3つ前のポスティング「Section 899下院法案バージョン」で下院法案に盛り込まれた改訂Section 899に関して触れたけど、その後あっという間に下院本会議を通過してSection 899はそのまま上院に送り込まれた。
以前のポスティングで触れた通り、Section 899下院法案バージョンは「UTPR・DST・ DPT」の3つを(制度的に米国法人・市民および米国税法上のCFCに適用がないケースを除き)自動的にUnfair Foreign Taxesと認定し、それらの税法の一つでも採択している国は「Discriminatory Foreign Country」に当たり、そんな国の法人・市民が899対抗規則対象になる。この3つ以外の税制は従来通り、財務長官が域外課税とか差別的課税か判断するんでその公表があって初めてUnfair Foreign Taxになる。
また、従来の法案では実際に対抗措置がトリガーされる前のメカニズムとして財務長官による議会への報告、問題国と一定期間交渉手続き、等の要件が規定されていた(「Global Tax Deal対抗・報復措置「Section 899」法案 (2)」)。これらの手続きは(従来の)899案のフォーカスは必ずしも対抗措置をトリガーすることよりも米国に対する域外課税や差別的課税を取り下げさせる点にあったように見える。下院法案バージョンでは交渉要件は撤廃され、UTPR、DST、DPTを持っている国は財務長官との交渉等のチャンスなくsection 899が可決されると対抗措置の対象になる。この変更は歳入効果の定量化を容易にし、「Scoring」を可能にすることで上院でBudget reconciliationの要件を満たすように工夫されている。結果10年間で$116Bの歳入源になってるけど、この数字は結構大きい。
Section 899下院法案バージョンの対抗措置メカニズム
Section 899下院法案バージョンの「対抗措置メカニズム」そのものは(Super-BEATが加わった以外は)従来の規定とほぼ同じで通常の税率に毎期5%上乗せしますっていう全体像。付加%税率の対象に当たる税金タイプも従来のバージョンのまま。これらは以前のポスティング「Global Tax Deal対抗・報復措置「Section 899」法案 (3)」で結構細かく触れてるんでここでは省くけどぜひ読んでみて欲しい。
たかが付加%されど…
どんなタイプの税金が付加%の対象になるかって考える際、超ベーシックなレベルで税金は大別して「Substantiveな税金(所得税・法人税)」と「徴収メカニズムに当たる源泉税」の2つがあるっていう点を常に念頭に置いておくと複雑な899メカニズムの理解が進む。前者は問題国の法人・市民に対する税金だけど、後者の源泉税は大概において米国人に課せられる法的義務。両者はミラーイメージなことも多いけど、別の規則に規定される異なる法的義務だからね。この区別に基づく899の複雑性は後述する。
さらにFIRPTAに関するSubstantiveな税金と源泉徴収メカニズムの関係は、最初にFIRPTAが制定された頃はFIRPTA源泉徴収っていう制度は存在しなかったことからも分かる通り、何となくHand-in-handな感じだけど、両者はミラーイメージとなる設計ではない。FIRPTA源泉徴収は源泉税っていうより実質予定納税だし、込み入ったペーパーワークに基づく減額や免除措置があったり元々複雑怪奇なんで、これらに付加%規則をOverlayさせてる899は相当難解。FIRPTAと899の関係は現時点ではOver-the-topな話しになり兼ねないんで899が上院通過したらそのバージョンに基づいて詳しく触れたい。
付加税率とApplicable Date
で、Super-BEAT以外の899対抗措置となる5%から始まる付加%だけど、前述の通り、下院法案バージョンでは財務長官によるリストアップ・相手国との交渉手続き期間等がなくなった関係で付加%が累積していくスターティングポイントは以前よりも早くなる。特定のタイミングで何%付加されるかを判断する際のスターティングポイントは「Applicable Date」っていう概念で管理されるけど、テクニカルにこのApplicable Dateっていう概念は各国単位で付加%が何%なのかっていう判断にのみ影響があり、付加%がどのように899対抗措置として実際に各納税者(源泉税徴収義務者含む)に適用されるかっていうタイミング認定時には登場しない。この部分の条文は良く読まないとかなり難しいよね。この差異は899対抗措置をトリガーするDiscriminatory Foreign Countryっていう認定は個々の企業行動やストラクチャリングではなく各国の法令に基づいて判断される一方、実際に対抗措置で迷惑を被るのはそんな国の納税者っていう制度上の位置づけに起因する。
適用付加%と条約
下院法案バージョンが出る前の1月の899法案では、Discriminatory Foreign Countryの法人・市民に対する法人税・所得税・源泉税に対する付加%上乗せ後の税率は「条約を無視して」決定することになっていた(「Global Tax Deal対抗・報復措置「Section 899」法案 (4)「最新条文はやっぱりさらに強化」」)。この点に関して下院法案バージョンでは緩和があり、付加%は条約適格の納税者に関しては条約レートにプラスするって規定されている。これは条約相手国を慮っての緩和措置と言うよりは、批准手続きを含む条約を取り巻く法的管轄権は上院にあるんで、899法案の上院審議を援護射撃するための配慮っていう背景の方が強かったと思われる。元々、なぜ対抗措置を取ってるかっていうと、基本的にUTPRとかは米国租税条約を無視した課税って米国では考えられてるから下院に相手国を慮ってソフトタッチにする理由はなかったと推測される。
適用付加%
で、付加%がいくらなのかっていう判断法だけど、上述の通り、この判断時にキーとなる概念は「Applicable Date」で対抗措置有無は諸国の税法ベースなんで国単位の判断になる。Applicable Dateは次の3つのタイミングの一番遅い日またはその後に開始する「暦年の1月1日」って規定される。3つのタイミングとは1)Section 899可決(大統領署名)日から90日後、2)Unfair Foreign Taxが可決された日から180日後、3)Unfair Foreign Taxの制度上の適用開始日。UTPR・DST・DPTは、米国法人・市民または米国税法上のCFCへの適用が免除されていない限り、自動的にUnfair Foreign Taxになるんで、これらに関しては単純に特定の国がこれをいつ可決し、その国の法令に基づいていつから適用が開始するかを基に判断する。
Applicable Dateは常に暦年の1月1日。適用付加%が5%ずつ増えていくタイミングもApplicable Dateから暦年何年目かを基に累積計算していく。すなわち、3つのタイミングに基づいて決まるApplicable Dateとなる1月1日から始まる暦年一年目は5%、翌年以降は毎1月1日が訪れる度にそこから始まる暦年に5%づつプラスされた数字が適用付加%になる。
で、話しがややこしくなるのは、「国単位」および「暦年単位」で適用される付加%を決めた上で、次に各納税者に適用される付加%の概念が登場してくる点。源泉税以外の所得税・法人税はその計算や課税が特定の日の数字で決まる訳ではなく、常に課税年度単位になることから課税年度が暦年ではないFiscal Yearの納税者の課税年度には(特別な事情でShort Yearになってない限り)必ず2つの暦年が含まれる。こんな状況に適用される付加%は、課税年度に含まれる各暦年の付加%を日数加重平均した混合税率。日数加重平均%を算定する際、納税者が属する問題国に適用される最初のApplicable Date前(すなわち前年12月31日以前)の適用付加%はゼロと考える。例えばApplicable Dateが2026年1月1日となる問題国の納税者が3月課税年度の法人だとすると、その法人に適用される2027年3月期の付加税は約6.26 %になるはず(26年4月~12月が5%で27年1月~3月が10%の日数加重平均による混合税率。計算合ってる?)。Applicable Dateが2027年1月1日の場合、同様に2027年3月期に適用される付加%は約1.23%になるはずだけど、後述の通りこのパターンではまず2027年3月期に付加%が適用されるかどうかの見極めが求められる。
一方、源泉税は課税年度単位の税金ではなく支払い時点の一発勝負なんで、単純に源泉税支払い時点で適用される付加%を参照するって規定されている。例えば上の例で2027年1月1日がApplicable Dateの場合、2026年12月31日以前の源泉税に付加%はなく、2027年1月1日以降は同12月31日まで5%、2028年1月1日から付加は10%…って続いていくんだろう。この目的では受け手の外国法人の課税年度が暦年でもそうでなくても関係ない。
源泉税徴収義務Safe Harbor
源泉税の付加%部分は、財務省がDiscriminatory Foreign Countryのリストを公表するまでは徴収義務が免除される。899が可決した後、比較的直ぐにリストが公表されるんじゃないかって推測され、Applicable Dateまでに公表される場合、Safe Harborは効果がないことになる。さらに私的財団および信託に関してはリスト公表後90日間Safe Harborの延長が認められる。
おそらく所得税・法人税は自らの話しなんで自分がどこに国に属してて899の対象だな、とか判断が容易だけど、場合によっては多くの国に関して源泉税を徴収する義務がある米国人に「この国はDSTがあるな…」とか個々に判断させるのは負荷が高すぎるっていうような理由で規定されるSafe Harborなんだろうか。
付加%の上限Cap
Applicable Date以降の暦年毎に累計で付加される%は付加した結果の累計税率が法定税率プラス20%を上限Capとするって規定されている。例えば源泉税だったら法定税率は30%だからCapは50%で、法人税だったら21%に20%加えて41%。毎期の付加%を加える基となる税率は条約を加味してもいいって規定されてる点は上述の通りだけど、上限Capに関しては条約税率は加味されない。例えば配当に関する源泉税の条約税率が0%の場合、5%を付加した5%源泉税率から始まって、10%、15%って10年かけて50%まで上昇することになる。そんな長期間に亘って899に抵触し続けないことを願うけどね。
で、ここまでは何%付加するかっていう判断の話しで、適用付加%が関係する法人税・所得税および源泉税にかかわる話しとなり、後述のSuper-BEATに付加%っていう概念はないんで、これらの付加%の規則はSuper-BEATには関係がない。
899対抗措置適用対象課税年度
で、次に各納税者のどの課税年度から899対抗策の適用があるかっていう判断法が規定されている。この判断は付加が何%かっている判断とは異なるもの。
課税年度単位の税率っていうのは所得税・法人税の世界の話しなんで、この規則は通常の所得税・法人税およびSuper-BEATに関係する話し。源泉税には付加%の判断同様常に支払日ベースで適用有無が決まる。
納税者の所得税・法人税の話しなんで課税年度単位での計算になることから(もちろん課税年度が暦年のケースは暦年の話し)、一体どの課税年度から所得税・法人税に付加%が適用されたり、Super-BEATでBEAT計算するのかを見極めないといけなくなる。この判断はApplicable Dateの決定に似てるけど暦年や1月1日っていう単位ではない。すなわち判断に使用される日はApplicable Date同様に1)Section 899可決(大統領署名)日から90日後、2)Unfair Foreign Taxが可決された日から180日後、3)Unfair Foreign Taxの適用開始日、の3つだけど、この3つの一番遅い日の後(After)に開始する課税年度から所得税・法人税に付加%およびSuper-BEATが適用される。Applicable Dateは「on or after」なんだけどこの目的では単に「After」。超紛らわしいけど、「on or after」と「after」の差異は課税年度初日とUnfair Foreign Tax適用日が同じ日(例、4月1日)の場合、多大なインパクトがある。
判断時に使用される3つの日にちが付加%のApplicable Date判断時に使用される3つの日とダブってて分かり難いかもしれないけど、この考え方でどの課税年度から所得税・法人税に付加%やびSuper-BEATが適用されるかを判断し、その次にだったらその課税年度に適用される付加%を特定するっていう順番でアプローチすると分かり易いと思う。
例えば上の例と同じような設定で、特定の問題国の法人が3月課税年度だとする。899は2025年に可決され、仮にUTPR等のUnfair Foreign Taxの可決および適用が2026年4月1日とする。まず、当法人が法人税に対する付加%およびSuper-BEATに関してどの課税年度から対抗措置の対象になるかっていう点を考えると、上述の通り、1)Section 899可決日から90日後、2)Unfair Foreign Taxが可決された日から180日後、3)Unfair Foreign Taxの適用開始日、の3つの一番遅い日より後に開始する課税年度、すなわち2028年3月期(2027年4月~2028年3月)からになるはず。2026年4月1日から始まる2027年3月期は3つの条件の一番遅い日である4月1日より後(after)に開始してないからね。一方、付加%決定目的のApplicable Dateは2027年1月になるんで、2028年3月期の付加%は上述の日数加重平均で決定する。
Substantive税金と源泉税の関係
冒頭に付加%が適用されるタイプの税金は大別してSubstantiveな税金と徴収メカニズムの源泉税の2つに大別されるって書いたけど、暦年以外の課税年度を持つ外国法人はこれらの異なるタイプの税金に対する付加%や適用開始タイミングの差異に基づき複雑な取り扱いに晒される。
例えば付加%目的のApplicable Dateは2027年1月1日、法人税付加%適用初年度は2027年4月~2028年3月課税年度っていう例を続けると、こんな状況で2027年3月に配当が支払われるとすると、それを受け取る外国法人の法人税目的では付加%の適用がないんで30%(または条約低減レート)の法人税(Substantiveな税金)に付加%はなく、条約レートが0%だとすると配当は米国では課税されない(付加%適用初年度は2027年4月から開始だから)。
一方、源泉徴収する側の源泉税に関しては財務省問題国リスト公表済みっていう前提で2027年の付加%は既に5%なんで(Applicable Dateが2027年1月1日なんで)条約レート0%に5%を付加して源泉税を徴収する義務があることなる(この辺りのミスマッチは今後法案が最終化される過程でクリーンアップ、または財務省のガイダンス等で緩和策や新たなSafe Harborが規定される可能性あり)。配当日が2027年3月ではなくチョッとずれて4月になると、受け手の外国法人は4月から開始する課税年度から付加%の適用があり、その課税年度を通じて使用する付加%は日数加重平均ベースなんで、約6.26%になる。一方で源泉税に適用される付加%は2027年を通じて5%。となると3月の配当はOver-withholdingだけど、4月の配当はUnder-withholdingになるように見える。この差異は外国法人がForm 1120FのSection Iを埋めて提出し、差額の還付や追徴処理をするしかない。
とてつもなくややこしい。使った数字はあんまり自信ないから鵜呑みにしないで下さい。ただ考え方は分かってもらえた?次回は適用対象納税者に関して。