Section 899法案の話しもそろそろ大詰めで、終わったら税制改正が本格化する前の隙間を縫ってインバウンドPracticeとしては欠かすことができないYA Globalの話しでもとか思ってワクワクしてたら、ナントSection 899法案(「the Defending American Jobs and Investment Act」)に加えて、さらなるGlobal Tax Deal対抗法案「The Unfair Tax Prevention Act」が下院に再提出された。この法案はどうなっちゃうんだろうって注意はしてたけど急な再提出でビックリ。
このthe Unfair Tax Prevention Actは先の899法案同様に2023年7月に一度H.R.4695 (118th)として提出されて、提出当時はその厳しい内容に驚きだったけど、それが昨日3月27日に下院に今度はH.R. 2423 (119th)として再提出された。法案のスポンサーは以前も今回も下院歳入委員の一人Ron Estes(R-KA)だけど、下院歳入委員会共和党議員全員が賛同している。ちょうど899法案が元々提出されたのも2023年5月だから2か月空けて時間差攻撃するフォーメーションなのかな。
2023年バージョンと同様の内容って想定されるけど、899法案がsection 899を新設するのに対し、the Unfair Tax Prevention ActはBEATをSuper-chargeする規定。したがって新たなSectionが生まれるんじゃなくて、既存のBEAT、すなわちsection 59Aに追加Subsectionが加えられる形で規定される。そのSuper-chargeぶりがなかなか激しい。従来のBEATをChargePointやblinkとかの「Destination Charger」だとするとthe Unfair Tax Prevention Actは純正のTesla Supercharger級。
899法案のポスティングが終わったら、続いてこのSuper-chargeのBEATに関しては詳細に触れたいけど、チラッと頭出ししておくとUTPRを含むExtraterritorial Taxを導入している国の主体に支配される主体は「Foreign-Owned Extraterritorial Tax Regime Entities(「FETR Entities」)って認定される。国際紛争時の制裁対象国やバッテリー製造時の鉱物輸入時に指定される懸念国(FCOC)、またはテロリスト団体みたいな勢い。で、このFETR EntitiesにはBase Erosion Benefitが3%かどうかとか売上高が$500MかにかかわらずBEATを適用し、従来のBEAT法で免除されてる支払い、例えばSCM適格のサービスFeeその他もBase Erosion Benefitと取り扱うっていうもの。ここからが凄いけど、ナント禁じ手のCOGSの50%もBase Erosion Benefit扱い。COGSの否認は憲法的に問題があり得る点は「バイデン政権「グリーンブック」で増税案詳細公表(4) COGSとSHIELD」で以前触れたけど(SHIELDとか存在自体忘れてました)、実は現状のBEATもInversionした法人にはCOGSもBase Erosion Benefitとするっていう懲罰規定がある。って考えると半分で済んで御の字なのかな?
再提出に共催している下院歳入委員メンバーには委員長でsection 899法案のスポンサーのJason Smithも当然入ってることから、section 899と相互排他的な関係にあるのではなく、補完関係にあり両方一気に立法化を目指すっていうアプローチに見える。Section 891や899と大きく異なるのはUTPRを導入した国に所有される「米国法人」がFETR EntitiesとしてSuper-charge BEATの対象になる点。ついに本丸に攻め入られた感じだ。金利、ロイヤルティ、配当の源泉税が50%で、仕入れに25%関税かかってその上仕入れ半分がBEAT目的で損金不算入じゃ商売にならないよね。
という訳でProvocativeな展開だったんで取り急ぎ号外でポスティングしておきます。
Friday, March 28, 2025
Global Tax Deal対抗・報復措置「Section 899」法案 (8)
前回のポスティングでは、Section 899法案に規定される域外課税や差別的課税のうち「Extraterritorial Tax」の定義に触れた。その定義はGlobal Tax DealのUTPRをReverse Engineeringしたと思われるほどUTPRにピッタリくるもの。域外課税「または」差別的課税のいずれかの税法があるとSection 899の対抗措置の適用対象国になるんで、結果としてUTPRを持ってるとほぼ自動的に域外課税制度を持っていると取り扱われてGame Over。
で、今日はもう一方の差別的課税の定義に行くけど、その前に例によってVan HalenのSecond Albumに収録されているギターの凄さ、じゃなくて税制改正動向について。
Budget Resolutionアップデート
相変わらず下院・上院間で意見調整On-Going。でも、さすがにいつまでも意見調整ばかりじゃ不味いっていうプレッシャーが日に日に強くなる中、3月25日に「Big 6」首脳会談が行われた。Bix 6って一昔前(相当前?)の会計事務所みたい。僕が初めてGlobal Accounting Firmの存在を知ったころはBig 8って言われててどこもFirm名がExoticで「どんなとこなんだろう~」って思ったりしてた。Waterhouseは水槽の家か…とか。その後、確かToucheとDHSが合併してDT(日本で「デトロイト・タッチ」とか読み間違えられたり(苦笑))になり、EWとAYが合併してBig 6になったんだよね。さらにPWとCoopersが合併してBig 5時代が訪れ、AAが消滅して今日のBig 4になってる。これ以上減ると独禁法とかで問題なるって言われててBig 1になることはない。
で、米国議会・大統領府のBig 6では従来から下院が希望している1‐Trackの「One Big Beautiful Bill」(会計事務所と違ってBig 1)の早期可決に向けての党内戦略が話し合われたらしい。ちなみにこのBig 6って下院議長(Mike Johnson)、上院リーダー(John Thune)、下院Ways and Means Committee委員長(Jason Smith)、上院Finance Committee委員長(Mike Crapo)、そして行政府から財務長官(Scott Bessent)、National Economic Council Director(Kevin Hassett)っていう陣容。タイムラインとしてはここ3週間以内に両院一致のBudget Resolutionを可決しその後は速攻で税制改正そのものも可決するっていうもの。
両院で意見調整しないといけない重要ポイントは複数あるけど、代表的もののひとつはTCJAの失効規定延長を恒久化するのか(上院)、基本10年のBudget Window内の時限延長とするのか(下院)っていう争点。そのサブセットの議論として失効前のTCJA規定の延長はコストと数えない「Current Policy Baseline」の適用がBudget Reconciliationルールに違反しないかどうかっていう検討がある。これは過半数で予算案を通す上院側の問題で、どんな法律をBudget Reconciliationの枠内で通すことができるかを判断する「Parliamentary」っていう者と意見調整してる最中。これが可能になると少なくとも「見た目」はTCJA失効規定恒久延長にBudget Reconciliation目的でコストが掛からないことになり、恒久化に加えてトランプが言っている米国製造業15%税率、チップ、残業代、公的年金受給非課税とかの追加Goodiesを盛り込む道が開ける。ただ、実際に歳入が減る点はCurrent Policy Baselineでも従来のCurrent Law Baseline(Budget Reconciliation目的で延長コストを歳入減として加算する考え方)でも変わらないんで下院のDeficit Hawk派には当然受けが悪い。
これってまだBudget Resolutionの話しなんで、個別の法案以前の問題で両院一致のBudget Resolutionが可決できても、それで調整は終わりじゃないし、むしろそれから本番の調整が始まるって言う方が正しい。逆に言えばBudget Resolutionも両院一致のものがでないようじゃスタートラインにも立ってないってことになる。ということでまだまだDestination Unknown(Missing Persons!)
差別的課税(Discriminatory Tax)
前回チラッと頭出しした通り、section 899法案のDiscriminatory Taxは4タイプあって、それに5つの例外が規定されている。Extraterritorial Tax同様、条文の定義なんで英語で説明する。 まず一つ目は「if such tax applies to items of income that would not be considered to be from sources within the foreign country under the rules of part I of this subchapter if such part were applied by treating such foreign country as though it were the United States」というもの。この条文はsection 899の一部なんで「this subchapter」っていうのは899が属するSubchapterのこと。Internal Revenue Codeは連邦法のTitle 26だけど、その傘下にSubtitle、Chapter、Subchapter、Part、Subpart…って続いていく構成。で、section 899はSubtitle A、Chapter 1のSubchapter Nに属する。IRCのストラクチャーに明るい読者は分かると思うけど、Subchapter NはIRCの中でもクロスボーダー系の法律が規定されている部分。Sub F、GILTI、FTC全てSubchapter N傘下の規則だ。このSubchapter NはPart IからPart Vで構成されsection番号で言うと861~1,000までをカバーしてる。で、上の定義の「Part I」っていうのはsection 861から865まで。つまりSourcing(所得の源泉地)規定だ。クロスボーダータックスやっている人はsection 865(e)(2)とか大好きなのでは…?。え~大嫌いって?かもね。
これらのことから上の定義が言おうとしてるのは「仮に米国のSourcing規定を適用してみて、所得の源泉地が課税国でないにもかかわらず課税を行使する税制」はDiscriminatoryというもの。したがってこの定義を正確に理解するには米国税法のSubchapter NのPart I、すなわちSourcing規定を知る必要があるよね。実はこの定義、2022年に一旦最終化されてその後実質撤回されたFTC規則の「Jurisdictional Nexus」(これは規則案時の名称で後に「Attribution Rule」って改名されてるけどJurisdictional Nexusの方が分かり易い)に似てる。どちらもDSTを念頭に置いたもの。DSTって名前がついてなくても類似する税制はこれに属する。インドのEqualizationタックスとか。
で、2つ目は「if such tax is imposed on a base other than net income and is not computed by permitting recovery of costs and expenses」。これもクラシックなFTCの対象として認められる「Income Tax」の定義そのもの。昔から「US senseでincome taxか?」っていう概念があったけど、2022年のFTC最終規則ではそれをRefineして「Net Gain」要件って言ってて、まさにそれ。グロス所得に課税するのはNGってことで、これもDSTがターゲット。
3つ目は「if such tax is exclusively or predominantly applicable, in practice or by its terms, to nonresident individuals and foreign corporations or partnerships (as determined under rules similar to paragraphs (4) and (5) of section 7701(a) by treating the foreign country as though it were the United States) because of the application of revenue thresholds, exemptions or exclusions for taxpayers subject to such foreign country’s corporate income tax, or restrictions of scope that ensure that substantially all residents (other than foreign corporations and partnerships (as so determined)) supplying comparable goods or services are excluded from the application of such tax」。結構長いけど、法的に外国人・外国法人のみに適用があったり、売上基準や自国の法人税対象者は免除とかの条件で大概において自国の納税者には課税が及ばないよう意図されている税制のこと。米国のテックをターゲットにしてるような税制が典型になる。つまりこれもDSTがターゲットだろう。
そして最後の4つ目は「if such tax is not treated as an income tax under the laws of such foreign country or is otherwise treated by such foreign country as outside the scope of any agreements that are in force between such foreign country and one or more other jurisdictions for the avoidance of double taxation with respect to taxes on income」。これは課税国が「この税金はIncome Taxではないんで条約でカバーされるタイプの税金ではないんで条約違反ではありません」っていうような税金が対象。 これら4つのうち一つにでも抵触すると(後述の例外にならなければ)Discriminatory Taxになる。で、例外だけど長くなってきたんでここから次回。
で、今日はもう一方の差別的課税の定義に行くけど、その前に例によってVan HalenのSecond Albumに収録されているギターの凄さ、じゃなくて税制改正動向について。
Budget Resolutionアップデート
相変わらず下院・上院間で意見調整On-Going。でも、さすがにいつまでも意見調整ばかりじゃ不味いっていうプレッシャーが日に日に強くなる中、3月25日に「Big 6」首脳会談が行われた。Bix 6って一昔前(相当前?)の会計事務所みたい。僕が初めてGlobal Accounting Firmの存在を知ったころはBig 8って言われててどこもFirm名がExoticで「どんなとこなんだろう~」って思ったりしてた。Waterhouseは水槽の家か…とか。その後、確かToucheとDHSが合併してDT(日本で「デトロイト・タッチ」とか読み間違えられたり(苦笑))になり、EWとAYが合併してBig 6になったんだよね。さらにPWとCoopersが合併してBig 5時代が訪れ、AAが消滅して今日のBig 4になってる。これ以上減ると独禁法とかで問題なるって言われててBig 1になることはない。
で、米国議会・大統領府のBig 6では従来から下院が希望している1‐Trackの「One Big Beautiful Bill」(会計事務所と違ってBig 1)の早期可決に向けての党内戦略が話し合われたらしい。ちなみにこのBig 6って下院議長(Mike Johnson)、上院リーダー(John Thune)、下院Ways and Means Committee委員長(Jason Smith)、上院Finance Committee委員長(Mike Crapo)、そして行政府から財務長官(Scott Bessent)、National Economic Council Director(Kevin Hassett)っていう陣容。タイムラインとしてはここ3週間以内に両院一致のBudget Resolutionを可決しその後は速攻で税制改正そのものも可決するっていうもの。
両院で意見調整しないといけない重要ポイントは複数あるけど、代表的もののひとつはTCJAの失効規定延長を恒久化するのか(上院)、基本10年のBudget Window内の時限延長とするのか(下院)っていう争点。そのサブセットの議論として失効前のTCJA規定の延長はコストと数えない「Current Policy Baseline」の適用がBudget Reconciliationルールに違反しないかどうかっていう検討がある。これは過半数で予算案を通す上院側の問題で、どんな法律をBudget Reconciliationの枠内で通すことができるかを判断する「Parliamentary」っていう者と意見調整してる最中。これが可能になると少なくとも「見た目」はTCJA失効規定恒久延長にBudget Reconciliation目的でコストが掛からないことになり、恒久化に加えてトランプが言っている米国製造業15%税率、チップ、残業代、公的年金受給非課税とかの追加Goodiesを盛り込む道が開ける。ただ、実際に歳入が減る点はCurrent Policy Baselineでも従来のCurrent Law Baseline(Budget Reconciliation目的で延長コストを歳入減として加算する考え方)でも変わらないんで下院のDeficit Hawk派には当然受けが悪い。
これってまだBudget Resolutionの話しなんで、個別の法案以前の問題で両院一致のBudget Resolutionが可決できても、それで調整は終わりじゃないし、むしろそれから本番の調整が始まるって言う方が正しい。逆に言えばBudget Resolutionも両院一致のものがでないようじゃスタートラインにも立ってないってことになる。ということでまだまだDestination Unknown(Missing Persons!)
差別的課税(Discriminatory Tax)
前回チラッと頭出しした通り、section 899法案のDiscriminatory Taxは4タイプあって、それに5つの例外が規定されている。Extraterritorial Tax同様、条文の定義なんで英語で説明する。 まず一つ目は「if such tax applies to items of income that would not be considered to be from sources within the foreign country under the rules of part I of this subchapter if such part were applied by treating such foreign country as though it were the United States」というもの。この条文はsection 899の一部なんで「this subchapter」っていうのは899が属するSubchapterのこと。Internal Revenue Codeは連邦法のTitle 26だけど、その傘下にSubtitle、Chapter、Subchapter、Part、Subpart…って続いていく構成。で、section 899はSubtitle A、Chapter 1のSubchapter Nに属する。IRCのストラクチャーに明るい読者は分かると思うけど、Subchapter NはIRCの中でもクロスボーダー系の法律が規定されている部分。Sub F、GILTI、FTC全てSubchapter N傘下の規則だ。このSubchapter NはPart IからPart Vで構成されsection番号で言うと861~1,000までをカバーしてる。で、上の定義の「Part I」っていうのはsection 861から865まで。つまりSourcing(所得の源泉地)規定だ。クロスボーダータックスやっている人はsection 865(e)(2)とか大好きなのでは…?。え~大嫌いって?かもね。
これらのことから上の定義が言おうとしてるのは「仮に米国のSourcing規定を適用してみて、所得の源泉地が課税国でないにもかかわらず課税を行使する税制」はDiscriminatoryというもの。したがってこの定義を正確に理解するには米国税法のSubchapter NのPart I、すなわちSourcing規定を知る必要があるよね。実はこの定義、2022年に一旦最終化されてその後実質撤回されたFTC規則の「Jurisdictional Nexus」(これは規則案時の名称で後に「Attribution Rule」って改名されてるけどJurisdictional Nexusの方が分かり易い)に似てる。どちらもDSTを念頭に置いたもの。DSTって名前がついてなくても類似する税制はこれに属する。インドのEqualizationタックスとか。
で、2つ目は「if such tax is imposed on a base other than net income and is not computed by permitting recovery of costs and expenses」。これもクラシックなFTCの対象として認められる「Income Tax」の定義そのもの。昔から「US senseでincome taxか?」っていう概念があったけど、2022年のFTC最終規則ではそれをRefineして「Net Gain」要件って言ってて、まさにそれ。グロス所得に課税するのはNGってことで、これもDSTがターゲット。
3つ目は「if such tax is exclusively or predominantly applicable, in practice or by its terms, to nonresident individuals and foreign corporations or partnerships (as determined under rules similar to paragraphs (4) and (5) of section 7701(a) by treating the foreign country as though it were the United States) because of the application of revenue thresholds, exemptions or exclusions for taxpayers subject to such foreign country’s corporate income tax, or restrictions of scope that ensure that substantially all residents (other than foreign corporations and partnerships (as so determined)) supplying comparable goods or services are excluded from the application of such tax」。結構長いけど、法的に外国人・外国法人のみに適用があったり、売上基準や自国の法人税対象者は免除とかの条件で大概において自国の納税者には課税が及ばないよう意図されている税制のこと。米国のテックをターゲットにしてるような税制が典型になる。つまりこれもDSTがターゲットだろう。
そして最後の4つ目は「if such tax is not treated as an income tax under the laws of such foreign country or is otherwise treated by such foreign country as outside the scope of any agreements that are in force between such foreign country and one or more other jurisdictions for the avoidance of double taxation with respect to taxes on income」。これは課税国が「この税金はIncome Taxではないんで条約でカバーされるタイプの税金ではないんで条約違反ではありません」っていうような税金が対象。 これら4つのうち一つにでも抵触すると(後述の例外にならなければ)Discriminatory Taxになる。で、例外だけど長くなってきたんでここから次回。
Tuesday, March 25, 2025
Global Tax Deal対抗・報復措置「Section 899」法案 (7)
前回は寄り道もなく真面目に(?)CRのドタバタ劇とsection 899の適用対象者および適用日に触れた。適用日は当然ながら適用開始タイミングが主たるフォーカスだけど、一応適用終了タイミングも規定されているんで付け加えておく。終了タイミングは予想通りで驚きはない。Section 899の趣旨的にいつまでも懲罰課税を続けるよりも問題税制を是正してもらって適用終了に至ればそれがベストだから重要なタイミングだけどね。で、最初の頃のポスティングで触れた通り、section 899は財務長官に定期的に問題税制を持つ国を特定し議会への報告を義務付けている。義務付けられる報告内容には特定の国による域外課税や差別的課税の導入と並び、問題税制の恒久的撤廃の有無が含まる。Section 899の懲罰課税は、恒久的撤廃が盛り込まれた議会報告の翌日以降に開始する課税年度(所得税・法人税)や支払い(源泉税)に関して停止されることになる。法文では「以前の報告(すなわち域外課税や差別的課税制度を持っているって言う報告)はなかったものと取り扱う」って意味ありげに回りくどい表現を使用してるけど要は適用停止ってことだろう。
で、ここから今回の本題に当たる域外課税や差別的課税の定義。Section 899法案の元祖に当たる1934年から存在するsection 891も同様に差別的課税や域外課税(この順序の違いに関しては以前触れたね)への対抗規則だけど、section 891にはどんな税制が差別的または域外課税に当たるかっていう定義はなかった。一方のsection 899法案はこれらを結構詳細に定義している。90年を経て何のことだったのか分かるって感無量。90年ってほぼ一世紀だもんね。Internal Revenue Codeの上にも3年どころか100年級だ!
域外課税(Extraterritorial Tax)
まずは域外課税。条文の定義なんで訳しても意味がないんでまずは原文で行くけど、Extraterritorial Taxは「any tax imposed by a foreign country on a corporation (including any trade or business of such corporation) which is determined by reference to any income or profits received by any person (including any trade or business of any person) by reason of such person being connected to such corporation through any chain of ownership, determined without regard to the ownership interests of any individual, and other than by reason of such corporation having a direct or indirect ownership interest in such person.」って規定される。
チョッと難しいけど、この定義のキーは「any chain…other than by reason of such corporation having a direct or indirect ownership interest in such person」ってところかになるのかな。つまり特定の国が法人課税する際に、対象法人そのものや、その法人が直接・間接に持分を持つ傘下の主体ではなく、直接・間接傘下にあるかどうかにかかわらず何らかの資本関係で結ばれているっている主体の所得を、そんな資本関係にあるっていう点のみを理由に課税するっていう制度。これってUTPRそのもの?
しかもご丁寧に「Extraterritorial Tax」に関しては「Tax」っていう用語も「any increase in tax whether effectuated by an increase in the rate or base of a tax, by a denial of deductions or credits, or otherwise」ってしっかり特別に定義されてる。OECDのモデルルールにあるUTPRは「a denial of deductions」で達成されることが多いだろうからこの点もピッタリ!
っていうことはUTPRを法制化している国はほぼ自動的にsection 899目的で「Extraterritorial Tax」を持っていることになる。上述の通り、元祖section 891には何を持って域外課税や差別的課税かは定義されてないけど、同じ用語なんでsection 891目的でもUTPRはExtraterritorial Taxに当たると解釈されるだろう。Section 899は税制改正の一環で審議されるはずだから未だ実際に配当やロイヤルティの源泉税が35%になる訳じゃないけど、section 891目的でExtraterritorial Taxありっていう認定を受け、米国法人が差別的な課税に晒されると自動的に税率が倍。クイズダービーの最後の問題みたい(古~。だけど実は結構な読者が知ってるはず?)。Section 891に言及してる大統領令、America First Trade Policyに基づく報告義務は一応4月1日だ。
で、次に差別的課税(Discriminatory Tax)。こちらはExtraterritorial Taxと違って4つのタイプのどれかに当たるとDiscriminatory Taxになる。またDiscriminatory Taxの定義には例外が規定されている。4つもあるんでここからは次回。
で、ここから今回の本題に当たる域外課税や差別的課税の定義。Section 899法案の元祖に当たる1934年から存在するsection 891も同様に差別的課税や域外課税(この順序の違いに関しては以前触れたね)への対抗規則だけど、section 891にはどんな税制が差別的または域外課税に当たるかっていう定義はなかった。一方のsection 899法案はこれらを結構詳細に定義している。90年を経て何のことだったのか分かるって感無量。90年ってほぼ一世紀だもんね。Internal Revenue Codeの上にも3年どころか100年級だ!
域外課税(Extraterritorial Tax)
まずは域外課税。条文の定義なんで訳しても意味がないんでまずは原文で行くけど、Extraterritorial Taxは「any tax imposed by a foreign country on a corporation (including any trade or business of such corporation) which is determined by reference to any income or profits received by any person (including any trade or business of any person) by reason of such person being connected to such corporation through any chain of ownership, determined without regard to the ownership interests of any individual, and other than by reason of such corporation having a direct or indirect ownership interest in such person.」って規定される。
チョッと難しいけど、この定義のキーは「any chain…other than by reason of such corporation having a direct or indirect ownership interest in such person」ってところかになるのかな。つまり特定の国が法人課税する際に、対象法人そのものや、その法人が直接・間接に持分を持つ傘下の主体ではなく、直接・間接傘下にあるかどうかにかかわらず何らかの資本関係で結ばれているっている主体の所得を、そんな資本関係にあるっていう点のみを理由に課税するっていう制度。これってUTPRそのもの?
しかもご丁寧に「Extraterritorial Tax」に関しては「Tax」っていう用語も「any increase in tax whether effectuated by an increase in the rate or base of a tax, by a denial of deductions or credits, or otherwise」ってしっかり特別に定義されてる。OECDのモデルルールにあるUTPRは「a denial of deductions」で達成されることが多いだろうからこの点もピッタリ!
っていうことはUTPRを法制化している国はほぼ自動的にsection 899目的で「Extraterritorial Tax」を持っていることになる。上述の通り、元祖section 891には何を持って域外課税や差別的課税かは定義されてないけど、同じ用語なんでsection 891目的でもUTPRはExtraterritorial Taxに当たると解釈されるだろう。Section 899は税制改正の一環で審議されるはずだから未だ実際に配当やロイヤルティの源泉税が35%になる訳じゃないけど、section 891目的でExtraterritorial Taxありっていう認定を受け、米国法人が差別的な課税に晒されると自動的に税率が倍。クイズダービーの最後の問題みたい(古~。だけど実は結構な読者が知ってるはず?)。Section 891に言及してる大統領令、America First Trade Policyに基づく報告義務は一応4月1日だ。
で、次に差別的課税(Discriminatory Tax)。こちらはExtraterritorial Taxと違って4つのタイプのどれかに当たるとDiscriminatory Taxになる。またDiscriminatory Taxの定義には例外が規定されている。4つもあるんでここからは次回。
Sunday, March 16, 2025
Global Tax Deal対抗・報復措置「Section 899」法案 (6)
前回はJoint Session等だったけどチョッと(大分?)話しが逸れてモーツァルトとかアウトバーンとかで盛り上がり過ぎて反省中。今回は余計な話題が頭を過る前に議会動向にチラッと触れて即座に(?)本題のsection 899に戻りたい。
Continuing Resolutionドラマ
2025年国家会計年度(2025年9月期)の予算(Annual Appropriation)が未だ可決していないんで連邦政府を活動を支えるため、付焼刃的に短期間、予算なしで歳出を認める法律が必要になる。これができないと連邦政府は「Shutdown」され、Annual Appropriationが不要な強制歳出(例、SSN)、軍とか空港管制塔を含む「Essential」な歳出、を除き機能不全となる。
この短期付け焼刃法をContinuing Resolution(「CR」)っていうけど、ここ何年も予算がタイムリーに可決されることはないんで、本来バックストップ的な存在であるべきCRが年間数回単位で乱発される。さらにCRにチャッカリとプラスの歳出を盛り込んで結局のところCRという名を借りた実質Omnibus Billに仕上がるケースが後を絶たない。「2025年謹賀新年「119会期米国議会」」で触れた通り、2024年9月に可決されたCRが12月20日に期限切れになる直前に2回目のCRが可決され3月14日まで歳出が認められてた。で、3月14日になったんで3回目のCRが必要になった。
で、結局のところ滑り込みセーフで可決されたんだけど(CRは上院60票必要)、その内容や細かい動向はさておき、注目するべき点は2つ。まず共和党が珍しく下院内および両院で一枚岩になれた点。そしてもう一点は民主党が党内調整できないまま上院でChuck Schumerの指示で10議員がCR賛成に回り党内の亀裂を露呈した点。共和党としてはトランプ傘下CRで一体になれたっていうモメンタムで税制改正も一気に対処したいところだろう。下院のWays and Means Committeeは既に法案ドラフトを開始してるって話しなんで今後数週間の動きが見もの。下院が税制改正可決目標日としてるMemorial Day(5月26日)に間に合わせるにはそろそろ具体化させないとね。タイミング的に上院は「Memorial Dayね…。夏が現実的じゃない?」っていうのが本音だと思うけどね。タイミングの政局的なインパクト、両院の温度差に関しては昨年末の「予算調整法2回どう使い分ける?」で触れてるんで忘れちゃってたら日本ではなかなか伝わり難いポイントになるんでぜひもう一回読んでみて欲しい。
Section 899適用納税者
Section 899法案に関して前回までのポスティングでは、その大枠、財務省長官による継続的な問題税制を持つ国の特定・アップデート義務、それらの国と行うべき交渉内容、そしてsection 899適用者に課せられる付加税率、等をまとめてきた。
で、section 899の対抗規定が適用される納税者の特定は、もちろんだけど財務長官が認定する「域外課税や差別的課税制度を持つ国」が基となる。説明を分かり易くするため、財務長官にそう認定された国をここでは「問題税制を持つ国」って言っとくね。
適用納税者は大別して3つのカテゴリーで構成される。まず問題税制を持つ国の市民(Citizen)。ただし米国市民および米国税法上の米国居住者(グリーンカード所有者およびSubstantial Presence Testを満たす者)は除外される。Section 899法案には明記されてないけど、Substantial Presence Testを満たす米国Non-Citizen(税法で言うところの「Alien Individual」)が外国の法令でも当該国の居住者になってて(=Dual Resident)、租税条約にTie-Breaker条項が存在し、条約ポジションとして外国の居住者を選択している場合は、除外対象にはならず適用納税者になるって考えるのが自然だろう。グリーンカード所有者はテクニカルにはTie-Breakerの適用は可能だけど、Tie-Breaker適用は米国継続居住はしない意思表示になりグリーンカード没収の理由のひとつになり兼ねないんでグリーンカードStatusを維持したい者による適用は稀だと思う。
次は問題税制を持つ国の法令で組成されているまたはそんな国の法人税が適用される米国外法人。米国法人、すなわちDelawareやTexas州等の米国州会社法で組成される法人は米国外法人じゃないんで定義的に対象外。また米国外法人でも外国源泉配当が米国株主側で100%所得控除の対象になる「a specified 10-percent owned foreign corporation」は除外される。具体的には、Sub FやGILTI適用時の定義で「United States Shareholder」に当たる米国法人、すなわち米国外法人の議決権または価値に関して10%以上の株式を持つ米国法人、が一社でも存在する米国外法人は対象外になる。その際、PFICにかかわる例外がどんな風にInteractするかは法案からは必ずしも明確じゃない。
最後に源泉税に関しては、財務省規則が規定する範囲で、問題税制を持つ国の個人パートナーが存在する米国税法上パートナーシップに区分される米国外主体も含むとされる。そもそも源泉税率判断時に条約の適用は無視されるっていうルールになってることから、Foreign Reverse Hybridを含むパートナーの所在国の法律で主体がFiscally Transparentになってるかどうかはsection 899目的では関係ないって考えられる。
Section 899適用日
付加税率に関するポスティング「Global Tax Deal対抗・報復措置「Section 899」法案 (3)」およびその後のポスティングでは、どの課税年度またはどの支払いから付加税率が適用されるのか、またその後、どんな風に5%~20%徐々に税率アップになるかっていうタイミングはsection 899の「適用日」を軸に考えるっていう点に触れた。すなわち、法人・所得税に関しては「適用日」の後に開始する課税年度、源泉税に関しては、適用日後の源泉税対象支払いが付加税率の対象になるっていう点だ。
適用日は財務長官が特定の国が問題税制を持つ国に当たるっていうレポートを議会に提出した日から数えて180日経過した次の日(つまり181日後)と規定される。適用日は各納税者に個別に決められるんじゃなくて、問題税制を持つ国単位で決まる。これを付加税率がトリガーされるタイミングに当てはめてみると、財務長官が議会に「この国は弊害税制を持つ国です」ってレポートを提出すると、まずその国に関してそこから181日数える(「181経過日」)。所得税や法人税に関してはこの181経過日の後に始まる課税年度から付加税率が課せられる。ちなみに米国税法目的では個人の所得税課税年度は常に暦年。源泉税に関しては課税年度単位じゃなくて、181経過日後に行われる源泉税対象との支払いから付加税率の対象になる。以前のポスティング「Global Tax Deal対抗・報復措置「Section 899」法案 (2)」でチラッと触れたけど、問題税制を持つ国は、そんな税制が可決された日または効力が生じる日のいずれか「早い方」から税制が撤廃された日または失効した日のいずれか「遅い方」までの期間、問題税制を有しているって取り扱われる。このルールと適用日は異なるんで、仮に問題税制を持っている期間が早く開始していても、付加税率の適用開始は「適用日」ベースになる。
例えば予算調整法に基づく税制改正が2025年5月末に可決され、そこにsection 899が盛り込まれるとする。5月31日から90日以内に財務長官は問題税制を持つ国のリストを議会に提出する法的義務が生じる。仮に90日まるまる掛けてリストを提出したとすると8月29日になる(合ってる?)。でその最初の財務長官レポートで問題税制を持つと認定された国に関しては181日経過日は2026年2月26日となり、翌日の2月27日以降に開始する課税年度の所得税・法人税、また2月27日以降に支払われる配当、利子、ロイヤルティーが付加税率の対象になる。
で、次はいよいよ域外課税や差別的課税の定義。ここからは次回。
Continuing Resolutionドラマ
2025年国家会計年度(2025年9月期)の予算(Annual Appropriation)が未だ可決していないんで連邦政府を活動を支えるため、付焼刃的に短期間、予算なしで歳出を認める法律が必要になる。これができないと連邦政府は「Shutdown」され、Annual Appropriationが不要な強制歳出(例、SSN)、軍とか空港管制塔を含む「Essential」な歳出、を除き機能不全となる。
この短期付け焼刃法をContinuing Resolution(「CR」)っていうけど、ここ何年も予算がタイムリーに可決されることはないんで、本来バックストップ的な存在であるべきCRが年間数回単位で乱発される。さらにCRにチャッカリとプラスの歳出を盛り込んで結局のところCRという名を借りた実質Omnibus Billに仕上がるケースが後を絶たない。「2025年謹賀新年「119会期米国議会」」で触れた通り、2024年9月に可決されたCRが12月20日に期限切れになる直前に2回目のCRが可決され3月14日まで歳出が認められてた。で、3月14日になったんで3回目のCRが必要になった。
で、結局のところ滑り込みセーフで可決されたんだけど(CRは上院60票必要)、その内容や細かい動向はさておき、注目するべき点は2つ。まず共和党が珍しく下院内および両院で一枚岩になれた点。そしてもう一点は民主党が党内調整できないまま上院でChuck Schumerの指示で10議員がCR賛成に回り党内の亀裂を露呈した点。共和党としてはトランプ傘下CRで一体になれたっていうモメンタムで税制改正も一気に対処したいところだろう。下院のWays and Means Committeeは既に法案ドラフトを開始してるって話しなんで今後数週間の動きが見もの。下院が税制改正可決目標日としてるMemorial Day(5月26日)に間に合わせるにはそろそろ具体化させないとね。タイミング的に上院は「Memorial Dayね…。夏が現実的じゃない?」っていうのが本音だと思うけどね。タイミングの政局的なインパクト、両院の温度差に関しては昨年末の「予算調整法2回どう使い分ける?」で触れてるんで忘れちゃってたら日本ではなかなか伝わり難いポイントになるんでぜひもう一回読んでみて欲しい。
Section 899適用納税者
Section 899法案に関して前回までのポスティングでは、その大枠、財務省長官による継続的な問題税制を持つ国の特定・アップデート義務、それらの国と行うべき交渉内容、そしてsection 899適用者に課せられる付加税率、等をまとめてきた。
で、section 899の対抗規定が適用される納税者の特定は、もちろんだけど財務長官が認定する「域外課税や差別的課税制度を持つ国」が基となる。説明を分かり易くするため、財務長官にそう認定された国をここでは「問題税制を持つ国」って言っとくね。
適用納税者は大別して3つのカテゴリーで構成される。まず問題税制を持つ国の市民(Citizen)。ただし米国市民および米国税法上の米国居住者(グリーンカード所有者およびSubstantial Presence Testを満たす者)は除外される。Section 899法案には明記されてないけど、Substantial Presence Testを満たす米国Non-Citizen(税法で言うところの「Alien Individual」)が外国の法令でも当該国の居住者になってて(=Dual Resident)、租税条約にTie-Breaker条項が存在し、条約ポジションとして外国の居住者を選択している場合は、除外対象にはならず適用納税者になるって考えるのが自然だろう。グリーンカード所有者はテクニカルにはTie-Breakerの適用は可能だけど、Tie-Breaker適用は米国継続居住はしない意思表示になりグリーンカード没収の理由のひとつになり兼ねないんでグリーンカードStatusを維持したい者による適用は稀だと思う。
次は問題税制を持つ国の法令で組成されているまたはそんな国の法人税が適用される米国外法人。米国法人、すなわちDelawareやTexas州等の米国州会社法で組成される法人は米国外法人じゃないんで定義的に対象外。また米国外法人でも外国源泉配当が米国株主側で100%所得控除の対象になる「a specified 10-percent owned foreign corporation」は除外される。具体的には、Sub FやGILTI適用時の定義で「United States Shareholder」に当たる米国法人、すなわち米国外法人の議決権または価値に関して10%以上の株式を持つ米国法人、が一社でも存在する米国外法人は対象外になる。その際、PFICにかかわる例外がどんな風にInteractするかは法案からは必ずしも明確じゃない。
最後に源泉税に関しては、財務省規則が規定する範囲で、問題税制を持つ国の個人パートナーが存在する米国税法上パートナーシップに区分される米国外主体も含むとされる。そもそも源泉税率判断時に条約の適用は無視されるっていうルールになってることから、Foreign Reverse Hybridを含むパートナーの所在国の法律で主体がFiscally Transparentになってるかどうかはsection 899目的では関係ないって考えられる。
Section 899適用日
付加税率に関するポスティング「Global Tax Deal対抗・報復措置「Section 899」法案 (3)」およびその後のポスティングでは、どの課税年度またはどの支払いから付加税率が適用されるのか、またその後、どんな風に5%~20%徐々に税率アップになるかっていうタイミングはsection 899の「適用日」を軸に考えるっていう点に触れた。すなわち、法人・所得税に関しては「適用日」の後に開始する課税年度、源泉税に関しては、適用日後の源泉税対象支払いが付加税率の対象になるっていう点だ。
適用日は財務長官が特定の国が問題税制を持つ国に当たるっていうレポートを議会に提出した日から数えて180日経過した次の日(つまり181日後)と規定される。適用日は各納税者に個別に決められるんじゃなくて、問題税制を持つ国単位で決まる。これを付加税率がトリガーされるタイミングに当てはめてみると、財務長官が議会に「この国は弊害税制を持つ国です」ってレポートを提出すると、まずその国に関してそこから181日数える(「181経過日」)。所得税や法人税に関してはこの181経過日の後に始まる課税年度から付加税率が課せられる。ちなみに米国税法目的では個人の所得税課税年度は常に暦年。源泉税に関しては課税年度単位じゃなくて、181経過日後に行われる源泉税対象との支払いから付加税率の対象になる。以前のポスティング「Global Tax Deal対抗・報復措置「Section 899」法案 (2)」でチラッと触れたけど、問題税制を持つ国は、そんな税制が可決された日または効力が生じる日のいずれか「早い方」から税制が撤廃された日または失効した日のいずれか「遅い方」までの期間、問題税制を有しているって取り扱われる。このルールと適用日は異なるんで、仮に問題税制を持っている期間が早く開始していても、付加税率の適用開始は「適用日」ベースになる。
例えば予算調整法に基づく税制改正が2025年5月末に可決され、そこにsection 899が盛り込まれるとする。5月31日から90日以内に財務長官は問題税制を持つ国のリストを議会に提出する法的義務が生じる。仮に90日まるまる掛けてリストを提出したとすると8月29日になる(合ってる?)。でその最初の財務長官レポートで問題税制を持つと認定された国に関しては181日経過日は2026年2月26日となり、翌日の2月27日以降に開始する課税年度の所得税・法人税、また2月27日以降に支払われる配当、利子、ロイヤルティーが付加税率の対象になる。
で、次はいよいよ域外課税や差別的課税の定義。ここからは次回。
Sunday, March 9, 2025
トランプJoint Sessionスピーチ・税制改正・関税
議会によるGlobal Tax Deal対抗・報復措置のひとつ「Section 899」法案のポスティング中だけど、今日はチョッとBreakして税制改正や関税その他に関して。
Budget Resolution
上院・下院の双方が異なるBudget Resolutionを可決させた後、本来なら速やかに両院一致のResolutionを可決して実際の立法に進むべきなんだけど、相変わらず上院と下院のPriority温度差がくすぶっている状況。TCJAの2025年末失効(一部は2022年や2023年で既に失効済み)規定をBudget Window内の時限延長とするか、恒久化するのか、それに対応して$2Tの歳出カットをどこから手当てするか、Current Base Lineで予算調整法はクリアするのか、みたいな基本的なところで未だ意見調整中。
トランプは最近、上院の2-Trackよりも下院の1-Trackを押してる発言が目立つ。以前から触れてるけど、上院としては下院が一枚岩になって早々に1-Trackの法案を上院の意向も加味して策定できるんだったらそれはそれで問題ないけど、その点がイマイチはっきりしないんで、だったらまずは争点の少ない国境警備、国防、エネルギー政策にかかわる最初の法案を通してしまいたいっていうアプローチで、これはあくまでプランBっていう状態が続いている。
Joint Session of Congress
そんな中、3月4日の夜、トランプは「Joint Session of Congress」で100分に亘るNon-Stopパフォーマンスで、例によって息つく暇もなく次々と政権発足1か月強の実績を披露。未だにTDS(「Trump Derangement Syndrome」)の激しい(Fox以外の)レガシーメディアの反応は予想通りだけど、少なくともテレプロンプター棒読みのアンドロイドみたいなスピーチと違って、自分が「思ってること」を自分の言葉で表現するAuthenticityが感じられた。相変わらずの体力とエネルギー全開で100分あっという間。多岐に亘るトピックをこれでもかこれでもかって連打する姿を見てると、ふと映画Amadeusでモーツァルトがオーストリア皇帝Joseph II (マリー・アントワネットのお兄さん!)を前にブルク劇場でオペラ「The Abduction from the Seraglio」を指揮演奏してるシーンを思い出してしまった。「The Abduction from the Seraglio」みたいな複雑かつ難解な音楽を気楽な娯楽かのようにパッケージして音の洪水で圧倒するモーツァルトの姿だ。映画では、複雑な楽曲を何の苦も無くNaturalに表現している姿をギャラリーからサリエリが観察していて、同じ音楽家だからこそ分かるその才能、すなわち苦労なくそんな作品を創作できるモーツァルトの恐ろしさに驚愕すると同時に怒りすら感じていた(実際に何があったかは知る術もないけど、あの映画、サリエリにはチョッと不名誉だよね)。演奏終了後に皇帝が「余りに凄すぎて人間が消化できるレベルの音数を超えてる」みたいなコメントをすると、モーツァルトが「具体的にどの音が過度なんでしょうか?必要な音のみを使って曲はできてて、それ以上でも以下でもない」と歯向かったりしてる。映画だから実際にあった会話じゃないとは思うけどね。なんかFlood the zoneのトランプに似てるよね。
ちなみにこの「The Abduction from the Seraglio」は、大作のオペラとしては初のドイツ語作品って言われてて、映画ではオペラにドイツ語を使うかどうかにかかわる伏線がある。オペラを依頼(Commission)するために皇帝がモーツァルトを宮廷に招いた際のやり取りだ。サリエリがモーツァルト歓迎のために特別に作曲したマーチを皇帝が気に入り、皇帝が自らそれを弾いてる中モーツァルトが登場するんだけど、モーツァルトは一回初めて聴いただけのサリエリのマーチを暗記してしまい、その場で暗譜でパーフェクトに再現して一同を驚かせる。さらに再現するだけでは終わらず「この曲これで終わりで後は一緒なんだよね?」、「ここんところチョッとイマイチだよね」、「こんな風にしようって考えなかった?」、「だいぶマシになったでしょ?」とか言いながらアドリブで複雑かつ華麗な全く別の作品(アレってフィガロの「Non più andrai」だよね)に仕手てしまったあのシーンだ。
その際、モーツァルトに依頼するオペラをイタリア語にするかドイツ語にするか、に関して皇帝が取り巻き達と議論する場面がある。モーツァルトは「ドイツ語でしょ」って言ってイタリア派の顰蹙を買うけど、その後に「まあ、トルコ語(トルコはThe Abduction from the Seraglioの舞台)でもいいけどね~」とか惚けたこと言って軽く流してる。当時のウイーンの音楽界はイタリア派の影響力が強く、それに対して皇帝はドイツ語を国語に定めようとしたりドイツ主義だったらしい。結果「ドイツ語で行く」と鶴の一声となり、イタリア系の取り巻きは目を丸くしたっていうことになっている。
まあオーストリアとドイツ(当時はまだHRE?)だったら、アルプス越えのイタリアと比べると行き来は楽だっただろうし、モーツァルト生地のSalzburgとかからだとウイーン行くよりミュンヘンに行く方が断然近いもんね。夜中にSalzburg市街を出て真っ暗(本当に真っ暗)なA1から国境超えてアウトバーン8に入るとスピード制限ないから結構飛ばしてる車も多い。EU内の移動だけど、自動車だと一応国境検問みたいなのがあってPolizeiってジャケット来た長身のポリスにドイツ語チックな英語で「どこに行くのか」とか質問されるとチョッと怖い感じ。
そう言えば、むかし東京でCGとか読んでた高校生くらいの頃、「アウトバーンってスピード制限ないって知っている?」みたいな話しで友人と盛り上がり、どの車でアウトバーン走りたい?みたいな空想の世界の話しになり、大別するとまずは「メルセデスのSL派」。多分アメリカンジゴロとか見過ぎの一派。あれ再現するんだったらアウトバーンじゃなくてPCHだけどね。当時のアルマーニの細めのタイしめて。その後大人(?)になってから「Call Me」大音量で炸裂させてPCH走ったりしてみたけど(SLじゃなくて…SLKで)髪の毛は逆立つし、砂の飛散とかで散々。アルマーニって言えば アメリカンジゴロでアルマーニってブランドを知った読者も多いのでは? 当時はもちろんデパートとかにはあんまり置かれてなかった記憶があり、ホテルニューオータニの本館と新館をコネクトしてたCorridorにあった品揃えブティックの一つでタイとか売ってたよね。で、車種の話しに戻ると他には「Porsche Carrera派」、オペラ同様ドイツ派とイタリア派の戦いになるけど「Ferrari Dino派」とかに分かれてた。で、僕は何だったかというと何と言ってもFirst Generationの「BMW 635CSi」!。当時の感覚だと美し過ぎる流線形であれ格好良かったよね。首都高とかで走ってるの見かけるとどんな人が乗ってんだろう?って。当時は635CSi乗れなかったら代わりにFiatのMidship「X1/9」、しかも黄緑(49th Junko Shimadaボディコン(笑)の蛍光カマキリ色みたいなやつ)でもいいな~みたいなバブルっぽい夢見る時代だった。ちなみにCSiの「i」ってInjection(Fuel Injection)なんだよね。CSはスポーツクーペだけど、「i」は「俺はキャブレターじゃないぞ」ってことだから時代を物語ってるよね。キャブレターの車ってChokeボタンが付いてて、たまに引っ張ったまま走って冗談で「Auto Drive」とかにしたりね。昔のドイツ車って別格だったけど、最近はドイツの産業ポリシーのせいでなんか元気ないよね。
実は米国も1973年のオイルショック前はスピード制限はInterstateでも完全に州の管轄で、州によるけどスピード制限はなかったり、単に「Reasonable and Prudent」基準だったところも多い。建国のSpiritが残っている感じでいいね。ところがオイルショックを受けて1974年に連邦レベルで初の「National Maximum Speed Law (55 mph)」 が可決。もちろん連邦法なんでFederalism的に法的管轄権があるのは主にInterstate Highway(Route 66みたいな旧道含む)。スピード制限っていうと安全対策っていうイメージが強いけど、National Maximum Speed Lawは燃料節約のための法律。この法律導入・撤廃(後述)前後等で安全性に関する明確はトレンドは認知できなかったっていう話し。導入当初から多くの州で不評で取り締まり度合いはまちまちだったっていう話し。その後、1987年には市街地を除き65 mphに制限が緩和され、1995年には連邦法は撤廃され、再び米国のあるべき姿、すなわち連邦ではなく各州が制限スピードを決めることができるようになって今に至る。結果、州によって80 mphなんて区間もあるけど、残念なことに(?)スピード違反のチケットからの歳入がバカにならないってことでスピード制限のない区間はないらしい。スピード出したいっていうよりも、ガラガラのInterstateで対向車線との間にある藪で覆われてて遠くからは見えない空き地みたいなところで(住んでる人なら分かるね!)ネズミ捕りしてたりするポリスカー気にしながら走ったり、バックミラーでFordのTaurasとかSUV見てドキっとしたりって感じが面倒。
う~ん、ミュンヘン行きのアウトバーンの話しから何でこんな話しになってるんだっけ...。ミュンヘンと言えば最近、JDバンスの欧州の言論統制を叱責した演説が思い出されるけど、その話しはなかなかDeepで米国もElon MuskがTwitter(X)を$44Bで買収しなかったらどうなってしまったんだろうとか、他人事じゃないけどね。すなわち民主主義っていうのは、少なくとも米国では一般市民(We the People)の意思が反映されるはずの制度だったんだけど、グローバルエリートの民主主義の定義はクリントン・ブレアの頃からチョッと違ってきて、ダメ押しは2016年の第一次トランプ政権誕生やBrexitで、一般Peopleは教養がないから自由に議論したりそれらの者が選挙でリーダーを選んだりするとグローバル「リーダー」たちが思う理想の姿と異なる世界になり兼ねない、っていうRedefineされた感じの民主主義アプローチ。従来の民主主義は一般Peopleが決めるんでその定義からPopulismだと思うんだけど、グローバルエリートやレガシーメディアがPopulismって使う際は何か少し知的レベルが低いっていうニュアンスになったり、Far-Rightってどんな過激な思想なのかなって思って聞いてみると一般Peopleが自分の身近な生活、すなわち自国の政策を闊達な議論・選挙を通じて決めていきたいって考えてる姿だったりする。この手のトレンドは大きな流れとしては振り子だから、グローバル主義から今は逆にPopulismに振り戻し傾向がところどころで見られる。Global Tax Dealなんかもこういうメガトレンド的に観察すると単なる税法っていうGeekyな世界以上のものがあるね。
で、皇帝はドイツ語派だったかもしれないけど、Joint Sessionスピーチに先立つ3月1日にトランプは大統領令で「英語」を米国の国語に指定してる。米国に今まで国語がなかったっていう方が意外な感はあるけど、連邦はさておいて州レベルでは多くの州で英語が公用語に指定されている。連邦レベルでは明確な規則は存在しなかったみたいだけど、スパニッシュや中国語の併記があることはあっても、実際には税法を含む連邦法とか全部英語だから実態としては国語同然だったように思うけどね。
Joint Sessionのスピーチに戻るけど、税制に関してはTCJAの恒久化とチップや残業代非課税に簡単に触れるだけ。ただ、その際、トランプの後ろに座ってた下院議長Mike Johnsonの方に振り向きプレッシャーを掛けるのは忘れなかった。で、相変わらず「関税」は素晴らしいって言ってた。
なぜ関税?
この関税、選挙で争点のひとつだったインフレとかの観点から考えたらあんまりMake Senseしない。おかげで株式市場も乱高下だけど、トランプの周りに居るScott Bessent、先日承認された商務長官Howard LutnickやUSTRのJamieson Greer、DOGEのElon Muskを含む取り巻きは相当なやり手揃いだから何かの考えがあってのはず。それが何なんだろうってしばらく考えてた時に、2023年にJDバンスが Senate Banking CommitteeでFRB ChairmanのPowellとやり取りした際の話しがフラッシュバックしてきて、う~ん、もしかしたら・・・短期的な損得は別として米国の将来を本気で考えてるのかもねって思うようになった。
JD Vanceって以前、VP候補に任命された頃は個人的になぜ?って思ったっていう話しは当時のポスティングに書いたけど、それは僕の感覚の鈍さおよび従来からの(RINOとまでは言わないけど)どちらかっていうと旧来のEstablishmentの共和党の姿が頭から離れてなかったからだ。その後、Tim Walzとの討論会や多くの演説、Podcastとかを通じてArticulateでImpressiveな人物だっていう認識に至ると同時に党名は同じ共和党とは言え、今では全く別の基盤で成り立ってる党だっていう点を再認識してようやくJD Vanceの位置づけが分かってきた気がする。この人選は今後の米国に与える影響は少なくなかったかも。
そんなJD Vanceが上述の2023年の Senate Banking CommitteeでPowellに対して発言した内容骨子は、米国はUSDがReserve Currencyっていう俗にいう「Exorbitant Privilege」に長年胡坐をかいてるうちにとんでもないことになり、今となってはIrreversibleに近い不味い状況に陥っているというもの。この状態は「Resource Curse」。すなわち例えばサウジとかが石油が出るんでそれがバレル90ドルとかで売れるんだったら他の産業は不要も同然なんで、そのために他の産業が育成される土壌がなくなる(そんなことではだめって言うことで壮大なVision 2030で「Neom」プロジェクトとかの企画に至ってる)。
米国はこれの通貨版。Reserve Currencyなんでどれだけ財政赤字になっても直近には問題なく、金融業やワシントンがぼろ儲けできるんで、産業空洞化が進み製造業や一般PeopleのWorking Classはその犠牲になってる状況。もちろんハイテクとかサービス業とかは強いんで単に金融だけって訳じゃないけど多くの製造業は米国外に行ってしまった。USDのReserve Currency Statusが傾いたら石油が出なくなった産油国みたいで米国は終わり。長年こんな状況が続いた結果、ウクライナに援助するものも含め武器の資材の多くは中国頼み、しかも国家財政は大赤字だから中国から資材を買うために中国から借金(国債)という超間抜けかつ脆弱な構造になってしまったというもの。JD Vanceの自伝 Hillbilly Elegyを読むと極貧の中、米国中西部の製造業が衰退し、Everyday Peopleが取り残されていく姿を目の当たりにした実体験があることがよく分かる。こんなトレンドをリバースするには関税と国内減税を組み合わせて企業の行動規範を変える必要があるけど、短期的な視野では難しいんで通常の政府や政治家では手を付け難い。そこでトランプ2.0のMAGAがAll-Inでこれを実行するっていう勢いなんじゃないだろうか。Elon MuskのDOGEによる明日はないかのような連邦政府の縮小・削減(歳出削減)も米国がSurviveする最後のチャンスっていう覚悟がある感じがする。先日Scott Bessentは「(海外の低賃金を利用した輸入に頼って)安価な商品にアクセスがあることは必ずしもアメリカンドリームではない」と言ってたし、トランプも第一期と異なり株価や直近の景気を最大限化することに対するフォーカスは低く、本当にMake America Great Againを目指してるのかな~って思うことがある。でも関税は課すぞって言っては撤回したり、その辺はこの手のマクロのテーマとどう関連しているのか個人的には不可解に映る。
っていうことで次回はSection 899法案の続きに戻りたい。
Budget Resolution
上院・下院の双方が異なるBudget Resolutionを可決させた後、本来なら速やかに両院一致のResolutionを可決して実際の立法に進むべきなんだけど、相変わらず上院と下院のPriority温度差がくすぶっている状況。TCJAの2025年末失効(一部は2022年や2023年で既に失効済み)規定をBudget Window内の時限延長とするか、恒久化するのか、それに対応して$2Tの歳出カットをどこから手当てするか、Current Base Lineで予算調整法はクリアするのか、みたいな基本的なところで未だ意見調整中。
トランプは最近、上院の2-Trackよりも下院の1-Trackを押してる発言が目立つ。以前から触れてるけど、上院としては下院が一枚岩になって早々に1-Trackの法案を上院の意向も加味して策定できるんだったらそれはそれで問題ないけど、その点がイマイチはっきりしないんで、だったらまずは争点の少ない国境警備、国防、エネルギー政策にかかわる最初の法案を通してしまいたいっていうアプローチで、これはあくまでプランBっていう状態が続いている。
Joint Session of Congress
そんな中、3月4日の夜、トランプは「Joint Session of Congress」で100分に亘るNon-Stopパフォーマンスで、例によって息つく暇もなく次々と政権発足1か月強の実績を披露。未だにTDS(「Trump Derangement Syndrome」)の激しい(Fox以外の)レガシーメディアの反応は予想通りだけど、少なくともテレプロンプター棒読みのアンドロイドみたいなスピーチと違って、自分が「思ってること」を自分の言葉で表現するAuthenticityが感じられた。相変わらずの体力とエネルギー全開で100分あっという間。多岐に亘るトピックをこれでもかこれでもかって連打する姿を見てると、ふと映画Amadeusでモーツァルトがオーストリア皇帝Joseph II (マリー・アントワネットのお兄さん!)を前にブルク劇場でオペラ「The Abduction from the Seraglio」を指揮演奏してるシーンを思い出してしまった。「The Abduction from the Seraglio」みたいな複雑かつ難解な音楽を気楽な娯楽かのようにパッケージして音の洪水で圧倒するモーツァルトの姿だ。映画では、複雑な楽曲を何の苦も無くNaturalに表現している姿をギャラリーからサリエリが観察していて、同じ音楽家だからこそ分かるその才能、すなわち苦労なくそんな作品を創作できるモーツァルトの恐ろしさに驚愕すると同時に怒りすら感じていた(実際に何があったかは知る術もないけど、あの映画、サリエリにはチョッと不名誉だよね)。演奏終了後に皇帝が「余りに凄すぎて人間が消化できるレベルの音数を超えてる」みたいなコメントをすると、モーツァルトが「具体的にどの音が過度なんでしょうか?必要な音のみを使って曲はできてて、それ以上でも以下でもない」と歯向かったりしてる。映画だから実際にあった会話じゃないとは思うけどね。なんかFlood the zoneのトランプに似てるよね。
ちなみにこの「The Abduction from the Seraglio」は、大作のオペラとしては初のドイツ語作品って言われてて、映画ではオペラにドイツ語を使うかどうかにかかわる伏線がある。オペラを依頼(Commission)するために皇帝がモーツァルトを宮廷に招いた際のやり取りだ。サリエリがモーツァルト歓迎のために特別に作曲したマーチを皇帝が気に入り、皇帝が自らそれを弾いてる中モーツァルトが登場するんだけど、モーツァルトは一回初めて聴いただけのサリエリのマーチを暗記してしまい、その場で暗譜でパーフェクトに再現して一同を驚かせる。さらに再現するだけでは終わらず「この曲これで終わりで後は一緒なんだよね?」、「ここんところチョッとイマイチだよね」、「こんな風にしようって考えなかった?」、「だいぶマシになったでしょ?」とか言いながらアドリブで複雑かつ華麗な全く別の作品(アレってフィガロの「Non più andrai」だよね)に仕手てしまったあのシーンだ。
その際、モーツァルトに依頼するオペラをイタリア語にするかドイツ語にするか、に関して皇帝が取り巻き達と議論する場面がある。モーツァルトは「ドイツ語でしょ」って言ってイタリア派の顰蹙を買うけど、その後に「まあ、トルコ語(トルコはThe Abduction from the Seraglioの舞台)でもいいけどね~」とか惚けたこと言って軽く流してる。当時のウイーンの音楽界はイタリア派の影響力が強く、それに対して皇帝はドイツ語を国語に定めようとしたりドイツ主義だったらしい。結果「ドイツ語で行く」と鶴の一声となり、イタリア系の取り巻きは目を丸くしたっていうことになっている。
まあオーストリアとドイツ(当時はまだHRE?)だったら、アルプス越えのイタリアと比べると行き来は楽だっただろうし、モーツァルト生地のSalzburgとかからだとウイーン行くよりミュンヘンに行く方が断然近いもんね。夜中にSalzburg市街を出て真っ暗(本当に真っ暗)なA1から国境超えてアウトバーン8に入るとスピード制限ないから結構飛ばしてる車も多い。EU内の移動だけど、自動車だと一応国境検問みたいなのがあってPolizeiってジャケット来た長身のポリスにドイツ語チックな英語で「どこに行くのか」とか質問されるとチョッと怖い感じ。
そう言えば、むかし東京でCGとか読んでた高校生くらいの頃、「アウトバーンってスピード制限ないって知っている?」みたいな話しで友人と盛り上がり、どの車でアウトバーン走りたい?みたいな空想の世界の話しになり、大別するとまずは「メルセデスのSL派」。多分アメリカンジゴロとか見過ぎの一派。あれ再現するんだったらアウトバーンじゃなくてPCHだけどね。当時のアルマーニの細めのタイしめて。その後大人(?)になってから「Call Me」大音量で炸裂させてPCH走ったりしてみたけど(SLじゃなくて…SLKで)髪の毛は逆立つし、砂の飛散とかで散々。アルマーニって言えば アメリカンジゴロでアルマーニってブランドを知った読者も多いのでは? 当時はもちろんデパートとかにはあんまり置かれてなかった記憶があり、ホテルニューオータニの本館と新館をコネクトしてたCorridorにあった品揃えブティックの一つでタイとか売ってたよね。で、車種の話しに戻ると他には「Porsche Carrera派」、オペラ同様ドイツ派とイタリア派の戦いになるけど「Ferrari Dino派」とかに分かれてた。で、僕は何だったかというと何と言ってもFirst Generationの「BMW 635CSi」!。当時の感覚だと美し過ぎる流線形であれ格好良かったよね。首都高とかで走ってるの見かけるとどんな人が乗ってんだろう?って。当時は635CSi乗れなかったら代わりにFiatのMidship「X1/9」、しかも黄緑(49th Junko Shimadaボディコン(笑)の蛍光カマキリ色みたいなやつ)でもいいな~みたいなバブルっぽい夢見る時代だった。ちなみにCSiの「i」ってInjection(Fuel Injection)なんだよね。CSはスポーツクーペだけど、「i」は「俺はキャブレターじゃないぞ」ってことだから時代を物語ってるよね。キャブレターの車ってChokeボタンが付いてて、たまに引っ張ったまま走って冗談で「Auto Drive」とかにしたりね。昔のドイツ車って別格だったけど、最近はドイツの産業ポリシーのせいでなんか元気ないよね。
実は米国も1973年のオイルショック前はスピード制限はInterstateでも完全に州の管轄で、州によるけどスピード制限はなかったり、単に「Reasonable and Prudent」基準だったところも多い。建国のSpiritが残っている感じでいいね。ところがオイルショックを受けて1974年に連邦レベルで初の「National Maximum Speed Law (55 mph)」 が可決。もちろん連邦法なんでFederalism的に法的管轄権があるのは主にInterstate Highway(Route 66みたいな旧道含む)。スピード制限っていうと安全対策っていうイメージが強いけど、National Maximum Speed Lawは燃料節約のための法律。この法律導入・撤廃(後述)前後等で安全性に関する明確はトレンドは認知できなかったっていう話し。導入当初から多くの州で不評で取り締まり度合いはまちまちだったっていう話し。その後、1987年には市街地を除き65 mphに制限が緩和され、1995年には連邦法は撤廃され、再び米国のあるべき姿、すなわち連邦ではなく各州が制限スピードを決めることができるようになって今に至る。結果、州によって80 mphなんて区間もあるけど、残念なことに(?)スピード違反のチケットからの歳入がバカにならないってことでスピード制限のない区間はないらしい。スピード出したいっていうよりも、ガラガラのInterstateで対向車線との間にある藪で覆われてて遠くからは見えない空き地みたいなところで(住んでる人なら分かるね!)ネズミ捕りしてたりするポリスカー気にしながら走ったり、バックミラーでFordのTaurasとかSUV見てドキっとしたりって感じが面倒。
う~ん、ミュンヘン行きのアウトバーンの話しから何でこんな話しになってるんだっけ...。ミュンヘンと言えば最近、JDバンスの欧州の言論統制を叱責した演説が思い出されるけど、その話しはなかなかDeepで米国もElon MuskがTwitter(X)を$44Bで買収しなかったらどうなってしまったんだろうとか、他人事じゃないけどね。すなわち民主主義っていうのは、少なくとも米国では一般市民(We the People)の意思が反映されるはずの制度だったんだけど、グローバルエリートの民主主義の定義はクリントン・ブレアの頃からチョッと違ってきて、ダメ押しは2016年の第一次トランプ政権誕生やBrexitで、一般Peopleは教養がないから自由に議論したりそれらの者が選挙でリーダーを選んだりするとグローバル「リーダー」たちが思う理想の姿と異なる世界になり兼ねない、っていうRedefineされた感じの民主主義アプローチ。従来の民主主義は一般Peopleが決めるんでその定義からPopulismだと思うんだけど、グローバルエリートやレガシーメディアがPopulismって使う際は何か少し知的レベルが低いっていうニュアンスになったり、Far-Rightってどんな過激な思想なのかなって思って聞いてみると一般Peopleが自分の身近な生活、すなわち自国の政策を闊達な議論・選挙を通じて決めていきたいって考えてる姿だったりする。この手のトレンドは大きな流れとしては振り子だから、グローバル主義から今は逆にPopulismに振り戻し傾向がところどころで見られる。Global Tax Dealなんかもこういうメガトレンド的に観察すると単なる税法っていうGeekyな世界以上のものがあるね。
で、皇帝はドイツ語派だったかもしれないけど、Joint Sessionスピーチに先立つ3月1日にトランプは大統領令で「英語」を米国の国語に指定してる。米国に今まで国語がなかったっていう方が意外な感はあるけど、連邦はさておいて州レベルでは多くの州で英語が公用語に指定されている。連邦レベルでは明確な規則は存在しなかったみたいだけど、スパニッシュや中国語の併記があることはあっても、実際には税法を含む連邦法とか全部英語だから実態としては国語同然だったように思うけどね。
Joint Sessionのスピーチに戻るけど、税制に関してはTCJAの恒久化とチップや残業代非課税に簡単に触れるだけ。ただ、その際、トランプの後ろに座ってた下院議長Mike Johnsonの方に振り向きプレッシャーを掛けるのは忘れなかった。で、相変わらず「関税」は素晴らしいって言ってた。
なぜ関税?
この関税、選挙で争点のひとつだったインフレとかの観点から考えたらあんまりMake Senseしない。おかげで株式市場も乱高下だけど、トランプの周りに居るScott Bessent、先日承認された商務長官Howard LutnickやUSTRのJamieson Greer、DOGEのElon Muskを含む取り巻きは相当なやり手揃いだから何かの考えがあってのはず。それが何なんだろうってしばらく考えてた時に、2023年にJDバンスが Senate Banking CommitteeでFRB ChairmanのPowellとやり取りした際の話しがフラッシュバックしてきて、う~ん、もしかしたら・・・短期的な損得は別として米国の将来を本気で考えてるのかもねって思うようになった。
JD Vanceって以前、VP候補に任命された頃は個人的になぜ?って思ったっていう話しは当時のポスティングに書いたけど、それは僕の感覚の鈍さおよび従来からの(RINOとまでは言わないけど)どちらかっていうと旧来のEstablishmentの共和党の姿が頭から離れてなかったからだ。その後、Tim Walzとの討論会や多くの演説、Podcastとかを通じてArticulateでImpressiveな人物だっていう認識に至ると同時に党名は同じ共和党とは言え、今では全く別の基盤で成り立ってる党だっていう点を再認識してようやくJD Vanceの位置づけが分かってきた気がする。この人選は今後の米国に与える影響は少なくなかったかも。
そんなJD Vanceが上述の2023年の Senate Banking CommitteeでPowellに対して発言した内容骨子は、米国はUSDがReserve Currencyっていう俗にいう「Exorbitant Privilege」に長年胡坐をかいてるうちにとんでもないことになり、今となってはIrreversibleに近い不味い状況に陥っているというもの。この状態は「Resource Curse」。すなわち例えばサウジとかが石油が出るんでそれがバレル90ドルとかで売れるんだったら他の産業は不要も同然なんで、そのために他の産業が育成される土壌がなくなる(そんなことではだめって言うことで壮大なVision 2030で「Neom」プロジェクトとかの企画に至ってる)。
米国はこれの通貨版。Reserve Currencyなんでどれだけ財政赤字になっても直近には問題なく、金融業やワシントンがぼろ儲けできるんで、産業空洞化が進み製造業や一般PeopleのWorking Classはその犠牲になってる状況。もちろんハイテクとかサービス業とかは強いんで単に金融だけって訳じゃないけど多くの製造業は米国外に行ってしまった。USDのReserve Currency Statusが傾いたら石油が出なくなった産油国みたいで米国は終わり。長年こんな状況が続いた結果、ウクライナに援助するものも含め武器の資材の多くは中国頼み、しかも国家財政は大赤字だから中国から資材を買うために中国から借金(国債)という超間抜けかつ脆弱な構造になってしまったというもの。JD Vanceの自伝 Hillbilly Elegyを読むと極貧の中、米国中西部の製造業が衰退し、Everyday Peopleが取り残されていく姿を目の当たりにした実体験があることがよく分かる。こんなトレンドをリバースするには関税と国内減税を組み合わせて企業の行動規範を変える必要があるけど、短期的な視野では難しいんで通常の政府や政治家では手を付け難い。そこでトランプ2.0のMAGAがAll-Inでこれを実行するっていう勢いなんじゃないだろうか。Elon MuskのDOGEによる明日はないかのような連邦政府の縮小・削減(歳出削減)も米国がSurviveする最後のチャンスっていう覚悟がある感じがする。先日Scott Bessentは「(海外の低賃金を利用した輸入に頼って)安価な商品にアクセスがあることは必ずしもアメリカンドリームではない」と言ってたし、トランプも第一期と異なり株価や直近の景気を最大限化することに対するフォーカスは低く、本当にMake America Great Againを目指してるのかな~って思うことがある。でも関税は課すぞって言っては撤回したり、その辺はこの手のマクロのテーマとどう関連しているのか個人的には不可解に映る。
っていうことで次回はSection 899法案の続きに戻りたい。
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