってそこまでしないといけないのか、グローバルエリートの世界にしか分からない美徳があったんだろうね)っていうのは周知の事実だ。今度は一転してGlobal Tax Dealに賛成したっていう理由で条約破棄…?なんてことになったら米国相手にする他国は本当に苦労が絶えないね!米国って4年毎に別の国になる、みたいな表現は前からあったけど、第二次トランプ政権は前代未聞のスピードとScopeで発足後数週間の間に米国、そして間接的に世界も(?)、根底から変えてしまった観がある。

で、財務長官のBessentに課せられたGlobal Tax Deal大統領令の報告Due Dateは3月21日。でもUSTR候補のJamieson Greerの承認は未だ完了してなくて、2月11日に再度 Senate Finance Committeeのセッションで議題に上るってことだから果たしてDue Dateまでにリストアップ完了するんでしょうか。

Section 891

で、後者のAmerica First Trade Policy大統領令の方は同じくGlobal Tax Dealのような「差別的または域外課税を行使する税法」に対する措置だけど今度は税法にかかわるもの。税法は議会の立法を伴う措置になるんで前述の通り立法されないと法的効果がなく時間が掛かる。そんな中、America First Trade Policyでは既に存在するSection 891の発動に必要な調査を命じている。

「Global Tax Deal」大統領令のポスティングでチラッと触れたけど、Section 891は1934年から存在する税法で、「差別的または域外課税を行使する税法」を米国市民や米国企業に適用してると、大統領権限でその国の市民や法人には所得税、法人税、源泉税を倍にすることができる規定だ。議会により大統領権限が既に与えられてるんで、税法マターだけど手続きを踏めば大統領により即日発動可能な点がキー。大統領の一声で個人所得税、保険会社に対する課税を含む法人税、クロスボーダー源泉税が倍になるっていう条文だ。

その適用にはいくつかキャッチがある。まず、section 891をトリガーさせるには「米国市民または米国法人が他国の税法に基づき差別的または域外課税の対象になった」っていう事実認定をする必要がある。Section 891に言及しているAmerica First Trade Policy大統領令もここは正確に記載されてて、米国市民または米国法人が実際に弊害のある課税対象になったかっていう点にフォーカスがあるように見える。これは他方の「Global Tax Deal」大統領令の調査対象および対処・報復措置のトリガーとなる「他国がそのような税法を可決しているか、または可決する可能性が高いか」とは当然ハードルがかなり異なる。後者は実際に米国市民や米国法人が課税対象になったっていう事実を特定する必要がないんで、かなりハードルが低いし、税法有無の判断となると(Likelyかどうかの判断を除き)主観的な部分がない。ちなみに下院に再提出されている「the Defending American Jobs and Investment Act、section 899」は審議中だけど、Global Tax Deal大統領令同様、差別的または域外課税を行使する税法の存在のみをもって発動するんで、この点だけをもっても既存のsection 891より発動可能性が相当高まることになる。

またsection 891は、米国市民や米国法人に弊害のある税法を課している国の市民または法人に適用がある。すなわち、そのような国の法人そのものには適用がある一方、その法人の「米国子会社」には適用がないと思われる。支店形態で米国事業に従事している金融機関とかは法人税そのものが倍になる一方、子会社の場合は主に源泉税が問題なるだろう。一方、個人は米国居住者になったとしても国籍ベースで適用が決まると思われ、例えば、駐在員の税率は倍(現状の所得税法で連邦だけで74%!)になる。日本企業の場合は多くのケースで駐在員報酬は手取り保証のグロスアップだから、会社負担の税金はナンと260%だ。

2025年税制改正途中経過

チョッと話は変わるけど、共和党Trifecta下の2025年税制改正の進展は…っていうと実はクリスマス前に特集した「2024年11月米国選挙結果と米国税制 (2)「予算調整法2回どう使い分ける?」」「同(2)」の頃と変わってない。すなわち下院と上院で予算調整法の使い分け方の調整中という状態。フロリダとかのRetreatやMar-a-Lagoでのトランプとの会合とかを重ねてるけど未だにはっきりしない。え~年末恒例の陸軍・海軍フットボール(Army-Navy game)をスイートで観戦しながらトランプ、下院議長Johnson、上院Majority LeaderのThuneの「Big 3」で方向決めたんじゃないの?って思うかもしれないけど実はその後も難航してる。その理由は過去のポスティングで触れた通り下院内の不協和と、下院と上院の制度的な差異に基づく好みのアプローチの差。で、今日2月9日もうすぐNew Orleansのthe Caesars Superdomeで始まるSuper Bowl LIXに現職大統領としては初めてトランプが観戦するっていうことだけど、そこには下院議長のMike Johnson と上院WhipのJohn Barrassoがジョインするっていうことで、そこでまたしても首脳会談になるみたいだ。いつもフットボールで面白い。Eaglesとトランプは因縁の仲だしね。

ということで次回は「the Defending American Jobs and Investment Act」と時間があればもうひとつの対抗・報復法案「the Unfair Tax Prevention Act」に関して。

Friday, January 31, 2025

「America First Trade Policy」大統領令

前回はモーツァルトの誕生日に「Global Tax Deal」大統領令を語るっていう無粋な企画だったけど、最高裁主判事John Robertsの誕生日も1月27日。最高裁の口頭弁論で各判事が原告・被告の弁護士とやり取りする弁論、特に当事者のどちらかが「United States」の場合はSolicitor Generalとの弁論は連邦憲法を取り巻くLegal theoryが今が旬のトピックにどう適用されるかを考える際にCutting-Edgeな議論を満喫することができる。バイデン政権のSolicitor GeneralはElizabeth B. Prelogarでアイダホ出身だけど、MooreかLoper Brightか、もしかしたら他のメジャーなケースだったかもしれないけど、判事の一人(多分Gorsuchだった)がアイダホポテトのJokeを交えて議論した際に「私もアイダホポテトのことはよく知っている」とか言ってテンスな弁論中に一瞬法廷が和やかになるっていう一幕があった。

トランプ政権はJohn SauerをSolicitor Generalの候補に任命し上院の承認待ち。AGのPam Bondie(昔はフロリダ州のAG)と比較してメディアで語られることは少ないけど、最高裁でUnited Statesの代理人はSolicitor Generalだから最高裁で見ることができるのはSolicitor Generalの方だ。

ちなみに今では主判事のRobertsは、1980年台後半から90年代前半までDeputy Solicitor Generalだったことがあり(Rehnquistが主判事だった頃。ストライプの入ったローブなつかしいね!)U.S.Governmentに代わり「Cottage Savings」ケースをIRSの調査結果を最高裁で主張した歴史がある。Solicitor GeneralはUnited Statesに代わり最高裁で国側のポジションを主張するのが仕事だから当たり前じゃんって思うかもしれないけど、「Cottage Savings」ケースとRobertsには宿命(?)がある。90年代前半の米国不動産市況悪化で多くのS&L(この用語もなつかしい…)がピンチに陥ってたけど(昔から変わんないね~)、Cottage Savingsもその一つ。Mortgage Swapが1001のExchnageに当たるかどうかが争われた。簡単に言うとRobertsはIRSに代わりMortgage SwapはRealizationイベントじゃないんで損失は認められないって主張し、最高裁はSwap取引には「Realization」はあったとしてIRSが敗訴したんだけど、「Realization」がなければ課税なしっていうのは双方の主張の大前提。「Realization」ね...。ここで宿命というか後日のサガにピンときた人は偉い!全然きてないって?それはそうだよね。2024年にRobertsが主判事として最高裁で判決を出したMooreケース。965のMRTに関して、課税にRealizationが必要かっていう点が争われた(結果的にRealizationはMacomberっていう古い最高裁判例で既に求められるっていう前提で議論が進み、RealizationがあったかどうかっていうCottage Savings的な話しになり、最後はAttributionのケースになっちゃったけどね)。Mooreの口頭弁論ではRobertsは余り口を挟まず他の8人、特にThomasとGorsuch、がPrelogerとLivelyな弁論を交わしたけど、Robertsが静かだったのはCottage SavingsでRealizationが求められる点を既に体感してたからかもね。

う~ん、最高裁判決はDeep。最高裁傍聴席が一部オンライン予約になったんで早朝とか2日前から陣取って並ばないでも(オンラインでチケットが当たれば)傍聴可能になった。日によってはDCの朝寒いし、早朝4時に行けばいいのか前日、下手したら前々日から並ばないといけないかな、とかアレコレ予想しなくていいんでWelcomeなシステム。列に並ぶのと同じで、メジャーなケースは申請が殺到するだろうからライブで見ることができるケースはどちらかって言うと注目度合いが低め(って言っても最高裁まで行くんであくまで相対的な話しだけどね)のものかな~。4月のDocketのオンライン予約始まったら直ぐに申し込まないとね。ちなみに1月20日の大統領就任式には9人の判事が全員参加だったね。

で、今回のポスティングではGlobal Tax Deal大統領令とは別の大統領令でGlobal Tax Dealを含む弊害税制に触れている「America First Trade Policy」大統領令に関して。Global Tax Dealが直接・間接に2つの異なる大統領令でカバーされてる点も、先日触れた優先順位の高さを物語る。

「America First Trade Policy」大統領令

Trade Policyを統括する全体像的なテーマとして冒頭Section 1の一部に「通商は国家安全保障の重大な構成要素。他国への依存度を低下させることで安全保障に貢献する」としている。

その上、大統領令には多くのアクションプランが盛り込まれてるけど、大別すると「不公平・不均等な通商問題対応(Section 2)」、「中国との経済・通商関係(Section 3)」、「経済的国家安全保障(Section 4)」の3項目で構成される。 Section 2は更に(a)~(k)まで11項目(11で数合ってる?)のアクションが規定されてて、その名の通り外国の不公平な通商政策特定、USMCAを含む通商協定の再評価、為替操作、その他通商関連問題を広範にカバーしてる。

Section 3は中国に特化した(a)~(e)まで5項目のアクション。具体的には俗に「the U.S.-China Phase One Trade Deal」って言われる「the Economic and Trade Agreement Between the Government of the United States of America and the Government of the People’s Republic of China」(正式名は長いね)の合意内容に中国が準拠しているか、2024年の中国に対する「Four-Year Review of Actions Taken in the Section 301 Investigation」の再評価、サプライチェーン再構築による対中国関税迂回策の実態把握、追加関税の必要性、不当・差別的な通商慣習調査、クリントン時代の「U.S.-China Relations Act of 2000」に基いて中国に付与された「Permanent Normal Trade Relations (PNTR)」Statusの撤回にかかわる2023年の法案評価、知的財産プロテクション、等々。

中国って言えば、Deepseekが開発したR1 Chatbotの出来の良さに米国AI業界が強い衝撃を受けてたけど、実はDeepseekがシンガポール経由で不法に入手したNvidiaの半導体を使用してR1をトレーニングしたっていう疑惑が頭をもたげてる。Nvidia半導体の中でもH800は中国への輸出規制対象。最近Nvidiaのシンガポール向け出荷が急激に拡大したっていう話しもあり、今後の調査結果次第では対中国通商政策に更なる精査が加えられるだろう。AI合戦は宇宙開発合戦と同時に国の生死を分ける(?)とも言われてるんで、ただでさえ強硬派が揃ってる現政権による対応は迅速かつ強力なものになる可能性が高い。

宇宙開発は米国はStarship/StarlinkのSpace Xがあるけど東西陣営で競う姿は1950年~60年代のソ連(スプートニクス)v. 米国(アポロ)を思い出させてくれる。宇宙開発の広範なインダストリーに与える可能性、それらを実現させるテクノロジーはSpace X等のPrivateセクターの活躍で劇的に進化してるってPE、VCファンドスポンサーが言ってた。今日の宇宙開発競争相手は主に中国だけど、昔は何のプレゼンスもなかったにもかかわらず近年は米国同等、それ以上っていう見方もあるくらいだから安全保障面で相当なフォーカスになるだろう。月面基地とかは既に視野に入ってて、DeFiと並んで世界を変え得る超面白い分野。軍事面でのStakeの高さは、ロシアがウクライナに攻め入った際、最初にやったことはウクライナの衛星通信能力を除去したっていう点からも良く分かる。その際、Elon Muskは即座にStarlinkをウクライナ用にActivateしてウクライナの通信能力を復活させたけど、Starlinkがなければウクライナは即ロシアの手に落ちてただろう。戦術に全く無知の僕が考えても通信能力なしじゃ戦争になんないもんね。North Carolinaが強力なハリケーンで被害にあった際もElon Muskが即座にStarlinkで(無償で)通信能力を与えている。今年には携帯から直接Starlinkにアクセスできるようになるっていうことなんで(もうなってる?)、そうなったら使ってみようかな。今後、宇宙が主戦場になるんだったら今まで個人的にあまり注目してなかった1.863-8とか復習しないといけないかも。

Elon Muskはバイデン政権や民主党の計画経済的アプローチや過度な規制に批判的だったんで、この4年間FCC(Starlinkは過疎地のインターネット普及成果がないとか言われたり…)を含む複数の省庁から嫌がらせを受けてた観がある。その苦い経験がDOGEに活きるのかな。まあ、バイデンの再エネ補助金で政府が先導する経済と異なり、画期的かつ経済合理性のあるテクノロジーはリスクマネーで自力で勝ち抜かないと長期的にい生き残れない環境に置かれるPrivateインダストリーから生まれるよね。これが米国経済の強み。Apple、Tesla、Amazon、Uberその他、政府の指導とは関係ないところから世界中の市民が恩典を受けるテクノロジーが生まれてるもんね。NASAが巨額のコストOverrunでロケット生産するより、Space Xとか使ってどれだけ安くロケット作ったり、ランチできるか見るだけでも政府はMarket にParticipationしないでPrivateインダストリーに切磋琢磨させ資本マーケットにどこにお金を入れるか判断させる方が効率的で納税者の一般市民が帳尻を合わせる必要がないんで好ましいと思うけどね。

Section 4は安全保障面のフォーカスだけど、テクノロジー面の話しに加えカナダ、メキシコ、中国からの不法移民および薬物(Fentanyl)の流入の実態を調査し、通商・国家安全保障面からの対処提案を指示してる。Fentanylの流入は不法移民問題と同様にオープンボーダー化がもたらした米国にとって重大な問題で、元々中国が主たる供給源だったところ中国が直接Fentanyl生産を制限したことから、原材料をメキシコに輸出し、メキシコのカルテルがFentanylを製造、オープンボーダーを介して大量に米国に流入っていうモデルになってるらしい。この4年でFentanyl関係の米国における死者は30万人近くに上り、CDCレポートによると米国の心臓麻痺死亡者の数は年間16万人っていうことだからFentanylが死因のケースは相対的に決して少なくない。トランプ政権がカルテルをテロリスト認定したりしている理由が分かる。

America First Trade Policyと税金

で、AI、宇宙開発、薬物密輸とかで長くなったけど、前回2回に亘りポスティングした「Global Tax Deal」大統領令と並び、America First Trade Policy大統領令でもSection 2にタックスにかかわる項目がある。関税に関してはもちろん大統領令を通してのフォーカスだけど(この週末のメキシコ、カナダ25%関税はどうなることでしょうか)、内国歳入庁(Internal Revenue Service「IRS」)との対比で外国から関税で歳入を集めるって言う意味合いから「External Revenue Service」略はズバリ「ERS」(笑)の設立検討がいきなり2つ目の令として登場する。え~省庁とか公務員の数減らすんじゃなかったの?って思うけどIRSからの転籍なのかな。

そして次にSection 2の(j)だけど、ここにも「Discriminatory or extraterritorial tax」の話しが登場する。この部分は比較的簡素に既存の税法Section 891で認められている権限に基づき、米国市民または米国企業に差別的または域外課税を行使する国を調査するように命じている。Section 891は1934年から存在する税法でその背景は「「Global Tax Deal」大統領令」で触れてるんで参照して欲しい。Section 891はそんな税法を米国市民や米国企業に適用してると、大統領権限でその国の市民や法人には所得税、法人税、源泉税を倍にすることができる規定だ。

潜在的な立法による対抗・報復措置としてはSection 891の他にも、似たような趣旨のSection 896が既に存在するし、法案として既に提出されてるものとして「the Defending American Jobs and Investment Act」および「the Unfair Tax Prevention Act」がある。次回はこれらの条文、議会による対抗・報復に関して。