Saturday, August 9, 2025

OBBBA可決一か月とちまたで聞かれる活用法

OBBBA規模感

OBBBAの可決から1か月強。法文自体膨大で減税規模は歴史に残る規模なんだけど、1986年や2017年の税制改正と比べて、それほどインパクトの実感がない。そんな認識の原因は、OBBBAのかなりの部分が2017年のTCJAで規定された減税やクロスボーダー課税の2025年末自動失効・税率引き上げを「回避」し「恒久化」を実現したっていう性格にあるんだろう。すなわち、実際に失効や税率引き上げに至ってしまった後に救世主のようにOBBBAが登場して減税等を復活・恒久化したとしたら「これ凄いね!」って感じられただろうけど、そんな体験しないまま現状が維持されたんで実感が伴わない。

制度的にも、例えば法人と株主間の取引を規定するSub C(M&Aやストラクチャリング含む)に大きなインパクトを与えた1986年税制改正や、クロスボーダー課税のあり方を根本的に書き換えた2017年TCJAと異なり、OBBBA大枠は2017年以降の制度を踏襲しているんで、2018年以降の学習・プラニング効果はそのまま役立つ部分が多く新たに学習しないといけない法律は比較的少ない。

2017年TCJA可決後当時を振り返ってみると、米国MNC、投資銀行、ファンドスポンサー、アドバイザーは制定から2年程度でGILTI、FDII、BEAT、245A、困難になったInversion等の法体系を徹底研究、財務省の時に気の利いた(GILTIのHigh Tax Exclusionとか)そして時に堅苦しい(GILTI FTCのExpense allocationやPortfolio Interest Exemption適用にかかわるCFC認定時のDownward Attribution適用とか)規則やガイダンス等が出る度にプラニングをFine Tuneしながら複雑極まりない新制度を完全にマスターしたもんね。TCJAのクロスボーダー課税は新制度にもかかわらず旧条文を全取り換えするんじゃなくて、当時の既存の条文にOverlayしたんでより複雑かつ時には矛盾がある取り扱いとなることが多かった。OBBBAではM&A時のCFC所得合算タイミング等に関して8年の月日を経てようやく一定の再整理に漕ぎつけている。

そんな過程を経て裏表を知り尽くした制度に対するTweak部分が多いOBBBAは、マスターするための学習期間は自ずと短く、一方でメリット最大限化は複数条文の「組み合わせ」方に掛かるケースが多いんで、即座に定量モデリング的なプラニングに入りつつある感じがする。支払利息の損金算入、広範な即時償却、R&D支出の費用化、輸出促進として実質拡充されたFDDEI、その他のいろんなGoodiesが規定されるけど、条文間の相互干渉が激しく、さらに法人税外の検討、例えば関税とか、も加味するのが最重要課題の今日、各条文のどんな組み合わせが最も適してるかを複数検討の上、戦略意思決定する必要がある。関税や地政学は予測不能なんでモデリングは必然的に複数のシナリオを用意することになり、普段、税務室に限定されがちな税務プラニングは企業全体の課題となる。

OBBBAは何て呼ぶ?

税法に登場するAcronym(アルファベットの略)をどう読むかっていうのは最初いろんな派が乱立し、その後徐々に法曹界、投資銀行、ファンドスポンサーとかの集まり、特にそこに参加する財務省やIRS高官がどんな風に呼ぶかで何となく統一されていくことが多い。2017年TCJA時はGILTIやBEATは最初から「ギルティ」「ビート」だったけど、FDIIは最初の頃はBay City RollersのSaturday Nightみたいに(古過ぎ~。しってる?タータンチェックのScotland出身バンド)「エス・エイ・ティー・ユー・アール・ディ・エイ・ワイ」、じゃなくて「エフ・ディ・アイ・アイ」って表現されることが多かった。「フィデイ」とか「フィダイ」とか言う人もいたけど最終的には「フィディ」に落ち着いていた。2022年のIRAで姿を変えて再導入されたCorporate Alternative Minimum Tax、CAMTも「シィ・エム・ティ・ティ」派、法律事務所は当時CAMTが会計Bookベースなんで結構な人が「ビィ・エム・ティ」ってそもそもCAMTには含まれてないBを使っていた。でも結局最後は「キャムティ」に統一されていった。ただクロスボーダー課税の「FDAP」みたいに未だに「フダップ」派と「エフ・ダップ」派が拮抗し続けてる用語もあるけどね。

OBBBAに関して、まず肝心のOBBBAそのものだけど、Bを3つ連呼して「オー・ビー・ビー・ビー」または「オー・ビー・ビー・ビー・エイ」ってフルスペリングするのはチョッとギコチないし、間違えてOBBBBAとか勢いに乗ってひとつ余分なBを付けちゃったりすることもあり得て、現状では結構なケースで「オー・ビー・スリー」(Bが3つなのでスリー)って言う人が多い。これだと言いやすいね!

GILTIがRetireしてNCTIになるけど結構なケースで「ネクタイ」って言われている。個人的には法案時から「ネクティ」が可愛いいんでこっちを使ってて、実際にネクティって呼んでくれてる(?)人たちも居て今後の動向が楽しみ。ネクティに落ち着きますように。ただ、今のところ8年間慣れ親しんだGILTIが自然に出てきちゃうんで「今日は仮にGILTIって使っときます」みたいなDisclaimerしてGILTIで通してるケースも多い。いつまでDisclaimerし続けられるでしょうか。

せっかく「フィディ」が確立してたFDIIもRetireしてFDDEIになるけど、これは手ごわい。何となく「フダイ」とか「フデイ」的な表現が多いけどどっちもゴロが悪いね。

関税と法人税

関税は相変わらず紆余曲折。何となくUniversalのベースラインは15%辺りで落ち着きつつあるけど、なんか気に入らないことがあると急に「だったらプラス50。更に倍」とかなり兼ねないんで油断大敵。

関税プラニングは当然、法人税にもインパクトがあり得るんで、ここ数か月議論が尽きない関税対策時にTPやBEATを含む法人税の観点とのすり合わせする機会が増大。関連者からの輸入だとTPと表裏一体の関係にあるけど、米国MNCも含めて米国への輸入は関連者間取引が実に多くの比率を占めてるんだなって実感。統計取った訳じゃないし、職業柄関連者間取引ばっかり目に入ってくる傾向があり、実際には中国から個人輸入とかもあるんだろうけど、米国MNC含めて実に多くのクロスボーダー取引が国外関連者からのものなんだなって改めて認識。

グローバルトレードのReorderは数か月の一時的な混乱ではなく長期的に向かい合わないといけないっていう現実が身に染みてきた今、各社根本的な世界戦略の緊急見直し中。関税の影響は業種や各社のOperating Model次第で様々だけど、過去8年FDII・GILTI導入の影響もありIPを米国に移管したり新たなIPを米国に配置したところは、結果として比較的対処が容易な気がする。こんな通商環境になるとは誰も考えてなかっただろうから塞翁が馬だけどね。

IPの米国移管はGILTIとFDIIの導入でそれなりに実行され、その意味でGILTIとFDIIの主目的は達成された感はある。Global 「Intangible」 Low-Taxed Income(GILTI)もForeign Derived 「Intangible」 Income (FDII)も双方ともその名の通り主たるフォーカスは米国外にあるIPの米国帰還だったからだ。ここにきてGILTIとFDIIが各々NCTIとFDDEIに生まれ変わり、「Intangible」っていうフォーカスがなくなったことで両制度はどちらかと言うと輸出やライセンスを含む米国企業海外向けビジネスの助成制度の性格が強くなったと言える。FDDEIは日本企業の米国現地法人にとって適用可能性が格段に上がっているんで税率14%って考えると活用を再検討する価値は十分にある。ってことで次回はFDDEIかな。