Sunday, March 16, 2025

Global Tax Deal対抗・報復措置「Section 899」法案 (6)

前回はJoint Session等だったけどチョッと(大分?)話しが逸れてモーツァルトとかアウトバーンとかで盛り上がり過ぎて反省中。今回は余計な話題が頭を過る前に議会動向にチラッと触れて即座に(?)本題のsection 899に戻りたい。

Continuing Resolutionドラマ

2025年国家会計年度(2025年9月期)の予算(Annual Appropriation)が未だ可決していないんで連邦政府を活動を支えるため、付焼刃的に短期間、予算なしで歳出を認める法律が必要になる。これができないと連邦政府は「Shutdown」され、Annual Appropriationが不要な強制歳出(例、SSN)、軍とか空港管制塔を含む「Essential」な歳出、を除き機能不全となる。

この短期付け焼刃法をContinuing Resolution(「CR」)っていうけど、ここ何年も予算がタイムリーに可決されることはないんで、本来バックストップ的な存在であるべきCRが年間数回単位で乱発される。さらにCRにチャッカリとプラスの歳出を盛り込んで結局のところCRという名を借りた実質Omnibus Billに仕上がるケースが後を絶たない。「2025年謹賀新年「119会期米国議会」」で触れた通り、2024年9月に可決されたCRが12月20日に期限切れになる直前に2回目のCRが可決され3月14日まで歳出が認められてた。で、3月14日になったんで3回目のCRが必要になった。

で、結局のところ滑り込みセーフで可決されたんだけど(CRは上院60票必要)、その内容や細かい動向はさておき、注目するべき点は2つ。まず共和党が珍しく下院内および両院で一枚岩になれた点。そしてもう一点は民主党が党内調整できないまま上院でChuck Schumerの指示で10議員がCR賛成に回り党内の亀裂を露呈した点。共和党としてはトランプ傘下CRで一体になれたっていうモメンタムで税制改正も一気に対処したいところだろう。下院のWays and Means Committeeは既に法案ドラフトを開始してるって話しなんで今後数週間の動きが見もの。下院が税制改正可決目標日としてるMemorial Day(5月26日)に間に合わせるにはそろそろ具体化させないとね。タイミング的に上院は「Memorial Dayね…。夏が現実的じゃない?」っていうのが本音だと思うけどね。タイミングの政局的なインパクト、両院の温度差に関しては昨年末の「予算調整法2回どう使い分ける?」で触れてるんで忘れちゃってたら日本ではなかなか伝わり難いポイントになるんでぜひもう一回読んでみて欲しい。

Section 899適用納税者

Section 899法案に関して前回までのポスティングでは、その大枠、財務省長官による継続的な問題税制を持つ国の特定・アップデート義務、それらの国と行うべき交渉内容、そしてsection 899適用者に課せられる付加税率、等をまとめてきた。

で、section 899の対抗規定が適用される納税者の特定は、もちろんだけど財務長官が認定する「域外課税や差別的課税制度を持つ国」が基となる。説明を分かり易くするため、財務長官にそう認定された国をここでは「問題税制を持つ国」って言っとくね。

適用納税者は大別して3つのカテゴリーで構成される。まず問題税制を持つ国の市民(Citizen)。ただし米国市民および米国税法上の米国居住者(グリーンカード所有者およびSubstantial Presence Testを満たす者)は除外される。Section 899法案には明記されてないけど、Substantial Presence Testを満たす米国Non-Citizen(税法で言うところの「Alien Individual」)が外国の法令でも当該国の居住者になってて(=Dual Resident)、租税条約にTie-Breaker条項が存在し、条約ポジションとして外国の居住者を選択している場合は、除外対象にはならず適用納税者になるって考えるのが自然だろう。グリーンカード所有者はテクニカルにはTie-Breakerの適用は可能だけど、Tie-Breaker適用は米国継続居住はしない意思表示になりグリーンカード没収の理由のひとつになり兼ねないんでグリーンカードStatusを維持したい者による適用は稀だと思う。

次は問題税制を持つ国の法令で組成されているまたはそんな国の法人税が適用される米国外法人。米国法人、すなわちDelawareやTexas州等の米国州会社法で組成される法人は米国外法人じゃないんで定義的に対象外。また米国外法人でも外国源泉配当が米国株主側で100%所得控除の対象になる「a specified 10-percent owned foreign corporation」は除外される。具体的には、Sub FやGILTI適用時の定義で「United States Shareholder」に当たる米国法人、すなわち米国外法人の議決権または価値に関して10%以上の株式を持つ米国法人、が一社でも存在する米国外法人は対象外になる。その際、PFICにかかわる例外がどんな風にInteractするかは法案からは必ずしも明確じゃない。

最後に源泉税に関しては、財務省規則が規定する範囲で、問題税制を持つ国の個人パートナーが存在する米国税法上パートナーシップに区分される米国外主体も含むとされる。そもそも源泉税率判断時に条約の適用は無視されるっていうルールになってることから、Foreign Reverse Hybridを含むパートナーの所在国の法律で主体がFiscally Transparentになってるかどうかはsection 899目的では関係ないって考えられる。

Section 899適用日

付加税率に関するポスティング「Global Tax Deal対抗・報復措置「Section 899」法案 (3)」およびその後のポスティングでは、どの課税年度またはどの支払いから付加税率が適用されるのか、またその後、どんな風に5%~20%徐々に税率アップになるかっていうタイミングはsection 899の「適用日」を軸に考えるっていう点に触れた。すなわち、法人・所得税に関しては「適用日」の後に開始する課税年度、源泉税に関しては、適用日後の源泉税対象支払いが付加税率の対象になるっていう点だ。

適用日は財務長官が特定の国が問題税制を持つ国に当たるっていうレポートを議会に提出した日から数えて180日経過した次の日(つまり181日後)と規定される。適用日は各納税者に個別に決められるんじゃなくて、問題税制を持つ国単位で決まる。これを付加税率がトリガーされるタイミングに当てはめてみると、財務長官が議会に「この国は弊害税制を持つ国です」ってレポートを提出すると、まずその国に関してそこから181日数える(「181経過日」)。所得税や法人税に関してはこの181経過日の後に始まる課税年度から付加税率が課せられる。ちなみに米国税法目的では個人の所得税課税年度は常に暦年。源泉税に関しては課税年度単位じゃなくて、181経過日後に行われる源泉税対象との支払いから付加税率の対象になる。以前のポスティング「Global Tax Deal対抗・報復措置「Section 899」法案 (2)」でチラッと触れたけど、問題税制を持つ国は、そんな税制が可決された日または効力が生じる日のいずれか「早い方」から税制が撤廃された日または失効した日のいずれか「遅い方」までの期間、問題税制を有しているって取り扱われる。このルールと適用日は異なるんで、仮に問題税制を持っている期間が早く開始していても、付加税率の適用開始は「適用日」ベースになる。

例えば予算調整法に基づく税制改正が2025年5月末に可決され、そこにsection 899が盛り込まれるとする。5月31日から90日以内に財務長官は問題税制を持つ国のリストを議会に提出する法的義務が生じる。仮に90日まるまる掛けてリストを提出したとすると8月29日になる(合ってる?)。でその最初の財務長官レポートで問題税制を持つと認定された国に関しては181日経過日は2026年2月26日となり、翌日の2月27日以降に開始する課税年度の所得税・法人税、また2月27日以降に支払われる配当、利子、ロイヤルティーが付加税率の対象になる。

で、次はいよいよ域外課税や差別的課税の定義。ここからは次回。