Friday, June 20, 2025

上院法案「New」BEATとsection 899「Super」 BEAT

前回のポスティングではMega-Bill上院法案が公開された直後の米国BBB動向、そして時間切れになる前に激しさを増すロビー活動に触れた。今日はいよいよsection 899の付加税と並ぶもうひとつの対抗策にあたる「Super-BEAT」に触れたいけど、実は上院法案は「Super」じゃない「元祖」通常BEATそのものに結構な改訂を加えてるんで、まずはBrand-Newの通常BEATの話しをしないとSuperに至らない。ということでNew BEATから入るけどその前にMega-Bill動向。

上院Byrd Rule審判「Byrd Bath」

John Thuneは来週にも手続き的なProcedure Voteを敢行し、その直後に本会議投票に漕ぎつけるっていう超Aggressiveなタイムラインを今でも目指してるみたいだけど、その際に避けて通ることができないのが上院ParliamentarianのElizabeth MacDonoughによるByrd Rule審判。Mega-Billに盛り込まれている規定が予算調整法、すなわち60票の代わりに過半数で通すことが許されるScopeかっていう審判を受けないといけない。具体的には大概において野党側の民主党が「これはScope外」で訴えて与党の共和党は「Scope内」で防衛し、Parliamentarianが審判を下すような手続き。法案をByrd Ruleで洗うみたいなんでポリティクスの世界では「Byrd Bath」って言う。鳥が行水してるみたいで可愛いけど実際は闘争的な手続きだ。

Mega-BillはFinance Committee管轄以外のCommitteeの法案も多く含むんで、Byrd Bathはそれら全てが対象になる。既に金融系CommitteeのCFPB(Consumer Financial Protection Bureau)の予算ゼロ化、また監査法人を監督するSEC傘下のPCAOB撤廃、がByrd Ruleに抵触するって判断されたよう。Byrd Ruleに抵触するってことは予算調整法の一部として可決できないってことだけど、60票の賛成があればByrd Ruleを克服することができる。

共和党が一番怖いのはBudget Windowのコストを「Current Policy Baseline」を使って判断することがNGとなること。Current Policy Baselineっていうのは今適用しているTCJAの規則を延長しても追加コストにはならないはずっていう主張に基づくコスト計算。これが認められないとTCJAが2026年以降失効した状態との比較でコストを計算することになり多額のコストを認識しないといけなくなる。もちろん実際の歳入・歳出はCurrent Policy Baselineだろうが通常のBaseline だろうが同じだけど予算調整法の見せ方のギミックとしては重要なポイントだ。この点は余りに重要なんで以前から水面下で交渉を重ねてきてると考えるのが自然だけど最終結果は不明。

Section 899は一旦お墨付きを得てるけど、Byrd Bathで再度審査の対象となる可能性はあるね。

米国外ロビー活動

米国外の納税者によるsection 899のロビー活動はScott Bessent長官が「自分の国の政府に差別的課税を取り下げるよう働きかけるのが筋」って主張してる点は前回のポスティングで触れたけど、カナダ(DSTだけがPer Se Unfair Foreign Taxなんで被害は相対的に軽い)に続き、EUの企業団体はEUに「テクニカルな議論はどうでもいいからsection 899の適用がないよう税法を変えること」っていうプレッシャーを強化しているという報道。

また英国ではFTSE100社が自国の財務省に「何でもいいからsection 899が英国企業に適用されないよう対応すること」っていう要請をしたという話しも報道されている。英国企業は「米国撤退は単純にオプションではない」とした上で何もせずにsection 899適用開始になると米国オペレーションに過激なリストラクチャリング(米国企業にインバージョン??)、を敢行しないといけなくなるし、目先の対応としてはグループ内DebtファイナンスをEquityに変えて配当を控える程度に限られる...とのこと。また「せっかくBrexitしてEUじゃないんだからそのメリットを活かして主権を発揮して独自に対応を率先して検討・策定するよう」働きかけたという話しだ。

New BEATは税率引き上げ

New BEATミニマム税率はナンと14%。これはSuper-BEATじゃなくて通常BEATの話し。銀行と証券ディーラーは従来1%プラスだったけどこの1%付加は撤廃されて全員一律14%になった。

クレジットは温存

BEATミニマム税計算時に2026年から認められなくなる予定だったR&Dクレジット、80%制限下でLow-income housingおよびエネジークレジットによるBEAT暫定税(通常の法人税と比べる前のBEAT税額)マイナスがそのまま温存されてる。この部分は便宜的に、財務省規則に規定されてる方向でBEAT暫定税を計算する際にクレジットを使えるって表現しておくけど、条文は逆でBEAT暫定税と比較する法人税にこれらのクレジットを加算するような表現になってる。方程式の左側でプラスしてる額を式の右側に移動させるとマイナスになるっていう超基礎的な算数なんで同じことなんだけど条文は直観的に分かり難いかもね。いずれにしてもこれが認められなくなるとR&Dクレジットで通常の法人税は低くなってもBEATミニマム税計算する際のBEAT暫定税はマイナスできないんでBEATミニマム税が生じ易くなるところだった。

High-Tax Exception

外国関連者に対する支出が、受け手側で米国法人税最高税率の90%を超える(「greater」)税率で課税されてるって納税者が証明できる場合、支出はBase Erosion Paymentには当たらないっていうSub FやGILTIみたいな「High-Tax Exception」が新規に規定された。現状法人税率は21%だからその90%は18.9%になる。支出の受け手側の税率計算はFTCの制限枠計算時に本来Passiveバスケットに属する投資所得が米国の適用最高税率より高い税率で国外で課税されている場合、強制的にGeneralバスケットにReclassさせられる所謂「High-Tax Kickout」の計算法に準じて行うとしている。

Base Erosion Paymentってグループ内の高税率国から低税率国に金利、サービスFee、ロイヤリティとかを支払ってグループ全体ではゼロサムでもグローバル全体の税金が下がるっていうかなり初歩的な算数を利用する支出だから受け手側で米国と同等の税率で税金が課される場合、本来のBase Erosion Paymentにはならない。日本みたいな高税率国への支出は、受け手側で18.9%超の税金を支払うことが多いだろうからとても有益な免除規定だ。ただひとつ残念っていうか致命的なのは現時点のsection 899法案ではUTPRやDSTを持つ国に適用される強化版Super-BEAT目的でHigh-Tax Exceptionは認められないこと…。これはSuper-BEATの話しなんでその際に後述。

通常のNew BEATに戻るけど、Base Erosion Paymentとかグループ内の話しだから「だったら…」って一旦20%法人税の国に支出して、そこから低税率の国に再支出みたいな迂回ルートプラニングが横行しがち。源泉税に対する条約適用なんかも同様のプラニングがあってその昔はLotus 1-2-3(懐かしい?それとも知らない?)駆使してAからBに金利払う際に「A->X->Y->D->B」ってすると条約や該当国の国内法で源泉税が最小限になるね!とか計算してたけど、そんな話は今は昔でTreaty Shoppingを取り締まるためLOB(「Leveraged BuyoutのLBO」じゃなくて「Limitation on Benefits」だからね)を持つ条約がほとんどになりConduit Financing Arrangement対抗規則が出たりでそんなに簡単にはいかなくなった。それと同じでBEATのHigh-Tax ExceptionにもConduit使用対抗規則が盛り込まれてる。

New BEAT法案では、財務省が定める範囲で形式的に特定の外国関連者(高税率国の関連者1)に対して行われる支出が、関連者1による別の外国関連者(低税率国の関連者2)への支出をFundingしてて、受け手の関連者2が18.9%未満(「Lower」)の税率で課税されてる場合、形式的には関連者1に対する支出でも税務上は関連者2に対する支出と取り扱うとしている。BEAT Funding規定の誕生!「Funding規定」って名前聞いただけで気分が悪くなる読者もいるんではって思うけど、Fundingと名の付くものはBEATとは別のBase Erosion対抗策1.385‐3のPer Seルールとか、国外関連者による自社株買いを米国法人が間接的にファイナンスしてるってみなす自社株買いFunding規定とか、どれも頭が痛くなる規則ばかり。Fundingリストに更にひとつ仲間が加わったね。

ちなみに付加税の下院法案の「On or after」と「After」の使い分けがおかしかったように、BEAT High-Tax Exceptionも「Greater」と「Lower」の使い方がチョッと不思議。High-Tax Exception自体は「Greater」なんで18.9%ピッタリだと不適格。一方、Anti-Conduitは「Lower」なんで18.9%だとOK。直接18.9%の国に支払うとギリギリHigh-Tax Exceptionにならず残念っていう結果になるけど、Funding規定で高税率国経由で18.9%の国に払うとAnti-Conduitの対象にならないように見える。ピッタリ18.9%になるケースは稀だろうから実務的なインパクトはないに等しいかもしれないけど概念的にチョッと釈然としないよね。最終バージョンではAnti-Conduitは「Equal or lower」とかにアップデートされるのかな。Exception側の「Greater」はSub FのForeign Base Company Incomeに対するHigh-Tax Exceptionもそうなんでこっちは変わらないだろう。ただ、Anti-Conduitは条文の文言的に財務省規則が出るまでは効果を持たない規則だ。

で次回は唐突なNew BEATの金利資産計上対策から。