Sunday, June 29, 2025

上院法案改訂バージョン公開・上院Procedural Vote可決・G7 声明

上院Procedural Vote通過

土曜日にFinance Committeeの税法部分を含むMega-Bill上院アップデートバージョンが公開された。時を同じくしてG-7が米国にはピラー2を適用しないっていう旨の声明を出した。そして先ほど上院のProcedural Voteは51対49で通過している。このProcedural Voteっていうのは未だ交渉が続く中でのテスト投票みたいな位置づけに過ぎないけど、トランプを含む共和党リーダーシップによる党内調整の成果が上がっていることを示す。共和党上院議員の反対は2名。ここ数日のRon Johnsonとトランプの交渉結果Johnsonは賛成票を投じたけど、Thom Tillis(R-NC)とRand Paul(R-KY)が反対。大物のMedicaid問題は未だに交渉中で最終投票まで予断を許さない状況。夜を徹した審議の後、月曜日に決議って言うのが最速。トランプはThom TillisにカンカンでPrimary Challengeの気配。

上院法案改訂版では899勇退

Bessent長官の要請を受けて土曜日に公開された上院法案アップデートバージョンからは899は消えている。1月20日の大統領令、同時899下院法案提出、Mega-Billの一部として元々別法案だったSuper-BEATを合体させて登場、上院法案でも温存、米国内ではWall Streetタイプ以外からはサポートが多く米国Chamber of Commerceって日頃硬派だけど米国の主権、米国企業を域外課税から守るっていう政権・議会の気概・決意を高く評価、等の経緯でいよいよ可決前夜となり899の攻撃力が最高潮に達していた。覆いかぶさるように英国、EU、カナダ等の企業側からのプレッシャーも大きくなり耐え切れずOECDはピラー2は米国企業には適用なしに同意、G-7も同様の旨の声明を出す。イエレン長官の時は議会とコーディネーションゼロだったけど、今回の流れは行政府と議会が一枚岩で対処し、米国的には「国家主権侵害」っていう神学的に(?)許容できないGlobal Tax Deal、特にUTPR、の米国企業への適用を覆した。899は可決以前に大効果を発揮してデビュー前に勇退。

チョッと不思議なG-7声明

G-7の声明は米国財務省が主張していたSide-by-Sideアプローチを是認するっていうことだけど「US Parented Group」にピラー2適用がないって書いてあるんで、インバウンド企業の米国所得に対してはその親会社国でIIR適用があり得るんだろうか。財務省のアプローチは米国が課税する所得にピラー2は触ってはいけないっていうスタンスだったはず?

とは言え本丸は米国企業だろうから、少なくともそこにはSide-by-Sideでピラー2の適用ナシっていう点は合意済み事項。声明に記載されているその判断に至る理由は米国財務省の主張通り。すなわち意訳・要約すると「米国の制度とピラー2を分析検討した結果、米国の制度はピラー2と同格に強固で、Inclusive FrameworkによるBEPS対策のここまでの進展を守るためSide-by-Side(米国は米国ってことでピラー2には干渉されないアプローチ)がベストだという共通認識に至った…」云々って感じかな。もしそれが分析なんだったら今までの話しはなんだったの~って感じはする。

米国の制度はいつから何をもってピラー2と同格に?

米国のBase Erosion対策って1932年の元祖Anti-Deferralのsection 367(興味あったら昔のKiller B特集読んでみてね)、1962年のSub F(元祖CFC合算課税)、2017年のGILTI・BEATとか常に主権国家としてまた自国市民に説明責任がある議員たちの立法っていう範囲で先端を行ってるんでこの分析結果自体に驚きはないけど、でもこれらの「同格に強固な」米国の制度はピラー2議論開始時点で既に存在してた。この点に関して「上院法案をもってして同格に至った(?) 」とも取れる興味深い文言が合意声明に含まれてるけど、GILTIやFDIIからQBAI(みなしルーティン所得)の適用が消えた点やGILTIバスケットのFTC枠計算時に金利を配賦しなくても良くなる、みたいな調整で急に同格になったんだろうか。増してや未だ法案の状態で数週間前までは同格に強固じゃなかったけど上院法案で立派に成長したっていうニュアンスだとしたらこれもチョッと不思議だ。この部分は法案が可決したらもう少し考えてみたい。

結局のところピラー2の目的は?

そこで感じざるを得ないのは、以前から何回かポスティングで触れたと思うけど、元々ピラー2って目的が必ずしも明確じゃなくて、そのため強固なPrinciple・規律に裏付けされたルールじゃないっていう点がルールが結構派手に二転三転する根本的な問題っていう点。ピラー2で何を守ろうとしてるのかが分からないんでそのベストな手段を定義するのが難しい。今回簡単に米国不適用に至った終焉もそれを象徴してる。何年か前のポスティングだったと思うけど、この手の国際合意系の話しは結局のところ大国のパワープレー(中国に至っては言葉ではサポートを繰り返しながら実質無視に近かった?)っていう点に触れたけど、最後までそんな実態がFull Displayだったね。ただPragmaticな解決としては逆にこれしかないだろうから合意判断はポリティカルには合理的だし高い評価に値する。

さらに考えてしまうのはPEやALPの守護神だったOECDがUTPRがExtraterritorialじゃないとか条約に準拠しているとか本当に信じてたとは想像し難く、いくらBEPS 2.0でTaxing Rightsを再配分するつもりだったとしても親会社の所得を形式的に子会社の手で課税するって言うだけで急に所得のBenefical Ownerが子会社になる訳ではないし、そんな所得移転が可能だったら実態基準(Substance over form)とかの概念を自ら否定してることになる。これらはクロスボーダー課税にDeepに精通してなくても簡単に理解できる矛盾で、OECDはクロスボーダー課税のExpertだろうから実はいざとなったら法的にディフェンスは難しいっていう認識が根底にあったとしてもおかしくない。そうなるとUTPRは国際課税制度の強固な概念に裏付けされた規則ではなく、国際合意として「赤信号みんなで渡れば…」(一時流行ったね、これ)みたいなアプローチになってた感じもあったよね。

チョッと意地悪な見方でピラー2の「目的」変遷をおさらいすると、EU憲章の関係でEU内で強固なCFC課税導入が難しく、アイルランドとかハンガリーみたいな低税率国が存在していたEUがOECDと「Global Tax Deal」をマスカレードして自己都合でミニマム税導入を希望(これはもちろん公にそう言って登場してきた訳じゃないんで推測の域は出ない)。当初、米国があんまり相手にしなくて一旦暗礁に乗り上げてたところに2021年にバイデン政権が発足して、米国法人税28%に引き上げを実行するに当り他国との競争が不利にならないようイエレン長官がOECDに「21%!」のピラー2ミニマム税を提案。これも単純な自己都合。交渉は息を吹き替えすけど、米国では結局議会の同意を得られず頓挫…。迷惑~。

国際合意に付き物のこんな感じのパワープレーで事は進んでいき、知らない間にUndertaxed Payment Rule(元祖Undertaxed Payment Ruleだったら米国でも未だ議論の余地はあっただろう)が同じ頭文字だけど別物のUTPRにすり替わってたり不透明なルール策定があったりしたけど、その間、対外的なキャッチフレーズ的にピラー2の目的は「Race to the bottom終止符(Tax competition禁止)」(結局別の形のCompetitonが出現)とか、「Level Playing Field(最後まで誰と誰のFieldの話し?っていうのが不明確)」とか、これらと似てるOverarchingなテーマ「Fair Share」(Fairnessは見る者で尺度が異なるんで基準が良く分からず単に美徳にアピール?)とかもあった。

主目的っていう観点から考えるとピラー2は「BEPS」っていうフレームワークでの話しだから当然Base ErosionやProfit Shiftingを取り締まるのが主たる目的なはず。でも不思議と、特に後年、ピラー2のこの視点・目的はあんまり強調されなくなってたって言うかルールが対応困難なほど複雑化していく中で機械的な話しが主になり「木を見て森が見えなくなっていった」気がする。「クレジットは還付可能だったら云々とか、現金譲渡はOKだけど20年繰越はNGとか…」。Base Erosion取り締まるんだったら「真犯人」の米国を取り締まらないと話しにならないと思うけど、土曜日のG7声明では「米国独自のシステムは十分にピラー2に同格」で「Side-by-SideでBEPSの目的達成」っていうこと。え~米国に適用なしのグローバルのBase Erosion対策???。っていうことはこの目的は結局のところ当初から2次的だったのかもね。

まあEU的にはEU内で導入できたからそれはそれでその部分の目的達成っていうことなんだろうか。米国企業は今回の合意で凄いアドバンテージを得たんで他国は不利になるんではとか、大げさな話しでは「米国企業にInversionするのがいい(苦笑)」みたいな話し(プラニング?)が早くもチラホラ聞かれるけど、米国のBase Erosion対策が同格だったら心配ないのでは?

OECD合意やG7声明は誰に適用?

G7声明等で更に不思議に思ったのは7か国に関しては当事者でCongress制度の米国以外のメンバーはParliamentary制度だろうからそこで合意すれば法的にそうなるって決まってるのかもしれないけど、Inclusive Frameworkとかどうしちゃったんだろうか。140(だっけ?)国のコンセンサスを得てできた制度だとしたら、この声明を寝耳に水的に聞いた多くの国はどうしたらいいんだろうか。EUだけ見ても27か国のほとんどはG7じゃないんで899なくなったんで企業はうれしいとしても、G7 以外の各国政府は急に「米国は対象じゃないことにしたんでよろしく」って言われてチョッと釈然としないものもあるのでは?

釈然としない位だったらいいかもしれないけど、本当に全員従うんだろうか。「やっぱり27か国の意見調整ができなかったんで米国にも適用せざるを得ない」みたいな話しって可能性ないのかな。その頃は米国に899はない。となると伝家の宝刀891?いきなりその日から付加税20%で「これだったら899が恋しい~」とか言っても後の祭り。でも、このタイミングで899撤回して、それで合意実行しない国が出てきたらそれらの国が合意時にコンセンサスを表明していようがしてなかろうが今度こそ容赦ない感じはあるよね。891は891で条約との関係とかテクニカルには難しいチャレンジが多いけどね。

DSTは?

米国が主権国家として一番許せなかった敵はUTPRだから、合意が実行される前提だと899の導入目的は達成かもしれないけど、ピラー2との比較でターゲットとしてはジュニアなDST対処はどうなっちゃうんだろうか。数日前の報道ではDSTも撤回合意があり得るような報道もあったけど、間が悪いことに899撤回と同時にカナダはDST敢行発表。トランプはカンカンでBessent長官は301(出た~!)で通商対抗も辞さないって。891の話しは未だ聞いてないけど通商だけなのかな。まあDSTってチョッと関税チックだからそれでいいのかもね。

New-New-BEAT

Super-BEATがなくなってNew-BEATだけで安心って思ってたらまたしても逆転劇でNew-New-BEAT登場(Micheal LewisのNew-New Thing思い出すね。シリコンバレーのJim Clarkの話し(Netscape!))。上院法案読んでてビックリだったけど、BEAT税率は14から下がって10.5%なのはいいとして、後はマイナーなテクニカル修正ばかり。え~「High-Tax Exception」が見当たらない。何コレ~。ってことでまた変わるかもしれないから週末は更なる法案修正に注目しましょう。